2022.12.23
【鼻づまり】長引くグズグズ「副鼻腔炎」が原因?|慢性化すると手術も、予防には鼻うがいが有効
昔「蓄膿症」といわれていた副鼻腔炎。単に「鼻風邪をこじらせたもの」と甘く見ていませんか?(取材:プラナ/PIXTA)
鼻風邪をひいたあとに、「鼻づまりだけがよくならない」「黄色い鼻汁が出る」「膿のようなものがのどに落ちて来る」……。こんな症状があったら、副鼻腔炎の可能性がある。こじらせると治るまでに時間がかかり、慢性化すると手術が必要になることもあるというこの病気、もしかしたらと思ったら、早めに耳鼻咽喉科にかかったほうがいいようだ。
鼻風邪とは似て非なる、副鼻腔炎とはいったいどのような病気なのか、大阪医科薬科大学医学部耳鼻咽喉科・頭頸部外科学教室准教授の寺田哲也さんに聞いた。
副鼻腔炎は鼻の奥にある副鼻腔という場所で病原菌が繁殖し、炎症が起きる病気だ。「蓄膿(ちくのう)症」と呼ばれていた時期もある。
患者数は100万~200万人
戦後から日本が豊かになるまでの時代によく見られた「青っぱなを、鼻からたらした子ども」の多くは副鼻腔炎だといわれている。このためいかにも“昭和の病気”のように思われがちだが、実は、令和のいまでも急性・慢性を合わせて、100万~200万人の患者がいるとされている。
副鼻腔炎はその多くが、鼻風邪をきっかけに発症する「急性副鼻腔炎」だ。短期間で急速に悪化することもある。寺田さんはこう話す。
「私たちの体にはさまざまな常在菌がすみついていて、鼻の奥にある副鼻腔にはとくにたくさんの菌が存在します。常在菌は普段は悪さをしませんが、何らかの理由で免疫力が下がると活発になり、病原菌となって病気を引き起こすことがある。急性副鼻腔炎はこうした病気の1つです」
急性副鼻腔炎の原因となる常在菌には、肺炎球菌をはじめとした、いくつかの細菌やウイルスが知られている。
副鼻腔で病原菌が繁殖しやすいのは、その構造にもよるところが大きい。
副鼻腔は鼻の奥にある、左右4方向に広がる空洞だ。鼻の両側にある「上顎洞(じょうがくどう)」、眉間の奥にある「篩骨洞(しこつどう)」、篩骨洞の奥にある「蝶形骨洞(ちょうけいこつどう)」、そしてひたいの裏側にある「前頭洞」からなる。
空洞になっていることで、重い脳を支える頭蓋骨を軽量化したり、鼻の中の温度を調節したり、音声を共鳴したりといったところで役立っていると考えられている。
この副鼻腔の入り口はとても狭いため、風邪のウイルスなどにより、鼻の粘膜が炎症して腫れるとたちまち入り口がふさがれ、密閉状態になってしまう。空気の出入りがなくなれば、細菌やウイルスにとって繁殖しやすい環境となる。
病原菌が繁殖して活発になると、体の防御反応によって免疫細胞の白血球が集まり、病原菌を殺そうとする。この結果、炎症反応が起こり産生された炎症物質や病原菌の死骸が黄色い膿となって出てくる、というわけだ。
「膿は黄色い鼻汁となり、鼻の入り口ではなく、多くはのどに落ちていく。痰として出てくることもあり、『後鼻漏(こうびろう)』と呼ばれています」(寺田さん)
つまり、黄色い鼻汁と後鼻漏が急性副鼻腔炎のサインとなる。
後鼻漏が起こるのは、副鼻腔の出入り口にあたる中鼻道の粘膜に存在する、「繊毛(せんもう)」の働きによる。
「繊毛を顕微鏡で見ると、刷毛のような動きで、膿などの異物を外に排出しています。繊毛は動く方向が決まっていて、鼻の前方に向かってではなく、後ろのほうへ移動させていくのです」(寺田さん)
そのため、鼻汁が喉の奥に流れていくのだという。
ちなみに、風邪の初期やアレルギー性鼻炎のときに出てくる鼻水、いわゆる水っぱなは、鼻の入り口付近の下鼻甲介(かびこうかい)の粘膜が発生源。こちらの鼻水は前方にだらだらと出てくるのが特徴だ。
骨が溶けるのは実は「本当」
急性副鼻腔炎では、炎症が目の神経(視神経)に及ぶと、視力が低下したり、物が2つに見える「複視」の症状が出ることがある。
インターネットなどには、「副鼻腔炎になると骨が溶ける」という話が都市伝説的に書かれているが、寺田さんによると、「副鼻腔内で真菌(カビ)が繁殖して起こる『副鼻腔真菌症』という病気があり、このうち『浸潤型』というタイプでは、骨が溶けることはあります」とのこと。都市伝説ではなく事実、ということだ。
誤解のないように言っておくと、骨が溶けるのは、炎症によって骨の細胞が破壊され、再生がうまくいかなくなるため。専門的には「骨吸収」と呼ばれている。
話を元に戻そう。鼻風邪と副鼻腔炎は深い関連はあるものの、基本的には別の病気だ。
「例えば鼻水がたくさん出ているからといって、副鼻腔炎とはいえません。逆に後鼻漏があるのに、ただの痰だと思い込んで、放置してしまっている人もいます」と寺田さんは問題視する。
