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2023.03.11

「想像していた老後と違う」嘆く人に欠けてる視点|お金を使わず楽しく生きるのに最適な方法とは


「こんなはずじゃなかった」という老後にしないためのコツとは(写真:takeuchi masato/PIXTA)

「こんなはずじゃなかった」という老後にしないためのコツとは(写真:takeuchi masato/PIXTA)

「リタイアをしたら、こんなことができそうだ」
「仕事から自由になったらこんなこともしたい」

定年を迎えて仕事をリタイアした人なら、きっと夢見ていたことがあるでしょう。では現実はどうだったのでしょうか。実は、「こんなはずじゃなかった」という声が実に多いのです。

理想の老後生活を送っている人とそうでない人の違いは、ほんのちょっとした違いと話すのは精神科医の和田秀樹さん。その違いを、和田さんの最新刊『70歳からのボケない勉強法』より一部抜粋・再構成してお届けします。

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ここで質問です。定年を迎えて仕事をリタイアした人たちに「リタイヤした後の不満をあげてください」と尋ねたアンケートがあります。どんな答えが多かったか考えてみてください。

上位にきた回答のなかには、たとえば、「やりたいこととできることは違った」ということがあります。世界中を旅して周りたい、ダンスを習ってみたいなどいろいろ考えていたが、実際には体がいうことをきかなくて無理だった、お金がなくてできなかったということのようです。また、「実際にはそれどころではなかった」という回答もありました。老親の介護が大変だったとか、そもそも主婦にはリタイアがないといった理由をあげている人もいました。

「退屈」をまぎらわすにはお金が必要

しかし、もっとも多かったのが次の答えでした。

「リタイアした瞬間から、やる気がおきなくなった」

「好奇心がなくなった」

そして、社会とのかかわりが減っていることの焦燥感、孤独感を抱きながらも、

「やることがなくて退屈だ」

「退屈地獄が苦しい」

という嘆きの声がたくさんあがっていました。仕事以外になにもしてなかったので、趣味もなく、仕事以外の友人もいないことを思い知ったと。

もちろん、リタイアして楽しい老後を過ごしている人もたくさんいます。しかし、よく聞いてみると、ネガティブな気持ちを抱いている人も少なくありません。

そのなかでも無視できない気持ちが「退屈」です。

「リタイア後、暇を持て余している。こんな毎日はいやだ。だけど、何をするにもお金がかかる。経済的な余裕はないから貯蓄を切り崩すのも怖い」

「退屈」にうんざりしている人の本音は、大なり小なりこんなところではないでしょうか。

お金を使わず楽しく生きる方法

何かやってみたいが先だつものがないという人に、私がおススメするのが「70歳からの勉強」です。そもそも「勉強」するのに元手はかかりません。そして、「勉強」にはかならず「喜び」があります。「喜び」に満ちた毎日は「退屈」とは無縁です。いろいろな意味で「勉強」こそ、高齢者にとって最適な日々の過ごし方なのではないかと思うのです。

しかも、もはや学生時代ではありませんから、いつ勉強しようが、何を勉強しようが、あなたの自由です。ひとりで勉強してもよいですし、仲間と一緒に勉強するのもよい。すべて自分の都合でできるのが「70歳からの勉強」なのです。

リタイア後に「退屈」を感じる主な理由のひとつに「仕事以外の付き合いがない」ということがあります。特に男性の場合、プライベートでの付き合いが苦手だという人は珍しくありません。しかし、「他者との交流がなく、ひとりでいること」は、そんなに悪いことなのでしょうか。

2021年、アメリカのボストン大学医学部が発表した研究結果で、とても興味深いことが明らかになりました。これは地域住民を長期にわたって追跡した疫学研究で、認知症またはアルツハイマー病の発症リスクと孤独感との関係を調べたものです。

この研究では、「孤独感」を「持続的な孤独感(長期間にわたって孤独を感じている)」と「一時的な孤独感(以前は孤独感を感じていたが、いまは感じていない)」を区別して調査しています。それとは別の要素に「ひとり暮らしであること」を入れています。

さて、結果は次のようになりました。

(1)「持続的な孤独を感じている人」は「孤独を感じていない人」に比べて認知症の発症リスクが91%も高い
(2)「一時的な孤独を感じていた人」は「孤独を感じていなかった人」に比べて認知症の発症リスクが66%低い
(3)「ひとり暮らしであること」と認知症発症のあいだに直接的な関連は認められない
 (※アルツハイマー病の場合も同様の結果になった)

