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2023.02.04

にしおかすみこ「認知症、ダウン症」家族との日々|芸人の仕事は激減、物書きとして家族を支える


「自分にとって家族とは?」と自問する日々を送るにしおかすみこさん(写真:筆者撮影)

「自分にとって家族とは?」と自問する日々を送るにしおかすみこさん(写真:筆者撮影)

ムチを手にした女王様キャラでブレークしたピン芸人のにしおかすみこさん(48)。家族の現状をリアルにつづった著書『ポンコツ一家』を1月18日に上梓しました。「認知症の母」「ダウン症の姉」「酔っ払いの父」「一発屋の自分」にありったけの愛を込めて「ポンコツ」という言葉で家族を表現しています。家族と向き合う中での葛藤。そして、発信することへの迷い。答えのない時間を過ごす今の胸の内を吐露しました。

コロナ禍で仕事量が激減して、コロナ禍前を10とすると2くらいまで減ってしまいました。それまで家賃18万円のところに住んでいたんですけど、コロナ禍前から収入には見合っていない感覚もあったので引っ越すことにしたんです。家賃10万円の物件を見つけて段取りをつけました。

そんな中、ふと久々に実家に戻ってみようと思って千葉に向かったんです。お正月に戻るくらいの感じで、何年も戻ってないというほどではなかったのですが驚きました。

母の認知症発覚で実家住まいに

家中砂だらけだし、ゴミは放置してあるし、明らかに母の様子も違う。明らかに何かがおかしい。調べてみると、母の認知症が分かったんです。これは引っ越して一人で暮らしている場合ではない。そう思って10万円の物件ではなく、実家に住むことにしました。それが2020年の6月頃でした。

ウチの家族は母が認知症。1歳上の姉はダウン症。父は酔っ払い。そして、私は一発屋。そんな構成です(笑)。

家のことをやるのは基本的に私です。姉は小学生ができることができるくらいだと思います。ただ、ダウン症のこともあってか、早く歳を取ってきている感じでもあるので、母親と並んでいると、おばあちゃんが2人いるような感じでもあります。

そんな家族のことを2021年の秋から雑誌の連載で書くことになり、今回書籍にしてもらいました。連載の頃から心配ではあったんですけど、私は自分の家族なので愛情をこめて“ポンコツ”という言葉を使っている。でも、認知症、ダウン症を扱っているので読む方にとってはいろいろな感情を持つ方もいらっしゃるのかなと。

それが本という形になると、より一層、いろいろなことをお感じになる人がいらっしゃるのでは。そう思っていたんですけど、ネットのコメントや周りの方の声を見てみると、本当に温かいお言葉が並んでいて、ホッとしているというのが今の気持ちです。

母は連載を始めた時よりも認知症が進んできているとは思います。忘れるスパンが短くなっているし、少しずつできないことが増えてきています。以前は30分前のことを忘れていたら「今回は早いな」という感覚だったんですけど、今は母が何か聞いてきて、私が「それなら、あそこにあるんじゃない?」みたいなことを答えたらその時にはもう自分が聞いたことを忘れている。一回の会話のキャッチボールが成り立たない時も出てきています。

父が戦力になってくれたらうれしいんですけど、父は父でとんでもなくマイペースなんですよね。自分の流れで馴染みのお店に飲みに行って、酔っぱらって帰ってくる。昔に比べると、父と話す機会は今の生活になって増えたのかなとは思うんですけど、やっぱりマイペースはマイペースなので(笑)。そこは変わらないですね。

先は見えず、今を必死に生きている

コロナ禍前に比べると、今もお仕事の量は2割くらいだと思います。なので、なんとか書くお仕事をもっと頑張りたい。書くことで生活費を稼がないといけない。これがリアルな思いでもあります。

実家に戻ったのが2020年6月頃ですから、今で2年半ちょっと経ちました。日々、家族と向き合う中で何か改善方法とか、解決策みたいなものが見つかったかというと、特にないんですよね。何も解決できないまま、毎日が過ぎているのが現実です。

厳しい状況を明るく笑い飛ばすにしおかすみこさん(写真:筆者撮影)

厳しい状況を明るく笑い飛ばすにしおかすみこさん(写真:筆者撮影)

