2023.03.07
【ドライアイ】疲れ目で悪化も、注意したい3要素|目の乾きがつらい人は眼科で診てもらう必要も
眼精疲労の原因となるドライアイ。どんな治療法があるのでしょうか。ケアのやり方と共にご紹介します(写真:shimi/PIXTA)
何らかの要因で、“目の表面に涙が広がって安定する状態”が低下することで、潤いが不足して目の表面が乾くことで生じる、“目の不快感や見え方の異常”を、ドライアイという。
スマホやパソコンの長時間使用など、目を酷使するライフスタイルの人が多いのも原因か。国内の潜在患者数は3000万人ともいわれ、年々増えている。眼精疲労をもたらすこの病気について、ドライアイ研究会世話人代表であり、ドライアイ専門外来を主宰する京都府立医科大学病院教授の横井則彦さんに聞いた。
モノを見るという重要な役割を果たす目。瞬きをしたり、目をつぶったりしているとき以外、常に外気にさらされている目を、ゴミや雑菌などから守っているのが「涙」だ。
目の表面に膜を作ってそれらの異物の侵入を防ぐほか、侵入してきた異物を涙とともに洗い流すことで、その役割を果たしている。ほかにも、涙は目の乾燥を防いだり、酸素や栄養分を補給したりしている。
通常であれば、涙腺で作られた涙は、反射的に瞬きをすることで目の表面に広がり、乾燥を防いでくれる。また、リラックスしているときにも涙が分泌され、眠って目を閉じている間に前日の乾きがリセットされる。
ドライアイかどうか調べる方法
こうした涙の役割が何らかの理由で妨げられ、涙が目の表面を十分に覆うことができなくなることで、目に乾燥感が生じたり、モノが見にくくなったりする病気がドライアイだ。
通常、目の表面を覆っている涙は、油層、ムチンを含む水層の2層構造の膜になっている。この膜が壊れるまでの時間を調べることで、ドライアイがどうかが診断できる。
「目を開けたまま瞬きをしない状態で、涙の膜がどれくらいの時間で壊れるかをみます。このときの時間が5秒以内であれば、ドライアイが疑われます」(横井さん)
ドライアイのリスクファクターで最も多い環境要因は、パソコンやスマホの画面の見すぎだ。
一般的に我々は1分間に20〜30回ほど瞬きをするが、ディスプレイを凝視していると、その回数が減る。そのため空気にさらされる時間が長くなり、目が乾いてくる。この手のドライアイは、VDT(Visual Display Terminals)といわれるコンピュータのディスプレイを凝視する業務に従事していたり、スマートフォンを常用したりする人に見られ、男女差が比較的少なく、10〜30代の人に多い傾向がある。
このほか、ドライアイは加齢や病気が原因で起こることもある。
加齢によるものは40〜50代以降から始まり、その多くが女性だ。
目の表面を保護する涙や、油分を分泌する涙腺やマイボーム腺は男性ホルモン支配であるため、男性ホルモンの少ない女性はもともとドライアイになりやすい。さらに、男性ホルモンは、加齢とともに低下していくためにドライアイになりやすくなる。
一方、目の病気によるドライアイの代表的なものは、シェーグレン症候群、関節リウマチなど膠原病をはじめとする自己免疫系の病気や、スティーブンス・ジョンソン症候群などだ。
ドライアイの3つのタイプ
ドライアイは目が乾く仕組みによって「涙液(るいえき)減少型」「蒸発亢進型」「水濡れ性低下型」の3タイプに分かれ、それぞれの治療法が変わってくる。
涙液減少型は涙の量が少ないタイプ、蒸発亢進型は目の表面を覆う涙の膜のなかの油層の量が少なかったり、質が悪いタイプだ。水濡れ性低下型は近年、新たに加えられた概念で、涙が目の表面にとどまりにくいタイプ。ムチンの異常が指摘されている。
なお、ドライアイと診断された人のなかに、「マイボーム腺機能不全症」と言われたことがある人もいるかもしれない。これはまぶたの裏にあって目の表面に油分を分泌するマイボーム腺の油が通る道の出口が詰まることで起こる病気。蒸発亢進型のドライアイの原因にもなるが、ドライアイそのものとは異なる病気だ。
3タイプのうち横井さんが注目しているのは、水濡れ性低下型だ。
「黒目(角膜)表面の、涙を引っ付ける力が落ちている状態です。涙の膜が短時間で壊れてしまうため、ピントを合わせようとするとものすごく目が疲れるのです。若い人の眼精疲労の原因としても重要です。当院のドライアイ専門外来に紹介されてくる難治性のものは、この水濡れ性低下型ドライアイが多いです」(横井さん)
