2022.12.14
寒い冬の定番「湯豆腐」コク深くなめらかに作る技|水と豆腐を入れて煮るだけではない奥深い料理
おいしい「湯豆腐」の作り方を伝授します
在宅勤務などによって、家で料理をする人が増えたのではないでしょうか。料理の腕を上げるために、まず作れるようになっておきたいのが、飽きのこない定番の料理です。料理初心者でも無理なくおいしく作る方法を、作家で料理家でもある樋口直哉さんが紹介する連載『樋口直哉の「シン・定番ごはん」』。
今回は、熱燗とあわせるとたまらない「湯豆腐」のおいしい作り方を伝授します。
豆腐のおいしさは「温度」で決まる
子どものころはそうでもなくても、大人になるとおいしく感じる料理があります。個人的には冬の寒い日に食べる湯豆腐もその1つ。とくに熱燗とあわせるとたまらないおいしさです。今日はおいしい湯豆腐の作り方をご紹介しましょう。
湯豆腐なんて鍋に水と豆腐を入れて煮るだけ……と思われるかもしれませんが、豆腐のおいしさは「温度」で決まります。適切に加熱された豆腐はなめらかで、まったりとしたコクが感じられます。そういう意味では肉や魚と同様に加熱には注意が必要で、やはりコツがあるのです。
まずは豆腐の選び方から。というのも豆腐を使った料理は選ぶ豆腐によって味がまったく変わってしまうのですが、スーパーに行くとたくさんの種類が並んでいて、なにを選んだらいいのかわかりづらい食べ物。豆腐には「木綿豆腐」「絹ごし豆腐」「充填豆腐」があります。
木綿豆腐(左)と絹ごし豆腐
木綿豆腐はしっかりとした豆の味があり、絹ごし豆腐はなめらかな舌触りが特徴。最後の充填豆腐は賞味期限が長く冷奴などに適していますが、加熱する料理にはあまり向きません。商品名に絹ごしと名前がついていても、中身は充填豆腐という場合もあるので、品名の欄を確認しましょう。
湯豆腐には木綿豆腐や絹ごし豆腐を使いますが、今回は絹ごし豆腐にしました。豆腐を食べる料理なので、甘みが強く、単体で食べておいしいものがベスト。例えばおとうふ工房いしかわの「究極のきぬ」はおすすめなので、スーパーなどで見かけたら試してみてください。
商品名に絹ごしとついていて、パックに水が入っていれば絹ごし豆腐です
湯豆腐の材料(2人分)
絹ごし豆腐 1丁(350g)
生タラ(切り身) 2枚
塩 適量
しめじ 1/2パック
春菊 適量
水 600ml
昆布 3〜5g(5cm角くらい)
だししょうゆ
しょうゆ 80ml
みりん 40ml
水 40ml
鰹節 2g
湯豆腐の味付けには市販のポン酢を使ってもいいのですが、酸味があると豆腐の甘みを感じづらくなるので、だししょうゆをつくります。だししょうゆも自作したほうが香り高く仕上がります。作り方も簡単で、しょうゆ:みりん:水=2:1:1と、鰹節をあわせて煮立てるだけです。
だししょうゆの材料。鰹節は小分けパックで売られているもので大丈夫です
中火にかけてグラグラと沸いたら火を止めて、冷ましておきます。アルコール臭さがなくなり、全体の味がまとまります。
アルコールは78℃で揮発しはじめるので、ひと煮立ちすればOKです
湯豆腐にはさっぱりとしたタラが定番。タラは鮮度が落ちやすい魚ですが、昨今は流通がよくなり、スーパーでも状態のいい生タラが入手できるようになりました。生タラは透明感があり、角が立ったものが鮮度のいい証拠。いい生タラを売っているスーパーは回転がよく、魚の鮮度に意識が高いお店なので、ほかの魚も信頼できるでしょう。
春菊は好みの量を準備するといいでしょう
タラはそのままだと水っぽく、味が頼りないので、あらかじめ両面に塩を振り、15分以上置きます。この塩は味付けのためだけではありません。塩を振ることで魚の表面のタンパク質の一部が変性し、保水力が高まるので、身がしっとりします。
塩を振るときは親指、人差し指、中指で塩をつまみます
