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2022.08.24

介護離職で心が不安定に…50代女性が復職した訳|仕事を親の介護のために辞めてはいけない理由


訪問診療の様子(写真:筆者撮影)

訪問診療の様子(写真:筆者撮影)

コロナ禍で病院での面会が制限されていることなどを背景に、需要の高まりを見せている在宅ケア。家での療養生活を支えるのが、患者宅を訪問して診療を行う在宅医などだ。

これまで1000人を超える患者を在宅で看取り、「最期まで自宅で過ごしたい」という患者の希望を叶えてきた中村明澄医師(向日葵クリニック院長)が、若い人たちにも知ってもらいたい“在宅ケアのいま”を伝える本シリーズ。

5回目のテーマは、現役世代が悩む「仕事と介護の両立」について。働きながらの介護を無理なく両立させるには、どんなことが必要なのか。使える制度や介護保険サービスも含めて解説する。

幼稚園教諭として長年仕事を続けているAさん(50代、女性)。

認知症の母親(90代、要介護4)と2人暮らしで、介護保険サービスを活用しながら、仕事と介護を両立させています。私は母親の在宅医療の担当医として訪問診療を続けるなかで、介護と仕事の両立に奮闘するAさんの様子を見てきました。

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介護保険は40歳以上が全員加入して介護保険料を納め、介護が必要になったときに所定の介護サービスが受けられる制度です。

65歳以上は「第1号被保険者」、40~64歳は「第2号被保険者」となり、第1号被保険者は、要介護状態になった原因を問わず、1~3割の自己負担で介護保険のサービスを受けられます。第2号被保険者は、16の特定の病気によって要介護状態になった場合に限り、介護保険のサービスを受けることができます。

介護保健サービスのしくみ

介護保険サービスには、自宅で利用する訪問介護や訪問看護、日帰りで施設を利用するデイサービスやデイケア、短期間施設に宿泊するショートステイや入居型の特別養護老人ホームなど、さまざまな種類があります。

このうちAさんの母親が主に利用しているのが、デイサービス(通所介護サービス)です。デイサービスの施設には介護職員らが常駐しており、入浴や食事、排泄など介助をしてくれるほか、レクリエーションを楽しむこともできます。母親はAさんが仕事に出かけている間、朝9時から夕方5時までデイサービスで過ごしていました。

「仕事が生きがい」と話す一方で、母親のことをとても大切にされているAさんは、母親が楽しく通えそうなデイサービスを入念に検討し、利用を決めました。勤務時間中は介護職員が見守ってくれていることで、「安心して仕事に取り組める」と言います。

そんなAさんですが、肺炎で一時期入院していた母親が退院してから、仕事を休んで介護に専念していた時期がありました。その頃のAさんは、常に母親のことで頭がいっぱい。母親のちょっとした変化がとても心配で、1日に何度も相談の連絡が入ることもありました。

娘と母、不安の連鎖が始まり…

「お母さんの介護がすべて」という毎日を送っているなかで、知らず知らずのうちに心の余裕がなくなっていたのでしょう。目の前で娘が不安になっている様子を見て、母親にも不安が伝染して落ち着かず、さらに娘が心配になるという負の連鎖が起こるようになり、「仕事から離れて介護に専念する」というAさんの選択に限界が見え始めていました。

幼稚園教諭という仕事が好きで、介護に集中する日々のなかでも「仕事に戻りたい」という気持ちを持ち続けていたAさんは、介護に専念して2年を迎えた頃に、仕事に復帰。それ以来、介護保険サービスを活用しながら仕事と介護を両立し、現在に至ります。

仕事に復帰してからのAさんは、不安で感情的になりやすかった面も随分と落ち着き、イキイキとした表情に変わりました。介護以外に必要とされる場所があることが、ポジティブな変化を生んだようです。

デイサービスに通い始めた母親にも前向きな変化がありました。

施設では同年代の利用者さんと話すようになり、家でもAさんとの会話が増えたと言います。こうした2人の変化を間近で見るなかで、外の社会とのつながりや自分の時間を持つことは、患者さんにとっても家族にとっても本当に大切なものだと改めて実感しました。