副鼻腔炎の正確な診断には、副鼻腔に炎症の影があるかを画像で見ることのできるCT(コンピュータ断層撮影)検査が必要だ。だが、CT検査はどこでもできるわけではない。できたとしてもすぐに受けられるわけではなく、医療費もかさむため、一般的な検査としては推奨されていない。
そこで、寺田さんは、その日のうちにわかる簡便な検査である、「鼻咽腔内視鏡カメラ」を勧める。鼻に専用の内視鏡を入れ、鼻の奥を観察する検査だ。
「カメラには鼻汁の色や性状、膿などが鮮明に映ります。多くの耳鼻咽喉科クリニックで行われている検査なので、おかしいな、と思われる場合はぜひ、この検査を申し出てください」
菌を死滅させる抗菌薬を使う
では、急性副鼻腔炎の治療はどのように行われるのか。
発症直後で副鼻腔に激しい炎症が起きている時期は、原因になっている細菌を死滅させる働きのあるペニシリン系の抗菌薬が効く。
これでよくならない場合や、ある程度、時間が経過している場合には、「マクロライド系抗菌薬の少量長期投与」という治療が行われる。少量の抗菌薬を毎日、ある程度の期間、服用し続ける治療だ。
「急性期の抗菌薬は細菌を叩くために使いますが、少量長期投与は、炎症を抑える作用や免疫修復作用を利用して細菌を制圧する治療になります。少量なので、副作用は基本、問題にはなりません。服薬の目安は3カ月です。もしそれ以上、服用を続けている場合は、主治医になぜ服用しなければならないのか確認しましょう」(寺田さん)
一方、真菌が原因の場合は、薬による改善が見込めないため、主な病巣の場所となる上顎洞に穴を開けて、患部を取り除く手術が行なわれる。
急性副鼻腔炎が長引くと、鼻茸(はなたけ)が発生する慢性副鼻腔炎になりやすい。
鼻茸はポリープの一種。鼻の粘膜が炎症を起こすことで放出された物質が、粘膜の発育を促す細胞を活性化してできる。
肌色のぶよぶよしたやわらかい塊で、大きいものでは親指大のものも。鼻の奥にできるので小さいうちは気づかないこともあるが、ある程度の大きさになると、鼻づまりの症状があらわれ、入り口からも見える。
鼻茸ができると副鼻腔の出入り口がふさがれるため、病気が治りにくくなる悪循環が生じる。鼻づまりもひどくなり、QOL(生活の質)も低下する。一度できた鼻茸を薬で治すことは難しく、内視鏡で鼻茸を切除したり、副鼻腔の中を洗ってきれいにしたりする手術を行うしかない。
30年ほど前まで、この手術は内視鏡ではなく、歯ぐきを切ってほほの骨をノミで削り、副鼻腔にたまった膿や粘膜を取り出す方法で行われていた。手術後に顔面が腫れるなど、体への負担が大きい手術だった。
手術は指導医がいる医療機関で
「今は、内視鏡による手術は鼻の穴の中から器具を挿入して行う治療で、顔に傷をつくることなく行うことができます。昔の手術とは格段の違いですよ」
ただし、副鼻腔は脳の真下や眼球のすぐそばにあるので、「決して簡単な手術ではない」と寺田さん。
「稀にですが、視力低下や複視、髄液漏などの合併症が起こっています」と話す。このため、手術を受ける場合は、内視鏡手術の技術を持つ「日本鼻科学会認定手術指導医」のいる医療機関が勧められるという(日本鼻科学会認定手術指導医のリストはこちら)。
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「これから寒くなり、風邪のシーズンになりますので、副鼻腔炎によくかかる人はぜひ、予防を。予防策として鼻うがい(※)をお勧めします。また、むし歯や歯周病で口の中の細菌が多いと副鼻腔炎を起こしやすいという報告もありますので、定期的に歯医者に診てもらうことも大事でしょう」
鼻うがいのやり方
(1)人肌の温度にした水200ミリリットルに塩を2グラム程度入れて溶かす(0.9%の食塩水)
(2)片方の鼻の穴に食塩水を流し込んだら、鼻や口から出す
※上を向いて鼻うがいをしないように注意
後編では、一部が国の指定難病になっている難治性の慢性副鼻腔炎、「好酸球性副鼻腔炎」について紹介する。
(関連記事:【治らない副鼻腔炎】実は指定難病、嗅覚低下も) ※外部サイトに遷移します
(取材・文/狩生聖子)
大阪医科薬科大学医学部耳鼻咽喉科・頭頸部外科学教室准教授
寺田哲也医師
1992年、大阪医科大学(現・大阪医科薬科大学)卒。同大耳鼻咽喉科学教室入局後、京都民医連中央病院耳鼻咽喉科医長、アメリカ留学などを経て、2007年、洛和会音羽病院耳鼻咽喉科・頭頸部外科部長。2015年から大阪医科大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科学教室准教授。専門は免疫アレルギー、副鼻腔疾患、頭頸部腫瘍疾患。日本耳鼻咽喉科学会専門医、日本アレルギー学会指導医、日本がん治療認定医。日本鼻科学会認定手術指導医
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提供元:【鼻づまり】長引くグズグズ「副鼻腔炎」が原因?|東洋経済オンライン