2022.12.24
【治らない副鼻腔炎】実は指定難病、嗅覚低下も|20歳以上で発症、新薬の登場で劇的な回復期待
なかなか治らない副鼻腔炎、もしかしたら指定難病になっている病気の可能性もあります(写真:metamorworks/PIXTA)
抗菌薬を服用してもよくならない、鼻茸(はなたけ)を取っても、取っても、また、出てくる……そんな“やっかいな副鼻腔炎”が注目されている。その名は「好酸球(こうさんきゅう)性副鼻腔炎」。
慢性副鼻腔炎の一種だが、これまで言われてきた私たちが知っているものとは別の病気だ。世界的に研究が進められているというこの病気の正体や、近年、使えるようになった新しい薬などについて、大阪医科薬科大学医学部耳鼻咽喉科・頭頸部外科学教室准教授の寺田哲也さんに聞いた。
病名は「好酸球性副鼻腔炎」
副鼻腔炎は鼻の奥からつながる空洞である副鼻腔の中で病原菌が繁殖し、炎症が起こっている状態をいう。しかし、今回取り上げる「好酸球性副鼻腔炎」は、副鼻腔で起こっていることこそ同じだが、病原菌に効くはずの抗菌薬が効かない。
副鼻腔炎のうち、鼻茸ができる慢性副鼻腔炎の患者は約20万人といわれているが、このうち、好酸球性副鼻腔炎の患者は約2万人(中等症、重症に限定した場合)とされている。
原因不明であり、治療が難しいことから、国の指定難病になっている。
「この病気と気づかないまま、つらい思いをしている人がいるとすれば不幸なこと。この機会に病気のことをよく知り、適切な治療につなげていただければと思います」という寺田さん。
好酸球性副鼻腔炎の特徴の1つは、鼻茸の形やでき方にある。鼻茸とは鼻の粘膜の炎症から起こるポリープのことだ。
一般的な慢性副鼻腔炎の場合、鼻茸は1個だけ(単房性)のことが多いが、好酸球性副鼻腔炎ではバナナの房のように、複数の鼻茸(多房性)ができている患者が多いという。「このため、鼻づまりの症状をより強く訴える。さらに、この鼻茸は手術で取り除いても、再び出てくることが多いのです」(寺田さん)。
副鼻腔から病原菌の死骸として出てくる膿の混じった鼻汁や痰も、一般的な慢性副鼻腔炎よりも、さらに粘度が高い。
「コテコテ、ネバネバで、膠(にかわ)のように、非常に粘度が高いのが特徴。内視鏡で鼻の奥を見ると、一目瞭然です」
もう一つ、好酸球性副鼻腔炎では、においがわからないという症状を訴える患者が多い。「『まったくわからない』と言う人も少なくありません。嗅覚障害は徐々にではなく、副鼻腔炎の症状が出てから、急速に起こりやすい」という。
好酸球性副鼻腔炎という病気の存在が知られるようになったのは、20年ほど前だ。それまでは、慢性副鼻腔炎としてひとくくりにされていた。
きっかけは「マクロライド系抗菌薬の少量長期投与療法(少量の抗菌薬を毎日、ある程度の期間、服用し続ける治療)」の登場だ。多くの患者がこの治療でよくなるのに対し、治療にまったく反応しない患者が一定数、存在することがわかり、なぜ効かないのかを解明する研究が進んだ。
「結果、このタイプの患者さんの鼻茸には好酸球という炎症細胞が多数、集まっていることがわかったのです。欧米を中心に研究が進み、日本でも一般的な慢性副鼻腔炎とは違うということで、新しく病名がつけられました」(寺田さん)
気づかないまま我慢している人も
20年以上前に慢性副鼻腔炎といわれた人のなかに、好酸球性副鼻腔炎の人が一定数いたことは間違いない。「現在もこの病気と気づかないまま、不快な症状を我慢されている潜在的な好酸球性副鼻腔炎の患者さんは相当いるのではないかと考えています」と寺田さんは危惧する。
好酸球性副鼻腔炎の患者には、なりやすい要因がある。
「成人になってから気管支喘息を発症した」「アスピリンなどの解熱薬で喘息やショックを起こしたりする『アスピリン不耐症』がある」「薬物アレルギーがある」などだ。
発症はほとんどが20歳以上の成人で、15歳以下の子どもには少ない。男性のほうが女性よりも多く、患者の平均年齢は50~55歳だという。
