2023.03.08
【眼精疲労】「目薬を1日10回以上指す」は逆効果|マッサージなど有効なセルフケア3種類を紹介
パソコン作業をしているとどうしても起こってくる目の疲れ。どうすればいいのでしょうか(写真:mits/PIXTA)
パソコンやスマホなど目を使う機会が多い現代社会。目の疲れを訴える人は決して少なくなく、ある調査では「大人の7割、子どもの4割が目の疲れを感じている」という結果が出ている。
目の疲れの多くは一過性のものだが、なかには治療が必要な病気が原因で起こることもあるという。“病院に行ったほうがいい目の疲れ”と、“そうでない目の疲れ”の違いは何か。眼精疲労に詳しい、京都府立医科大学病院教授の横井則彦さんに話を聞いた。
日常生活において、目の疲れを訴える人は多いが、通常、目の疲れは1日寝れば回復する場合が多い。
横井さんによると、このような一時的な目の疲れを「眼疲労(疲れ目)」と呼ぶ。対して、休養や睡眠をとっても、目の疲れが取れずに慢性的になった状態を「眼精疲労」というそうだ。後者の場合は眼科を受診したほうがいいという。
眼精疲労が起こる原因とは?
目の疲れの多くは、「目を酷使」することで起こる。
私たちはモノを見る際、毛様体という筋肉が水晶体の厚みを調節してピントを合わせている。遠くを見るときには毛様体がゆるむことで水晶体が薄くなり、反対に、近くを見るときは毛様体が収縮して水晶体が膨らむようになっている。
「眼精疲労の原因はさまざまですが、最近では、VDT(Visual Display Terminals 画像情報端末)症候群といって、パソコンを使う業務を日常的に行っている状態が原因のことが多いです。また、メガネやコンタクトレンズが合わないことも原因となります」
横井さんが注視しているのは、遠視や老眼(老視)、ドライアイによる眼精疲労だ。
遠視は遠くにピントが合いやすい状態をいい、近くを見るときに毛様体を緊張させなければならないため、強いストレスがかかる。老眼は加齢により、水晶体の弾力性が弱まって近くにピントが合いづらくなる状態だ。
「もともと遠視で、若いときに視力が2.0ぐらいある人は、そもそもメガネをかける習慣がありません。しかし、老眼が進む年代では、水晶体が硬くなっているので、ピントを合わせる力が落ちてきます。若いころのようにピントが合わなくなるため、遠近両用のメガネやコンタクトレンズなどを使わないと、眼精疲労はひどくなります」(横井さん)
現代はパソコンやスマホを見るなど、近い距離を見ることが多い生活をしているため、遠視や老眼の人は、眼精疲労を起こしやすい。
一方、眼精疲労を起こしている40〜50代では、老眼がすでに始まっているだけでなく、ドライアイを合併しているケースも少なくない。
ドライアイは、目の動きをスムーズにする潤滑油である涙が少なかったり、涙があっても蒸発が増えたり、涙が目の表面にくっつく力が低下したりして、目の表面に涙がとどまりにくくなっている状態だ。目の表面が乾いたり、まぶたでこすれるため痛みなどが起こり、目を開けているだけで疲れを感じるようになる(ドライアイについては次回の記事で取り上げる)。
また、男性ホルモンのアンドロゲンは目の潤いを保つ働きがある。女性はもともとアンドロゲンが少なく、更年期になるとさらに低下するため、ドライアイが進み、眼精疲労が強まる傾向がある。
眼精疲労をもたらす病気と受診の目安
さらに、眼精疲労をもたらす病気もあり、注意が必要だ。
具体的には、緑内障や白内障、斜位・斜視、眼瞼下垂(がんけんかすい・まぶたが垂れ下がってきて目が開きにくくなる)、乱視や不同視(左右の視力が違う)、不等像視(網膜に映る像の大きさが左右で異なる)、黄斑上膜(網膜のモノを見る黄斑の上に薄い膜が張ってモノが大きく見えたり、ゆがんで見える)などだ。
緑内障は視野が欠ける病気だが、その欠けた視野を補おうとするためピントの調節が難しくなる。斜視や斜位は視線を合わせるため毛様体を過度に使わなければならないし、眼瞼下垂も垂れ下がったまぶたの影響で視野の上側が見えにくくなるため、目が疲れやすい。
「目の疲れが翌日には治るようであれば、日常的なセルフケアで対応が可能ですが、目の疲れが続く慢性的な眼精疲労であれば、遠視や老眼、ドライアイ、ほかの眼疾患などが原因である可能性もあります。根本的な治療が必要となる場合があるので、まずは眼科を受診したほうがいいでしょう」(横井さん)
