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2023.03.31

春に増える「環境変化ストレス」を緩和する養生法|仕事中にできるツボ押しと漢方薬が強い味方


春は何かと環境が変わる時期。ストレスを感じる人も多いのではないでしょうか(写真:PanKR/PIXTA)

春は何かと環境が変わる時期。ストレスを感じる人も多いのではないでしょうか(写真:PanKR/PIXTA)

マスクの着用も個人の判断になり、いよいよ“アフターコロナ”も見えてきました。明るいニュースと感じる一方で、戸惑いを覚えている方も意外と多いように感じます。コロナ禍で数年続いた習慣を変えるのは、人によってはストレスになるようです。マスクを外したくないという方は、意外と多くいらっしゃいます。

マスクを外すのが「怖い」

かつて、こんな症例を経験しました。

10年以上前、アトピー性皮膚炎で相談にいらした大学生の患者さんですが、いつもマスクをしていました。「問診票には書いていないけれど、アレルギー性鼻炎や花粉症ですか?」と質問したところ、意外な答えが返ってきました。

「人と話すのが面倒くさくて大学でマスクをつけていたら、話しかけてくる人が少なくなるのに気づいて。いつも着けていたら、外すのが怖くなってしまった。それ以来、人前ではマスクを着けることが多くなりました」

このようなマスクの使い方があるのだなと、そのときは驚きましたが、今まさにそのような心境の方が多いのかもしれません。

新しい環境に慣れるのは、大きなエネルギーを要します。コロナ禍ではテレワーク、オンライン授業など、環境の変化による心身の不調を訴えてやってくる患者さんが増えました。

そしてコロナ禍での環境にやっと慣れたと思ったら、今度は戻さなくてはならない――。何より春は入学や卒業、就職や転勤など、学校や職場などの環境が大きく変わる時期でもあり、それが心身に大きな負担になることもあります。

漢方の根底の考え方に「心身一如(しんしんいちにょ)」というものがあります。言葉通り、心と体は一体で、精神活動は臓腑(ぞうふ)と深い関わりを持つという考え方です。心に大きなストレスがかかると、それは体の変調となって表れ、同様に、体に大きな負担がかかると、それは精神面のダメージへとつながる、というわけです。

西洋医学では体の病気は内科や外科など、その症状に対応する臓器・器官の診療科、心の病は精神科や心療内科で治療しますが、心身を分断して考えないのが、漢方の大きな特徴です。

実際、漢方では、どのような感情やストレスがどの臓腑に負担をかけ、結果的にどんな症状につながるのか、「五行説」で説明できます。

漢方の根本思想である五行説は、すべての事柄を自然界の5つの要素である「木、火、土、金、水」に当てはめて考えます。人もまた自然界の一部ですので、人体も五行説に当てはめることができ、五臓(肝、心、脾、肺、腎)と五腑(胆、小腸、胃、大腸、膀胱)が、順番に五行(木、火、土、金、水)に対応しています。

五臓のイメージ(イラスト:きだ/PIXTA)

五臓のイメージ(イラスト:きだ/PIXTA)

肝、心……といっても、西洋医学でいう肝臓や心臓などの臓器とはイコールでなく、漢方ではより広い機能まで含めたものと考えます。例えば、肝は肝臓のみならず、自律神経系まで含めた概念です。

ストレスを調整するのは「肝」

私たちの心身が新しい環境に適応するとき、五臓は次のように働きます。

まず、新しい環境であることを察知したときに働くのは、「肝」です。肝はストレスのコントロールに大きな役割を担います。

新しい環境は、それがたとえ結婚や昇進といったうれしいことであっても、ストレスや不安が伴います。「肝(キモ)が据わっている」というのは、この肝の働きがしっかりしていることを意味し、そのような人は多少の環境変化には動じません。

そして物事を決断するのは、肝の兄弟関係にある「胆」です。決断できない、メニューがなかなか決められない、着ていく洋服を選べない……というときは、胆が弱っていると考えられます。

どう行動するか、じっくり思慮して長期的な展望をするのは「脾」の働きです。脾とは胃腸の消化吸収機能を指しますが、これがきちんと働かないと「思」、つまり思慮するという働きが落ちます。また、胃腸は単に飲食物を消化吸収するだけでなく、生命エネルギーである「気」を作る役割も担っています。脾が弱ると気が不足した「気虚」の状態になり、やる気が出ない、だるい、などの症状にもつながります。

