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2022.12.30

【繰り返す下痢】受診の時期と行くべき診療科は|根本原因「考え方のクセ」を直す心理療法が有効


繰り返す下痢。どういう状況になったらどんな診療科で診てもらえばいいのでしょうか(写真:mits/PIXTA)

繰り返す下痢。どういう状況になったらどんな診療科で診てもらえばいいのでしょうか(写真:mits/PIXTA)

慢性的な下痢や便秘、ガス(おなら)が繰り返し起こる「過敏性腸症候群(IBS)」。会議中や授業中にたびたびトイレに行きたくなり、日常生活にも支障が出るなど、患者の心理的なストレスが大きい病気の1つだ。長年悩まされる人もいるなかで、専門医はどのような治療法を行っているのか。心の問題で起こる体の病に詳しい、東急病院診療内科の伊藤克人さんに話を聞いた。

日本人の10~20%が症状に悩まされている過敏性腸症候群。下痢型、便秘型、混合型、ガス型とタイプがあるなかで、とくに下痢を繰り返す下痢型は病院を受診する人が多い。

前回の記事では、なぜ下痢になるのか、心理的なストレスによって体で起きている変化と便通の関係について解説した。また、日常生活で注意したほうがいいポイントについても紹介した。
(関連記事:【繰り返す下痢】10人に1人が悩む便通異常の訳)

では、過敏性腸症候群ではどんな治療が行われているのだろうか。また、どの診療科を受診したらいいのだろうか――。

【繰り返す下痢】10人に1人が悩む便通異常の訳 ※外部サイトに遷移します

どんなタイミングで受診すべき?

伊藤さんによると、前提として過敏性腸症候群の患者のなかには、市販薬をうまく使って便通症状を抑えている人もいる。それでコントロールできている人は、そのままで問題ないという(ただし、定期的に病院で大腸に過敏性腸症候群以外の病気がないかチェックを受けたほうがベター)。

セルフケアだけでは便通異常が改善できない場合は、「ためらわず、病院を受診してください」と伊藤さん。その際はまず一般内科(消化器内科)を受診することを勧める。

「大事なのは、その症状がほかの病気によって起こっていないかどうか、確かめることです。とくに50歳以上は大腸がんのリスクが高まるので、一度は大腸内視鏡検査を受けたほうがいいと思います」

検査で大きな病気のないことが確かめられたら、排便を調整する薬(抗コリン薬や整腸薬、消化管運動機能改善薬など)を中心に、必要に応じてメンタルを調整する薬(抗うつ薬や精神安定薬など)を使った薬物治療を行っていく。

薬でいうと、下痢型に対して長年処方されてきた排便調整薬のメペンゾラート(トランコロン)が使えなくなる。製造元のアステラス製薬が2023年3月に同社から卸売会社への出荷を終了すると発表したためだ。今後は、代替品としてラモセトロン塩酸塩口腔内崩壊錠(イリボー)や、ポリカルボフィルカルシウム製剤(コロネル)、トランコロンの後発医薬品(ジェネリック医薬品)などを使っていくことになる。

「治療には比較的新しいイリボーやコロネルが使われることが多いですが、患者さんによっては、昔から使われているトランコロンが有効なこともあります。それぞれ作用が違うので、患者さんの症状に合わせて薬を選択していくことになります」(伊藤さん)

心療内科で診てもらう必要も

メンタル系のアプローチが必要になるケースは、内科の治療だけでは十分な対応ができず、症状が改善されにくい。その場合、心療内科での治療が必要になってくる。心療内科とは、ストレスなどのさまざまなメンタルへの負荷が、体の症状として現れる病気を専門に診る診療科で、過敏性腸症候群も対象となる病気の1つだ。

伊藤さんのような心療内科医は、内科医である一方、精神科的な治療にも精通している。「当科では薬の治療を続けながら、自律訓練法や森田療法などの心理療法を併用して治療を進めていきます」。

心療内科で行う代表的な心理療法が、自律訓練法だ。以下のような流れで行っていく。

【自律訓練法のやり方】

(1)座った姿勢、または仰向けの姿勢になる
(2)目を閉じてゆっくり呼吸を繰り返す
(3)「右手が重たい」→「両手が重たい」→「両手両足が重たい」→「両手両足がとても重たい」を心の中で繰り返す
(4)「気持ちが落ち着いている」を心で繰り返す
(5)「両手両足があたたかい」→「両手両足がとてもあたたかい」を心の中で繰り返す
(6)目を開けて手を握って開く、足首を動かす

