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2023.03.27

「救急動物病院」取材で知る、"犬の血液型は8種類"|肉球でわかる病気、夜間に多いトラブルは?


夜間救急動物病院目黒の診察室の様子(写真:筆者撮影)

夜間救急動物病院目黒の診察室の様子(写真:筆者撮影)

東京・目黒区碑文谷の住宅街に、救急専門の夜間救急動物病院目黒(小林良院長、獣医師)がある。

同院は年中無休で毎夜、開院。午後8時から翌朝午前5時まで近隣住民が飼っている動物に対する救急医療を、獣医師2~3人、動物看護師2人の体制で提供している。

緊急電話がかかってくると、動物看護師が対応し概要を獣医師に説明。救急病院といっても救急車が到着するわけではなく、病院には動物を抱いた飼い主が自家用車、もしくはタクシーで来院する。救急病院は比較的重症な症例を扱うため、慎重かつスピードを重視した初期対応が求められる。容体次第では、緊急手術が必要になるケースもある。

診察室には診察台があり、血液検査機器、レントゲン機器、内視鏡のほか、人工呼吸器など、人が受ける医療とほぼ同じような環境が整っている。獣医師や動物看護師は、治療を受ける動物のことを“患者さん”、飼い主のことを、“お父さん”“お母さん”と呼ぶこともある。まさしくペットは、家族の一員なのだ。

ある日の夜の診療現場を取材した。

うちの子が何かを飲み込んだ!

午後8時過ぎ

開院と同時に「うちのこ(犬)が何かを飲み込んでしまった」との問い合わせの電話が入る。

獣医師が、飲み込んだものの大きさや、中毒性の物質を摂った疑いがあるかどうかを確認すると、飼い主は、「一体何を飲み込んだかわからない」という。取り急ぎ来院するよう促す。

誤飲については、なぜか夜に救急対応しなくてはならないケースが多いという。飼い主が仕事を終え帰宅して、一緒にいる時間だから気づくということもあるようだ。食卓に置いてあった玉ねぎの入ったハンバーグを食べてしまったり、コーヒー豆やチョコレートといった禁忌の食べ物を口にしてしまったりすることがある。

飼い主の到着を待つ間、小林院長ら獣医師と動物看護師は、限られた情報を基に準備を怠らない。

「中毒性物質ならば、拮抗薬(別の物質の作用を妨害する物質)を検討しなくてはいけませんね」(小林院長)

「迅速な処置が必要かもしれないので、胃洗浄の準備もしておきましょう」(ほかの獣医師)

「それでは、すぐに対処できるようにチューブなど胃洗浄に必要なものを用意しておきます」(動物看護師)

――こんな会話が繰り広げられる。

午後9時頃

飼い主が犬を抱きながら病院に到着。待ち構えていた獣医師は受付でトリアージ(動物の様子から命にかかわる異常をいち早く見抜き、処置や治療の優先順位を決定)をする。

体調変化のサインを見落とさないよう瞬時に観察することが重要で、小林院長は、「顔を上げられる状態かどうかをまず、確認します」と言う。

顔を上げられずにいたり、診察台で横たわって立つことができなかったりした場合、重症の可能性がある。動けない場合でも歯ぐきを診ることができれば、診察できる。これはトリアージで使う手法の1つで、CRT(毛細血管再充満時間)といい、犬歯の上の粘膜を指で圧迫した後、指を離してピンク色に戻る時間をチェックする。正常なら、1~2秒でピンク色に戻るが、戻り時間が遅いときは脱水のおそれなどがある。

その後も、聴診器を当てて体内の音を聞き、脈拍(心拍)、呼吸を確認、血圧、体温といったバイタルをチェックする獣医師。血圧は前足か後ろ足、または尾に、人と同じようにベルト(カフ)を巻いて測定する。体温は、動物用体温計の計測部分にゼリーや潤滑剤を塗って、肛門に差し込み直腸温を測る。

初めて来院したペットが、病院のもの珍しさから顔を上げて院内をきょろきょろ⾒回していれば、多くのケースで緊急度は低い。だが、決して楽観はできないそうだ。

採血を前足で行わない深い理由

血液検査のための採血では、首や後ろ足に針を刺すのが基本だ。

小林院長は、「来院後の血液検査で前足は使いません。急変時などの危機的な場面で、前足の静脈内に針やカテーテルを挿入することがあるからです」と話す。

血液検査は20~30分程度で結果が出る。その結果などを確認したうえで、治療方法を決定する。依然として、何を飲み込んだかがわからないときは、レントゲン撮影もする。

誤飲した異物が、気道などに詰まれば、窒息のおそれがある。そのため、まずは薬で異物を吐かせる。反対に、針などの場合は口から吐かせるとかえって危険なため、全身麻酔のうえで内視鏡を使って異物を回収する。この場合、処置の時間が4時間から6時間におよび、翌朝になることもあるそうだ。

午前3時

退院後はかかりつけの動物病院のもとに返すが、その際は容体や治療中に施した処置、処方した薬などの情報を、わかりやすく報告書にまとめ、メールやFAXで送信する。病気や治療などの医学的な経過の見通し(予後)をよくするためには、救急病院とかかりつけ医のいる病院との連携が大事になる。

