2022.08.19
「酷暑続きによる体力の消耗」を超回復する養生法|まずは「体が干からびた状態=陰虚」かチェック
酷暑による体のダメージを回復させる、養生法を紹介します(写真:Ushico/PIXTA)
暑い日が続きます。都心では今年、猛暑日が最多を記録したそうですが、イギリスのTIME.comの記事(2014年9月22日)が興味深い内容を発表していました。少し古い記事になりますが、ご紹介します。
温暖化が体に与える影響として、暑さによる死、呼吸器官への影響、感染症の増加、水系感染症、食料不足、精神面への影響の6つを挙げているのですが、実は、これらのほとんどは、3000年以上前に漢方医学が指摘していた事項と重なっています。
漢方でも、熱による症状は冷えによる症状より影響が大きいとしています。江戸時代の名医、尾台よう堂(おだいようどう)は、「手を氷に入れても大きなケガをすることはないが、火に入れてしまったら回復させるのは難しい」と、熱による病気の恐ろしさを強調しています。
実際、暑さによる熱中症では、ついさっきまで元気だった人が急に体調を崩し、亡くなるケースがあります。また、意外と知られていませんが、熱中症の後遺症で苦しむこともあります。
温暖化で「陰虚体質」が増えている
漢方では、人間の体は気(き)、血(けつ)、水(すい)という3つの要素によって成り立っていると考えます。
気は人間の体を動かす生命エネルギーです。目には見えませんが、なくなれば生命を維持することができなくなります。血は体の中を流れる赤い液体。西洋医学でいう血液と同じく、全身に酸素や栄養を運んだり、ホルモンバランスを調整したりします。水は体液全般。鼻水や尿、リンパ液といった体の中のあらゆる水分を指し、免疫にも深く関わっています。
気と血、水は互いに深く関わり合っていて、どれが欠けても生命を維持することができなくなります。健康を維持するには、この気、血、水の3つのバランスがとても大切なのです。
暑さによる影響は、まず水に及びやすいです。暑さにより体内の水が不足した状態を、漢方では「陰虚(いんきょ)」といいます。陰虚とは、水(陰)が不足(虚)した状態です。
毎年の暑さを何の対策もせず過ごしていると、年々じわじわと干からびるように体力が落ちていきます。この状態も陰虚です。
自然界でも日照りが続くと地面がカラカラに乾き、ひび割れをしますが、人体も同様に水が不足すれば皮膚や筋肉、神経、内臓などの細胞の働きが低下します。
体を冷やす働きのある水分が不足して潤いがなくなるので、余計な熱が生じやすくなり、のぼせやほてりなどの症状が出やすくなります。
乾燥するので結果として感染症にもかかりやすくなりますし、心が熱を持つとカーッとしやすく、イライラしたり、キレやすくなったりします。動悸や不眠、めまい、耳鳴りが起こることもあります。
陰虚による主な症状
・体の熱感
・手のひらや足の裏のほてり
・のぼせ
・イライラ
・不眠
・寝汗
・から咳
・口や喉の渇き
・口臭
・皮膚や髪、目の乾燥
・便が硬い、兎糞のような便
・ドライシンドローム(ドライアイ、ドライマウス、ドライジャバナなど)
こうした症状を自覚しなくても、舌で陰虚の傾向を知ることができます。鏡の前でべーっと舌を出し、その様子を観察してみましょう。以下のような状態であれば、陰虚の可能性が高くなります。
舌でわかる陰虚の状態
・舌の色:全体的に赤い
・舌の苔(付着物):少ない、舌の表面がツルツル
・舌の表面:裂け目やひび割れがある、裂紋(れつもん:舌に亀裂)がある
陰虚はただ水分を補っても解消されず
陰虚という状態を簡単に示すと、“水分保持力の低下”になります。
陰虚になるとのどが渇きますが、飲んでも水を保持する力が弱いので、すぐに出ていってしまいます。乾燥して硬くひび割れた地面は、水を撒いてもすぐに吸収されないのと同じです。
このような場合、時間をかけて少しずつ霧吹きで水をやれば、徐々に水分が吸収されます。同じように、少しずつこまめに水分を摂取するのが大切です。みずみずしい野菜やくだものを食べて、水分補給をするのもよいでしょう。
