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2022.11.10

【血糖値】高めの人の体で起こっている怖い事象|夕方低血糖「イライラ、甘い物がほしい」は危険


糖尿病は予備群の段階で改善を図ることが大切です(写真: tokomaru7 / PIXTA)

糖尿病は予備群の段階で改善を図ることが大切です(写真: tokomaru7 / PIXTA)

健診などで「血糖値が高めですね」と言われたとき、これはヤバいと思う人もいれば、まだ大丈夫と気に留めない人もいるだろう。だが、実は「血糖値は高めになりかけたとき、予備群の段階で改善に努めることが、“超重要”」と専門家は言う。

なぜこの段階での改善が大事なのか。糖尿病のメカニズムや体の中で起こっていることを知れば、きっと納得できるはず。国立国際医療研究センター病院糖尿病研究センター長の植木浩二郎さんに解説していただいた。

古代エジプトのパピルスにもその記載があったという、糖尿病。血液中のブドウ糖の濃度が濃い、つまり血糖値が高い状態が続くと診断されるが、植木さんによると、血糖値の高さが原因であるとわかったのは300年ほど前、インスリンという血糖値を下げるホルモンが見つかったのが100年ほど前だ。

なお、糖尿病には、膵臓からインスリンがほとんど分泌されなくなる1型糖尿病と、インスリンが分泌されにくくなったり、効きにくくなったりする2型糖尿病があるが、ここでは、2型糖尿病について取りあげる。

予備群では膵臓がオーバーヒート状態

食事で摂ったブドウ糖は血液中に運ばれ、膵臓で作られるインスリンというホルモンの作用によって体内の細胞に取り込まれる。

糖尿病の人の体では何らかの理由で、このインスリンの分泌が悪かったり、効き方が悪かったりする。そのため、血液中のブドウ糖が細胞に取り込まれず、血液中にとどまったままになる。

それが結果的に動脈の壁を傷つけて動脈硬化の原因となり、最終的には視力障害、腎臓病、足の壊疽(えそ)、心臓病、脳卒中などさまざまな合併症を引き起こし、認知症やがんのリスクを上昇させるともいわれている。

だが、血液検査から糖尿病と診断される前のいわゆる“糖尿病予備群”の段階では、血糖値が高いだけでなく、むしろインスリンも過剰に分泌されていて、“高インスリン血症”状態になっていることがわかってきた。糖尿病予備群は、過去1~2カ月の平均血糖値を表すHbA1cが5.6~6.4%が続く状態を指す(ほかに、空腹時血糖値やブドウ糖負荷試験なども考慮する)。

植木さんは言う。「高インスリン血症は、血液中のブドウ糖を処理するために、健康な人よりもインスリンがたくさん必要になっている状態を示しています。そうやって血糖値を正常に保とうとしているのです」。

もともと糖尿病になりやすい人というのは、遺伝的、体質的な要因でインスリンが出にくい。そんな状態なのにどんどんインスリンを出さなければならない。当然ながらそれが続けば、車でいうところのオーバーヒートのようになってしまう。

「実際、膵臓にあるインスリンを出すβ細胞が死んでしまったり、インスリンを出さない細胞に置き換わったりしてしまうことがわかっています。糖尿病の患者さんを調べると、β細胞が健康な人の半分以下に減っているともいわれています」(植木さん)

残念なことに、β細胞には再生する力はないため、一度壊れると元に戻らない。そうなると血糖降下薬などで血糖値を下げる必要が出てくる。だが、これは見方を変えれば、β細胞の多くが残っているうちに何らかの対応を取れば、何とかなるということでもある。

「実際、予備群の段階でしっかり対策をとっていただければ、多くの場合、薬を使うような状況は避けられます。また現在、薬物治療中の患者さんであっても、飲み薬が不要になることもありえます」と植木さんは言う。

太った人ほど改善のチャンスがある

では、どのタイミングなら間に合うのだろうか。

「まずは、毎年、会社や自治体の健康診断受けている方で、“今年は血糖値が高いですね、再検査が必要です”と言われたタイミングなら間に合う可能性が高いです。あるいは、肥満があって高血糖を何年も指摘されている方でも、間に合う可能性はゼロではありません」(植木さん)

ちなみに、β細胞を含むランゲルハンス島は膵臓に点在しているので、どれくらい残っているかを視覚的に調べることは、今のところできないそうだ。

なぜ肥満の人にはチャンスが残されているのか。それは、糖尿病の発症に関わる要因が「遺伝・体質」ともう1つ、「肥満」だからだ。

以前から指摘されているように、肥満は糖尿病のリスク因子の1つになっている。お腹ぽっこりタイプの肥満に多い内臓脂肪からは、さまざまな生理活性物質(アディポカイン)が分泌されているが、最近になって、その1つであるTNFαという物質には、インスリンが血液中のブドウ糖を細胞に取り込むのをジャマする作用があることがわかってきた。そのため、減量して内臓脂肪を減らせば、TNFαの分泌が減り、インスリンの働きが回復する。