これを1回につき5分~10分かけて行う。

実際の診療では、医師や心理士の指導のもとで行ったあと、自宅でも1日2回~3回繰り返す。次回の診察時に同じ動きができるかどうか復習を行う。

「人は過度な心理的ストレスを感じると、大脳新皮質から大脳辺縁系、そして視床下部への緊張信号が出されます。それにより、視床下部の機能障害がもたらされて、視床下部が支配する自律神経系のバランスが崩れ、下痢といった過敏性腸症候群の症状を引き起こします。自律訓練法を繰り返すことで、自律神経のバランスを整えていきます」(伊藤さん)

なお、自律訓練法は専門家から教えてもらったほうがよいそうだ。

「本などを読んで試す人もいますが、正しく習得できないこともあります。外来だと医師や心理士が患者の状況をいろいろ見ながら指導してくれるので、できればそのほうがよいでしょう」 と伊藤さんは話す。

伊藤さんが得意としている心理療法が「森田療法」だ。精神科医の森田正馬氏によって日本で100年以上前に編み出されたもので、過敏性腸症候群の治療にも有効とされている。

例えば、うっかりおならが出てしまう経験は、誰にでもある。だが、過敏性腸症候群の人の場合は、「まわりに音が聞こえて、変に思われているのではないか?」と過剰に反応してしまう。こうした“ちょっとしたこと”を過度に捉えることで、過度なストレスを感じ、視床下部や自律神経が正しく機能しなくなってしまうのだ。

成功体験が症状を和らげる

森田療法では、患者が普段の生活でどんな経験をしているのか、心療内科医や心理士がていねいに話を聞いていく。大学ノートなどに日々何が起きたのか具体的に書いてもらい、それを見ながら治療を進めていく。伊藤さんによると、患者の日々の行動を細かく見ていくと、症状の改善につながる“発見”があるという。

「例えば、電車の中でお腹が急に痛くなった経験があると、次からはつねにお腹の調子が気になって、電車を降りてトイレに行くことばかり考えるようになります。でも、たまたま通勤電車のなかで急に上司から仕事のメールが来て、そのことを考えていたら会社の最寄り駅に着いてしまった、といったことが仮にあったとしましょう。このように、本人が気づかないうちに意識をお腹の不安からほかに向けられているケースもあります」

こうした成功体験を重ねていくことで自信がつき、症状が改善していくという。

「患者さんはお腹に少しでも異常を感じると、意識がそこに向いて神経質になりがちです。しかし、お腹の症状はともすると誰もが経験すること。ほかの人はそれほど意識をそこに向けておらず、これからのことを考えている。お腹の症状なんていつの間にか忘れているわけです。患者さんがそんな気づきを得ることで、症状の改善につながっていきます」と伊藤さんは続ける。

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こうした自律訓練法や森田療法を受ける前段階、つまり心療内科に行く前の診療で症状が改善するケースも、もちろんある。 ただ、それで治らない場合は、一度、心療内科で診てもらう手もあることを覚えておくといいかもしれない。

なお、心療内科のなかには、伊藤さんのように内科医が精神医療を学んでいるケースのほか、精神科医が内科系の医療を学んで心療内科を標榜しているケースもある。この場合、治療のアプローチが若干異なる場合もあるという。

(取材・文/若泉もえな)

この記事の前編:【繰り返す下痢】10人に1人が悩む便通異常の訳 ※外部サイトに遷移します

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東急病院心療内科
HDCアトラスクリニック心療内科、東急電鉄株式会社統括産業医
伊藤克人医師

1980年、筑波大学医学専門学群卒業後、東京大学心療内科に入局。1986年より東京急行電鉄株式会社東急病院に勤務。現在は東急電鉄株式会社統括産業医兼、東急病院心療内科医師。専門は心身医学、産業医学、森田療法。著作・監修に『いちばんわかりやすい過敏性腸症候群』(河出書房新社)など多数。

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提供元:【繰り返す下痢】受診の時期と行くべき診療科は|東洋経済オンライン

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