2022.08.31
【つらい痛み】鎮痛薬が効かない時にすべきこと|長引く痛み、繰り返す痛みに有効な専門的治療
鎮痛薬でも解消できない痛みを解決するのがペインクリニックです(写真:アン・デオール/PIXTA)
頭痛や腰痛、ケガの痛み――。しつこい痛みに悩む人は意外と多い。鎮痛薬を飲んでも効かず、鍼灸や整体を行脚する人もいるだろう。
眠れない、食欲もないなど、生活の質すら下げてしまう痛みをラクにする方法はないのか。悩む人たちの駆け込み寺となっているのが、痛み治療を専門に行う診療所(診療科)「ペインクリニック」だ。
どんな診療が行われているのか、即効性はあるのか、健康保険が適用されるのか。ペインクリニックで患者のさまざまな痛みと向き合う麻酔科医の小林玲音(れおん)医師(昭和大学病院)に疑問をぶつけてみた。
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そもそも痛みとは何だろうか。
「痛みとは“体に生じたなんらかの異常を知らせるSOS反応”です」と小林医師。
痛みと一口でいってもさまざま
痛みと一口に言っても、心筋梗塞や脳梗塞などの病気で襲われる激しい痛みもあれば、腰痛や頭痛といった継続する不快な痛みもある。ケガややけどでも痛みが現れる。
以下は痛みが生じる代表的な病気だ。もちろんこれはあくまでも一部で、もっと多くの病気で何らかの痛みをもたらす。
痛みを起こす代表的な病気
整形外科:腰下肢痛(椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症)、肩こり、五十肩、頸肩腕痛、肋間神経痛、関節痛、ひざ痛(変形性関節症)など
皮膚科:帯状疱疹後の痛み、顔面痛など
耳鼻科:顔面神経マヒ、耳痛など
婦人科:月経周期に伴う痛みなど
脳神経外科:三叉神経痛、頭痛、脳梗塞、くも膜下出血後の痛みなど
循環器科:心筋梗塞、狭心症に伴う胸部痛、動脈硬化に伴う下肢痛など
歯科:あごの痛み、舌痛、歯痛など
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上の表のような病気による痛みは、専門となる診療科で診てもらうのが一般的だ。病気の元となる治療に加え、痛みに対しては痛み止めの飲み薬や湿布、塗り薬で対処する。
では、ペインクリニックにはどんな患者が駆け込んでくるのだろう。
「こうした専門診療科での治療で改善されない方や、手術を希望されない方が、ペインクリニックで“ほかの治療を試したい”と言って来られます。薬(痛み止め)を減らすことができるので、アメリカでは麻薬の乱用を減少させる効果があるとして、期待が高まっています」(小林医師)
ペインクリニックの診療の流れは?
ペインクリニックとは、痛みの原因となっている神経、あるいはその周辺に注射針を挿入して局所麻酔薬などを注入することで、痛みの信号が脳に伝わるのをブロック(神経ブロック)するという治療法。大事なのは、痛みの性質を見極めること、つまり痛みの診断だという。
「患者さんの訴える痛みが急性のものか、慢性的に生じているものか、炎症の痛みなのか、神経の痛みなのか、診察をしながら探っていきます。このほか、うつ症状など精神的な症状についても診ていきます。痛みの診断によって使う薬も治療方針も変わります」(小林医師)
もう1つ大事なのは、「痛みがどれくらい強いか」を評価することだ。
痛みの評価する手法にはいくつかある。
代表的なのが「NRS(Numerical Rating Scale)」と呼ばれるもので、想像できる最大の痛みを10点として強度を評価する。このほか、22の質問項目で今の痛みの強度の評価および、痛みの種類を把握する「マクギルペインスケール2」や、顔の表情によって痛みを患者に選んでもらい評価する「フェイススケール」、皮膚に電流を流して痛みの度合いを数値化する「ペインビジョン」という測定機器を使うこともある 。
痛みを評価するツール「NRS」と「VAS」(厚生労働省研究班作成「痛みの教育コンテンツ」からの引用)
実際にどんな治療を行っていくのか。小林医師に聞いた。