植木さんは、肥満の人にチャンスがある理由を別の面からも指摘する。

「インスリンには余ったエネルギーを脂肪として体に溜める働きがあります。つまり、太っているということは、インスリンはしっかり分泌されている状態、まだβ細胞のダメージが少なく、分泌するだけの能力が保たれていると考えられるのです」

こうしたさまざまな理由から、やせている人より太っている人のほうが、対策を取りやすいのだという。

「夕方 イライラする」は予備群の可能性

これまで、生活習慣病の1つである糖尿病は、まさにその名の通り不摂生がたたって生じるものだと考えられていた。だが最近では先にも述べたように、2型糖尿病でも遺伝的、体質的な要因が強く関係することがわかっている。

「2型糖尿病の場合は遺伝的、体質的にインスリンが分泌される量が少なかったり、インスリンが出るタイミングが後ろにずれていたりします。健康な人なら食後に血糖値が少し上がった段階でインスリンが十分に出るのですが、2型糖尿病の場合、出る量が少なかったりタイミングが後ろにずれたりするので血糖値が高い状態が続くことになります」(植木さん)

家族(とくに両親)に糖尿病と診断されている人がいれば、遺伝的、体質的な素因がある可能性を考えたほうがよいそうだ。

先ほど糖尿病を予防できるタイミングは健康診断で指摘されたときと紹介したが、実はこのほかに、糖尿病予備群かどうか気づくポイントがある。それは昼食や夕食前の低血糖だ。

低血糖というと、糖尿病の薬物治療をしている人の血糖値が下がりすぎてしまうことで起こるもので、治療中の人にとっては命にも関わる重大な副作用だ。健康な人では低血糖は基本的に起こらないため、もし低血糖の症状が出るようなら「本人が気づいていないだけの隠れ糖尿病予備群かもしれない」と植木さん。

「昼前や夕方に低血糖になる理由として考えられるのは、炭水化物などのドカ食いです。健康な人であれば炭水化物を多少たくさん食べたからといって、次の食事の前に低血糖になることは普通ありません。肥満があってインスリンが効きにくくなっていて、遺伝的、体質的な要因でインスリンが遅れて出てくる人では、血糖値が下がってからもたくさんインスリンが出続けてしまって次の食事の前に低血糖が起きてしまうことがあります」(植木さん)

低血糖になると、“夕方になるとイライラする”とか、“食事の前にお腹が空いて、やたら甘いものを食べたくなる”などの症状が現れる。心当たりがある人で、肥満だったり、家族に糖尿病の人がいたりする場合は、一度、内科などで血糖値の検査を受けたほうがいいと、植木さんはアドバイスする。

検査ではインスリンの量も調べておく

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このとき、どんな検査を受けたほうがいいかも知っておこう。

血糖値を調べる検査にはいくつかあるが、植木さんが勧めるのは、「ブドウ糖負荷試験」というもの。これは一般的な健康診断では項目に含まれておらず、人間ドック(オプションのことも)や一般の診療で行われている検査だ。

ブドウ糖負荷試験とは、75gのブドウ糖を含む飲料を飲み、その直後、30分後、1時間後、2時間後の血糖値を測る(30分後を測らないケースもある)。これによってインスリンがブドウ糖にしっかり反応して出ているかどうかがわかる。

「医療機関によっては、血液中のインスリンの量も測ってくれます。できれば血糖とインスリンの両方をみておいがほうがいいでしょう」(植木さん)

血糖値が高いと診断された場合のセルフケアや、食後血糖の是非については、後編で紹介する。

(取材・文/山内リカ)

この記事の続き:【血糖値】平気で丼物食べる人に起こる悲劇 ※外部サイトに遷移します

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国立国際医療研究センター病院糖尿病研究センター長
植木 浩二郎

1987年東京大学医学部卒業。ハーバード大学医学部Joslin糖尿病センターに留学。東京大学医学部附属病院特任教授など経て、2016年より現職。インスリンの作用メカニズムやインスリン分泌不全のメカニズムの研究、また糖尿病の大規模臨床研究などに関わる。日本糖尿病学会専門医・研修指導医。

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提供元:【血糖値】高めの人の体で起こっている怖い事象|東洋経済オンライン

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