そして 恐れることなく実行し、やり遂げるのは「腎」の力です。いろいろ手をつけても継続しないのは、腎が弱っているということです。

「気」は呼吸によって「肺」から取り込まれ、飲食物からの気と合わさって全身を巡ります。「心」は、取り込んだ気を全身に巡らします。

このように、これらの臓腑がすべて整っていないと、新しいことにチャレンジできませんし、新しい環境に適応することができず、体調を崩してしまうのです。

とくに春に不安定になりやすいのは、「肝」です。

漢方の古典『黄帝内経(こうていだいけい)』には、春は植物が芽吹くように、人も生きるべきであるとしています。春はのびのびとゆったりした気持ちや、なおかつワクワクした気持ちで、新しいことにチャレンジしたり、スタートしたりするのに最適な季節です。

しかし、前述したように五臓が整っていないと、肝はストレスをコントロールできず、さまざまな不調が表れることになります。肝の養生で重要なのは休息と食事です。新しい環境に慣れるだけで心身は精一杯であることを自覚し、普段以上に睡眠や休憩をきちんととることを心がけるとよいで

現代人のストレスに「抑肝散」

こんな事例を1つ紹介します。

19歳の女性(大学生) は、オンライン授業が始まってからよく眠れず、不安感が強くなり、動悸を感じることが増えました。内科で診てもらっても異常はなく、念のためにと胃の薬を処方されましたが、症状が改善する兆しは見られません。さらに内科から紹介された心療内科で抗うつ薬を服用し始めたところ、改善しないだけでなく、気分がより不安定になってしまったといいます。

どうしてよいかわからず症状をネット検索したところ、「漢方がよいのではないか」と思いいたったそうです。

「なぜそんなにオンライン授業がつらいのか」と彼女に聞いてみると、「教師やクラスメイトから画面越しに監視されているような気になること」「固まったような姿勢でずっと授業を受けていること」がつらいと話します。体を触ってみると、肩から腰のあたりが板のように固く凝っていました。実際、オンライン授業が終わる頃にはその首や肩の凝りで呼吸が苦しく、過呼吸になることもあるようです。

話している途中で涙があふれてきて、問診を中断してしまう場面もありました。スイーツを食べるといやされるので、授業が終わる度に食べていた結果、1年間で5kgも体重が増えてしまったそうです。肝はアルコールや甘いものの取り過ぎや過食でも疲弊します。

これらの症状がある場合、西洋医学的には不眠や不安は精神科や心療内科、肩や背中の凝りは整形外科、胃腸症状は内科と、それぞれの診療科を受診することになります。しかし、漢方では「肝の病」ということになり、1つの処方ですみます。

女性は漢方薬を服用したその日の晩からよく眠れるようになり、オンライン授業も落ち着いて受けられるように。肩こりがなくなったことで呼吸が楽になり、気持ちが前向きになったことでスイーツの過食もなくなり、増えた5kgの体重を3カ月かけて戻すこともできたそうです。

彼女に処方したのが、漢方薬の抑肝散(よくかんさん)です。

この処方はたかぶった肝の気を落ち着かせる働きがあります。元々は小児のかんの虫や引き付けなどに使われていた処方で、小児科の医書にも記載されています。近年では小児より大人のストレスによる心身の症状や、高齢者の認知症の問題行動などに使われることが多くなりました。

「服用し始めてから穏やかな気持ちになり、キレることが少なくなった」という報告をいただくことも多い処方です。「キレる」というのは、肝のたかぶりを抑えられずに爆発することにより起こる現象ですから、肝が正常に働けば収まるのです。

デスクワーク中にできるツボ押し

緊張状態が続くと、肝に大きな負担がかかります。「緊張しているな」と感じたら、すぐに対処を。手には緊張を和らげるツボが数多くあります。手のツボなら仕事中でも人目を気にせず押しやすいですから、緊張を感じたら深呼吸をしながらゆっくり押してみましょう。

緊張緩和のツボ(1)合谷(ごうこく)

親指の骨と人差し指の骨が接合している手前にあるツボです。万能のツボで、緊張緩和やストレス解消のほか、頭痛や歯痛、肩こりなどに効きます。反対側の親指と人差し指で挟むように押さえ、気持ちいい強さで押して、ゆっくり刺激するとよいでしょう。

緊張緩和のツボ(2)労宮(ろうきゅう)

労宮の位置は、手のひらの中央にあるツボです。緊張して呼吸が浅くなっているときに、深呼吸をしながら親指でゆっくり押し続けます。

緊張緩和のツボ、合谷と労宮(イラスト:おおしま/PIXTA)

緊張緩和のツボ、合谷と労宮(イラスト:おおしま/PIXTA)

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提供元:春に増える「環境変化ストレス」を緩和する養生法|東洋経済オンライン

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