(1)の結果から、長いあいだ孤独感を抱えていると認知症リスクが高まることがわかります。これは、すでによく知られていることだと思います。

(2)の結果はどういうことでしょうか。以前は孤独を感じていたが、いまは感じていない人というのは、周囲と交流を持つなどして孤独感を解消するために何らかの行動に出た人なのではないかと推測されます。そんな積極性を持っている人は、そもそも脳の働きが活発なので、認知症の発症リスクが低く抑えられていると解釈できます。

(3)の結果は端的に、ひとり暮らしをしているだけでは認知症の発症リスクは高くならないということ。「ひとり暮らしをしているとボケるのが早い」も、高齢者の脳に関するよくある誤解のひとつです。

このように、孤独感を長いあいだ放置していると認知症の発症リスクが高くなること、孤独感を解消した人は認知症の発症リスクが低いことから、孤独感と脳の働きにはなんらかの関係があることがわかります。

勉強をしながら「孤独」と上手に付き合う

では、認知症を予防するために、孤独を避けて、他者と付き合うべきなのでしょうか。

いいえ違います。認知症を予防したいのなら、脳を活性化すればよいのです。脳を刺激する方法は人付き合いのほかにもたくさんあります。先ほどから申し上げているとおり、私のおすすめは「勉強」です。

そもそも、ひと口に「孤独」といっても、いろいろなケースがあります。他者との交流がなく、「孤独である」からといって、必ずしも皆が「孤独感」を覚えるわけではありません。ひとり暮らしをしているからといって、それがすなわち孤独でさびしい人生を送っていることにはなりません。「孤独であること」と「孤独を感じること」とは別のことなのです。

もし社会的に孤立して生活に支障が出ているようなら周囲の助けを求める必要がありますが、そうでなければ孤独は恐るるに足りません。

孤独感を感じるか否か。その違いはなんなのでしょうか。私は「好奇心」ではないかと考えています。ひとりでいるかどうかは関係なく、常に、新しいことに関心を持ち続けること。好奇心を持ち続けることはとても大切です。

新しいスマートフォンが出たら、とにかくその機能を使い倒してみる。若い人たちが歌う曲も聞いたり、カラオケで歌ったりしてみる。若い子たちの間でTikTokが流行っていたら、自分も見てみる。最新の機械、たとえばVRを体験したり、ドローンを操縦してみる。

必ずしも流行に乗らなければならないというわけではありません。若いころは興味を持てなかった歴史や文化を調べてみてもいいでしょう。歌舞伎や能、狂言などを観たり、神社、仏閣めぐりをしたり、調べたりしてもいいでしょう。

このように好奇心は、どんなことに対しても持てるはず。好奇心こそが、最強の脳トレだと私は思っています。毎日、新しい刺激を感じることは、孤独と上手に付き合うことにもなるのです。

老後の勉強は、若い頃よりも気軽で楽しい

ビートたけしさんが、著書『「さみしさ」の研究』のなかで、「人生は、年齢を重ねるほど生きづらく、理不尽になっていく。夢のように輝かしい老後なんてない。若いころに比べりゃ、つまらないことばかり増えていく――それが真理なんだよな」と書いています。

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たけしさんは、老後について考えるとき、まず「人生は、年齢を重ねるほどつまらなく不自由になっていく」という事実を受け入れて開き直ればいいじゃないかと言っているのです。「若者に好かれたい」「人から尊敬されたい」なんて思って窮屈にならずに、ヒンシュク上等で余生を楽しむくらいの心の持ちようを提案しています。

年を重ねるごとに、人生はつまらなくなる――これは世間一般の常識なのかもしれません。ですが、私は、そんなことはない、と考えます。つまらないのなら、楽しいことをやればいい、そんなふうに思うのです。だからといって、そう簡単に新しいことはできない、お金もかかるし、この年になって友だちをつくるなんて……と、なかなか重い腰を上げられない気持ちも理解できます。

でも、「勉強」ならできるのではないでしょうか。なぜなら、私たちは子どものころからずっと勉強をしてきました。学校を出て働き始めても勉強しなければいけないことが山ほどありました。私たちは勉強することに慣れています。いちど体が覚えてしまった自転車の乗り方をいつまでも忘れないように、年を取ってからも勉強できます。しかも、志望校合格のためでもなく、昇進のためでもない「70歳からの勉強」なら気軽に始めて、楽しく続けられるのです。

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提供元:「想像していた老後と違う」嘆く人に欠けてる視点|東洋経済オンライン

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