2022.11.08
平気で「プリン」を買う人が知らない超残念な真実|「これが許されていいのか…」業界の大問題だ
市販のプリンには「思わぬ落とし穴」があるのをご存じでしょうか(写真:Ushico/PIXTA)
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プリンに潜む「意外な問題」とは?
「スイーツの王道」として不動の人気を誇るプリン。子どもから高齢者まで広く愛されている国民的おやつです。
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プリン(カスタードプリン)は、「卵のたんぱく質」が熱によって固まる性質を生かしてつくる生菓子です。卵だけだとテクスチャーが硬くなるので、牛乳を使うことで、やわらかさを出します。
ところで、みなさんはプリンを食べたいとき、どうしますか? 家で作りますか? それとも買ってくる派ですか?
いまどきは「買ってくる」という人のほうが圧倒的に多いのかもしれません。
それが証拠に、スーパーでも洋菓子店でも、プリンは人気商品です。シンプルな定番商品から、生クリームやナッツ、フルーツなどで華やかにデコレートされたものなど、さまざまな種類が並んでいます。
しかし、市販のプリンには「思わぬ落とし穴」があるのをご存じでしょうか。
今回は「平気で『プリン』を買う人が知らない超残念な真実」に迫っていきたいと思います。
まず「手作りプリン」と「市販のプリン」の原材料を見ていきましょう。
A「手作りプリン」
牛乳、卵、砂糖
B 市販の「普通のプリン」
卵、砂糖、全粉乳、カラメルソース、クリーム、ミルクカルシウム/香料、乳化剤、増粘多糖類
C 市販の「激安プリン」
果糖ブドウ糖液糖、脱脂粉乳、植物性油脂、加糖卵黄、バターミルクパウダー、卵黄油、乳等を主要原料とする食品、酵母エキス、デキストリン/ゲル化剤(加工でんぷん、増粘多糖類)、乳化剤、香料、カロテン色素
Aは家で作る「手作りプリン」の原材料、Bはいわゆる市販の「普通のプリン」といっていいものです。
Cは、大容量で売られている市販の「激安プリン」。「安くてたっぷり入っている」ということで大ヒットしたそうです。
今回は、私も実際にBの「普通のプリン」とCの「激安プリン」を買ってきて試食しましたが、私にとっては「衝撃的な体験」でした。
私が何に驚いたのか。まずはA、B、Cそれぞれのプリンの材料と作り方から、見ていきましょう。
Aの「手作りプリン」の材料は、「牛乳」「卵」「砂糖」の3つのみ。本来、プリンは「このシンプルな3つの材料だけ」でできるものです。
材料をよく混ぜて160度のオーブンで蒸し焼きにするのが、本来の作り方です。天板にお湯を張って、そこにプリン液の入った型を置いて30分ほど蒸し焼きにするのです。
蒸すだけの方法もあるけれど、オーブンを使ったほうが、コクがあってしっかりした味わいのプリンができます。これこそが「本物プリン」だと私などは思います。
では「普通の市販品」の中身は?
次に、BとCの市販品を比べてみましょう。同じ市販品でも「普通のプリン」と「激安プリン」では、驚くほど中身が違います。
まずBの「普通のプリン」は、ちゃんと「卵」「砂糖」が使われています。「全粉乳」とは牛乳をパウダーにしたもの。
添加物として「乳化剤」「増粘多糖類」が使われています。「乳化剤」と「増粘多糖類」を入れることで材料を均一に保つ働きをするため、これらの添加物は製造過程上、外しにくいと思います。
作り方は「蒸しプリン」とあるので、材料を混ぜて蒸して作っているのでしょう。
一方、Cの「激安プリン」はどうでしょうか?
Cの「激安プリン」の原材料を見てみましょう。同じプリンとは思えないほど、「たくさんの品目」が並んでいます。
最初に書かれているのが「果糖ブドウ糖液糖」。
原材料は「使われている量が多い順に書く」という決まりがありますから、この「激安プリン」で最も多く使われているのが「果糖ブドウ糖液糖」ということになります。
「平気で『ジャム』を買う人が知らない超残念な真実」で述べた問題と同じで、砂糖は高いから「果糖ブドウ糖液糖」を使うのです。
それに「果糖ブドウ糖液糖」はあらかじめ液体でタンクローリーで運ばれてくるから、水に溶かす手間がなくてラクなのです。
「平気で『ジャム』を買う人が知らない超残念な真実」 ※外部サイトに遷移します
「加糖卵黄」ってなに?
