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2022.10.13

和田秀樹「脳トレは認知症予防にならない理由」|認知症の進行を遅らせるためにできること


認知症の実態とは(写真:polkadot/PIXTA)

認知症の実態とは(写真:polkadot/PIXTA)

「人生100年時代」と言われるようになり、シニア世代に入ってからの人生を心配する人が少なくありません。高齢者がなりうる認知症に対してはどのように向き合えばいいのでしょうか。高齢者専門の精神科医として6000人以上の患者を診てきた和田秀樹さんの著書『60歳からはやりたい放題』から一部抜粋してお届けします。

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「認知症=かわいそう」は間違い

多くの日本人が抱える老後不安の最大のものの1つ。それは「認知症」ではないかと思います。

長年、高齢者に特化した精神科医として働いてきて、私自身が感じるのは、世の中には「認知症=何もできなくなる悲惨な存在」だと思っている人が、あまりにも多いことです。個人的には認知症患者に対して、必要以上に悲惨なものだと考えるのは、間違いだと感じています。

たしかに、認知症になった場合、最終的には人の顔もわからなくなります。でも、病気になってから、最初の5年くらいについては、以前とほとんど人格は変わりませんし、知能もあまり落ちません。それまでと大して変わらない生活を送る人のほうが多数派です。

言い換えれば、初期の認知症はまったく怖くない。それを、過剰に怖がり、人生を悲観するのは非常にもったいないことです。

寝たきりの状態についても、「死んだほうがましだ」と考えている人は決して少なくないようです。これも、「寝たきりの状態=何もできない」というイメージが先行しているせいでしょう。

たしかに元気なときと比べたら、もちろんできることは限られるでしょうが、人によっては「毎日大好きな詩を1編ずつ暗記する」など目標を持って生きている人はたくさんいます。こうした人々を見ていると、決して生きることに悲観しているわけではなく、残りの日々をどうやって楽しもうかと試行錯誤している人が多いように思います。

延命ばかりがすべてではないですが、「認知症になったら安楽死させてほしい」「寝たきりになったら死んでしまいたい」というのは、あまりにも高齢者を差別する発言だといえるでしょう。

また、周囲が「生かすほうがかわいそうだ」「治療を控えたほうがいいのではないか」などと勝手に決めつけるのは、少し暴力的ではないかとすら感じます。ご自身の行く末はもちろん、親御さんの介護などで迷ったときは、ぜひ「認知症や寝たきりは決してかわいそうではない」ということを、忘れないでほしいと思います。

認知症でも活躍したレーガン大統領

昨今、認知症予防のさまざまなトレーニングが登場していますが、70代後半になると、8~10%の人が認知症にかかります。そして、80代以降は認知症の比率はどんどん増えていきます。85歳以上になればアルツハイマー型認知症の変化が脳に現れない人はいません。どんなに脳トレを行ったとしても、誰もが年齢を重ねるごとに、軽度の認知症になります。

なお、日本の認知症患者の6割を占めるのが、「アルツハイマー型認知症」です。アルツハイマー型認知症の特徴は、脳の神経細胞に老人斑や神経原線維変化が生じることです。脳内のβアミロイドが増えると、記憶をつかさどる海馬を中心に萎縮が目立つようになるとされています。「ついさっき何を食べたのか」「今日、誰に会ったのか」などの短期記憶に支障が出るようになり、知能も少しずつ低下していきます。

ただ、かなり認知症が進行しても、知的能力は残り続けるケースが多いです。たとえば、69歳でアメリカの大統領となったロナルド・レーガン元大統領は、退任の5年後に自身がアルツハイマー型認知症であることを公表しています。

発表した時点ではすでに会話にも支障が出ていたようなので、少なくとも発症から5年以上経過していた(その後の経過や93歳まで生きたことを考えると進行の速いタイプではないはずです)とすると、大統領の在任中もすでに認知症による記憶障害は起こっていたでしょう。

しかし、レーガン大統領は、認知症を患っていたであろう期間もアメリカ大統領として采配をふるい、歴史的な業績も残しています。言い換えてみれば、アルツハイマー型認知症であっても、大統領としての任務をこなせるだけの知力は残っていたということです。

認知症で「個性」が浮き彫りに

70代や80代になると、かなりの確率で誰の脳にもアルツハイマー型認知症の傾向は見られます。

数年前に、『渡る世間は鬼ばかり』『おしん』などで知られる脚本家の故・橋田寿賀子さんが「アルツハイマーになったら安楽死させてくれ」と発言して話題になりました。当時の橋田さんは90代でしたが、90代の方の6割以上がテスト上は認知症を発症しているので、もしあの発言があった時点で橋田寿賀子さんに記憶力テストをしたり、脳の画像診断を行っていたら認知症との診断が下った可能性はゼロとはいえません。