塩を振る、という調理工程は料理の基本ですが、料理本を読んでいるだけだとなかなか身につきません。写真を見てもらうとわかるのですが、塩が一カ所に固まらず、まんべんなくついている状態が理想。魚の重量の1%が目安ですが、慣れてくると計らずに目でも十分確認できます。
これで魚の重量の1%程度です
豆腐は水気が出るので、料理する直前に切りましょう。大きさが重要であまり小さくても大きくても料理が難しくなります。8等分が目安。
豆腐は小さなまな板の上で切ると扱いが楽です
生タラは一口大に切り、しめじは石突きを切り落とします。春菊も適当な大きさに切っておきましょう。
土鍋に水と昆布を入れ、中火にかけます。土鍋を使っていますが、金属の鍋でも同様につくれます。ただし、金属の鍋の場合は昆布の量を増やして、鍋底に豆腐が直接あたらないようにすると、やわらかく火が入るのでよりおいしくつくれるでしょう。
鍋底から細かい泡が次々と上に浮かぶころになると水温は82〜85℃程度に上がっています。
昆布の種類は何でもかまいません
温度計で計らなくても温度は目でわかります
火を弱火に落とし、豆腐を入れます。豆腐を入れたことで水温が下がり、70℃〜75℃程度になります。
豆腐が崩れないようにそっと扱ってください
具材を加えて、ごく弱火で5分煮ます。豆腐は冷たい状態だとプルプルとした食感ですが、加熱すると構造がゆるみ、ふんわりとした食感に変わります。しかし、加熱を続けるとタンパク質が硬くなり、舌触りが粗くなってきます。
具材はきちんと沈めましょう
これを「すが立った状態」と呼びますが、豆腐の場合、その基準となる温度が70℃です。湯豆腐は加熱しすぎないように沸騰よりもかなり低い温度でゆっくり加熱するのがポイント。
湯豆腐の具材はなんでもいいのですが、低い温度で加熱するので根菜類などは向きません。また、ほうれん草などアクが出る野菜も避けましょう。タンパク質を入れるのであれば肉よりも低い温度で加熱できる魚が向いています。
これらの点を考慮すると春菊やタラなど昔ながらの具材は理にかなっているのです。ちなみにキノコは生では食べられませんが、やや低めの温度でゆっくりと加熱するとうま味が増え、おいしくなるのでやはり向いているでしょう。
5分経ったら食卓に鍋を運びましょう。ついカセットコンロなどでグツグツやりたくなりますが、湯豆腐は鍋料理ではないので避けるのがベター。具材を足すときは別にゆでたものを加えると豆腐に火が通りすぎるのが防げます。
低温で煮た野菜はしんなりしつつも、味がしっかり残っています
豆腐と具材をすくい、だししょうゆをかけながらいただきます。味が濃ければ鍋の煮汁で調整するといいでしょう。さて、肉よりも魚のほうが低い温度でタンパク質が固まり、殺菌温度にも達するので湯豆腐の具材には向いていますが、若い人にはやや物足りない、という向きもあります。
だししょうゆは茶こしなどで濾してもいいですが、そのままでも大丈夫
お子さんなどがいる家庭ではスーパーの冷蔵ケースで販売されているチルド餃子を加えるのもいいでしょう。チルド餃子は製造工程でしっかりと「蒸して」あるので、すでに火が通っています。
冷凍餃子や生餃子と間違えないように
殺菌も済んでいるので、湯のなかでしっかりと温まればおいしく食べることができます。だししょうゆとの相性も抜群です。
もしも、心に余裕があれば薬味を添えましょう。湯豆腐の薬味には青ネギの小口切りやもみじおろし、柚子胡椒などが適しています。ラー油などを添えても面白いでしょう。湯豆腐は長い冬の夜のたのしみです。
大人はタラ、子どもは餃子という感じでしょうか
(写真はすべて筆者撮影)
【あわせて読みたい】※外部サイトに遷移します
提供元:寒い冬の定番「湯豆腐」コク深くなめらかに作る技|東洋経済オンライン