2022.09.30
企業の健康経営にゴルフが役立つかもしれない訳|ヘルスケアとゴルフを結びつける新組織発足
企業の健康経営にゴルフを役立てようという動きが始まっています(写真:8x10/PIXTA)
コロナ禍でゴルフを始めた人は50万~60万人ともいわれている。理由はいろいろあるだろうが、一番は「感染リスクが少ない屋外環境」であり「適度な運動をしたい」という思いに合致したスポーツとして、ゴルフ人口減少の中で見直されたというものだ。
コロナ禍で「病気」の危険にさらされ、リモートワークなどで家にこもりがちな生活の中で「健康」を意識するのは、本能的なことなのだろうか。
「未病」という言葉、考え方があるそうだ。「病気」と「健康」の中間の状態を表す言葉だという。日本未病学会のHPによると「病気ではないが、健康でもない状態。自覚症状はないが検査結果に異常がある場合と、自覚症状はあるが検査結果に異常がない場合に大別される」とある。
健康診断でチェックが入っている人は「未病」の状態と言えるようだ。厚生労働省の2020年定期健康診断結果報告によると、約1248万人が受診して、有所見者(何らかの数値が悪かった人)は約730万人、58.5%の人が発病しているか、未病の状態だという。
「ゴルフ×健康経営」を目指す組織が誕生
ゴルフで企業の社員や組織・団体の所属者の健康維持促進を目指す「ゴルフde健康経営コンソーシアム」の設立説明会が9月上旬に行われた。
一般社団法人「日本健康ゴルフ推進機構(JHGP)」が同機構内に立ち上げるもので、社員らの健康を図りたい企業などに対し、ゴルフ業界とヘルスケア業界を結び付け「ゴルフ×健康経営」のコンテンツを提供していくというものだ。
「健康経営」というのは「経営の観点から戦略性をもって、働く人の心身の健康を保つことで、組織を活性化させ、会社の収益性を上げ、医療費の適正化へとつなげていくこと」(健康経営会議HPより)という。それを具体化していこうというのがJHGPの活動になる。
JHGP会長の小森剛氏は「ゴルフは年齢を問わずに始められる生涯スポーツで、歩行をベースにした適度な運動(1ラウンド平均約7600歩)になり、リフレッシュ性、リラックス効果があります。
また、日光を浴びることで骨粗鬆症予防や、計算など脳を使うことで認知症予防の効果も期待されており、適度なプレッシャーとストレス解消にもなります。健康増進、コミュニティーの形成、人材の育成などにも役立ちます」とゴルフの効用を挙げる。
コンソーシアムの立ち上げについては「ヘルスケアコンテンツ業界とゴルフ関連業界を結びつけ、ゴルフプレーと健康セミナーをセットにして提案したい」という。また初心者やゴルフをやっていない人でも参加できるような企画もしたいという。
プラン例としては、1泊2日の社内旅行でゴルフプレーとゴルフ系健康セミナーを行うツアーの企画、初心者を含めた「スクランブル方式」でのゴルフプレーの設定や、企業を訪問してゴルフ系健康セミナーやゴルフフィットネスなど運動指導、スナッグゴルフというゴルフを始めるための練習(遊び)用具の活用などを考えている。
ゴルフツアーでいうと、たいていの場合はゴルフの技術のセミナー(レッスン)とゴルフプレーをセットにしていることが多い。だが、小森氏が考えているのは技術面ではなく、あくまで健康の増進のためのツアーだ。
例えば、現在協力を依頼しているセミナーの講師には、ゴルフボディチェック&フィットネス、管理栄養士・食育指導士、脳活ダンス(認知症予防)、笑顔トレーニングなどがリストアップされており、そうしたセミナーとラウンドをセットにする。
笑顔トレーニングとゴルフを結びつける企業も
コンソーシアムに参加予定の企業に、ゴルフと健康について聞いてみた。「笑顔トレーニング」はゴルフでの健康維持とどう結びつくのだろうか。
担当する予定になっている一般社団法人「笑顔トレーナー協会」代表理事で株式会社「笑顔育」代表取締役の川野恵子氏はこう話す。