でも、晩年まで脚本家として活躍した橋田さんの業績を見てみても、彼女が持っていた作品を作り続ける素晴らしい創作能力に変わりはなかったことがわかります。現実には認知症にあたらないと考えるのが自然です。

このように、一言で「認知症」といっても、多くの方が思うよりも個人差の大きなものだし、病気の進行具合も変わってきます。

私が長年お世話になり、老年精神医学の師と仰いでいる竹中星郎先生は、「認知症は欠落症状に対する自分の人格の反応」だとおっしゃっています。

何か物を置き忘れたという欠落症状が起きたときに、もともと自分に厳しい性格の人であれば、「何でこんな失敗をしてしまうのだ」と落ち込むでしょう。また、他人に対して厳しい人であれば、「人が盗ったのではないか」と誰かを責めるかもしれません。もともと性格が温和な人であれば、物がなくなってもさほど気にしない可能性もあります。

このように、認知症になるとその人個人の個性が発揮されます。だからこそ「認知症はかかったら終わり」の病気ではなく、「自分の個性がより強調される症状が起こる」ということを、忘れないでほしいと思います。

会話を増やせば認知症予防になる

どんな人がアルツハイマー型の認知症になるのか。それは、遺伝的要因が非常に大きいようです。もし親がアルツハイマー型認知症になった場合は、その子どもも同じ認知症になりやすいといわれています。

なお、頭を日ごろから使わない人ほど、認知症になりやすいのは確かなようです。認知症にかかっていた患者さんたちを比較してみると、日ごろから頭を使っている人のほうが認知機能テストの点数が高いのもよくある話です。

では、「何が一番頭を使っていることになるのか」というと、最も効果が高いのは他人との会話です。会話は、相手の言ったことを理解し、瞬時になにかしらの反応を返さなければならないという非常に高度な知的作業なので、強制的に頭が回転するのでしょう。

声を出すこと自体にも、ボケ防止の効果があるように感じます。私の担当するアルツハイマー型認知症の患者さんに、長年、趣味として詩吟を続けている方がいるのですが、常に声を出すことが習慣づいているせいか、認知症の症状の進行が非常に遅いのです。詩吟ではなくても、カラオケや合唱など、声を出す趣味を持っておくことは、ボケ防止の良い手段になるかもしれません。

昨今、認知症予防のために簡単な四則計算や数字のパズルである「数独」を解くなど「脳力トレーニング」を行うことが、脳に刺激を与えて認知症予防に役立つとの定説が広まりつつあります。

ところが、『ネイチャー』などの海外の一流医学誌に、これら脳トレの効果にまつわる調査結果が掲載されたところ、実は脳トレは認知症予防には意味がないことが明らかになっています。

その研究の一つであるアラバマ大学で実施された2832人の高齢者に対する実験では、言語の記憶や問題解決能力、問題処理能力を上げるトレーニングを実施した場合、課題のテストの点数は上がるものの、そのほかの認知機能に対する波及効果は見られず、点数は上がっていないとの報告がされています。簡単にいえば、勉強した課題に対するトレーニングにはなっているものの、脳全体のトレーニングには結び付いていないのです。

「脳トレ」よりも「楽しいこと」

では、脳トレに代わる認知症予防として、何をすればいいのでしょうか。その一番の対策は「楽しいことをやる」ことだと思っています。楽しいことをやればやるほど、脳にはプラスの刺激が伝わります。

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もし、「脳トレをすること自体が楽しい」という人であれば、そのトレーニングをやり続けることは脳に良い影響を与えるでしょう。でも「面倒くさいけど、認知症予防になると聞いているから」「退屈だけど、ボケ防止のためにやっている」というのであれば、むしろこれまで行ってきた日常生活を楽しみながら続けるほうが、認知症の進行を遅らせる効果があるように感じます。

日々の家事を楽しみながら、工夫する。仕事をしている人ならば、毎日その仕事を続ける。趣味でやっているテニスをそのまま続ける……など。

「認知症予防のために、何か特別なことをしなければならないのではないか?」と思う方も多いかもしれませんが、人間の日常生活は実に複雑です。その日常生活のレベルを落とさずに頑張って継続するだけで、十分「ボケの進行防止」になります。

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提供元:和田秀樹「脳トレは認知症予防にならない理由」|東洋経済オンライン

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