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2022.10.03

和田秀樹「老いとは同世代に障害者が増えること」|体が不自由でも周囲に頼って人生を楽しんでいい


老いには個人差があります(写真:ふじよ / PIXTA)

老いには個人差があります(写真:ふじよ / PIXTA)

老いに対する正しい知識がないため過度に不安になる人が少なくありません。高齢者専門の精神科医として6000人以上の患者を診てきた和田秀樹さんの著書『老人入門 - いまさら聞けない必須知識20講』より一部抜粋し、老いに対する向き合い方を紹介します。

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みんなが一斉に老いるわけではない

ある70代半ばの男性が高校の同窓会に顔を出して少し驚いたことがあります。

「久しぶりに集まったけど、奥さん同伴という友人がけっこういた」

たしか50代のころにも集まっています。そのときは奥さん同伴なんて一人もいなかったような気がします。「高校時代の気分に戻りたいのに、隣に女房がいたらシラけてしまう」といった雰囲気でした。

友人たちが奥さん同伴の理由もすぐにわかりました。足元が危ないから腕を支えてもらう、耳がかなり遠くなっているので妻に相手の話を大きな声で説明してもらう、疲れやすいから立ち話ができないので妻が話し相手、指先に麻痺があって料理を取り分けることができない、などなどです。奥さんに車椅子を押してもらって参加している友人もいました。

それでも友人たちはみんな元気そうだし楽しそうです。しばらくあちこちのテーブルで友人たちと愉快に飲んで食べて過ごしたこの男性は、そのうち奥さんたちとも昔からの友人のように気軽に話し込んでいました。同窓会は大盛況のうちに終わったそうです。

「みんないろいろあるんだろうけど、集まってしまえばやっぱり昔の仲間に戻るな」

この男性はとても楽しい集まりだったと言います。ここでは大切なことを書きます。高齢になるということは、同世代に障害者が増えてくるということです。

若い世代のころは、友人の中に障害者がいればみんなで労わったり手を差し伸べたりしてもやはり特別な存在です。誤解を恐れずに書けば、「気の毒だから」という気持ちがありました。

でも高齢になると、自分もいつその仲間に入るのかわかりません。決して他人事ではないのです。だから同世代の障害者(自分より少しだけ早く老いてしまった友人)に対しても素直な気持ちで向き合うことができます。言葉にはしなくても「頑張ってるんだな」という共感の気持ちを抱くことができるような気がします。

わたしたちはずっと長い間、年齢を重ねるごとに成長してきました。身長が伸びて身体が大きくなり、筋肉がついて体力も増し、いろいろな知識や経験を蓄えることで思考力も深まってきました。多少の個人差はありますが、年齢を重ねるごとに成長してきたのは事実だと思います。

でもそれも、ある年代でピークを迎えました。身体や体力的なものなら20代後半ぐらいでしょうか、頭脳はいくつになっても衰え知らずのようですが、記憶力とか創造性とか、あるいは好奇心や意欲といったものまで含めて考えると、やはりある年代がピークになってくると思います。

でも40代50代のころまでは、ピークを過ぎてもまだ一定のレベルを保ってきました。自分より若い世代とも対等にやり取りできたのです。

60代を過ぎると、さすがにそれも難しくなってきます。若い世代と対等どころか、はっきりと見劣りするようになってきます。さらに歳を取るとどうなるでしょうか。

同じ世代の中に格差が生まれる

同世代であってもどんどん差がついてきます。異なる世代との格差ではなく、同じ世代の中に格差が生まれてくるのです。自由に歩き回れる人、杖がなければ歩けない人、杖をついても歩けない人に分かれてきます。脚だけでなく、目も耳も同じです。まったく衰えない人がいるかと思えば、日常生活にも不便を感じる人もいます。

老いは個人差をどんどん広げていきます。同じ70代、80代でも「なぜこんなに違うのか」とあきれるくらい個人差が出てきます。問題は、自分がどちらになるかということです。障害者にならないための日常生活の心がけとか生き方や暮らし方はここまでにも書いてきましたが、脳梗塞のような突然の発症もあります。まさかの転倒や事故が引き金になって一気に衰弱することもあります。

どんなに心がけても望んだ生活の質を保てないようになることは誰にでもあり得るのです。ではどうしようもないのでしょうか? そうなったらそのときは諦めるしかないのでしょうか?

