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2022.10.27

誰でもできる「ネガティブに支配されない」思考法|小児精神科医が提唱、新しい心理的アプローチ


ハーバード大学医学部助教授で小児精神科医の内田舞さんは、現代人は不安や恐怖といった感情に支配されやすくなっていると警鐘を鳴らす(写真:Ushico/PIXTA)

ハーバード大学医学部助教授で小児精神科医の内田舞さんは、現代人は不安や恐怖といった感情に支配されやすくなっていると警鐘を鳴らす(写真:Ushico/PIXTA)

日本人史上最年少でアメリカ臨床医となり、現在はハーバード大学医学部助教授を務める内田舞氏は「コロナ禍により、現代人は不安や恐怖といった感情に支配されやすくなっている」と警鐘を鳴らす。それでは、私たちはどうやってネガティブな感情と付き合っていけばいいのか。内田氏の最新刊『天才たちの未来予測図』より、最新脳科学にもとづいた「感情の整え方」を紹介する。

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私たちの感情は、生存のために必要となる、とっさの行動やとっさの判断のために、進化の過程でつくられたものだと考えられています。

クマに遭遇したときに恐怖を感じたり、食べ物を食べたときに幸せを感じたりなど、あれこれ論理的な思考で分析をする前に、生存にとって好ましい状況か好ましくない状況かを評価し、無意識に生存につながる行動を私たちに促すようになっている。

その仕組み上、「生存のために」無意識的に、即時的に感情が湧き上がってきます。生存を最優先にするように進化してきた私たちにとって、感情の威力は絶大なわけです。

コロナ禍でメンタル危機に

洞窟に住み、狩猟をしていた頃の人間であれば、感情による生存戦略は機能していたと思いますが、現代の私たちは日常の中で、生存を脅かされるほどの危機に遭遇することはほとんどありません。

しかし、現代ではめずらしく、新型コロナが蔓延している現在の状況は、(クマに遭遇するという状況ほどではありませんが)私たちの生存に危機が生じているといえます。

ハーバード大学医学部助教授・内田舞氏(写真:Vail Fucci)

ハーバード大学医学部助教授・内田舞氏(写真:Vail Fucci)

私たちはコロナ禍で、かなり長期的に扁桃体の発火が続き、不安や恐怖を感じている状況なのだと考えられます。生存のためになんとか情報を集めようとして、ネット上の記事や動画、SNSの内容を信じ込んでしまったり、周りにシェアしてしまったりしているのが、科学的に正しくない情報が溢れている一因となっていると思います。

私たちは生存優先の状態に陥っているとき、その場の短期的な危機をしのぐためにとっさの判断ができても、長期的な判断をするための思考力が鈍っている、という研究の結果もあります。つまり、コロナ禍を生きる私たちはネガティブな感情に支配されやすいといえるのです。

ネガティブな感情に支配されないためにどうすればいいか。

一様にこうすればいいという正解はありませんが、できることはたくさんあります。たとえば、私が研究している「再評価」という心理的アプローチを紹介します。

これは簡単にいうと、ネガティブな感情が生じたときに、その状況や感情自体を客観的に整理して、「今、私はこの気持ちを感じる必要があるかな」や「ここから私は気持ちを変えられるかな」と立ち止まって考えてみる、という手法です。「ネガティブな感情をポジティブな方向に持っていく」というのがコンセプトです。

もちろん、ネガティブな感情をポジティブに変えるというのは言うが易しです。また、表面的にネガティブな感情を忘れようとしたり、許容したりしようとするなど、無理やり抑制するのでは、長期的に見ると、ポジティブな気持ちは得られません。

意識的に考えに向き合う

しかし、自分の考えや状況に向き合って、吟味することは誰にとっても大切で、意識的にこれを繰り返すことで気持ちが明るい方向に変わることもあるのです。

「再評価」は科学的な根拠もあります。私は研究により、ネガティブからポジティブな感情に変わる際に、どのように脳機能が働いているのかを明らかにしました。再評価は、「感情を生む」扁桃体と「論理的な思考を司る」前頭前野という脳部位の機能のコラボレーションで起こることがわかっています。

