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2022.11.07

長寿者が多い「5大地域」で判明した意外な共通点|"百歳人"に学ぶ元気で長生きするヒント


人のいちばんの長寿要因は「社会とのつながり」。日本の「ブルーゾーン」沖縄の今と、人々の生活から長生きのヒントを探る(写真:yamasan/PIXTA)

人のいちばんの長寿要因は「社会とのつながり」。日本の「ブルーゾーン」沖縄の今と、人々の生活から長生きのヒントを探る(写真:yamasan/PIXTA)

ただ長生きするではなく、近年注目されるのが「健康寿命」だ。健康寿命とは、「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」を示す。

ここに衝撃的数字がある。世界保健機関(WHO)が発表した2021年最新の統計によると、日本人の平均寿命は84.3歳で長寿世界一の座を守り続けている。しかし「健康寿命」を見ると、平均寿命と健康寿命との差は9.3年で、調査が実施された世界131カ国中60位との報告もあるのだ。

どうしたら、最期まで元気な人生を送れるのだろう。そのヒントは「ブルーゾーン」に暮らす長寿者の生活にあると琉球大学教授の荒川雅志さんは言う。「ブルーゾーン」とは100歳超の長寿者が多く暮らすエリアのこと。『The Blue Zones(ブルーゾーン) 2nd Edition(セカンドエディション)』の監修も務めた荒川さんは、その中でもこれからの注目は「TSUNAGARI」(つながり)だと言う。

『The Blue Zones(ブルーゾーン) 2nd Edition(セカンドエディション)』 クリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします

グレートリセットの時代

今、世界は、“グレートリセット(Great Reset)”の真っ只中にある。グレートリセットとは、今の社会を構成するさまざまなシステムをいったんすべてリセットすること、つまり新世界秩序に向けて一大転換することを示し、2021年世界経済フォーラム(通称ダボス会議)のテーマだった。

ダボス会議の創設者であり、グレートリセットの提唱者クラウス・シュワブ博士は、新型コロナ後の世界では、人々の生活、常識は根底から覆されると言い切る。

しかし、そもそも人類には遠い昔から変わらない「欲求」というものがある。たとえば、お金も、名声も手に入れた為政者は、最後は「不老長寿」を目指した。不老長寿にまつわる言い伝えや物語も世界には多い。

いつまでも活き活きと健やかに、心身ともに健康で長生きをすること、長寿を手に入れることは、今も昔も、人類の永遠の希求なのだ。グレートリセット──ウィズ・アフターコロナで変わる世界と価値観とは、ようやくわれわれが、本質的な人類の欲求に気づいたと言い換えていいだろう。

ところで、長寿はいったいどのような要因で決まるのだろうか。

長寿には、大きくは遺伝など「先天的要因」と、社会環境や生活習慣などの「後天的要因」があり、これらのマルチプルファクター(複合要因)によるものと考えられている。なにか1つが特徴的に秀でていても長寿には到達できない。

長寿は遺伝だからと嘆く人もいるが、寿命への遺伝素因の寄与率はせいぜい15%から25%であることがデンマークの双子研究[1-3])を基に推計されている。生まれた後の要因のほうが最大75%とはるかに大きく、居住国の経済レベル、医療レベル、保健福祉政策、衛生環境の改善などの社会環境要因や、食、運動、休養のいわゆる健康三本柱、ストレスマネジメントなどライフスタイル要因が健康と長寿に大きく関係していることが明らかとなっている。

現代の長寿科学は、ゲノム解析をはじめ、ゲノム編集、再生医療、ビッグデータ駆使といった科学技術の進歩とともに歩んでいる。こうした最新のテクノロジーは、抗老化、寿命の延伸に大いに寄与してきたが、よりよく生きる、生き方への問いに答えられるものではない。

日本の健康長寿は131カ国中60位

そこで近年注目されるのが「健康寿命」である。健康寿命とは、「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」を示す。

ここに衝撃的数字がある。世界保健機関(WHO)が発表した最新の統計によると、日本人の平均寿命は84.3歳で長寿世界一。統計を遡ることができる20年前から、日本は長寿世界一の座を守り続けている。しかしながら「健康寿命」を見ると、平均寿命と健康寿命との差は9.3年で、調査が実施された世界131カ国中60位との報告もある[4])。

この数字を一人ひとりの人生に置き換えてみよう。意味することは明らかだ。

大切なのは長生きの中身、活き活きと輝く日々を過ごしながら長生きすること。長寿世界一を達成した日本の次なる課題として、生きがいある健康長寿をいかに達成するかが問われている。

