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2022.08.30

北海道「月寒あんぱん」人気アニメ商品で得た成果|明治39年に札幌で創業した老舗和菓子屋の挑戦


根強いファンを持つ北海道銘菓「月寒あんぱん」はどのように生まれたのだろうか(写真:ほんま)

根強いファンを持つ北海道銘菓「月寒あんぱん」はどのように生まれたのだろうか(写真:ほんま)

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北海道札幌市で明治時代から続く、創業116年の老舗和菓子屋ほんま。看板商品の「月寒あんぱん」は、昔から変わらない味に根強いファンも多い北海道名菓だ。

薄皮の生地に、甘いこしあんがたっぷり詰まった、月寒あんぱん。見た目も味も、パンというより、まんじゅうや月餅に近い。札幌で育った筆者にとっては小さなころから馴染みのあるお菓子だが、道外の知人からは「これがあんぱん?」と驚かれることも多い。

そんな月寒あんぱんを、100年以上にわたり作り続けてきたほんまが、ここ数年、人気漫画や企業とのコラボレーションを行っている。老舗和菓子屋が新たな取り組みへ積極的に挑戦する理由を2006年から社長を務める5代目の本間幹英さんに伺った。

明治時代、歩兵隊の菓子職人が開発した

ほんまは、明治39年(1906年)に札幌で創業した和菓子屋である。現在は、北海道中部にある恵庭市に本社と工場を置き、札幌市豊平区に直営店「月寒総本店」を構える。

看板商品の月寒あんぱんを始め、月寒ドーナツ、玉ドーナツといったロングセラー商品や、大福、どら焼きなどのあんこ菓子を中心に製造・販売する。直営店およびオンラインショップで全国に商品を販売するほか、道内の百貨店やスーパーマーケット、新千歳空港内の土産店でも商品の取り扱いがある。幅広く展開しており、年商はおよそ4億円にもおよび、その売り上げの9割を月寒あんぱんシリーズとあんドーナツが占めているという。

月寒あんぱんは、かつて存在した月寒村(つきさっぷむら、現・札幌市豊平区周辺)で生まれた郷土菓子である。明治7年(1874年)に、陸軍歩兵第25連隊内で菓子販売を行っていた大沼甚三郎氏が開発した。大沼氏が当時の東京・木村屋で「桜あんぱん」が人気という噂を聞き、独自に作り上げたものだという。

明治から道民に愛され続ける理由

ほんま創業者の本間与三郎氏は、大沼氏から月寒あんぱんの製法を伝授された一人。明治39年(1906年)に、月寒村で月寒あんぱんの製造販売を開始したのが、ほんまの始まりだ。

「月寒あんぱんは、大沼氏が歩兵隊の連隊長と一緒に考案したと聞いています。軍の売店である酒保(しゅほ)でも販売されていたそうです。これは僕の想像ですが、兵士たちに元気を与える、あんこたっぷりの甘いお菓子を作ろうとして、唯一無二のお菓子になったのではないでしょうか」(本間さん)

札幌市には、月寒あんぱんにゆかりのある「アンパン道路」と呼ばれる場所も存在する。国道36号(月寒通)と国道453号(平岸通)を結ぶ全長2.7kmの道で、明治44年(1911年)から陸軍歩兵第25連隊と住民らが協力して建設した。当時の豊平町が、工事に携わる兵士1人に毎日5個の月寒あんぱんを提供していたことから、「アンパン道路」の名で親しまれるようになったのだ。

砂糖が少なめで水飴の量が多い「月寒あんぱん」は1個151円(写真:ほんま)

砂糖が少なめで水飴の量が多い「月寒あんぱん」は1個151円(写真:ほんま)

このように、明治時代から地域と密接なつながりのあった月寒あんぱんだが、太平洋戦争による物資不足により、製造者が激減。残ったのはほんま1店舗だけだった。以来、ほんまは、100年以上にわたり、創業当時の味を守りながら月寒あんぱんを作り続けている。