在宅ケアが必要になったときに大切なのは、必ずしも家族が直接介護に関わることだけではありません。「自宅で過ごしたい」という思いを支える方法には、さまざまな手段があります。同じ病気であっても、患者さんの性格や病気の受け止め方、家族の環境などで選択はそれぞれ変わってきます。何が正しいということはなく、大事なのは、それぞれの状況や思いに合う選択です。

私は時々、企業に出向いて介護について講演をさせていただく機会がありますが、その際には必ず「支えるご家族が、介護のために仕事を辞めることは、できるだけ避けてください」とお伝えしています。経済的な問題も理由の1つですが、支える側である家族の人生も大切にしていただきたいと思うからです。

在宅ケアは「患者さんご本人がどう過ごしたいか」ということはもちろんですが、「家族がどう支えていきたいか」という点も大切です。つらいことではありますが、患者さんが最期を迎えられたあとも、残された家族の人生は続きます。

その渦中にいるときは、目の前のことで精一杯になるのは当然ですが、「今」の過ごし方を考えるだけでなく、その「あと」の家族の過ごし方についても、ぜひ視野に入れていただきたいのです。

介護が必要な状況に直面して、「介護の担い手が自分しかいない」「とりあえず仕事を辞めたらなんとかなる」と思うのは、絶対に避けたいことです。とりあえず仕事を辞めても、どうにもならないことは明白です。

大事なことなので繰り返しますが、自分が直接的に手を出すことだけが介護ではありません。ですから、まずは仕事を続けながら介護を両立できる方法を地域包括支援センターやケアマネージャーと相談しながら検討することから始めてほしいのです。

介護保険サービスの種類

仕事と介護の両立は困難なものだと捉えられがちですが、訪問介護やデイサービス、ショートステイなど、さまざまな介護保険サービスをうまく組み合わせることで、家族の負担を軽くできます(下の表)。

主な介護サービス(厚生労働省介護保険制度資料を基に編集部作成)

■自宅で利用するサービス
訪問介護:訪問介護員(ホームヘルパー)が、入浴、 排せつ、食事などの介護や、調理、洗濯、掃除などの家事を行うサービス
訪問看護:自宅て療養生活が送れるよう、看護師などが清潔ケアや排せつケアなどの日常生活の援助や、医師の指示のもと必要な医療の提供を行うサービス
福祉用具貸与:日常生活や介護に役立つ福祉用具(車いす、ベッドなど)のレンタルができるサービス

■日帰りで施設などを利用するサービス
通所介護(デイサービス):食事や入浴などの支援や、心身の機能を維持・向上するための機能訓練・口腔機能向上サービスなどを日帰りで提供する
通所リハビリテーション(デイケア):施設や病院などにおいて、日常生活の自立を助けるために理学療法士、作業療法士、言語聴覚士などがリハビリテーションを行い、利用者の心身機能の維持回復を図るサービス

■宿泊するサービス
短期入所生活介護(ショートステイ):施設などに短期間宿泊して、食事や入浴などの支援や心身の機能を維持・向上するための機能訓練の支援などを行うサービス

■小規模多機能型居宅介護
利用者の選択に応じて、施設への「通い」を中心に、短期間の「宿泊」や利用者の自宅への「訪問」を組み合わせて日常生活上の支援や機能訓練を行うサービス

■定期巡回・随時対応型訪問介護看護
定期的な巡回や随時通報への対応など、利用者の心身の状況に応じて24時間365 日必要なサービスを必要なタイミングで柔軟に提供するサービス。訪問介護員だけでなく看護師なども連携しているため、介護と看護の一体的なサービスを受けられる

実際に、そうしたサービスをうまく使うことで、フルタイムで働きながら介護を継続されている方はたくさんいます。保育園や幼稚園を利用して、子育てと仕事を両立している方がたくさんいるのと一緒です。

どうしても一時的にまとまった時間を確保しなくてはいけない場面が出てくることもあります。そんなときに大きな助けになるのが、「介護休業」という制度です。

介護休業は、家族に介護を必要とする人がいる場合に長期の休みを取得できる制度で、法律で保障されています。要介護状態(または2週間以上常に介護を必要とする状態)で介護が必要な家族1人につき、通算93日まで休みを取ることができます。