「ペインクリニックの手技で最もポピュラーなのが、『星状神経節ブロック』です。これは、交感神経をブロックすることを目的に行います」
星状神経節ブロックは、前側の首の付け根に局所麻酔薬を注入する神経ブロックで、頭頸部や顔面、上肢の痛み(顔面神経マヒや緊張型頭痛、片頭痛、肩こり、帯状疱疹後の痛みなどに有効だ。
私たちの体には神経が張り巡らされている。その代表的なものが交感神経と副交感神経からなる自律神経だ。ストレスなどが原因で長期にわたって交感神経が副交感神経よりも強く働きすぎていると、痛みが長引く要因になると小林医師。
「このような場合に星状神経節ブロックをすると、薄皮をはがすようにだんだん痛みが和らいでいき、精神面も安定してきます」
神経ブロックは星状神経節ブロック以外に数十種類もある。代表的なのは、腰下肢痛に対する硬膜外ブロック、三叉神経痛に対する三叉神経ブロック、筋肉の痛みなどに対するトリガーポイント注射などだ。
「とにかく筋肉の痛みをなんとかしたい場合は、トリガーポイント注射が有効です。筋肉のこっている部分をエコー(超音波画像)で見ると白く硬くなっています。そこに注射を打って筋肉のこわばりをほぐし、血流を改善します」(小林医師)
痛みが生活の質を下げる理由
痛みの感じ方には個人差が大きいだけでなく、情動面にも左右される。このため心理・社会的要因を含めて評価することもある。このため、情動と痛みは切り離せないことから、臨床心理士や公認心理士などがカウンセリングを行っている施設もある。
「NRSで毎回0か10の極端な評価をつける方などは、情動の影響が痛みに反映されやすい傾向を感じます。このようなケースなど、検査で明らかな原因がわからない場合は、神経ブロックそのものが治療だけでなく、診断の手段となりえます」
神経ブロックには健康保険が適用され、1回数百円から数千円(3割負担の場合)までさまざまだ。痛みの状態によっては通院する必要がある。
このように、ペインクリニックは1人ひとりの患者に合わせた診療を行い、回復の程度によって注射の種類や頻度などを調節していく。日常生活に支障がない程度まで痛みをコントロールできるようになるのが目標だ。
一方で、冒頭で紹介したとおり、痛みは体のSOS信号でもある。
「緊急性を要する重い病気の徴候を“レッドフラッグ”といいますが、当科で検査をして、レッドフラッグに該当する場合は、適切な診療科を速やかにご紹介します」(小林医師)
痛みが落ち着いてくれば眠れるようになるし、気持ちも落ち着いて日常生活を送れるようになる。つらい痛みはがまんしないで、一度、ペインクリニックで相談してみるのも手かもしれない。
最後にペインクリニックの治療と、鍼灸やマッサージとの違いについて、小林医師に聞いた。
「ペインクリニックも鍼灸も、細い針を使うところは変わりませんので、違いはわかりにくいかもしれませんね。鍼灸、マッサージにもそれぞれ良さはありますが、基本的にこれらは画像検査や血液検査ができませんので、医学的な診断や理論に基づいて痛みをとるわけではありません」
ただ、どちらも針を刺すから同じもの、ペインクリニックと鍼灸院の両方に通っても大丈夫、というわけにはいかない。
「もしも何か合併症が起こったときに、その原因を突き止めるのが難しくなります。両方に一緒に通うのは控えましょう」(小林医師)
(取材・文/熊本美加)
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昭和大学病院麻酔科講師 小林玲音医師
東京都出身。2005年に昭和大学医学部を卒業、2007年より同大学麻酔科学講座に在籍。2011年同大学大学院(博士課程)にて学位取得。手術室での麻酔管理のほか、ペインクリニックにも従事し、痛みに対する神経ブロック療法、できるだけ体に傷を残さずに治療するインターベンショナル治療の研究に携わっている。
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提供元:【つらい痛み】鎮痛薬が効かない時にすべきこと|東洋経済オンライン