2022.11.24
和田秀樹「家族が認知症になったとき大切なこと」|認知症の介護で最も重要なのは「聞く力」
認知症になった家族と接するときに大事なこととは(写真:C-geo/PIXTA)
親や伴侶が認知症になったとき、家族はどのように接するのが大切なのでしょうか。高齢者専門の精神科医として6000人以上の患者を診てきた和田秀樹さんの著書『80代から認知症はフツー ボケを明るく生きる』から一部抜粋してお届けします。
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認知症の人を機嫌よくさせる
認知症の人の介護をする家族におすすめしたいことをお伝えしていきたいと思います。認知症になった人は、発症してもすぐにすべての認知機能がなくなるわけではありません。それどころか習慣的にやっていたことは認知症になっても長く続けられることが多く、また少しトンチンカンになるかもしれませんが会話もできます。病気のせいで交通事故にあいやすくなるということもまずありません。
介護するご家族におすすめしたい最初のポイントは、認知症になった親や伴侶をなるべく自由にしてあげるということです。もの忘れが多くなっている、自分の年齢を間違える、道に迷いやすくなっている、物事の理解がうまくできなくなっているなど、見ていると心配になることが増えていきますが、これらの症状から生じるリスクは、あらかじめ対策をとることで減らせます。本人がやりたがっていることは、基本的にやらせてあげましょう。
認知症になると、できないことが多くなりますが、本人が「やりたい」と思っているのなら、その気持ちを大切にしてあげてください。そして、なるべく本人ができるように手助けしていく。意欲こそ、気力や行動力の源泉。行動すれば、症状の進行を遅らせることが期待できます。本人のプライドを傷つけないように支援してあげましょう。例えば、料理をしたいけれど手順がわからなくなってしまっているようなら、さりげなく次の作業を導いてあげるのです。
認知症の人に対しては、やりたいことを自由にやらせて機嫌よくなっていただく。これが認知症を介護するときの最重要ポイントです。本人が楽しく暮らせれば、周りにいる人との人間関係もよくなります。逆に、邪魔者扱いをしたり、家や部屋に閉じこめようとしたり、言葉で攻めたりすると、トラブルを起こすような行動をとることが多くなってしまいます。この最重要ポイントを、ご家族はぜひ認識しておいてほしいと思います。
認知症の人の機嫌をよくする最も簡単な方法は、話をさせることです。同じ話題でも、何度も話をさせてあげましょう。「そうだね」という相づちを多用しましょう。どんな話でも、まずは「そうだね」で受け止めてあげる。それだけで、認知症の人も話しやすくなります。ときには無理な要求をされることもあるでしょう。そのときは「そうだね……でもね」あるいは「うん……でもね」と返します。ポイントは受容です。
認知症の介護で一番必要になるのは「聞く力」です。本人がこれまでの人生の中で印象的だったことや、特別な思いをした経験など、本人が話したいと思っていることを推測しながら質問をしていきましょう。本人が答えられないような質問をすると、みじめな思いをさせるだけです。
機嫌よく話す話題を聞き手が覚えておく
もう一つのポイントは、会話の中で本人が機嫌よく話す話題があったら、それを聞き手の側が覚えておくことです。例えば、戦時中の話、あるいは子育てのときの話、働き盛りだったときの話などをしているときに機嫌がいいのなら、そんな話が出るように会話の流れを作っていくといいと思います。
例えば、父親が認知症になってしまった場合、バリバリのビジネスパーソンだったときの話をすると機嫌がよくなって、「高度成長期のころだったから毎年給料が上がって、ボーナスで家電や自動車を買えてうれしかった」というような話が出るかもしれません。そうであれば、その話を存分にさせてあげましょう。そして、敬意をもって話を聞いてあげましょう。いろいろな角度で質問すれば、さまざまな話が出てくるかもしれません。
その中でも、どの話題で一番機嫌がいいのかを覚えておくと、その後も本人の機嫌をとりやすくなります。ちなみに、私の母親は90歳を超えました。認知症になってもおかしくない年齢です。もし私が母親と昔話をするのなら、例えば私立の中学受験のことを尋ねるかもしれません。
私の世代はちょうど「中学受験」が進学の1つの選択肢になり始めたころでした。ただ、当時の公立小学校の先生たちは理解がまだなく、中学受験に悪い印象をもっているところもありました。私は、それでも全国的に知られる私立の中学に進学し、そこから東京大学に進学しました。
母に当時の中学受験のことを聞いたら、きっと当時の苦労話が聞けるでしょう。もしかしたら「お前のことを中学受験させるときは大変だったんだよ」と話してくれるかもしれません。そんな話になったら、じっくり聞いてあげたいと思います。
特別な経験の記憶であれば、認知症になっても長く残り続けます。繰り返し話したがることも多いでしょう。ただ、認知症の症状が進むと、話が続かなくなります。話し尽くせないところを見つけて質問をしてあげましょう。
子どもが中学受験をした家庭なら、親に「小学生の私を進学塾に通わせたとき、学校の先生はなんていっていたの?」と質問をしてもいいのかもしれません。もしかしたら「小学校の先生とは喧嘩しながらお前を塾に通わせたんだよ」というような話が出るかもしれません。
