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2022.11.16

宇宙で急病になったらどうする?健康管理の実態|専門知識を持つ医師・フライトサージャンとは


もしも宇宙で病気になったら? その疑問に宇宙飛行士の野口さんがお答えします(写真:バイナリーエピック株式会社/PIXTA)

もしも宇宙で病気になったら? その疑問に宇宙飛行士の野口さんがお答えします(写真:バイナリーエピック株式会社/PIXTA)

1996年宇宙飛行士候補に選出され、国際宇宙ステーション(ISS)で日本人初の船外活動を行うなどさまざまなミッションを遂行してきた野口聡一宇宙飛行士。宇宙滞在期間は344日を超えており、2020年にはクルードラゴン宇宙船に搭乗し「3種類の宇宙帰還を果たした世界初の宇宙飛行士」として、ギネス世界記録に認定されました。

そんな野口宇宙飛行士が、「子どもも大人も知っておきたい、驚くべき宇宙の世界」について紹介したのが著書『宇宙飛行士だから知っている すばらしき宇宙の図鑑』です。

宇宙についてさまざまな角度から解説した本書から、宇宙における健康管理について綴ったパートを一部抜粋・加筆してお届けします。

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宇宙飛行と健康管理

宇宙では、急に病気になっても医師が駆けつけるというわけにはいかないですね。

そこで、各国の宇宙滞在の積み重ねを通じて得られた知見を元に、航空宇宙医学の専門知識を持つ医師「フライトサージャン」が宇宙飛行士の健康管理を行っています。

サージャンとは元は船医を意味する言葉で、宇宙飛行(スペースフライト)を専門とするのでフライトサージャンというわけです。

私が日本人として初めて搭乗したスペースXの民間宇宙船「クルードラゴン」の名前にある「クルー」という言葉も、元は艦船の乗組員を指す言葉でした。航空宇宙の用語には、考え方がよく似ている船の世界から来た言葉がたくさんあります。

フライトサージャンは、実は私たちが宇宙飛行士として選抜されたときから引退後までの長いサポートを担ってくれています。宇宙飛行士に選抜されたとしても、実際の宇宙ミッションに任命されるまで、何年も地上訓練を続けなければなりません。

長い待機の間も、いつでもミッションに参加できるように健康状態を保っていなくてはならないため、専任の医師による医学審査が欠かせないのです。

宇宙飛行ミッションに任命されると

宇宙飛行ミッションに任命されると、打ち上げの1年も前から心電図を記録し、当日まで医学検査やフライトサージャンによる診察などの健康管理が続きます。

打ち上げが近づくと、クルーは専用の宿舎で「検疫隔離」されます。接触できるのは、フライトサージャンをはじめ限られた大人だけ。私がフライトエンジニアを務めたロシアのソユーズ宇宙船のフライトでは、打ち上げ前会見を透明な仕切り越しに、隔離された状態で行いました。

メディアの人々と直に接することも感染症のリスクを高めるため、こうした措置が必要なのです。

ISSに到着して約半年間の宇宙滞在の間は、フライトサージャンや医療システム専任の技師などをはじめとするチームが宇宙飛行士をサポートしてくれます。血圧や酸素モニターといった基礎的な健康状態から、骨や筋肉の減少を防ぐための運動体力管理。厳しいミッションでの心理状態、放射線被ばくなど、宇宙の暮らしは人体にとって決して優しくありません。

計画していた船外活動が予想以上に時間がかかって体力を消耗したり、実験がうまくいかず悩んだり、家族と離れている寂しさを感じたり。

食事の時間は、地上と同じようにクルー同士のコミュニケーションとリラックスの時間ですが、美味しくて種類も豊富になった宇宙食といっても、宇宙飛行士がほしいと思う感覚にまかせて自由に食事をしていると食べる量が足りず、栄養が本来摂取すべき量よりも30%ほど不足してしまうという現象が知られています。栄養士の指導を受けて、しっかり食べることも健康管理のひとつなのです。

宇宙飛行士は健康状態を地上からモニターされていて、万が一のケガや病気になった場合にも、地上から処置の指示を受けながら治療を受けることができます。宇宙飛行士自身も緊急蘇生の訓練を受けていますし、「クルー・メディカル・オフィサー」という医療担当の宇宙飛行士は宇宙滞在中に救急医療を担当することになっています。

人類が宇宙に行くようになってから約60年、これまで幸いなことに宇宙で深刻なケガや病気になった例はありませんでした。地上と宇宙とで協力しあい、宇宙飛行士自身もいざというときの緊急対応がある程度は可能です。

とはいえこれから宇宙進出の機会が増えてくると軌道上でさらに高度な医療行為が必要になるかもしれません。そこで、NASAを中心に、離れた場所を通信でつないで遠隔地に医療行為を提供する技術「遠隔医療(テレメディシン)」の研究が進められています。

2007年にはフロリダ州の海底施設で、第12回NASA極限環境ミッション運用(NEEMO12)の中で遠隔手術ロボットの実証が行われました。遠隔手術を実現するには、高度な操作ができるロボットや通信の遅延のコントロールなどさまざまな要素が必要とされます。

宇宙飛行士を守るだけでなく、遠隔医療の技術は地上でも応用が可能です。僻地医療や災害時などさまざまな利用が考えられ、現在では宇宙用の技術を応用し、地上でレーザー手術を可能にする技術も開発されています。

2021年には「ゲノム編集」の実験が

今後、月や火星といった遠い惑星で長い有人ミッションを行うようになると、放射線被ばくの影響が深刻になってきます。

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現在のISS長期滞在では、宇宙飛行士はそれぞれ線量計を装着して累積した被ばく量を測って分析しますし、船内には放射線測定装置が設置されていてリアルタイムモニタリングも行われています。

とはいえ往復で1年以上かかる火星ミッションの際に、DNA損傷といった大きな健康リスクが発生した場合はどうすれば良いのでしょうか?

2021年にISSで行われたのは、なんとゲノム編集という高度な宇宙医療の実験です。

CRISPRというDNAを切ってつなぎ合わせる操作をISS上で行い、DNAを修復することに成功しました。将来、宇宙飛行士やフライトサージャンが協力して、病気になる前に健康を取り戻すこともできるようになるかもしれません。

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提供元:宇宙で急病になったらどうする?健康管理の実態|東洋経済オンライン

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