2023.03.01
笑福亭笑瓶さんを襲った「大動脈解離」の正体|聞き慣れないが、誰にとっても他人事ではない
硬くなった血管は「ストレッチ」で若返らせることができること、ご存じですか?(写真:Fast&Slow/PIXTA)
タレントの笑福亭笑瓶さんを襲った「大動脈解離」。実は、誰にでも起きる可能性のある病気です。避けるには、血管をできるだけ柔らかい状態に保つことが重要。その具体策を、「血管ストレッチ」の考案者で、立命館大学スポーツ健康科学部教授の家光素行さんの著書『体がやわらかくなると血管が強くなる』より、一部抜粋・加筆してお伝えします。
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背景にある「高血圧」と「動脈硬化」
いま「大動脈解離」という言葉が注目を集めています。
著名な芸能人の方が、この病気で亡くなられたこともあり、連日テレビや新聞などでも報じられたことで「初めて知った」という方も多いことでしょう。
この病気を簡単にご説明するなら、大動脈という大きな血管の内壁が裂け、本来血液が流れていないところにまで血液が流れ込み、放置すると死にいたる危険な病です。
私が懸念しているのは、普段あまり耳にしない病名のせいか「自分には関係ない」と思っている人が意外と多いのかもしれない、ということです。しかし、この病気の背景にあるのは「動脈硬化」と「高血圧」です。実は、誰にでも起きる可能性があるのです。
動脈硬化というと、生活習慣が乱れた人に血管が詰まって起きる、というイメージがありますが、その認識は正確ではありません。
動脈硬化とは、文字どおり、血管が硬くなること。
そして、あまり知られていませんが、「動脈硬化」はすべての人に起こりえます。年齢を経るにつれ、誰しも血管は少しずつ硬くなっていくからです。
生活習慣が乱れている人はより悪化しますが、平均的な生活習慣の人でも老化による動脈硬化からは逃れられません。決して、他人事ではありません。
例えるなら、若い頃の血管はゴムホースのようにやわらかいのに、50代以降の血管は、コンクリートの水道管のように硬いのです。
「動脈硬化」は誰にでも起きる
血管が硬くなると、高血圧や冷え性などの体調不良を誘発します。なかでも最も恐ろしいのは、硬くなっていくことによって起こりうる、血管の「詰まり」や「破裂」です。
私たちの体にある細胞というのは、日々さまざまなことからダメージを受けていて、それが老化の原因にもなります。生きているうえで、そのダメージを完全に防ぐことはできないのですが、たばこや不摂生な生活、偏った食事、大気汚染やストレスなどもダメージを増幅する大きな要因になるのです。
血管の細胞も、さまざまな要因によってダメージを受けています。そのダメージによって血管の内皮細胞は徐々に衰え、血管が硬くなっていきます。さらに、硬くなった血管は、より一層、傷ついたり、炎症を起こしやすくなるのです。
そのメカニズムはこう。心臓は1分間に約70回も拍動して、毎分約5リットルもの血液を体に送り込んでいるのですが、ここから生じる圧は、血管にとって大きな衝撃です。
血管は、何十年もこの圧に耐えているのですから、それだけでも負担がかかりますね。
さて、若い血管というのは、血液が流れてきたときに、波を打つようにしなやかに広がってくれます。実は、このように血管が広がることによって、血流の衝撃をやわらげることができるのです。
反対にカチコチの血管はというと、伸び広がりませんから圧を血管壁がダイレクトに受けます。やわらかいゴムの板ならばボールをぶつけても衝撃を吸収しますが、硬いプラスチック板だったら衝撃によって板にヒビが入りかねません。つまり、硬い血管の場合、圧の衝撃によって、なおのこと血管の内皮細胞が傷ついたり、炎症を起こしてしまうのです。また、その衝撃に耐えようとして、自らをもっと硬くしていくので、動脈硬化が一層進行してしまいます。
さらに進むと、血管の炎症や傷から悪玉コレステロールが入り込み、プラークと呼ばれる粥状の塊が血管内にできてしまいます。すると血液の通り道が狭くなってしまいます。そして、そのプラークがどんどん膨らんでくると破裂が起こり、その傷をふさぐための血栓(血の塊)ができるのです。それが、狭くなった血管部分に詰まってしまえば、血液の流れを止めてしまいます。これが、脳で起これば脳梗塞、心臓なら心筋梗塞に。こういった重大な疾患へとつながりかねないのです。
このようにプラークができた状態の動脈硬化を「アテローム性動脈硬化」もしくは「粥状動脈硬化」というのですが、世間一般的に「動脈硬化」というと、この状態をイメージする場合もあります。ただ、これは血管が単に硬くなる「動脈硬化」がさらに進んだ状態。先に説明してきたように動脈硬化自体は誰でも起こりますが、できるだけ「アテローム性動脈硬化」へと進行させないことが大事なのです。
高血圧は「動脈硬化」と密接に関係
血管自体に痛みがないため、気づきづらい――。
それが、動脈硬化の特徴です。
ただ、全身の不調としていくつか現れる症状があります。なかでも、はっきりと変化するものがあるのです。それが、「血圧の値」です。
みなさんも、健康診断などで血圧を測る機会がありますよね。直近の血圧と、例えば5年前や10年前の血圧の数値を比べてみてください。高くなっていませんか?