では、どういう状態になったら眼科を受診したほうがいいのか。
横井さんは、「市販の眼精疲労用の目薬を1カ月ほど使っても症状が改善しない場合が、受診の目安」と話す。症状としては、目が重い、目が痛い、目を開いているのがつらい、光がまぶしい、ぼやける、かすむ、充血している、目がしょぼしょぼする……などだ。
眼科では、まずは視力や眼圧、視野、眼球運動、目の表面(ドライアイ)や目の中(白内障や緑内障)や目の底(網膜の病気)などの検査をして、ほかの病気があるかどうか調べる。そこで病気が見つかればその治療を行い、なければ眼精疲労に有効なビタミンB12製剤の点眼薬をしばらく使ってみて、症状が改善するかをみていく。
眼精疲労では点眼薬による治療だけでなく、セルフケアも大事だ。
セルフケアでは、以下のようなことが有効だとされている。治療中の症状改善だけでなく、予防効果もあるので試してみよう。
病院にかかるほどではない目の疲れには、市販の目の疲れ対策用の目薬も有効だ。この際、「使い方にコツがある」と横井さんはアドバイスする。
「まず、知っておきたいのは、市販の目薬には『人工涙液(るいえき)』と『薬効をうたっている目薬』の2種類があるということです」
「人工涙液」と「目薬」の違い
人工涙液は、体液とよく似た電解質組成によってpHや浸透圧などを合わせてあるもので、多くは目の渇きを緩和する。一方、眼精疲労など効能をうたっている目薬は、目の疲れを取る成分(ビタミンB12やネオスチグミンメチル硫酸塩など)が少量入っている。
さまざまな種類があるので、どれを使ったほうがいいかわからないときは、薬局・ドラッグストアの薬剤師、登録販売者に相談するといいだろう。
目薬の使用で注意すべきは、用法用量を守ることだと横井さんは話す。
「目の表面を覆う涙は、油層と、ムチンを含む水層の2層構造になっています。目薬を1日に10回を超えて差すと、この層が崩れ、むしろ(眼精疲労の原因となる)ドライアイを悪化させることもあります」
実は、横井さんが診ている患者のなかには、“目薬の差しすぎ”が問題になっている人が意外と多い。目薬を差すことが習慣になっているため、回数を減らすのは思った以上にたいへんだという。
目によいとされるサプリメントなども売られているが、どうなのだろうか。
「ピント合わせや神経の修復に対しては効果があるかもしれませんが、眼精疲労は原因が多岐にわたるため、その効果はわかりません」(横井さん)
我々は日々、目からの情報を多く受け取り、生活している。それだけに眼精疲労の症状は思った以上に深刻だ。セルフケアや目薬を使っても、モノを見るのがつらい、目を開けていられないといった症状が改善できなければ、これくらいで病院に行ったら申し訳ないと思わず、受診を。
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正しい視力矯正ができているかを確かめたり、何らかの病気が原因で起こっていないか検査してもらったりしたほうがいいかもしれない。
「眼精疲労をもたらす老視(老眼)やドライアイは加齢とともに進みやすくなります。完全に治すのは難しいですが、日常生活の工夫や目薬の使用などで、日常生活に支障がないように上手に付き合っていくことが大切です」(横井さん)
次回は、眼精疲労の主な原因となっているドライアイについて紹介する。
(取材・文/伊波達也)
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京都府立医科大学病院教授
横井則彦医師
1984年、京都府立医科大学卒業。86年、同学眼科学教室助手。95年、同学講師。96年、オックスフォード大学研究員、99年、京都府立医科大学眼科学教室准教授を経て、2016年より現職。現在、京都府立医科大学病院眼科でドライアイ専門外来を担当し、ドライアイ研究会の世話人代表を務める。
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提供元:【眼精疲労】「目薬を1日10回以上指す」は逆効果|東洋経済オンライン