そして、この「激安プリン」には「生の卵」を使うのではなく「加糖卵黄」が使われています。
「加糖卵黄」というのは、卵から卵黄だけ分離して、糖分を加えたものです。冷凍で流通していて、日持ちはするし、殺菌済みのため、非常に便利なのです。
さらに「牛乳の代用」として使われているのが「脱脂粉乳」です。いうまでもなく牛乳を使うより、はるかにコストが安く済みます。
さらに「植物性油脂」「乳化剤」「増粘多糖類」は、とろりとした食感を出すために使われています。
そして、「加糖卵黄」「脱脂粉乳」で、全卵や牛乳を「置き換え」ている分、「本来のプリンの香り」がしないので「香料」が使われます。
この「激安プリン」の作り方は、あくまでも私の推測になりますが、材料を全部充填して容器ごと加熱すると思われます。
結論から言うと、「激安プリン」は、私には「でんぷんのお菓子」としか思えませんでした。
「卵やミルクのコクや風味」が感じられません。食感は、妙になめらかでねっとりして、やわらかい「胡麻豆腐」か「くずもち」のようです。
「胡麻豆腐」も「くずもち」も、コーンスターチや片栗粉などのでんぷんで作る食品ですが、まさにあの食感。
なぜこんな食感になるのかというと、「加工でんぷん」と「増粘多糖類」の働きによるものです。
「激安プリン」を作る「加工でんぷん」✕「増粘多糖類」
「加工でんぷん」とは、でんぷんに化学処理を施した添加物です。
現在11種類あり、粘度を増したり、「かたまり」を作ったり、劣化を防いだりするなど、それぞれに特徴があります。
「安全性」についてもさまざまな議論があるのですが、それはまた別の会に譲りましょう。
この「激安プリン」のポイントになるのは「ゼラチンのような性質」です。
ゼラチンというのは皆さんご存じのとおり、「温まると溶けて、冷えると固まる」という特徴があります。そして一度加熱・冷却をして固まったものであっても、また温めると溶けて、また冷やすと固まります。
こういう性質を持たせるために、「加工でんぷん」と「増粘多糖類」を使い、「熱可逆性」を持たせたと思われます。
そして、このタイプの「加工でんぷん」と「増粘多糖類」には「欠点」があって、食感がねっとりしすぎて、べっとり口の中に残ってしまうのです。
まさにこの「激安プリンの食感」そのものです。
業界では、「口切れが悪い」という言い方をしますが、物によっては、「口切れ」が悪いと、おいしさが半減してしまうのです。
私たちも加工食品を開発するときによく悩むのですが、たとえばパンでも、しっとりさせようとすると、「口切れ」が悪くなるのです。そこで添加物を使ったりします。「アルギン酸エステル」という「増粘剤」などを使うと、スパッと「口切れ」がよくなります。
「手作りプリン」は、もちろんそんな添加物など使わなくても、もともと「口切れ」がいいのです。口の中でホロッとほぐれて、舌にベトッと残ったりしません。おいしさだけが後味として残ります。
この「激安プリン」が面白いのは、「溶かして型に入れて冷やすと、好きな形に固まります」と書かれていることです。
ここでちょっと考えてみてください。
Aの「手作りプリン」、Bの「普通のプリン」ともに、「加熱して溶かして、また冷やすと好きな形に固まり」ますか?
