2023.02.01
医師解説、肝臓から「脂肪が落ちる」朝食のとり方|朝食に“カット野菜のスープ"を勧めるワケ
肝臓に脂肪がたまると本来の働きができず、太りやすく、疲れやすくなります。これが“脂肪肝”という病気です(写真:なないろひまわり/PIXTA)
長野県佐久市立国保浅間総合病院「スマート外来」では、患者の8割が3カ月で約5kgの減量と、脂肪肝の改善に成功しています。患者さんの成功事例を参考に、肝臓から脂肪を落とす食事の実践的な取り組み方を紹介します。
『専門医が教える 肝臓から脂肪を落とす食事術 予約の取れないスマート外来のメソッド』が大好評の肝臓外科医・尾形哲氏がこの度、『専門医が教える 肝臓から脂肪を落とす7日間実践レシピ』を上梓。本書から一部抜粋・再構成してお届けします。
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「朝食」抜きが脂肪肝や糖尿病を悪化させる
「食べる量を減らしているのに、やせない……」と、お悩みの方へ。もしかしたら“肝臓にたまった脂肪”のせいで、肝臓が十分に働いていないのが原因かもしれません。肝臓は食べ物を体のあらゆる部位で必要な形に変化させる(=代謝を司る)、人体最大の臓器。肝臓に脂肪がたまると本来の働きができず、太りやすく、疲れやすくなります。これが“脂肪肝”という病気です。
脂肪肝の正式な病名は、「非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)」といいます。飲酒習慣がないのに肝細胞に脂肪がたまる病気で、現在、日本では成人の約3人に1人、2300万人以上が罹患しています。そして、今のところ脂肪肝を治す特効薬はないのです。
でも、治らないと諦める必要はありません。科学的に証明された改善法があります。
ーーその方法が“肝臓をいたわる食事”です。
実際に食事の改善で減量に成功し、脂肪肝を克服した患者さんのケースを元に食事法をご紹介しましょう。
飲酒はしないけれど、甘いものが大好きなKさん(女性・当時58歳)は、幼少期からずっとぽっちゃり体型だったそうです。しかし50代後半になって、食事量は変えていないのに1カ月に1㎏ずつ増える事態に……。不安になってかかりつけ医を受診すると、ヘモグロビンA1cを含む血糖値が高く「糖尿病」との診断を受けました。そして、足を運んでくださったのが当院の「スマート外来」で、脂肪肝からの脂肪肝炎(NASH)を発症していることも見てとれました。
Kさんが最初に行った計測では、身長156.6㎝で82.6㎏。体脂肪率は45.9%で、肝機能の数値も血糖値も異常値でした。病状を改善するために減量は必須です。「スマート外来」の指導では、1カ月の減量目標は2㎏まで。それを3カ月間続けるようにお伝えしています。脂肪肝の人の場合、体重の7%を減量できれば、肝細胞から脂肪が減少することが実証されています。
Kさんの食事改善のファーストステップは、それまで食べる習慣がなかった“朝食を食べる”ことからでした。糖尿病のKさんにとって、急激な血糖値上昇は何よりも避けるべき事象。朝食抜きの空腹状態で昼食を迎えると食べすぎやすい上、昼食後の血糖値が跳ね上がるのです。だから、朝食は必ず食べるのが鉄則です。
とはいえ、メニュー内容も重要です。菓子パンに砂糖入りのコーヒーでモーニングというのはNG。これでは、血糖値の急上昇を避けられません。そこで欠かせないのが「食物繊維」なのです。野菜やきのこ、海藻などに豊富に含まれる食物繊維は、血糖値の上昇を緩やかにしてくれる救世主となる成分です。
早速Kさんが取り組んだのは、“朝食に野菜スープを食べる”ことでした。前日の夕食時に野菜を煮込んだスープを作っておき、朝食にそれを食べるように。1日の食事で緑、赤、黄、黒、茶の5色を入れるとバランスがとれると管理栄養士から指導されたこともあり、スープの具にはパプリカをよく使ったそうです。朝食の習慣がなかったので野菜スープのみからのスタートでしたが、食事を制限するのではなく、それまで食べていなかった朝食をとり、食事回数を増やすように指導されたのは意外だったそうで、前向きに取り組めたポイントだったと言っていました。
朝食の「野菜スープ」で9kg減。脂肪肝炎も消失
実は野菜スープによって血糖値を抑える効果は、昼食後にも及びます。食物繊維が多い朝食をとることで、朝食(ファーストミール)だけでなく昼食(セカンドミール)の血糖値上昇を抑えることが知られており、これを「セカンドミール効果」と呼んでいます。
その他に、食事で注意したことは、糖質量を控えるためにご飯は70gまでに。また、筋肉量を維持するために手のひらサイズの肉や魚介などのタンパク質をとるように。それまで飲んでいた甘い炭酸飲料は、砂糖なし・甘味料なしの炭酸水に変更してもらいました。
ダイエットコーラならゼロカロリーで問題ないとKさんは思っていたようですが、甘味料入りの飲料を飲むと腸内環境によくなかったり、継続して甘いものを欲しやすくなったりするので避けるべきです。とはいえ、食べていたもの全部がダメなのではなく、食べていいもの、変更できるものがわかってきたことで、ストレスなく甘いものから離れられたと診察時に話してくれました。