その一つの答えが、いま紹介した男性のエピソードにあるような気がします。つまり、たとえ自分が不自由な身体になったとしても、頼れることは周囲に頼って人生を楽しんでいいのです。

そのための補助として介護保険制度があります。あるいは地域やボランティアの人たちが支えてくれるさまざまな行事やイベントがあります。そういったものに対して「恥をさらしたくない」とか「他人の世話にはなりたくない」と拒んだり嫌う人がときどきいます。

狭い了見ではないでしょうか。繰り返しになりますが、老いるということは同世代の中に障害者の割合が増えてくるということなのです。いまはどんなに元気でも1年後はわかりません。どんなに元気な高齢者でも、やがては歩行も覚束(おぼつか)ない障害者になってしまいます。

それでもまだいくつかの楽しみは残されているし、それを楽しむ機能も残されています。たとえば歩けなくなっても食べる楽しみだけは持ち続けたいとか、風景を眺めたり、演劇や好きな本を読む時間は失いたくないといったことです。

その楽しみまで、好きなレストランや劇場に行けないとか旅行に出られないというだけの理由で自分から放棄すればどうなるでしょうか。

何もかも諦めて、家に閉じこもるだけの暮らしになってしまいます。これでは身体の障害だけでなく、心まで鬱屈としてきますね。何の楽しみもない高齢期を過ごすしかありません。

でも「自分の楽しみのため」と割り切って利用できるものは利用し、ときには妻や夫の手を借りてもやりたいことをやってみるというのは、朗らかな高齢期を過ごすためにも大切な心構えになってくるはずです。

「まだ元気な人もいるのに、自分だけが他人の世話になるのは情けない」

ともすればそんな気持ちになる高齢者もいます。とくに男性にはどんなに老いても一片のプライドや意地が残されているものです。

でも、早いか遅いかの違いだけなのです。いつかはみんな動けなくなってしまいます。

「お先に世話になるよ」

それくらいの軽い気持ちで、自分の楽しみを諦めないようにしてください。

同世代の老いを大きな気持ちで受け止めよう

50代60代のころでしたら、認知症が始まった高齢者や急に老け込んでしまった職場のOBを見ると、「ああはなりたくないな」とか「気をつけなくちゃ」と思うものです。

そして自分が無事に70歳を迎えると、「なんてことないな」と思います。

「たしかに疲れやすくなっているけど、老いの実感なんてない。70歳なんてこんなものか」

と安心したり拍子抜けしたりします。「まだまだ大丈夫だな」と思ってしまうのです。

ところが70代は油断できません。車でいえば経年劣化は確実に進んでいますから、どんなに点検整備を繰り返しても、予想もできなかった思いがけない病気が見つかったり、突然の発症をすることがあります。

たとえば脳梗塞や脳出血のような血管系の病に襲われて長く入院したり、リハビリ生活を余儀なくされたり身体に麻痺が残るようなことです。心筋梗塞のような循環器系の病気で長い療養生活を送ることもあります。

どちらにしても、衰え始めた体力は大きなダメージを受けますから、症状が治まっても日常生活にいろいろな不便が生まれたりします。つまり、ある日から突然自分が障害者の仲間入りをしてしまうのです。

70代後半、あるいは80代となれば、認知症になる人も増えてきます。高齢になるということは、自分を含めた同世代に一人また一人と、どこかに障害を抱えた仲間や友人が増えてくるということなのです。

実際、たまに連絡を取り合う古い友人からも、「あいつが倒れたらしい」とか「リハビリを頑張ってるらしい」といった情報が伝わってきます。年末になると、友人や知人の家族から「△△逝去につき」といった葉書が届いて驚くのも70代から80代にかけての時期です。

不安に囚われると自由を楽しみ尽くせない

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そういう報せに接するたびに、「用心しなくちゃ」とか「もう何かあってもおかしくない歳なんだな」と感じます。「私は運がいいだけかもしれない」と気持ちさえ生まれてきます。

でもそこで、不安を膨らませて縮こまって生きても同じことです。予期できない病や事故はいつ襲ってくるかわからないのです。不安に囚われてしまうと、自由を楽しみ尽くすなんてできません。

それくらいならむしろ、共生の感覚を持ったほうがいいのではないでしょうか。

つまりさまざまな障害を抱えた同世代の人間と、あなたも一緒に生きているという感覚です。たまたま自分は歩ける、たまたま自分は元気に暮らしているというだけのことで、同世代のみんなと同じ空気を吸っているのです。

「歩けないやつには肩を貸して、とにかく元気でやっていこう」。そんな、共に生きる感覚を失わないでください。

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【あわせて読みたい】※外部サイトに遷移します

和田秀樹「70代でも元気な人とそうでない人の差」

仕事を辞めた人ほど「老け込んでしまう」納得理由

「物知りなだけの50代」に今や何の価値もない

提供元:和田秀樹「老いとは同世代に障害者が増えること」|東洋経済オンライン

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