一度加熱した卵が溶けるわけがありません。ぜひみなさんには、こういうところに「素朴な疑問と違和感」を持ってほしいと思います。
私も実際にやってみましたが、本当に溶けて、本当に好きな形(茶碗の形)に固まりました。まさに「加工でんぷん」と「増粘多糖類」の性質によるものです。
子どもはこういうのを喜ぶのかもしれませんが、溶けて冷やせば別の形になるというのは、「プリン」とは認めがたい。
私に言わせれば「フェイクプリン」です。
なぜこんなことが起こるのかというと、プリンには「定義」や「規格」などを定めた制度がないからです。
たとえば、生クリームなら「乳脂肪分18%以上であり、かつ、ほかの油脂や添加物などを加えてはいけない」という食品衛生法に基づいた「規格」があります。その基準を満たすものだけ「生クリーム」と呼べるのです。
でも、プリンには「規格」がないから、「製法」や「使用する原材料」にかかわらず、原料がバラバラでも、作り方が違っても、みんなが勝手に「カスタードプリン」と名乗り、表示できるのです。
これは「業界の大問題」だと私は思います。
「栄養成分表示」でも「フェイクプリン」は見抜ける
この話をすると「フェイクプリンは避けたい」という人がいると思います。
プリンの選び方は上記の話を参考に、「原材料表示」で見ればいいのですが、それ以外にも、「もうひとつヒント」があります。
それは商品についている「栄養成分表示」を見ることです。じつはここからも「フェイクプリン」を見抜くことができます。
食品には「エネルギー」「炭水化物」「たんぱく質」「脂質」などの「栄養成分」が表示されています。
プリンの場合は、「たんぱく質」の数値を見ることで、どのぐらい卵が使われているかが推測できるのです。
B 市販の「普通のプリン」の栄養成分表示(1個90グラム当たり)
エネルギー 116キロカロリー
たんぱく質 3.8グラム
脂質 4.7グラム
炭水化物 14.6グラム
食塩相当量 0.10グラム
C「激安プリン」の栄養成分表示(100グラム当たり)
エネルギー 144キロカロリー
たんぱく質 1.4グラム
脂質 3.3グラム
炭水化物 19.6グラム
食塩相当量 0.07グラム
Bの「普通のプリン」の「たんぱく質」の数値は、90グラム当たり3.8グラムです。100グラムに換算すると「4.2グラム」となります。
一方、Cの「激安プリン」の「たんぱく質」の数値は、100グラム当たり「1.4グラム」。つまり、「普通のプリン」のほうが、卵の量がかなり多いことが推察できます。
一方、「炭水化物」の数値を見ると、「激安プリン」は100グラムで「19.6グラム」で、「普通のプリン」は90グラムで14.6グラム、すなわち100グラム換算で「16.2グラム」となります。
「激安プリン」のほうが、「炭水化物」が多くなっています。これは「激安プリン」に使われている「果糖ブドウ糖液糖」「加工でんぷん」「デキストリン」「増粘多糖類」が「炭水化物」に入るからです。
前述したように、「激安プリン」では「卵」や「牛乳」を減らしている分の「増量」のためにこれらが使われているわけで、それが「炭水化物」の数値として出ている形です。
「味や食感」はごまかせても「数値」はごまかせない
要は「味」や「食感」はごまかせても、「数値」はごまかしがきかないということです。
添加物等による「置き換え」や「増量」が「数値」にあらわれてしまっているのです。買うときは、このあたりもしっかり見ていただきたいと思います。
もちろん、「激安プリン」を食べてはいけないといっているわけではありません。
「『プリンらしい味』がしない『激安プリン』のほうが、『普通のプリン』より好き」という人もいるかもしれません。あるいは、「『味』より『値段』が大事。安ければ『味』や『食感』は気にしない」という人もいると思います。
ただ私の意見としては、同じプリンを食べるなら、添加物で「増量」「置き換え」をしたものではない、混ざり物のない「おいしいプリン」を選びたいし、子どもたちにも「本物のプリン」の味を教えたいと思います。
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そして、消費者のみなさんには、もし「激安プリン」をあえて選ぶなら、きちんと「裏側」を知ったうえで、食べてほしいと思うのです。
「平気で『ジャム』を買う人が知らない超残念な真実」でも述べたことですが、「値段」だけを見て「安さ」ばかりを求めることが、「見えない裏側」で「何を失うことになるのか」、それを「知ったうえで食べる」という選択をしていただければ、と思います。
それと同時に、プリンに関しては、「プリンの規格」がないことで「本来『プリン』とは呼べないようなものまで『プリン』という名前で売られている」その「構造的な問題」も、強く疑問を呈したいと思います。
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提供元:平気で「プリン」を買う人が知らない超残念な真実|東洋経済オンライン