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2023.04.13

【骨折】最先端治療で負担軽く、回復時間も短縮|「折れたかも?」と思った時の応急処置の方法


骨折にもいろいろな種類があります。近年は体への負担が少なく、回復が早い治療法も登場しているようです(写真:aijiro/PIXTA)

骨折にもいろいろな種類があります。近年は体への負担が少なく、回復が早い治療法も登場しているようです(写真:aijiro/PIXTA)

骨折は動きが活発な子どもや、筋力や骨密度が低下している高齢者に起こりやすい。身近なケガではあるが、実際に骨折したときには第一にどんな対応が必要になるか、普通に動けるようになるまでにはどれくらいの期間がかかるのか、意外と知らない人も多いのではないだろうか。
そこで骨折の応急処置や治療について、帝京大学医学部整形外科学講座講師の松井健太郎医師に聞いた。

骨折の種類と特徴

骨折と一口にいっても、原因や部位、状態、程度などによって種類はさまざまだ。「骨にひびが入った」状態の軽症なものから、折れた骨が皮膚を突き破って体外に露出した「開放骨折」、骨が複雑に粉砕した「粉砕骨折」などの重症なタイプまである。

原因で分けると、いわゆる通常の「骨折」のほか、「疲労骨折」「病的骨折」の3つに分類できる。

通常の骨折は、外から強い力が加わったことによるもので、交通事故やスポーツ、転落などで起こりやすい。疲労骨折は、小さな力が骨の同じ部分にくり返し加わることで起きる骨折だ。テニスやマラソンといったスポーツなどで、特別な動きをくり返している人に起こりやすい。

そして病的骨折は、何らかの病気によって骨がもろくなることで起きる骨折のことをいう。例えば、がんの骨転移や骨粗鬆症があると、転倒や咳、くしゃみなどでも骨折することがある。とくに骨粗鬆症では背骨に衝撃が加わることで、背骨がつぶれたように折れる「圧迫骨折」、あるいは転倒によって足の付け根の大腿骨頸部の骨折が起きやすい。

「高齢化によって、骨粗鬆症に関連する高齢者の骨折が非常に増えています。とくに女性は閉経後に骨粗鬆症を発症しやすくなるので、注意が必要です」

「骨粗鬆症そのものは痛くもかゆくもなく症状がありませんが、骨折を起こすとそのまま寝たきりになることもあり、失うものは大きいといえます。骨折は骨粗鬆症の治療によって予防できます。骨密度を知っておくこと、必要があれば治療することが大事です」

と松井医師は言う。

骨は基本的には丈夫にできていて、健康であれば相当な強い力が加わらない限り折れることはない。尻もちをついただけで骨折してしまったといった場合は、何らかの病気がある可能性があるので、骨粗鬆症の有無など原因を探る必要がある。

骨密度の検査は整形外科や自治体の健診センターなどで受けられる。

とくに骨粗鬆症のリスクが高まる40歳以上の女性は、70歳まで5年ごとに公的検診を受けられるので、自治体などに問い合わせてみよう。そのほか、一般的な健康診断の項目には含まれていないことが多いので、気になる人はオプションとして付け加えてもいいかもしれない。

骨とその周囲には血管や神経がたくさんある。そのため、骨折すると血管や神経がダメージを受け、腫れや痛みが表れる。しかし腫れや痛みは捻挫(ねんざ)などでも起こるため、明らかに骨や関節が変な角度に曲がっているなどしない限り、症状だけで骨折かどうかを判断するのは難しい。

「一般的には捻挫よりも骨折のほうが、腫れや痛みの症状は強くなります。例えば、足であれば歩けないほどの痛みの場合、骨折の可能性が高くなります。ただし、骨折していても歩けることもあるので、診断にはレントゲン(X線)検査が必要です」

と松井医師は言う。

知っておきたい応急処置

交通事故や転落事故などに遭い、開放骨折や骨が大きく変形していることがわかれば、救急車などで早急に病院に搬送してもらう必要があるが、すぐに受診できないときの応急処置は、万が一のために覚えておいたほうがいいだろう。

やり方のポイントは、“安静にして、骨折が疑われる部分を固定する”ことと、“患部を冷やすこと”が基本だと、松井医師。

「固定するときは、患部に雑誌や段ボールなど平らなものを当ててから、包帯などを巻いておくと、痛みが和らぎやすいです。また、可能であれば患部の下にクッションなどを置いて心臓よりも高い位置に保つと腫れが和らぐことがあります」

さらに傷や出血があれば、その場所を包帯やテープなどで適度に圧迫したほうがよいそうだ。

骨の中には骨をつくる「骨芽細胞」や、骨を吸収する「破骨細胞」など生きた細胞があり、骨折しても基本的には骨は再生して自然に治る。したがって、治療は“折れた骨がもとの状態になるように環境を整えること”が目的となる。

治療は、大きく分けて、手術とギプスで固定する保存療法がある。どちらを選択するかは骨折の部位や、骨のずれの程度、年齢などのファクターによって決まる。

「手術を選択するのは、主に保存療法では骨がつかなそうなケース、そのまま骨がついてしまうと困るケース、ずれが大きいなどの理由で骨がつくまでに長期間かかりそうなケースです」(松井医師)

