2023.04.04
歳を重ねた人ほど「肉を食べるといい」合理的理由|少量で良質なタンパク質を取るならば肉がいい
年齢を重ねるほど肉を食べる重要性が高まります(写真:shige hattori /PIXTA)
「人生100年時代」と言われるようになり、90代を迎える人はけっして少数ではありません。「老い」に対する漠然とした不安を解消して、幸せな90代になるためにはどうすればいいのでしょうか。92歳の母を持つ精神科医の和田秀樹さんの新刊『90歳の幸福論』より一部抜粋してお届けします。
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高齢者こそ栄養価が高いものを食べるべき
歳を重ねたとき、まず気を付けてほしいのが「食」にまつわる生活習慣についてです。「高齢者になったら粗食がいい」と考えるのは、大きな誤解です。
野菜や玄米食などを使った和食を中心とした食生活を送ることは決して悪いことではありませんが、それよりも肉や魚、卵、レバー、うなぎなどの「タンパク質」が欠かせません。
なぜなら、年齢を重ねると、同じ栄養をとっても若い人よりも消化吸収の効率が悪くなります。食べている量は同じなのに、若い頃より摂取できる栄養は減ってしまうし、胃の消化機能も衰えるので量を食べることができません。するとどうなるかというと、十分なカロリーや栄養素がとれずに栄養不足に陥ります。
この状態を防ぐには、同じ量を食べたとしても、より栄養価が高いものを食べるしかありません。なかでも、特に不足するのが先に挙げたタンパク質です。豆腐や納豆、大豆ミートなどの大豆タンパクが昨今は人気がありますが、少量で良質なタンパク質を取るならば、肉を食べるほうが効率はいいです。
タンパク質は筋肉や臓器、骨格などをつくる材料になります。高齢になると筋肉がどんどん落ちていきます。若い世代のように鍛えても、簡単には元に戻りません。そんなときに筋肉をつくるもとであるタンパク質の摂取量が減ると、当然、体の衰えはより一層進みます。足腰の健康を維持したいなら、その原料となるタンパク質の摂取は欠かせないのです。
タンパク質の摂取は精神の安定にも役立ちます。タンパク質のもととなるアミノ酸は、「やる気」を司るドーパミンや、「癒やし」を生み出すセロトニンといった神経伝達物質の原料となります。これらの神経伝達物質が減ると、意欲や集中力が減って注意散漫になりがちです。「元気がないときは肉が食べたくなる」という人も少なくないと思いますが、これは非常に理にかなった欲求なのです。
コレステロール=「悪玉」とは限らない
肉を食べてほしいというと、「コレステロールが気になる」という方が多くいらっしゃいます。コレステロールに対して多くの人は「悪玉」「健康にはよくないものだ」と考えがちですが、実はコレステロールが本当に体に悪いものかはよくわかっていません。
以前、東京都老人総合研究所が、長寿者の多い東京都小金井市の70歳の高齢者を対象に行った「小金井研究」では、10年後の死亡率が一番高かったのはコレステロール値が169未満のグループでした。逆に最も長生きしたのは、男性は219まで、女性は220〜249の正常値よりもコレステロール値が高めのグループだったのです。
そのほか、ハワイの研究では、コレステロールが高い人は心筋梗塞などの虚血性心疾患死が増える一方で、がんの死亡率が下がるという結果もあります。肉食文化が根付いている欧米諸国では、がんよりも虚血性心疾患で亡くなる人が多いのは、こうした理由なのかもしれません。
現在、日本では医療技術の進化もあり、心筋梗塞で亡くなる方は減っています。そう考えると、日本人は肉食をしてコレステロール値を多少高めておいたほうが、がん予防になって体にいいと言えるかもしれません。
また、タンパク質に含まれるコレステロールは、脳にセロトニンを運ぶ役割を担っているとされ、血中にある程度のコレステロールが保たれていないと、鬱々とした気持ちになりがちです。実際、私の患者さんを見ても、コレステロール値が高い人のほうがうつ病が治りやすく、逆に低い人は回復が遅い傾向にあります。