「気管支喘息でも、気道の炎症物質から好酸球が多く見つかっている。好酸球性副鼻腔炎はどうやら、鼻だけでなく、全身性の病気ということなのです。ただし、好酸球が副鼻腔炎の炎症にどう関与しているのかなど、詳しいことは、現在、研究中です」
一方、治療については、一筋の光が見えてきた。
これまでは、好酸球性副鼻腔炎の患者には抗菌薬が効きにくいため、内視鏡手術によって鼻茸を除去したり、副鼻腔内をきれいに洗浄する方法が行われてきた。手術の方法は前編で紹介したものと基本的には同じだ。
(関連記事:【鼻づまり】長引くグズグズ「副鼻腔炎」が原因?) ※外部サイトに遷移します
ただし、指定難病になるような中等症や重症の患者では、手術をしても再び、鼻茸が出てくることが多い。このため、手術を繰り返すか、炎症を抑えるステロイド薬の内服薬を使うしか方法がなかった。
「しかし、2020年3月に登場した生物学的製剤のデュピルマブという薬により、劇的な回復が期待できるようになってきています」
生物学的製剤とはバイオテクノロジー(遺伝子組換え技術や細胞培養技術)を用いて製造された薬だ。特定の分子を標的とした治療に使われる。
副鼻腔炎になると炎症反応によって、さまざまな物質が産生される。このうち、IL-4(インターロイキン-4)、IL-13(インターロイキン-13)が強く病態にかかわっているとされており、生物学的製剤はこのIL-4とIL-13を標的にして、働きを抑える。
「薬は皮下注射で2週間に1回、投与します。副鼻腔や鼻の奥の粘膜の炎症を抑えることにより、効果を発揮します」(寺田さん)
治療で失われた嗅覚が戻る!
鼻茸が小さくなると、鼻づまりが解消される。それだけでなく、寺田さんが驚いたのは、この薬の嗅覚障害に対する極めて高い効果だ。
「20年、30年もの間、においがほとんどわからなかった人が、コーヒーやワインの香りが感じられるようになった、と言う。『生きる喜びを取り戻しました』と話す人も多く、なかには完全に嗅覚が回復された人もいらっしゃいます。これは手術やステロイド薬の治療では得られなかった効果なのです」
寺田さんによれば、同じ耳鼻咽喉科領域の臓器でも、聴こえにかかわる「聴神経」はダメージを受けると再生が困難なのに対して、においをつかさどる嗅粘膜の神経は、再生能力が高いことで知られている。長年、においを感じられない人も、よくなる可能性が期待できるわけだ。
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なお、デュピルマブは手術をしても鼻茸が繰り返し出てくるケースで、好酸球性副鼻腔炎のうち、指定難病の対象となる中等症、重症に使える薬となっている。条件に当てはまる場合は現在のところ、公費負担となっている(指定難病患者への医療費助成制度)。診断書のほか必要な書類を都道府県に申請し、審査を受けて受理された場合に、医療費受給者証が交付される。
「好酸球性副鼻腔炎は耳鼻咽喉科の専門医であれば、診断ができる病気です。ただし、診断には鼻咽腔内視鏡カメラが不可欠ですので、疑わしい場合は、検査機器を備えている医療機関を受診しましょう」
(関連記事:【鼻づまり】長引くグズグズ「副鼻腔炎」が原因?) ※外部サイトに遷移します
(取材・文/狩生聖子)
大阪医科薬科大学医学部耳鼻咽喉科・頭頸部外科学教室准教授
寺田哲也医師
1992年、大阪医科大学(現・大阪医科薬科大学)卒。同大耳鼻咽喉科学教室入局後、京都民医連中央病院耳鼻咽喉科医長、アメリカ留学などを経て、2007年、洛和会音羽病院耳鼻咽喉科・頭頸部外科部長。2015年から大阪医科大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科学教室准教授。専門は免疫アレルギー、副鼻腔疾患、頭頸部腫瘍疾患。日本耳鼻咽喉科学会専門医、日本アレルギー学会指導医、日本がん治療認定医。日本鼻科学会認定手術指導医
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提供元:【治らない副鼻腔炎】実は指定難病、嗅覚低下も|東洋経済オンライン