一方、ひびが入っているだけのケースや、骨折部のずれが少ないケースは、基本的には骨がつきやすく、そのままついても困らないために保存療法を選択する。

「部位でいうと、肋骨の骨折はほとんど手術しません。骨がつきやすく、多少ずれたまま骨がついたとしても困らないからです。一方、手首の骨折でずれが大きいときは、そのまま骨がつくと手首が変形してしまうので手術を選択します」(松井医師)

ただ、外見上で変形があっても、日常的な動作に支障が生じるわけではないため、高齢者で手術のリスクを避けたい場合などは、保存療法を選択するそうだ。

また、骨粗鬆症の高齢者に多い大腿骨頸部骨折は、手術が第一に選択される。保存療法で長期間歩かない状態が続くと、寝たきりになるリスクが高いためだ。

骨折の手術では、皮膚を切開し、骨折した場所に金属の板(プレート、下の写真)を沿わせて、ネジで固定する方法が行われている。「この20年くらいで骨折の手術方法は進化し、小さな切開ですむようになったほか、骨がつくまでの期間も短くなっています」と松井医師。

骨折で用いるプレート(画像:松井医師提供)

骨折で用いるプレート(画像:松井医師提供)

手術の進化は、主に使用するプレートの進歩によるものだ。

小さい切開部でもプレートを挿入しやすくなったため、傷の回復が早く、術後の痛みも軽くてすむようになった。さらにプレートがネジと一体化しやすく、より固定性が上がっていることから、治りも早くなっている。

「従来は骨に沿わせたプレートに穴が開いていて、そこにネジを打って固定していました。骨はもともとカーブしているものですが、固定性を高めるためにネジを強く締めるほど、本来カーブしている骨がプレートに合わせてまっすぐになってしまうのが難点でした」

「しかし現在のプレートは穴にネジ切り(ネジを固定するためのギザギザ)があるため、ネジと一体化しやすく、骨の自然なカーブを保ったまま固定性も高めることができているのです」

と松井医師。

画像検査は○、金属探知機は?

現在日本で使用されているプレートのほとんどは、チタン製。生体となじみやすいため、必ずしも除去する必要はない。プレートが入ったままMRI(磁気共鳴画像)検査を受けることも可能だ。ただし、飛行機に搭乗する際、金属探知機に反応してしまうケースがあるので、診断書やレントゲン写真のコピーなどを用意しておくとスムーズだ。

部位によっては日常生活での動きに支障が出るため、術後1年くらいで除去する手術を行うこともある。とくに肘は皮膚のすぐ下に骨があり、テーブルなどに肘をつくたびにプレートが当たって痛みが出る。

手術をした場合の入院期間は、数日から1カ月程度で部位や程度によって大きく異なる。術後1~2週間後、傷が治っていれば、骨の接着状態に合わせて徐々に負荷をかけていく。

術後の回復を手助けする方法として、最近では、「超音波骨折治療法」という方法も登場している。

これは、専用の治療機器で毎日20分間、骨折部に低出力の超音波を当てるという方法で、治るまでの期間を短縮する効果がある。基本的には術後3カ月の使用に対し、健康保険が適用される。毎日実施するため、退院後は機器をレンタルして、自宅で治療を続ける。

一方、保存療法では、一般的に1カ月程度ギプスで固定する。長く固定すると周囲の筋肉が硬くなるため、レントゲン検査によって骨のつき具合を確認し、ギプスを外す時期を見極める。

「液状のセメントがだんだん固まってコンクリートになるように、骨も最初はやわらかく、時間の経過とともに硬くなっていきます。レントゲンに新しい骨が写るのは、骨折して2~4カ月後くらいです。ギプスを外したからといって、いきなり体重をかけるのではなく、痛みや腫れが出ないように様子をみながら、少しずつ負荷をかけていくことがポイントです」(松井医師)

治癒まで半年~1年かかる

治療期間については、部位やずれの程度、年齢などのほか、喫煙習慣の有無によっても変わってくる。高齢者や喫煙者は治りが遅いといわれている。また、体重がかかる足は少しずつ負荷をかけていくため、元通りに歩けるようになるまでには時間がかかる。

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手術でも保存療法でも、骨が完全にもとの状態に治るまでは、一般的に半年から1年はかかる。その間は定期的に受診して、レントゲン検査で骨の状態を確認することが必要だ。

なお、骨折は整形外科であれば治療できるが、近年は「外傷センター」といった名称で骨折の診断、治療を専門的に実施する施設が増えている。

とくに開放骨折や粉砕骨折など重症の場合は、外傷センターなど骨折を専門としている施設のほうが手術の経験が豊富な可能性が高く、術後の経過を考えると安心といえそうだ。

(取材・文/中寺暁子)

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帝京大学医学部整形外科学講座講師
松井健太郎医師

2003年、京都府立医科大学卒。筑波メディカルセンター病院、聖マリアンナ医科大学救急医学、埼玉医科大学総合医療センター高度救命救急センターなどを経て、2020年から現職。骨折治療、足の外科を専門とし、同院外傷センターで骨折を中心とする整形外科外傷マネージメントに取り組む。日本整形外科学会専門医。

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提供元:【骨折】最先端治療で負担軽く、回復時間も短縮|東洋経済オンライン

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