そこで今の日本に届けたいのが、「ブルーゾーン」という概念である。

「ブルーゾーン」という言葉は、ベルギーの人口動態学者ミシェル・プーラン博士がイタリアのサルデーニャ島に調査に入り、長寿者が最も多い地域を中心に地図上に青いインクで円を描いたのが始まりである。

その後、『ブルーゾーン』の著者ダン・ビュイトナー氏は、長寿者が多いとされる世界中の地域を訪れ、現地の研究者とともに、時間をかけて丁寧に現地での聞き取り調査を重ね、ついに特定したのが5つの地域──イタリアのサルデーニャ島、日本の沖縄、アメリカ・カリフォルニア州のロマリンダ、コスタリカのニコジャ半島、ギリシャのイカリア島である。

ダン・ビュイトナー氏は、ナショナル・ジオグラフィック誌の記者でありながら、世界6大陸を自転車で横断し、3つのギネス世界記録を有するなど、世界中を旅する冒険家の経歴を持つ。

長寿地域を訪れるうえで徹底的に統計データ、先行研究にあたり、その信憑性を吟味したうえで、現地調査に何度も赴き、現地の研究者、多くの100歳者と直接向き合う優れたフィールド科学者でもある。ビュイトナー氏は言う。「超長寿者が多いブルーゾーンには、何世紀、数千年にわたって培われてきた人類の経験が隠されている」と。

百歳人。英語では“センテナリアン”と呼ぶ。Century(センチュリー;一世紀)を生き抜いた人々という意味である。

その百歳人が何を食べ、何を日課にしてきたか、心がけていたことは何か。100年を過ごす中には、喜びも、怒りも、哀しみも、楽しみも、さまざまなライフイベントがあっただろう。それらをどう乗り越えてきたのか。自然と共生し、人と、地域と、どのようにつながってきたのか。一世紀をたしかに生き抜いてきた人々の、長い人生の中で培ってきた豊かな経験と知恵に触れること。これ以上の学びはないだろう。

キーワードは“つながり”TSUNAGARI

人の長寿要因は「社会とのつながり」が一番大きいことが研究報告されている[5])。ライフスタイル別での長寿への影響を比較した結果、「社会とのつながりの種類や量が多い」「社会とのつながりを介して受け取る支援が多い」という2つは「煙草を吸わない」「アルコールを飲みすぎない」「運動する」「太りすぎない」というよくある健康習慣と比べて長寿に強い関連を持っていることが明らかとなった。

この本で紹介されるブルーゾーンの長寿者たちは共通して家族とのつながり、友人知人とのつながり、地域社会とのつながりが強固で、お互いに支え合うことが精神的にも安定をもたらし、ストレスを減らし、そして生きる気力となっていた。

美しくも時に大災害をもたらす自然への畏敬の念と共生(自然とのつながり)、世代を超えて受け継いできたライフスタイル(先人の知恵とのつながり)、相互扶助、コミュニティー力(地域とのつながり)を大切にし、その結果、健康長寿を手に入れた。つながりが長寿の秘訣であることを医科学以前に身をもって実証した存在といえる。

コロナ禍を生きるわれわれにとって、生きるヒント、生き方のヒントとして、改めてつながりの大切さを教えてくれるブルーゾーンには、今こそ再び注目すべき価値がある。

ブルーゾーンの1つ、日本の沖縄についても触れておこう。

2000年まで長寿日本一、イコール長寿世界一であった沖縄が、長寿から転落していることはよく知られる。が、実は75歳以上は男女とも依然として日本一をキープし、65歳以上の平均余命でも男性は第2位に甘んじるが女性は第1位であることはあまり報道されない。

沖縄のスローライフ、伝統文化、精神性、相互扶助社会はまだ健在の部分も多くある。慌ただしく時間に追われることのない「ウチナータイム」(沖縄時間)があり、日が昇れば活動し、日が落ちたら体を休めるというように、自然のリズムに逆らわない暮らしがここにはある。

地域の伝統行事や模合(もあい)に象徴される会合は盛んで、強固なソーシャルネットワークに支えられ、ストレスが少なく長寿者は活き活きとしている。

ブルーゾーン長寿者はウェルネス長寿者

私は福島県で生まれ、大学まで東京で過ごした。初めて沖縄を訪れたのは27歳だった。この沖縄の旅は、次の生き方を模索する放浪の旅の途中でもあった。ところが、フェリーで上陸したその日から「イチャリバチョーデー」(一度会えばみな兄弟の意)で盛大に歓迎され、「ユイマール」(相互扶助の精神)に支えられ、気づけばそのまま移住、現在に至っている。今思うに、私自身がブルーゾーンへの旅で、人生が変わった1人でもあったのだ。

