2022.09.12
「好きなことで稼ぎたい人」がだいたい陥るワナ|好きなことと稼げることは別物という現実
「好きなこと」を仕事にしたいと思う一方、それで「稼げるのか」となると悩む人は少なくありません(写真:kou/PIXTA)
「好きを仕事に」というキャッチフレーズはいろんなところで聞かれます。憧れの職業にYouTuberが選ばれるようにもなったことも象徴的で、今までは仕事にならなかったような個人的な趣味やこだわりも仕事になり得る中、若い世代だけでなく、40~50代もセカンドキャリアとして好きなことを仕事にしたいという人は少なくありません。
世界的調査会社のギャラップ社が139カ国の企業に行った調査では「熱意を持って仕事に取り組んでいる」 と答えた日本人は全体の6%に過ぎず、逆に 「やる気がない」という回答は70%。世界で132位、圧倒的に下位に位置します。この現状を考えれば、「自分の好き」を仕事にしたいというのは自然な流れでしょう。
仕事にするほど好きなことが見つからない
著者は、10年以上コーチという仕事をしていますが、キャリアに対する悩みをもつクライアントは多く、その中でも「自分の好きなこと」を仕事にしたいという希望を持つ人はこの数年特に増えています。
一方で、「好きなことが見つからない」という悩みを抱える人が多いのも事実で、よくよく聞いていくとこれは、「仕事になるくらい情熱を注げる、自分の好きなことが見つからない」という悩みとも言えます。
好きなことにつながりそうなものが出てきたとしても、さらなる障害があります。それは、その「好きなことで稼げる」か。そして、この「稼げるかどうか」という点を考慮したとたん、「好きなこと」がわからなくなってしまうのです。「好きなことはあるにはありますが、稼げるようなものとは違うので……」というのは、実際のコーチングでもよく聞きます。
本来、自分の好きなことと、稼げることは別物。それなのにいつのまにか、好きなことは「需要があるのか」「他の人よりも優れているのか」「稼げるのか」客観的に評価しようとしてしまう。こうなると、自分が好きなことを見つけるのは困難です。
そして、こうした悩みはいつのまにか、「自分の好きなことを見つけなければならない」という、人生で成功するための「正解探し」のようなものになってしまいます。「好きなことを見つけて自己実現している=成功者」というのが正解で、好きなことが見つからない自分は何か間違っている、という考えにはまってしまうのです。
「いい大学を出て、安定したいい会社に入る」という前時代的な人生の「正解」を今も信じている人は少ないかもしれません。しかし、正解が「自分の好きなことを見つけてそれを仕事にするべき」に置き換わっただけで、構造的には変わっていないのではないでしょうか。
「自分の好きなこと」「得意なこと」「世の中のニーズがあるもの」「お金になるもの」――。これらがすべて重なったものを見つけることが大事だという話を聞きます。しかし、これを実現するのは相当大変で、この4つを得ることが豊かな人生を送る条件だとすれば、それは無理ゲーなのではないかと思ってしまいます。
好きなことに出会わないのは普通なこと
写真家であり探検家でもある、故・星野道夫さんの言葉にこんな一説があります。「短い一生で心魅かれることに多くは出会わない。もし見つけたら大切に……、大切に……」。
そもそも好きなことに出会わないのは普通なことだということを教えてくれる素敵な言葉です。いつどこで出会うかわからないし、出会わないかもしれない。出会った時にそれを大事にしよう。
大西洋単独無着陸飛行にはじめて成功したチャールズ・リンドバーグの妻であり、女性飛行家アン・モロー・リンドバーグの残した言葉も本質を現しています。「人生を見つけるためには、人生を浪費しなければならない」。
私たちは「浪費」や「無駄」を避けたいと思うのですが、浪費こそが、自分らしい人生を見つけるために必要だとリンドバーグは言っています。私たちは、自分が何に夢中になれるのかということを、事前に先見的に知ることができません。夢中というのは、「心の状態」なので理知的に予測することができないからです。だからこそいろいろなところへ行ってみて、そのときの身体的感覚で見極めるしかないのです。
すなわち、「好き」という気持ちは、「見つける」ものではなく、「育む」ものだと思っています。そのためには多くの行動をする必要がありますし、そもそもそんなに簡単に出会えないかもしれない。そのくらいのスタンスや気軽さが大事なのです。
自分が本当に好きなものは、まずはちょっとした兆しみたいなことで十分です。それは趣味程度のものかもしれないし、出会ったばかりで豊富な知識や経験があるものではないかもしれません。
この10年でクライアントを通して見えてきた事実は、自分の好きなことが仕事になった人のほとんどは、初めからこれが仕事になるとは考えてもいなかったことがほとんどだということです。なんとなく面白そうなので続けてみたことや、時を経て改めてやり出した昔の趣味が結果仕事になったというだけなのです。
会社の研修として参加したら
私自身もそうでした。結果的にコーチングという好きなことが仕事になりましたが、初めから運命的な出会いだったわけではありません。会社の研修として少しめんどくささもありながら参加したのですが、いざ始めてみると面白かったので学びを続けていただけなのです。うまくいくときも、そうでない時もありました。それも含めなんとなく面白かった。でもそれは頭で理解したものではなく、やってみてわかる体験的な面白さでした。
学びがどう自分のキャリアに役立つのか、稼げるものになるのか。そういうことを真剣に考えたこともありませんでした。ある意味趣味のような感覚で、学びを続けたのです。
会社員をしながら資格を取るまで学んでいたため、同僚には「そんなに時間かけて学んで何になるの?」と言われたこともありました。そういう声を気にせず、ただ面白くて続けていったこと、「仕事にしなければ」「投資分を回収しなきゃ」そういう意識がなかったことが本当に良かったと思っています。
人は「しなければならない」と思えば思うほど身動きが取れなくなるものです。視野も狭くなり、焦りも出てきます。好きなことを仕事にするということが正解だという無意識の呪縛は、それ以外の発想を持つことを許さない、まるで見えない鎖のようなものです。コーチングをしていて、クライアントが困難な状況にあるときの多くは、何かしらこういった無意識の呪縛があると言ってもいいかもしれません。
何かを始めるには仕事にしたい、という気持ちはわかります。しかし、その発想だけに囚われると、何か新しいものを発見するような体験を逃してしまうかもしれません。次回はいかに好きなことを育むか、具体的な方法を見ていきます。
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提供元:「好きなことで稼ぎたい人」がだいたい陥るワナ|東洋経済オンライン