Kさんは食事改善を始めて3カ月後に体重は5.4㎏減、6カ月後には体重72.3㎏と、見事9.3㎏減に成功しました。体脂肪率も42.0%に落ち、3.9%減。肝機能を示すAST、ALT、γ-GTPも軒並み基準値内になり、脂肪肝炎も消失。心配された血糖値も問題ない程度まで改善しました。
“朝の野菜スープ”で肝臓から脂肪が落ちる理由
Kさんの食事改善の最大のポイントが、“食物繊維”です。「スマート外来」では、1日に20g以上の食物繊維を摂取することを推奨しています。野菜量にすると350gほどで、両手にこんもりになる程度。実際に食物繊維量を算出して食べることは難しいので、普段の2倍の量を食べると考えて実践するといいでしょう。また、野菜は生のままではなく、加熱して食べることをお勧めしています。その代表メニューである朝食の「野菜スープ」が、とりわけ脂肪肝改善に有効な理由を説明しましょう。
[理由1] 食物繊維をしっかりとれて、血糖値が上がりにくい
肝臓に脂肪が増えるのは、食後血糖値の急上昇が一因です。血中のブドウ糖はエネルギーとして使われるほか、一部がグリコーゲンに合成されます。しかし、血糖値が急上昇する事態では、血中のブドウ糖が過剰になっていてグリコーゲンの合成だけでは間に合わず、「中性脂肪」という形で肝臓にも蓄えられてしまいます。この蓄積で肝臓に脂肪が増えていき「脂肪肝」になります。ですから、食後の血糖値上昇を抑えれば、肝臓脂肪を減らせるわけです。
食物繊維は米などの穀類にも豊富ですが、血糖値の上昇を抑えるためには精製糖質のご飯、パン、麺などは控えるべき。だからこそ、野菜やきのこ、海藻がたっぷり入った「野菜スープ」が最適なのです。特に水溶性食物繊維には、血糖値の上昇を緩やかにする効果があります。野菜は加熱するとカサが減って量をとりやすいですし、汁に溶け出す水溶性食物繊維も余さず摂取できます。
[理由2] 体が温まるので、代謝が上がってやせやすい
寝起きは体温が上がりきらず、体は冷えた状態です。冷えた体は血行が悪く、必要な栄養が全身の細胞にうまく供給されず代謝も下がっています。だから、朝起きたら胃腸を温めて、全身の血行をよくすることが“やせ体質”へ導きます。温かい野菜スープなら体をポカポカにしてくれて、代謝がアップ。脂肪の燃焼効率が上がった状態で、1日をスタートできます。なお、野菜スープにおろししょうがを加えると、温め効果がさらにアップします。
[理由3] 水分があるので満腹感を得やすく、腸の働きも活発に
睡眠中は想像以上に汗をかいているので、起床時の体は水分不足です。コップ1杯の水を飲むとともに、野菜スープで水分補給をすれば、体のめぐりがよくなります。食事の最初に水分の多いスープを食べるとお腹が満たされやすく、食べすぎを防げるメリットも。さらには、野菜スープを食べることで腸の働きが活発になって、排便も促されます。便秘を解消すれば、体重ならびに肝臓脂肪を減らしやすくなるのは間違いありません。
野菜スープは“カット野菜&レンジ調理”で朝作る
食事改善の柱となる朝食の野菜スープですが、野菜を切って煮込むと最低でも15分程度の時間を要します。Kさんのように時間がとれる夕食時に野菜スープを作れる方はよいですが、調理に時間をとれない人も多いことでしょう。具の野菜を切ることが面倒な人も少なくないはずです。
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今はスーパーやコンビニに行けば、カット野菜がズラリと陳列されています。キャベツのせん切り、炒め用ミックス野菜、カットしめじなど、種類も豊富。また、冷凍コーナーでは、冷凍のブロッコリー、いんげん、ほうれん草、オクラ、長芋などを入手できます。これらは洗ったり切ったりする手間がいりません。これなら1人分ずつの野菜スープもお手のものです。
ちなみに鍋も必要ありません。耐熱用の器に野菜と水分、調味料を入れて、電子レンジで加熱するだけでOK。3〜4分(600Wの電子レンジの場合)あれば完成します。
忙しい朝に、料理に不慣れな人でも失敗なく作れる、野菜スープレシピをご紹介しましょう。
◎ミニトマト、いんげん、しめじのレモンスープ
(材料:1人分)
ミニトマト……3個
冷凍いんげん(短く折る)……50g
カットしめじ……50g
レモン汁……小さじ2
(A)
水……3/4カップ
コンソメスープの素(顆粒)……小さじ1/2
塩・こしょう……各少々
(作り方)
1 耐熱の器にミニトマト、いんげん、しめじ、Aを入れる。
2 ふんわりラップをかけて、電子レンジ(600W)で3分30秒ほど加熱する。
3 全体を混ぜ、レモン汁を加える。
脂肪肝、糖尿病、肥満でお悩みの方。健康増進を目指す方。ぜひ、朝食の野菜スープ生活を始めましょう。
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提供元:医師解説、肝臓から「脂肪が落ちる」朝食のとり方|東洋経済オンライン