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2022.08.15

空き家問題、移住希望者いるのに解決せぬ根本理由|空き家情報サイトの運営から見えてくるもの


「LIFULL HOME’S」の空き家バンク(写真:板垣聡旨)

「LIFULL HOME’S」の空き家バンク(写真:板垣聡旨)

空き家問題が年々深刻化している。総務省の直近データによると、2018年10月時点で全国の空き家率は13.6%となり、過去最高だった。このままのペースでいくと、2033年の空き家率は30%を超え、3軒に1軒が空き家になるとされる。

この状況をどう解決していくのか。不動産情報サービス、LIFULL(ライフル)社長の井上高志氏(53)は、情報の的確な提供が最重要だと言う。「空き家の見える化と人材開発をしなければ課題解決にはならない」とする、その真意とは。

自治体の情報提供の方法がバラバラだった

不動産情報サイト「LIFULL HOME'S(ライフル ホームズ)」を運営するライフルは、今年で設立25周年になる。空き家問題にも早くから取り組み、2017年9月から「LIFULL HOME'S 空き家バンク」を提供している。

これは、全国の空き家や空き地の情報を一括して検索できるサイトで、国交省のモデル事業に採択された。空き家バンクのモデル事業としては、ほかには競合のアットホームが運営するサイトしかない。

LIFULLのサイトは、各自治体が個別に公開している空き地・空き家の情報を一元化してユーザーに提供し、物件の利活用を促進する狙いだ。自治体に対しては物件の情報を登録、編集、公開するシステムを無償提供している。

井上氏は言う。

「創業時から社会課題をビジネスで解決していく経営を続けています。空き家問題の解決には多額の税金が投入されてきたものの、国の政策が有効打となっていない。だからこそ、そこにビジネスチャンスがあると思い、まずは空き家の見える化を図りたいと考えました」

空き家バンクの全国版ができる前、自治体の対応は千差万別だった。情報提供の方法すら統一されておらず、使用されているフォーマットもWord、Excel、PDFとばらばら。関連情報を提供する自治体のWebサイトも仕様がすべて違っていた。

「使い勝手が自治体ごとに異なり、空き家を探そうとする利用者には不便な状況が続いていたのです。そんな状況を解決したいと考え、私たちから国交省に全国版空き家バンクの展開を提案しました」

井上高志(いのうえ・たかし)/1968年生まれ。リクルートなどを経て、1997年ネクスト(現・LIFULL)を設立。一般財団法人Next Wisdom Foundation 代表理事、一般財団法人 PEACE DAY 代表理事なども務める(写真:板垣聡旨)

井上高志(いのうえ・たかし)/1968年生まれ。リクルートなどを経て、1997年ネクスト(現・LIFULL)を設立。一般財団法人Next Wisdom Foundation 代表理事、一般財団法人 PEACE DAY 代表理事なども務める(写真:板垣聡旨)

空き家の問題は深刻だ。新築住宅数は増加傾向にありながら、世帯数は減少している。総務省が5年ごとに実施している住宅・土地統計調査の最新版によると、2018年10月時点で全国には空き家が846万戸あり、2013年から26万戸も増えた。

空き家率も13.6%となり、1963年の調査開始以降、最も高い割合になった。この調査を元に野村総研が描いた将来絵図によると、空き家の撤去や再利用がなく、このままのペースでいくと、2033年の空き家率は30%を超えてしまい、「3軒に1軒は空き家」という時代がくる。

2015年の特別措置法では一定の基準を満たした場合、自治体が強制的に空き家を除却できる制度が生まれた。2019年には、空き家対策のために33億円の国費が投入された。そうした対策はその後も継続しているが、空き家問題は一向に好転していない。

空き家利用者の家計や事業のサポートが不可欠

LIFULLの空き家バンク利用者は、25~45歳が中心だ。移住目的のほか、趣味のためのセカンドハウス、あるいはシェアオフィスやゲストハウス、カフェといった事業に活用する場合もある。

しかし、空き家の再利用を促す情報提供だけでは、問題の根本は解決しないと井上氏は言う。なぜなら、空き家問題は住宅に人が住み続けてこそ解決に向かうのであり、そのためには空き家利用者の家計や事業をサポートする仕組みが欠かせないからだ。

「空き家はうまく使えば、地方創生のカギとなります。その地域の経済が活性化していなければ、空き家利用者もすぐ出ていってしまうでしょう。地域も潤いません」

そのため、LIFULLはカフェなどを手掛けたいといった事業案が移住者にある場合、それが円滑に進むよう支援する仕組みもビジネスとして手掛けている。

1つは、子会社のLIFULL Investmentが2018年11月に創設した「LIFULL地域創生ファンド」。LIFULLは有限責任組合員としてファンドに出資している。

これまでの投資実績は複合施設やアパートメント事業の計3件で、それぞれのファンド規模は30億~50億円という。融資やファンドのほかにも、空き家の活用術や地域の特性を踏まえた事業展開の相談にも応じるコンサルタント事業も手掛ける。