さらに、この先を考えると、みんな歳を取っていくし、これ以上良くなることはない。むしろ悪化していくのは間違いありません。今でもジタバタしているのに、これからどうなるんだろう。本当はそれでもいろいろ考えて良い方法を見出さないといけないんだとは思うんですけど、先のことを考えることから目を背けている。それもあると思います。

ただ、この状況で自分が倒れてはどうしようもないので、できるだけ“自分ファースト”を心がけてはいます。何とか息抜きの時間を作ろうと思って、たまには高いカフェでご飯を食べたり、野菜やフルーツの表面を飾り切りするカービングをやったりはしています。

あと、愚痴ります(笑)。マネージャーさんにも、スタッフさんにも。あまり社交的ではないので友だちが多くないんですけど、仕事場でスタッフさんを見つけて愚痴る。周りは迷惑だとも思いますけど、皆さん、本当にやさしく、懐が深い人たちなので助けられています。

書くことは好きですし、今回、本も出していただいたので自分の書いたものを知ってもらいたい。その思いはあるので、こういった取材も本当にありがたいことなんです。でも、それと同時に、こうやって自分のことを話すのに苦手意識もあるんです。

ウチは介護と言っても徘徊があるとか、寝たきりというわけではない。「介護しています」と語れるほど何かをしているわけではないのかなと思いつつ、こういう仕事をしているから取材の機会をいただければ語っている。本当に大変なことをされている方からしたら、私なんかが……という気持ちが出てくるのも正直なところで、そこの感覚があるので、こうやってお話をさせてもらっていても、どこかにおこがましさがあるんです。

そして、こういう取材で聞いていただくことも多いのが「自分にとって、家族とは」ということでもあるんです。これはずっと自分の中の宿題だと思っているんですけど、考えれば考えるほど分からなくなっているのが今の状況でもあります。

家族は安心するけど、残念なもの

“絆”といっても、そんなきれいごとだけじゃないし、“空気”みたいにさりげないものでもないし。ネットで検索したら日々変わるということで“万華鏡”という言葉もあったんですけど、万華鏡は楽しみで覗くものであって、そんな良いものでもないし……とか。どれもしっくりこなくて、いっこうに答えが出てきません。

あまりにも答えが出ないので、先日、母に聞いてみたんです。「ママにとって、家族とは?」って。なんとも歯切れの悪い答えでもあったんですけど(笑)、まとめると“切りたくても切れないもの。安心するけど、残念なもの”みたいだなと。

今、母は認知症になって、父とも毎日のようにケンカしています。それでも父を“切れないもの”だと思っているんだなと。それを聞いて、何とも言えない気持ちにもなりました。

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『ポンコツ一家』(講談社) クリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします

本当に何なんでしょうね。「家族とは」。この答えは本当に分からない。でも、分からないことが答えなんですかね。それも分かりませんけど(笑)。

いろいろなことを経て、今はこんなことにたどり着いた。こういう教訓を得た。そんなことをお話しするのがこういうインタビューの一つ形なのかもしれませんけど、今のところ、何も見いだせず、今日をひとまず成立させる。それが今の自分です。

そんな中での思いを文字にして少しでも心がホッとしたり、クスッとしてくださったりする方がいらっしゃるなら書いていきたい。それも今の自分が思っていることなので、なんとか少しずつでも書いていきたいと思っています。

ま、あんまりにも少しずつだと、今でも担当者さんに原稿を待ってもらうことの連続なので(笑)、そこは迷惑をかけないよう、しっかり、テキパキと書いていくように頑張りたいと思います。

■にしおかすみこ

1974年11月18日生まれ。千葉県出身。本名・西岡純子。青山学院大学卒業。ワタナベエンターテインメント所属。94年にデビュー。コンビ活動などを経て、ピン芸人として手にムチを持った女王様キャラクターでブレークする。マラソンや水泳などスポーツでも力を発揮し、フルマラソンのベストタイムは2019年に記録した3時間5分3秒。21年9月から「FRaU(フラウ)」で家族への思いをつづった連載を開始。連載をまとめ、加筆した著書「ポンコツ一家」を今年1月に上梓した。

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提供元:にしおかすみこ「認知症、ダウン症」家族との日々|東洋経済オンライン

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