午前5時

閉院時間。夜中に異物を飲み込んだ犬を飼い主に引き渡し、仕事が終わる。かかりつけ医のいる病院が開院するまで、動物を預かることもある。

手術や皮膚病、ケガなどによる外傷では、犬や猫が傷口をなめないようエリザベスカラーを付けるケースもある。エリザベスカラーとは16世紀のイギリスのエリザベス朝時代の衣服に用いられた襞襟(ひだえり)に名前の由来がある。

午後8時の開院から翌午前5時の閉院までは、あっという間。スタッフは休憩時間が取れないこともあるそうだ。

小林院長は、「心肺停止で救命措置をしたのにもかかわらず、残念ながら命を救えないときも出てきます。動物の心肺停止は、ガイドラインに沿っていても生存率が低いのが現状です。そのために皆で症例を振り返り、どうすれば状況を改善できるかを検討します」と言う。

そのうえで、「この救急病院では、緊急手術も頻繁にあります。獣医師やスタッフが、動物を飼い主さんの家族の一員と考え、救えない命をなくそうと懸命に努力しています。夜間帯で大変、タフな現場ですが、全スタッフは充実感を覚え、やりがいを感じながら獣医療に臨んでいます」と話している。

緊急オペにも対応する

同院では誤飲などへの対応だけではなく、緊急手術もしている。

例えば、胃拡張・胃捻転症候群という病気がある。胃が空気で大きく膨張し、さらに胃がねじれてしまう病気で、大型犬に多い。短時間で命が危険な状態になるので、全身麻酔での手術が必要となる。

また、緊急性の高い手術といえば、帝王切開もそうだ。帝王切開は時間との勝負だ。破水しても出産の兆候がない場合に手術に踏み切ることになる。出産頭数が増えるほど、現場の負担は大きくなる。

手術でいえば、飼っているペットの血液型も大事になる。

実は、犬の血液型を決める物質は13種類以上あるとされ、現在、国際的に認められている犬の血液型は、DEA(Dog Erythrocyte Antigen/犬赤血球抗原)の型により分類されたもので、DEA1.1、1.2、3、4、5、6、7、8の8種類。一方、猫はA型、B型、AB型の3つに分類され、多くの猫がA型だという。

犬の場合、初回の手術では通常、他の血液型に対する抗体を持っていないため、血液型が違っていても大きな問題になることはない。ただこれは、ほかに選択肢がない場合に限られ、基本的にはリスクを極力避けるよう、可能な限り同種の血液型を使用する。

過去に輸血の経験などがあると、抗体が作られている可能性がある。違う血液型が入ると抗体が反応して、拒否反応を起こすことがあるため、輸血する際には血液型を適合させる必要がある。

前足と後ろ足にある愛らしい肉球も、体調悪化の1つの重要なサインとなる。犬の散歩をする際、猛暑の日中に肉球が熱いアスファルトに触れて火傷をしたり、とがった石などで傷ついたりすると、雑菌が入って化膿することもある。肉球が紫色になっていたら、血栓症を疑う必要もある。

「ペット」看護師という資格も

2020年頃からの新型コロナウイルスの感染拡大で、家にいる時間が長くなり、いやしとして犬や猫などのペットを飼い始める人が増えた。

ペットフードメーカーの業界団体、一般社団法人ペットフード協会のまとめによると、2022年の犬の飼育数は705万3000頭、猫は883万7000頭に上っている。新たに飼育し始めたのは、同年で犬が42万6000頭、猫が43万2000頭で、コロナ前となる2019年の犬35万頭、猫39万4000頭をそれぞれ上回った。

同協会では平均寿命も発表している。犬の平均寿命は14.76歳で、2010年に比べ0.89歳、猫は15.62歳で同じく1.26歳延びており、長寿化の傾向を示している。

夜間救急動物病院目黒の小林良院長(獣医師)。同院では動物に対する救急医療を、獣医師2~3人、動物看護師2人の体制で提供している

夜間救急動物病院目黒の小林良院長(獣医師)。同院では動物に対する救急医療を、獣医師2~3人、動物看護師2人の体制で提供している

2019年6月、愛玩動物看護師法が議員立法で成立。2022年5月に同法が施行、同年11月に第1回愛玩動物看護師国家試験の予備試験、続いて翌年2月に本試験が実施された。同法制定の背景には獣医療の高度化などを受け、チームによる獣医療提供体制を整備する必要があったからだ。

同法で愛玩動物看護師は、獣医師の指示の下で診療の補助ができると規定。その診療の補助とは具体的には、薬剤の注射、採血、カテーテル留置、投薬などとしている。

高齢化の影響で、獣医療では救急ニーズの増加に加えて、糖尿病といった慢性疾患、さらには終末期医療への対応も必要になってくる。言葉で症状を訴えることができない動物医療の現場では、獣医師や動物看護師たちが動物の体調変化を示す“サイン”を見逃さないようにしながら、スピード勝負の獣医療を提供している。

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提供元:「救急動物病院」取材で知る、"犬の血液型は8種類"|東洋経済オンライン

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