このドライアイ、予防するにはどんなことが必要か。
横井さんは「目を乾きやすくする環境要因であるパソコン、エアコン、コンタクトレンズという『3つのコン』に注意しましょう。これらは、水濡れ性低下型ドライアイ以外のドライアイにおいてもドライアイを悪化させるリスクファクターになるので、特に注意が必要です」と話す。
では、ドライアイの検査・治療はどのように行われるのか。
まずは検査で特に重要なのが、「フルオレセイン染色」だという。
前述した目の表面の涙の膜の壊れ方をみる検査で、3回行う検査のうち、すべてで5秒以内に涙の膜が壊れたら、黒目の部分を染色して表面のパターンをみる。これによりドライアイのタイプがわかるそうだ。
フルオレセイン染色による涙の破壊パターンを見る方法は「眼表面層別診断(TFOD)」と呼ばれ、世界に先駆けて、横井さんのドライアイ外来と海外との共同研究で独自に開発した。
この結果に基づいて、眼表面の不足成分を補充する「眼表面層別治療(TFOT)」を行っている。これは、軽症なら成分が涙に近い人工涙液やヒアルロン酸製剤、水分やムチンの分泌を促進するジクアホソルナトリウム(ジクアス)、ムチンを作って摩擦を減らすレバミピド(ムコスタ)などの目薬を使った治療だ。
「ジクアホソルナトリウムに関しては、これまで1日6回の点眼が必要だったのですが、2022年11月に3回で済むジクアスLXという薬が出ました。半分の点眼回数でも同様の効果が出ます」(横井さん)
コンタクトレンズも、近年、性能が上がり、いいレンズが登場している。
「いわゆる『生コンタクト』といわれるものです。水分を含む層がレンズの表面を覆っているので潤いを保つことができます」(横井さん)
重症の人には手術をすることも
重症の涙液減少には、上下のまぶたにある涙点(涙の排出口)をシリコンの栓で閉鎖する「涙点プラグ」治療が行われる。
「人は1日1万5000回ほど瞬きをしているので、外れることもありますが、すぐ入れ直すことができます。外れるたびに0.1ミリずつ涙点が大きくなるため、何度も外れるようだと、入れるサイズのプラグがなくなります。その場合には涙点閉鎖術という手術で涙点を閉じることになります」(横井さん)
ドライアイは、乾きを感じたときに市販の目薬でしのぎ、症状が弱まると目薬の使用を止めて悪化するというのを繰り返す人が多い。それをいかに適切な点眼でコントロールできるようにするかが治療のポイントだ。うまくいけば、最初は月1回の来院が、3カ月に1回、半年に1回となっていき、5〜7割の人は点眼だけで改善するという。
「眼科を受診せずにいると目の神経が過敏になって、無神経因性疼痛あるいは神経障害性疼痛などという状態になることがあります。進行すると、目の表面が風に当たっただけで痛むアロディニア(疼痛をもたらさない刺激が疼痛につながる状態)になることもあると言われています」
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と横井さん。そうなるとかなり難治になるため、早く気づいて治療を受けたほうがいいだろう。
いろいろな「眼表面疾患」を合併する複合型のドライアイもある。しっかり診断して適切な治療に臨んでくれるという意味では、たとえば「ドライアイ研究会」に登録している眼科クリニックなどがある。こうした医師のもとで診てもらうことが重要だ。
(取材・文/伊波達也)
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京都府立医科大学病院教授
横井則彦医師
1984年、京都府立医科大学卒業。86年、同学眼科学教室助手。95年、同学講師。96年、オックスフォード大学研究員、99年、京都府立医科大学眼科学教室准教授を経て、2016年より現職。現在、京都府立医科大学病院眼科でドライアイ専門外来を担当し、ドライアイ研究会の世話人代表を務める。
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提供元:【ドライアイ】疲れ目で悪化も、注意したい3要素|東洋経済オンライン