皮膚の保湿もこまめにするようにしてください。皮膚の中までしっかり水分が浸透するように、じっくりと時間をかけて潤してください。顔ではコットンにたっぷりと水を含ませて10分程度パックし、直後に乳液やオイルを塗るのがおすすめです。
こうした対策に加えて、陰を補う食材や生薬を摂るなどして、潤い不足を悪化させないように心がけることが大切です。
気を付けたいのは、とうがらしやニンニク、山椒などの香辛料です。温めて水気を飛ばす働きが大きいスパイスは、体をほてらせ、潤いを奪ってしまいます。陰虚の人にとっては大敵です。飲酒も陰虚を悪化させるので控えましょう。
肉や、油っこい物の食べすぎも、発汗やほてりを悪化させます。揚げ物は避け、あっさりとした味付けで、野菜中心のメニューを選ぶようにしましょう。
陰を強力に補う代表的な食材は、すっぽんです。亀の甲羅を生薬にした亀板(きばん)は、“補陰の女王”といわれています。このほか、鴨肉も熱を冷ましてくれる食材です。豚肉やはまぐり、れんこん、ゆり根、白きくらげ、豆腐、クコの実、梨などもいいでしょう。
また漢方には“酸甘化陰(さんかんかいん)”という言葉があるように、甘酸っぱいものは陰を養う働きがあります。ぶどうや梨、みかん、ライチ、レモン、トマトなどは甘味と酸味で陰を補い、体を潤してくれます。
自分で作るハチミツレモンもおすすめです。ハチミツ、レモン果汁を各大さじ1杯、コップに入れて水で薄めます。胃の働きを高めたいときは、最後に黒胡椒を一振りします。塩を一つまみ入れれば、経口補水液の代用にもなります。
汗のかきすぎは実は要注意!
陰虚の人は汗をかきやすいため、過度の運動や発汗は陰を消耗し、体調を崩す原因となります。炎天下でのスポーツ、サウナ、ホットヨガ、岩盤浴でびっしょり汗をかくようなことは不向きです。
水泳やアクアビクスなどの水中の運動はおすすめですが、水中でも体を動かせば陰を消耗しますので、水分補給は忘れずにしたいところです。
陰のエネルギーは、陰の時間帯である夜中に養われます。本来なら安静にすべき夜間に仕事や趣味に没頭すると、陰を消耗することになります。徹夜明けに目が充血したり、のどが渇いて体がほてりやすくなったりするのは、陰である体液が消耗するせいです。
陰虚の状態では、疲れているのに眠れず、熟睡感の少ない、夢の多い浅い眠りになる傾向にあります。熱がこもってイライラし、眠ろうと思えば思うほど眠れないものです。だからといって、スマホを見たり音楽を聴いたりするのはあまりお勧めできません。
中国最古の医学書『黄帝内経(こうていだいけい)』には、「臥(が)すれば血、肝に帰す」という言葉があります。たとえ眠れなくても体を横たえれば重力から開放されて、体は休まります。脳を休めることも大切ですが、まずは体を休めることに集中してください。
6~8時間ほど体を横にして休めば、たとえ脳が睡眠していなくても、ある程度は元気になれます。眠れないことに神経質になりすぎないことが大事です。
治療院に来る患者さんには、猛暑の日中はなるべく外に出ないようにとお伝えしています。体調が悪いのに、暑い日の日中に出かけている人が意外と多くて、驚きます。
暑い日差しの中で汗をかき、冷房の強い店に入るということを繰り返すと、自律神経が失調しやすくなります。猛暑の日は活動を控え、涼しい日、時間帯にまとめて用事を済ませるようにするとよいでしょう。
まったく動かず、ずっとテレビやパソコンの前にいるのもよくありません。室内で汗をかかない程度の運動(ヨガやストレッチなど)や、掃除をするのがおすすめです。夏休みの休日は、涼しい室内で普段手の行き届かないところをきれいにしてみてはいかがでしょうか。
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提供元:「酷暑続きによる体力の消耗」を超回復する養生法|東洋経済オンライン