井上氏が続ける。

「人を育成・発掘するために、地域ごとの起業家たちと組んでコンサル業を行っています。『移住者からこんないい案が出たんだけど誰か一緒にやりたい人いないか』や『この地域にこんなビジネスチャンスがあるんだけどいい移住者を知らないか』などの会話が生まれる場所としています」

例えば、香川県にある空き家を宿泊施設とうどん体験施設にリノベーションし、海外からの観光客向けに1泊2日のうどん宿泊体験ツアー事業を開始したところ、満席続きの人気事業となったという。

自治体は人員も時間も足りない

空き家の数が増えていく一方で、自治体の管理が追いついていない。そんな実態が明らかになった調査結果もある。

総務省と国土交通省が2017年10月から2019年1月にかけて実施した「空き家対策に関する実態調査」によると、空き家対策に取り組む自治体からは、対策を講じることのできない理由として、「人員不足のため空き家対策の準備が困難」「管理不全の空き家等に対する個別の対応要請が多く、その対応で手一杯であり対策計画を策定する余裕がない」といった声が頻発した。

要は、人員と時間が足りないという指摘だ。実際、この調査からは、空き家対策を1人から3人程度の人員で実施せざるをえない自治体の実態も浮かび上がっている。

井上氏が指摘するように、空き家問題を自治体のみで解決するのは、もう限界に達しているのだ。

「今後、空き家が増え続けていくと、行政だけに頼らない対策が必要となってきます。空き家の所有者からの要望を個別に聞き、行政や空き家の利用希望者に橋渡しする。その業務を一元的に管理できる人材が求められていると考えます」

その業務を担うのが空き家の相談員だ。

この相談員は、自治体から業務の委託を受け、空き家の所有者や将来的に空き家になりそうな物件の所有者から相談を受ける。必要に応じて不動産事業者とも連携を取り、その地域性に合った空き家活用の道を模索する。

LIFULLは2019年5月から「空き家の相談員」の育成を手掛けており、座学や現地でのフィールドワークを開催してきた。リフォーム事例や空き家の管理方法から法的解決事例、近隣対策まで、あらゆる課題に対応する人材育成を図る目的だ。

井上氏が続ける。

「空き家の所有者で相談に来る人の多くは『自分が何をしたらいいのかわからない』と言います。そんな人たちに助言を行い、自治体の相談業務の負担を減らす。実は、こうした実務の蓄積こそが、空き家問題の解決への一歩となるのではないでしょうか」

移住者に地域のマンパワーになってもらう

LIFULLは、より踏み込んだサポートを行うために、全国の相談内容とその回答をデータベース化した。類似の相談に対する回答や窓口運営のノウハウを整理して共有していくWebサイトも提供している。

井上氏は空き家活用の経済圏を作る必要性を訴えたうえで、「空き家の利活用で地方移住を推進するには、移住希望者へ実際に住んでもらえるよう、自治体が移住希望者にアプローチできる仕組みが必要だ」とした。

コロナ禍によるテレワークの拡大で、地方移住の条件は整い始めた。それも踏まえて井上氏が話す。

「地方へ移住を考えている人は一定数います。ただ、どうして地方移住が進まないのか。移住後に地域になじめない、仕事が合わないといったミスマッチのおそれがあるからです。地方へ移住してもらうだけでなく、いかにその地域のマンパワーとなってもらうか。空き家再生のカギはここにあります」

内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局が2021年5月に公表した報告書によれば、東京圏在住者の49.8%が「地方暮らし」に関心を持っていることが明らかになっている。

一方、民間のシンクタンクであるパーソル総合研究所が2022年3月に公表した「地方移住に関する実態調査」によると、地方県への移住意向がある就労者(2998人)のうち51.3%は、何らかの不安があって移住に踏み切れずにいる状態にあることがわかった。

この調査では、移住を検討する際に最も重視するのは「日常生活での買い物に不便がない」(76.4%)、「地域の医療体制」(75.0%)、「街並みの雰囲気の良さ」(72.2%)の順となった。

移住者マッチングサービスを昨年スタート

LIFULLは地方移住マッチングサービスの「LOCAL MATCH」を2021年5月にリリースした。

このサービスは(1)地域の仕事情報や体験宿泊、イベント開催、相談サポートに関する情報の提供、(2)登録ユーザーと自治体・地域企業間でメッセージのやり取り、(3)地域の実情を知ってもらうことを目的としたオンラインイベント「LOCAL MATCH TALK」の開催などを実装している。

サービス開始から1年あまり。手応えはあったのか。

「まだ1年ですから、これといった大きな実績はとくにありませんが、5年後、10年後に地方と移住希望者をつなぐ一大サービスになっていればいい。行政同士の協働もそうですが、今後は柔軟な対応ができる民間との連携が必要となってくるでしょう。空き家問題を機に、官民共に一つの社会課題の解決に取り組みたいですし、そのモデルケースとなりたいですね」

取材:板垣聡旨=フロントラインプレス(Frontline Press)所属

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