原材料の配合分量も、創業時からのレシピを守り続けている。月寒あんぱんのあんこは、一般的なあんこよりも砂糖が少なめで水飴の量が多い。明治時代は砂糖が手に入りにくかったうえ、水飴を多めに入れるほうが日持ちするからと、現実的な理由で独自の配合になったそう。

いつ食べても変わらない懐かしさを味わえる月寒あんぱんは、札幌市民にとってふるさとのような存在なのかもしれない。

2021年には、月寒あんぱんが、明治時代の北海道・樺太を舞台にした人気TVアニメ「ゴールデンカムイ」とコラボしたことも話題となった。原作は「週刊ヤングジャンプ」(集英社)にて連載された、北海道出身の漫画家、野田サトルによる大ヒット漫画。TVアニメ第四期が2022年10月より放送開始予定で、さらに実写映画化も決定している。

コラボ商品は、こしあん・黒糖あん・かぼちゃあん・黒胡麻あん・抹茶あん・復刻こしあんの6種類の月寒あんぱんが、それぞれ人気キャラクターのパッケージで包装され、イラストをあしらった外箱におさめられている。

ファンからの要望がきっかけ

本間さんがこのコラボを実現したいと考えたのは、ゴールデンカムイのファンからの要望がきっかけだった。

「2020年のゴールデンウィークの頃、複数の知人から『ゴールデンカムイに登場するなんてすごいね!』と突然言われて。当時はまだゴールデンカムイを読んだことがなかったので、何のことか全くわかりませんでした。詳しく聞いたら、ゴールデンカムイの漫画に月寒あんぱんが出ているとのこと。びっくりして、急いで漫画を購入して読みました」(本間さん)

人気TVアニメ「ゴールデンカムイ」とコラボレーションした「月寒あんぱん6種セット ゴールデンカムイver.」は6個入り限定パッケージで972円(写真:ほんま)

人気TVアニメ「ゴールデンカムイ」とコラボレーションした「月寒あんぱん6種セット ゴールデンカムイver.」は6個入り限定パッケージで972円(写真:ほんま)

本間さんの驚きは続く。漫画で月寒あんぱんを知ったゴールデンカムイのファンが、続々と店舗に来店し、月寒あんぱんを購入する姿が目立つように。そこで「ぜひコラボしてほしい」と熱望する声を何度も聞くようになった。日に日に高まるファンからの声に応えるべく、本間さんは、ゴールデンカムイを連載するヤングジャンプの発行元である集英社に直接電話をかけた。

「今回のような人気作品とメーカーとのコラボレーションは、企画会社さんが間に入ってコーディネートするのが一般的だと当時は知りませんでした。今考えれば、よく直接電話できたなと思いますけど、集英社さんも気軽に会ってくださり、TVアニメの商品化として、とんとん拍子に話が決まって」(本間さん)

TVアニメ「ゴールデンカムイ」とのコラボ商品が発売されて約1年が経つ。月寒あんぱんを初めて口にするゴールデンカムイのファンからの「食べてみたらおいしかった」というシンプルな褒め言葉が一番うれしかった、と本間さん。

「ゴールデンカムイのファンの方々が、月寒あんぱんや当社のことまで応援してくれるようになったんです。商品をたくさん買ってくださり『月寒あんぱんが続きますように』と温かいメッセージを送ってくれます。ファンの方が、月寒あんぱんに対しても熱い思いを持ってくださったことは、正直とても驚いています。単に人気にあやかるだけのコラボではなく、深いつながりがあったからこそでしょう」(本間さん)

地域活性化のためJALスカイ札幌とコラボ

本間さんは、創業当時からの味を守り続ける一方で、新商品開発や外部パートナーとのコラボレーションにも意欲を見せる。

2017年に国内線ファーストクラスの機内食やラウンジで月寒あんぱんが採用されたことがきっかけでJALスカイ札幌と協業。日本航空が地域活性化のためにさまざまな活動を行う「JALふるさとプロジェクト」の一環として 、北海道の魅力を伝える商品を共同開発している。