ぐんと上がっている、あるいはわずかだけど高くなっている。その度合いには個人差がありますが、年齢とともに高くなります。
血圧と血管の硬さは、比例していると思ってください。
血圧が、ぐんと上がっていれば、それなりに血管の硬度も高くなっているということ。このように、血圧の数値は、血管の硬さのバロメーターなのです。
血圧が高くなると、当然、動悸、息切れ、むくみといった症状が誘発されます。その背景には、血管の硬さが潜んでいるのです。
ちなみに、健康診断以外で血管の硬さを測ろうと思ったら、比較的規模の大きな病院などでは、専用の測定機器で「血管年齢」を測ることもできます。
血流のスピードや身長に比例する血管の長さなどから、血管の硬化度を導き出すのですが、両手足に機械をつけ、5分程度で計測ができます。気軽に計測できますので、一度受診してみるのもいいでしょう。
動脈硬化の改善といえば、塩分を減らし野菜が多い食事を摂る、日々の生活に運動を取り入れる、なるべくストレスを減らす、酒やたばこを控えるといったことが知られています。もちろん、そうした心がけは大事なのですが、毎日続けるにはハードルが高く、続かない人が多いのも事実です。特に、高齢の方にとって、一定以上の強度のある運動は心身ともに負担が大きいものです。
「ジョギングやウォーキングをしたいのだが、ひざが痛くて無理」
「長時間の運動は、体力がもたない」
こんな声をしょっちゅう聞きました。
「気軽に運動ができない、でも健康でいたい」
といった方々に少しでもハードルを下げるための方法として、私がご提案するのがストレッチです。
太い血管を「伸ばす」ことで予防
全身の筋肉の7割が集まっていると言われている、下半身のストレッチがおすすめです。
なかでも「前もも」と「ふくらはぎ」をメインにするとよいでしょう。前ももとふくらはぎは、体の中でも大きな筋肉と、さらに太い血管も通っています。
〇筋肉のポンプ的な作用を働かせ、血液の巡りを促す。
〇血管そのものをのばす。
それを効率的に行えるのが、この2つの部位です。
まず、前ももには、「大腿四頭筋」という大きな筋肉があります。そして、脚の付け根から、ひざの上を結ぶ部分には「大腿動脈」という太い血管が走ります。
つま先立ちをしたときにぐっと力が入るふくらはぎも、大きい筋肉。さらにふくらはぎは、筋肉のポンプ作用がよく働く部位であることも特徴です。
全身を巡った血液は、心臓に戻らなければならないのですが、重力の影響で下肢に溜まりやすいのです。溜まった血液を心臓へ押し戻すためには、ポンプ作用が必要ですが、それを得意とするのが、第二の心臓ともいわれるふくらはぎ。ここには、「後脛骨(こうけいこつ)動脈」という太い血管が走ります。
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なぜ、血管をやわらかくするのに、ストレッチが効果的なのか。
それは、一酸化窒素「NO(エヌオー)」をはじめとした「血管拡張物質」をたくさん分泌させることができるからです。
血管の内膜にある「内皮細胞」はストレッチによって血流が増大し、その刺激を受けると、血管の拡張を促すNOなどを分泌し、血管内の筋肉「平滑筋」に〝緩む〟ように働きかけます。それに反応した平滑筋が緩むことで、血管が広がり、やわらかくもなる効果があるのです。
私はこうしたストレッチを「血管ストレッチ」と名付けており、大きな反響を呼びました。主に、冷え性対策として伝えられましたが、最も重要なことは動脈硬化の改善に寄与することです。
繰り返しになりますが、動脈硬化や高血圧を放置することで、あなたの健康に重大な支障が起きる恐れがあります。
できるだけ早い段階で、生活習慣の改善やストレッチなど、血管を柔らかくする対策を講じてください。
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提供元:笑福亭笑瓶さんを襲った「大動脈解離」の正体|東洋経済オンライン