ダン・ビュイトナー氏とは、彼が2000年に沖縄の取材に入った際に、長寿村として知られた大宜味村への取材に同行した。当時私は医学研究科の博士課程生で、沖縄県庁が毎年100歳となった長寿者全員を調べるという健康調査の分析を担当していた。百歳人1813名を分析した世界最大規模の超長寿者疫学研究[6])のなかには、ビュイトナー氏が“ブルーゾーンのシンボル”と慕う当時104歳の奥島ウシおばあも含まれる。

この沖縄での疫学研究で医学博士号を取得した私だが、その後この研究からはしばらく離れ、近年は「ウェルネス」(輝く人生、自己実現)を研究のテーマにしている。

健康を身体の側面だけでなくより広義に捉えるこのウェルネス概念をどう説明するかに試行錯誤していたところ、ブルーゾーンに暮らす長寿者の知恵、そして、存在そのものが最良の教科書であることがふと頭の中で“つながった”。ただ長生きではない、「ブルーゾーン長寿者」は、「ウェルネス長寿者」なのだと。こうして巡り巡って今ふたたびブルーゾーンとつながることができたのである。

ギリシャのイカリア島は、「死ぬことを忘れた島」「楽しめないならば死んだほうがマシよ」のキャッチコピーが印象的なドキュメンタリー映画『ハッピー・リトル・アイランド―長寿で豊かなギリシャの島で―』(2013年)の舞台でもある。

映画では、ユネスコ世界無形文化遺産にも登録された地中海式食事法、スローライフを実践し、喜び、悲しみを共有する家族、友人の存在を大事にする長寿者の生き様が紹介されている。

なにより、人生を楽しむこと!と語る長寿者たち。このドキュメンタリー映画はいまだに熱い支持を受けている作品である。本書ではイカリア島の百歳人からどのような話を聞きだしているのか。内容は本編に譲るが、長寿地域に共通する学びをビュイトナー氏はここでも引き出している。

ポストコロナに向けての生き方のヒント

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『The Blue Zones(ブルーゾーン) 2nd Edition(セカンドエディション)』(祥伝社) クリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします

コロナ禍を契機に、健康で充実したライフスタイルを実現させたいというニーズが全世界で高まりを見せている。と同時に、これまでと違った生活様式、ニューノーマル時代が到来し、新しい働き方、生き方を求める欲求も全世界規模で高まっている。よりよく生きる、生き方のヒントを、世界中が求めているのだ。

ファストライフからスローライフへ、グローバル志向からコミュニティー志向へ、テクノスキルから生きる力、ライフスキルへ。ビジネスも、グローバルビジネスからコミュニティービジネスへ、一人勝ちの社会から地域全員が幸福になる社会への転換が求められている。

ただ長生きでなく、「よりよく生きる」 ためのヒント、ポストコロナ時代に向けての「生き方」 のヒント。一世紀を生き抜いた人々の健康と長寿のルール(秘訣)は、私たちの新しい生き方探しの一助となる。

【参考文献】

▶寿命への遺伝素因の寄与率は 15~25% と推計したデンマークの双子研究論文

1) Herskind AM, et al. The heritability of human longevity: a population-based study of 2872 Danish twin pairs born 1870-1900. Hum Genet 1996; 97 (3): 319-323.
2)McGue M, et al. Longevity is moderately heritable in a sample of Danish twins born 1870-1880. J Gerontol 1993; 48 (6): B237-B244.
3)Mitchell BD, et al. Heritability of life span in the Old Order Amish. Am J Med Genet 2001; 102 (4): 346-352.
4)宮本恵子, 他. 平均寿命と健康寿命の差の要因に関する国際比較研究, 名古屋栄養科学雑誌4: 1-7, 2018.

▶社会的つながりと死亡率との関連

5)Holt-Lunstad J, et al. Social relationships and mortality risk: a meta-analytic review. PLoS Med 2010; 27;7(7).

▶沖縄100歳者1813名のライフスタイル疫学研究

6)Arakawa M, et al. Hypertension and Stroke in Centenarians, Okinawa, Japan. Cerebrovasc Dis. 2005; 20: 233-238.

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提供元:長寿者が多い「5大地域」で判明した意外な共通点|東洋経済オンライン

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