こうした理由から、高齢者になってからは、コレステロールを積極的にとってほしいと思います。肉やうなぎなどのほかに、手軽にコレステロールがとれる食べ物として知られるのが、コンビニなどでも手に入るシュークリームです。甘いものを食べたいときは、積極的にシュークリームを選ぶことをおすすめします。
「自炊しなければいけない」に縛られるな
高齢の患者さんたちをみると、「こうしなきゃいけない」という固定観念に縛られてしまい、その制約によって健康を害している人は少なくありません。
特に女性に多いのは、「食事は自炊しなければならない」という固定観念です。
食事を作るのは面倒くさいけれども、お惣菜や外食で済ますのは罪悪感があるから、食べる量が大きく減ってしまったという方もいます。
食事を作るのが面倒ならば、外食すればいいのです。また、外食やお惣菜などで済ますのが嫌ならば、家事サービスを頼んで料理をまとめて作ってもらってもいいでしょう。最近は、栄養バランスを考えた食事の宅配サービスもありますし、好きなレストランから料理を取り寄せる「ウーバーイーツ」のようなサービスも徐々に普及し始めています。
「食事は自分で作らなければならない」という概念に縛られる必要はありませんし、自分の力だけで完璧を目指さなくてもいいのです。
それより大切なのは、しっかりと食べること。さらに言うと、外食や宅配のほうが使う食材も豊富になり高齢者にはよいのです。
「昨日は自炊したから、今日は外食しよう」「今週は料理をしたくないから、宅配の弁当を頼もう」などと、力を抜ける部分は抜いていきましょう。
食生活に続いて、ぜひ心がけてほしいのがアウトプットの習慣です。一時期、脳を活性化させる効果がある「脳トレ」がブームになりました。
しかし、脳トレの効果は、とても限定的です。たとえば、数独やナンプレなどを行うと、問題を解く能力自体は上がってきます。ただ、ほかの認知能力が鍛えられるのかというと疑問は多々あります。
実際、ナンプレをやり続けた人がそれ以外の認知機能のテストを行っても、ナンプレには関連性がない機能の点数は上がらないことがわかっています。
何度も同じような問題を解けば、その問題を解くことに脳が慣れ、機能が最適化していきます。しかし、それはほかに波及しません。これは腕の筋肉を鍛えても、腹筋や足の筋肉が鍛えられないのと同じことで、特定の脳の部位ばかり鍛えてもほかの認知機能までは上がらないのです。
脳の活性化にはインプットよりもアウトプット
では、脳を活性化させるにはどうしたらいいのでしょうか。
そこで大切なのが、アウトプットをする習慣です。脳を鍛えるには、インプットよりもアウトプットのほうが効果があります。
難しい本をひたすら読むよりも、本を読んで感想を書くほうが脳は鍛えられるのです。本を読んだり、音楽を聴いたり、映画を観たり。何かしらのインプットを行ったら、ぜひ自分の頭でアウトプットする習慣をつけてほしいと思います。
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『思考の整理学』という大ベストセラー本を書いたお茶の水女子大学の名誉教授だった外山滋比古さんは、96歳でお亡くなりになるそのときまで非常に高い思考力を保っていたと言われています。その外山さんが生前に意識して行っていたのが、「刺激的な会話」だったそうです。会話は、まさにアウトプットの最たるもの。ただ普通に会話するのではなく、知的な好奇心を与えてくれるような人を集めた勉強会も開催していたのだとか。
意識的にアウトプットの機会を増やすことで、脳を鍛えていらしたからこそ、外山さんは亡くなるまで論理的な思考を保ち続けていたのだと私は思います。
いくつになっても学ぶことは大切です。けれども、その学びをそのままにしてしまうのは、まったくもってもったいない。知ったことや感じたことがあったら、そのままにしないこと。誰かに話をしてみたり、文章にしてみたり。ただ、思ったことを口に出すだけでもいいのです。それを習慣づけるだけで、脳の機能は活性化されます。
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提供元:歳を重ねた人ほど「肉を食べるといい」合理的理由|東洋経済オンライン