また最大で3回まで、分割して取得することも可能です。雇用保険の被保険者で、一定の要件を満たす方であれば、介護休業期間中に休業開始時賃金月額の67%の介護休業給付金も支給されます。

ここで大切なのは、「いつ」介護休業を取得し、何をするかということ。介護休業というのは、「仕事と介護を両立できる体制を整えるための準備期間」としての休業期間で、自らが介護を直接担うためにあてる期間ではないと考えます。

直接的な介護をするのであれば、93日間の期間ではまったく足りません。ですので、介護休業は、例えば役所への申請や、介護サービスの手配、地域包括支援センターやケアマネジャーへの相談、家族で介護の分担を決めるなど、あくまで「これから介護と仕事を両立する上で、できるかぎり無理なく続けるための段取りをする」期間と考えましょう。

短期の休みは「介護休暇」を利用

この介護休業とは別に、通院の付き添いなどで短時間の休みが必要な場合には「介護休暇」制度を利用することができます。介護休暇は、1日または時間単位で取得できる休み。介護保険制度の司令塔的な役割で、介護を受けられるようにケアプランを作成したり、介護サービス事業者との調整の役割も担ったりするケアマネジャーとの短時間の打ち合わせに利用したり、介護保険を申請したりするときなどにも活用できます。

対象家族が1人の場合には年に5日まで、2人の場合には年間10日まで取得することができます。

少子高齢化が進むなか、仕事と介護との両立のための法的な整備は進んでいます。必要に応じて制度を利用し、介護保険サービスもうまく活用しながら、自分で「介護をし過ぎない」仕組みを作っていくことが大切です。

介護がまだ始まっていない方も、事前にこうしたことを知っておくと、いざというときに慌てないですみます。介護はいつ始まるか分からないからこそ、使える制度やサービスにどんなものがあるのか、介護に直面したときにどこに相談すればよいのかを知っておきましょう。

介護についての相談の最初の窓口となるのが、地域包括支援センターです。地域包括支援センターは、地域の高齢者の暮らしを介護・医療・保健・福祉などの面から総合的にサポートするために設置されている機関で、市町村が委託する組織によって公的に運営されています。

ただ、地域包括支援センターなどの相談窓口は、「その場で問題を解決してくれる場所」ではなく、「選択肢を提示してくれる場所」です。相談に行くときには、例えば「仕事に戻りたい」けれど「日中、家で1人にしておくことが心配」など、「何に困っていて、どうしたいのか」を明確にしておきましょう。さらに「こうしたい」という希望もセットで話すことで、より希望に合った選択肢を提示してもらえます。

家族が仕事にいっている間に、1人でご自宅で過ごすことが難しい場合には、冒頭のAさんの母親が利用しているデイサービスのように、「仕事に行っている間に預けられる場所」が必要になってきます。

ここで問題になるのは、利用者が「行きたくない」と言い出す場合です。そうしたときは、なぜ行きたくないのかを、まず聞いてみること。なぜなら「デイサービス=やりたくないことをやらされる場所」「認知症の方がたくさんいる場所」など、ネガティブなイメージが先行していることがあるからです。

しかし、一口にデイサービスといっても、今は施設によってさまざまな特色があり、実際に足を運んでみると、イメージと違うこともあります。利用者に合った施設選びができると、単に預けるだけではなく、本人にとってより有意義な時間を過ごすことができます。

デイサービスを検討する際には、下見をしたうえで、本人の希望に合った施設を選ぶとよいでしょう。

「行く気にさせる」話術とは

本人の「行きたくない」気持ちに働きかけるには、話の持ちかけ方も大事です。「あそこに行けば、囲碁ができますよ」など、“施設だからできること”を挙げてお誘いするのも1つ。また意外と「みんなが行ってるよ」という一声が決め手になる人も多いです。

ちょっとしたことではあるのですが、利用する本人が「それなら行ってみようかな」と思える伝え方を心がけることで、介護サービスへの印象も変わってきます。

仕事をしながらの介護は大変なこともありますが、利用できる制度やサービスもたくさんあります。家族だけで悩まず、こうした公的な支援をとことん活用することで、本人も家族も、それぞれの人生を大切に過ごしていってほしいと思います。

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提供元:介護離職で心が不安定に…50代女性が復職した訳|東洋経済オンライン

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