機嫌がよくなるなら、どんな話題でもいい
先に例として出した元ビジネスパーソンの父親なら、「自動車を初めて買ったとき、子どもたちはどんな反応をしていたの?」と尋ねてみるのもいいでしょう。「覚えてないなあ」と返ってくる可能性もありますが、「お前たちはとても喜んでいたよ」といって家族でドライブに行った話に発展できるかもしれません。
どんな話題でもいいのです。機嫌がよくなる話題を探し出してストックしておく。こんなひと工夫で認知症の介護が楽になります。
認知症の人であっても、理由なく不機嫌になることはありません。何か不愉快なことなど、きっかけがあったからこそ不機嫌になるのです。例えば、本人の要求に対して無視をしたとか、家族が「同じことを何度言わせるの!」というNGワードを口にしてしまったとか、何かしら理由があるはずです。
認知症の人は、不機嫌になったり怒り出したりすると、面倒なことに発展することが少なくありません。いつの間にか外出して迷子になってしまい、町内を徘徊してしまうこともあるかもしれません。
不機嫌になったら、あるいは機嫌がよくなったら、その因果関係を探りパターンとして覚えておきましょう。そして、そのパターンを活用して、不機嫌にさせず、機嫌よくさせていくのです。単に話題だけを覚えておくより、パターンを覚えたほうが効果的です。家族は少し大変かもしれませんが、それが結果的に介護する自分を楽にします。注意深く観察すれば必ずそのパターンが見えてきます。
家族のほうも介護のプロに頼る
介護で疲れを感じるのなら、プロに頼むことを検討しましょう。インターネットで検索するとすぐにわかりますが、認知症の人のケアをサポートするサービスはいろいろとあります。話し相手をしてくれるというサービスもあります。このようなプロの力を積極的に活用しましょう。
ポイントの1つは、家族も人に頼ることに慣れるということです。プロに代行してもらって本人の機嫌がよくなるなら、頼みましょう。お金はかかるかもしれませんが、それでセーブできる時間と気力と体力はお金には換えられません。
有料サービスを利用すると、最初は「思っていたサービスとは違う」ということもあるでしょう。担当者との相性が合わないということもあると思います。しかし、そのようなミスマッチは、トライアンドエラーを少し繰り返すと解消されるものです。
かかりつけの医師が意見書を書いてくれる(当然の権利なのですが)のなら、介護保険を使うのが賢明です。前述の有料サービスより、ずっと安くサービスが受けられるうえ、介護保険も始まって22年がたちましたので、認知症の介護に慣れた方が多いというのがメリットです。
ヘルパーさんに散歩や話し相手になってもらえるほか、デイサービスではさまざまなアクティビティが用意されていて、認知症の進行を遅らせる手助けをしてくれるうえ、お風呂にも入れてくれますし、何より、その時間介護者が介護から解放されるという大きなメリットがあります。
認知症に限らず、介護全般において、「親や伴侶のケアは家族がするものだ」という意識は捨てましょう。疲れやストレスを増やしながら介護を続ければ、ほぼ間違いなく、認知症になった親や伴侶を憎むようになります。そうなると、不幸な結末になってしまうことが少なくありません。
どの分野でも、素人はプロにかなわないものです。介護の分野もプロにはかないません。「親のことは自分が一番よくわかっている」と思うかもしれませんが、認知症という病気や患者さんの対応は、知識と経験をもっているプロのほうがずっとよくわかっています。改めてお伝えしますが、認知症になってしまった本人を嫌いになってしまったら、いつか終わる介護のあとも複雑な気持ちを持ち続けることになるでしょう。そんな思いを抱えるなら、嫌いになる前にプロに頼ることをおすすめします。
どこにも出せなかった思いを語る
また、情報交換の場として「認知症カフェ」を利用してみるといいかもしれません。認知症カフェは、NPOなどの非営利団体が主に開催する交流の場で、認知症の人やその家族、地域の人などがそこに行って、会話を楽しんだり情報交換をしたりできます。認知症の医療やケアの専門家がいることもあり、さまざまな相談ができたり、必要なアドバイスをもらったりすることもできます。
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このような場に行って、家族の人同士が会話すると、介護の疲れが癒やされることが多いものです。私も20年以上認知症の家族会を主宰していますが、そのようなことで救われたという声はしょっちゅう聞いてうれしくなります。
同じ境遇で同じような苦労をしているので、少し話しただけでも互いに気持ちを深く理解できます。それで苦労が減るわけではないのですが、どこにも出せなかった思いを語るだけでも、心理的な負担感が軽くなるということはよくあります。また介護の思わぬ工夫が聞けることもあります。インターネットで検索すると、自治体のホームページなどで開催情報が掲載されています。チェックしてみてください。
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提供元:和田秀樹「家族が認知症になったとき大切なこと」|東洋経済オンライン