JALスカイのスタッフの意見を反映したあんこ菓子「あん丸の里セット」は3種6個セットで972円(筆者撮影)

JALスカイのスタッフの意見を反映したあんこ菓子「あん丸の里セット」は3種6個セットで972円(筆者撮影)

今年3月には、北海道の野鳥シマエナガをモチーフにした上用まんじゅうを発表。5月には、新千歳空港に勤めるJALスカイのスタッフの意見を取り入れたあんこ菓子「あん丸の里セット」を販売開始。月寒あんぱんにも使用するこしあんに、とうもろこしやいちごなどの北海道産食材を練り込んだ。バター、とうもろこし、いちごの3種類の味がセットになっている。「あん丸の里セット」の価格は、3種6個セット(あん丸バター2個、とうきび丸2個、いちご丸2個)で972円(税込)。いちごあんには、夕張郡長沼町のいちごを使用。いちごの収穫はJALスカイのスタッフも手伝った。

月寒あんぱんは、こしあん、黒胡麻あん、黒糖あん、抹茶あん、かぼちゃあん(上から時計回り)の5種類(写真:ほんま)

月寒あんぱんは、こしあん、黒胡麻あん、黒糖あん、抹茶あん、かぼちゃあん(上から時計回り)の5種類(写真:ほんま)

外部とのコラボレーションで、知名度向上や新たなファンの獲得に手応えを感じている本間さん。今後もコラボレーションには挑戦したいと語る一方で、手当たり次第に協業するつもりはないと断言する。

「JALスカイ札幌さんとも、ゴールデンカムイとも、なぜコラボするのかといった理由やストーリーが明確で、そこに共感してくれる方がいたからこそ、うまくいったのでしょう」(本間さん)

「まだ生き残っているんだね」

今後は、今まで支えてくれた常連客やファンを裏切らないお菓子を作り続けることを第一に考えたい、と本間さん。そして、一人でも多くの新しいお客様に、昔ながらのシンプルなお菓子の魅力を知ってもらいたいとも話す。

老舗和菓子屋ほんまが札幌市豊平区に構える「月寒総本店」(筆者撮影)

老舗和菓子屋ほんまが札幌市豊平区に構える「月寒総本店」(筆者撮影)

「あんこ菓子は、トレンドのお菓子ではないかもしれません。『まだ生き残っているんだね』と言われて落ち込むこともあります。ですが、そこでへこたれないのは、まだ当社のお菓子を食べたことが無い方がたくさんいるはずだから。道外はもちろん、札幌市内にも月寒あんぱんを食べたことがない方は相当数いるでしょう。

そういった方々に、シンプルなお菓子の魅力を知ってもらうための手段として、話題性のあるコラボは有効だと考えますし、今後も挑戦していきたいです。昔からの製法を守りながらも商品の見せ方を変えることで、多くの人に知っていただけるのかなと思います」(本間さん)

本間さんが社長に就任して16年。「月寒あんぱんの歴史的価値も含めて、後世に残しておきたい気持ちが日に日に強くなっている」と目を輝かせる。

株式会社ほんま代表取締役社長の本間幹英さん(筆者撮影)

株式会社ほんま代表取締役社長の本間幹英さん(筆者撮影)

今後の新商品開発やコラボの予定については、具体的な内容については構想中とのこと。ただ、若年層をはじめとした新規顧客を獲得するためにより認知度を高めたいとのことなので、今後もゴールデンカムイのような有名作品とのコラボが見られるのではないだろうかと筆者は予想する。また、月寒あんぱんは創業の地、札幌市や工場のある恵庭市のふるさと納税返礼品にも採用されている。

幼少期から月寒あんぱんの大ファンだった筆者としても、明治生まれの月寒あんぱんが令和の日本にどう受け入れられていくのか、これからも注視していきたい。

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提供元:北海道「月寒あんぱん」人気アニメ商品で得た成果|東洋経済オンライン

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