そして、私自身も日常の中で、再評価を利用しています。

たとえば先日、子どもたちが発泡スチロールを使って工作をしていて、小さくばらばらになった発泡スチロールが部屋中に広がっていたことがありました。

私は「ちゃんと片づけなさい」と言ったのですが、子どもたちは遊びに夢中になって、全然片づけません。何度言っても片づけないので、私もイライラしてきて、「私の言うことを聞かないのは、息子たちが私への敬意を持っていないからだ」というふうに考え出してしまった。

そこで少し立ち止まって、自分のイライラを自覚し、「ちょっと再評価してみよう」とトライしてみました。

「今、私はこの気持ちを感じる必要があるかな」と問いかけてみると、「私の言ったことを子どもたちが聞いていないのは、単に遊んでいるのが楽しくてやめたくないからで、私への敬意は関係ない」と気づくことができました。そう考えると、自然と私の怒りも収まってきたのです。

怒りの感情が収まると、冷静に考えを整理することができ、その場で必要なことは「子どもに私の言うことを聞かせること」ではなくて、「部屋を片づけさせること」だと気づけました。

なので、ちょっとやり方を考えて、子どもたちに「今から片づけ競争を始めます」と伝えました。「部屋の中のこっち半分はママ、こっち半分はみんなで片づけます。どっちが早いか競争です。ヨーイドン!」という感じで私が片づけを始めたら、子どもたちも一生懸命やってくれて10分くらいで片づけが終わりました。

これは、再評価が成功した例で、実際には、育児で大変な毎日の中でこんなにうまくいくことばかりではないですが、自分の感情や状況を捉え直すことで、ネガティブな要素をポジティブに変えていけるのです。

再評価は、私たちが日常の中で無意識にやっていることなのですが、実はこれがうまい人と下手な人がいることがいることがわかっています。

私たちが行った実験では、悲しい表情で泣いている人の写真を見てもらい、「この写真を見て、なるべくネガティブじゃなくてポジティブに感じられるようにいろいろと考えてみてください」という課題を出しました。

すると、「この2人、泣いていても、久しぶりに再会して泣いているのかもしれない」と、物語のようなものをつくったり、「何か悪いことがあったようだけど、この人たちは無事でよかった」とポジティブな事実に気づいたりと、ネガティブな気持ちを軽減できる人もいます。

一方、泣いている人の写真を見て、ネガティブな気持ちのまま、どうしてもポジティブな方向に気持ちが向かわない人もいます。また、再評価が上手な人とうまくできない人を比べても、脳機能の違いがあることが私たちの研究でわかっています。

再評価は繰り返すことで上達していく

再評価が苦手だと日常生活で気持ちの切り替えが難しくなります。

どんな人でも必ず嫌なことはあるわけです。そのときに毎回ネガティブな気持ちになっていると、気分転換がなかなかできなくて悶々としてしまうわけです。そういう人はやはりうつ病のリスクが少し高くなります。

ただ、心配しすぎる必要はありません。再評価は練習を繰り返すことでだんだん上達していくことがわかっています。

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実際に、再評価を繰り返し練習し、できるようになってきた人の脳をMRIでスキャンすると、はじめの頃より、前頭前野と扁桃体の働きのコラボレーションが活性化しているのです。

ネガティブな気持ちが湧いてきた瞬間に、いったん立ち止まって考えるのは難しいので、最初のうちは、「後で振り返る」ことから始めるといいと思います。

悲しみや怒りの気持ちが起こったとき、その場で再評価できなかったとしても、30分くらい経って落ち着いてきた段階で、「あのときはどういう気持ちだったかな」「どんな考えが影響してそういう気持ちになったのかな」と振り返る。そのうえで、気持ちや状況を捉え直せないかを試してみるのです。

このような振り返りを重ねて、コツをつかんでくると、「その場」での再評価ができるようになってきて、イライラとした気持ちや悲しい気持ちに支配されにくくなってきます。

ちょっとしたことで落ち込んでしまうという自覚がある人も、そうでない人も再評価の訓練をしてみることをおすすめします。

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提供元:誰でもできる「ネガティブに支配されない」思考法|東洋経済オンライン

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