「まず、表情筋を動かすことで健康や印象、心理といったものを向上させる期待ができます。また、スポーツ選手は歯を食いしばる、ということが多いのですが、笑顔でプレーしたほうがいい。例えば、マラソン選手が苦しい時に笑顔になると、脳が勘違いして苦しさが軽減されます。ゴルフでも笑顔でプレーすれば脳が勘違いしてプレッシャーを軽減できる効果があると思います」
表情筋の詳細などはここでは省くが、顔、首、胸の筋肉を緩ませ、笑顔になることで、体が動きやすくなるとともに、精神的にもリラックスする効果があるそうだ。
ただ、笑えばいいというものではないという。普段使わなくなってしまった表情筋をトレーニングすることで「いい笑顔」がつくれるようになる。「笑顔では下の歯が見えるのは、のどに力が入っているから良くないんです。口の周りの筋肉はいうことを聞きにくいので、トレーニングをして、正しい笑顔をつくれるようになりましょう」というのが、今回のゴルフ系健康セミナーのテーマになりそうだ。
川野氏は今回のコンソーシアム設立を機に「今後、ゴルフに特化した笑顔トレーニングのメニューを考えていきたい」としている。笑顔は、ゴルフに限らず、企業の日常業務でも大事なことかもしれない。
ゴルフプレーとゴルフ系健康セミナーをセットにした旅行ツアーづくりで、コンソーシアムへ参加していく予定なのが株式会社「REHA・ツーリズム(REHAt)」で、ゴルフと健康をテーマにしたツアー実績がある。
代表取締役の中田秀貴氏は、NECに勤務していた2014年に脳梗塞を患い、いったん復職したが2015年に再発。右半身の運動障害など後遺症があり、リハビリをしてきた。その病院の屋上にパターなどができるスペースがあり、ゴルフをやっていたこともあってリハビリに利用した。
2019年にゴルフを再開。右足に障害が残るため当初はうまく打てなかったが「リモートゴルフレッスンを受けて、左足体重で打つようにしたら、2020年に7年ぶりに100を切れました」という。
未病→発病という経験をしてきた中田氏は、その後REHAtを立ち上げ、リハビリ・ヘルスツーリズムとして未病、発病ともに個々の健康状態やニーズに合わせたツアーを企画・催行している。
「私は病気になって初めて健康の大切さを知りました。健康な体で正しいスイングをすれば、80歳になってもゴルフはできます。小森さんとは『ゴルフで元気になれる』という思いは一緒です」(中田氏)
個人ではなかなかできない未病からの健康管理を企業・団体が行うサポートをする、という企画を今後、作っていくことになる。
こうした一見ゴルフとは無関係にみえるヘルスコンテンツ系の企業を、ゴルフ場や練習場などのゴルフ関連企業と結びつけることで、双方の活性化にもつながるだろう。
ゴルフ界にとって「健康」は最重要課題
「ゴルフde健康経営コンソーシアム」では会員登録を始めているが、今のところ会費は無料。今後、メールによる情報提供やオンライン勉強会&セミナー、「ゴルフ×健康経営」メニュー開発ワークショップなどを開催し、ニーズなどを聞きながら「ゴルフ×健康経営」の事業を作っていくという。
「ある程度、形になって、会員にプラスになることが実行できるようになれば、会費をいただくことも考えます」と小森氏。例えば、セミナー&ゴルフのツアーを会員の企業がやりたいといった場合にも、かかる費用は「基本的にはセミナー講師の派遣費用とゴルフプレー費と考えています」と言う。
ゴルフ界には、ゴルフ人口の多くを占めてきた団塊世代が後期高齢者(75歳)となる2025年問題、ゴルフをやめるとされる80歳を迎える2030年問題を抱えている。その人たちのゴルフ継続はもちろん、その後に続く人たちにもゴルフを長くやってほしい。そのためには健康が最重要課題ということになる。
働く人の健康を保つのは、企業や団体の法的義務でもある。40代以上の世代には未病者が多く存在するだろう。新しくゴルフを始めた若い世代もこれから行く道だ。「ゴルフで健康経営」、一考の価値はあるのではないだろうか。
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提供元:企業の健康経営にゴルフが役立つかもしれない訳|東洋経済オンライン