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2022.07.26

健康診断「空腹時血糖値が正常」でも安心できぬ訳|血圧、コレステロール、血糖値の数値の正しい見方


健康診断の結果表の見方をご存じですか(写真:rogue/PIXTA)

健康診断の結果表の見方をご存じですか(写真:rogue/PIXTA)

突然死の原因となる心筋梗塞や脳卒中、大動脈解離、大動脈瘤破裂といった病気は、血管が硬くなったり、もろくなったり、狭くなったりして血液の流れが悪くなる「動脈硬化」がさらに進んで引き起こされます。血管が硬くなったり、狭くなったりする背景にあるのが高血糖や高血圧、脂質異常症といった生活習慣病です。

生活習慣病を予防するために最初にするべきことは、自分の状態を「見える化」すること。そこで、健康診断における数値の見方について、新著『健康寿命を延ばす「選択」 “見える化”すれば、“合理的に”選べる』を上梓した聖路加国際病院・心血管センターの循環器内科医である浅野拓氏が解説します。

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生活習慣病は動脈硬化を進めてしまう

「高血圧」「脂質異常症」「糖尿病」は三大生活習慣病です。なぜ「三大」生活習慣病と呼ばれるのかといえば、血管を老けさせるから。つまり、血管が狭くなったり詰まったりする「動脈硬化」を進めてしまうからです。

血圧が高かったり、血糖値が高かったり、コレステロール値が高かったり、喫煙していたりすると、物理的なストレスに加えて酸化ストレスというものが生じて、血管の内側の壁が軽く傷つけられます。

その傷つけられた部分に白血球がやってきて、壁の内側に入りこみます。さらに、血中に余分なコレステロールがたまっていると、その傷からコレステロールもどんどん壁の内側に入ってきてしまいます。

血管の壁の内側に入りこんだ白血球は、コレステロールをどんどん捕食していくのですが、食べ続けたあとで死んでしまいます。そして、コレステロールをバーッと広げてしまう。その結果、ゴミのようなコレステロールの塊が、血管の内側でどんどんたまっていくのです。

コレステロールの塊が血管の内側にたまっていくと、“山(火山)”ができて、血流を妨げます。この山が噴火を起こすと、中のコレステロールが飛び出て血液と混ざり、一気に血栓(血の塊)がつくられます。すると、一瞬で血管が詰まるのです。

この山は一度できたら引っ込みません。よく「薬で治りますか」「薬を飲んだら狭まった血管が元に戻りますか」と患者さんから聞かれるのですが、今の医学では難しいのです。

でも、山ができてしまっても噴火させなければ支障はありません。例えば、血管の内側の山がだんだんと大きくなって、やがて血管を詰まらせてしまったとしても、そういう詰まらせ方であれば、救急車で運ばれるような事態になることはほとんどありません。あるとき心臓の検査を受けたら、たまたま血管が詰まっていることが見つかるというようなことが多いのです。つまり、生活に支障はないわけですね。

支障がないなんてことがあるのか、とお思いの方もいらっしゃるでしょうが、生き物の体は非常によくできているもので、血管がゆっくりと詰まる場合は、隣にある血管が「助け舟」を出し、ある程度代償してくれるので、緊急を要するようなことはそう起こりません。

怖いのは、あくまでも“火山”が突然噴火すること。そしてこの噴火は、三大生活習慣病がコントロールできていない方に起こりやすいことがわかっています。ですから、火山を死活化させることが大事です。

血圧、コレステロール、血糖値のコントロールが大事

では、死活化させるために大事なことは何かといえば、動脈硬化を進め、火山を噴火させる要因になるものを取り除くこと。つまりは、血圧、コレステロール、血糖をコントロールすることです。

「健康診断で血糖値が引っかかりました」「コレステロールが高いと言われました」「血圧が高いと言われました」――と、外来にいらっしゃる患者さんは少なくありませんが、話を聞いていると「なぜいけないのか」をあまりわかっていらっしゃらない人が多い印象があります。

「なぜいけないのか」というと、血管をボロボロにして心筋梗塞や脳梗塞といった“火山の噴火”を起こしてしまったり、大動脈破裂などを起こして突然死の原因になったりするからです。

さらには、全身の臓器に酸素を送り届けているのが血管なので、脳の血管が障害されれば認知症にもなりますし、目の血管が障害されれば目が見えなくなり、腎臓の血管が障害されれば腎臓が機能しなくなり、足の血管が詰まれば悪くすると足を切断することにもつながります。神経への血管が傷つけば、熱い、痛いといった感覚が鈍くなったり、しびれが出たりといった神経障害を起こすこともあります。

こうしたリスクがあるため、たかが血圧、たかが血糖、たかがコレステロールとスルーするわけにはいかないのです。

では、どのくらいになったらリスクが上がってくるのかというと、まず血圧の場合、上の血圧(収縮期血圧)が140㎜Hg以上、下の血圧(拡張期血圧)が90㎜Hg以上で、「高血圧」と診断されます(診察室で測る血圧の場合)。

ところが、心血管病のリスクはもっと低いところから上がってくるのです。上の血圧が115㎜Hg、下の血圧が75㎜Hgを超えたあたりから、心血管病による死亡率が上がりはじめることがわかっています。なおかつ、上の血圧が20、下の血圧が10上がるごとにリスクは2倍に増えていきます。

そのため、血圧の値は実は細かく分類されていて、正常な血圧も「正常血圧」「正常高値血圧」「高値血圧」の3段階に分かれています。

(外部配信先では図や画像を全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください)

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これだけ細かく分類されているのは、上が20、下が10上がるごとに心血管病の死亡リスクが2倍に上がっていくというように、リスクが段階的に上がっていくことがわかっているからです。心血管病だけではなく、透析に至るような末期の腎不全のリスクも、上の血圧が10上がるにつれて、30%前後上がるとの報告(出所:Hypertension. 2003 Jun ;41(6):1341-1345.)もあります。

血圧を「見える化」してみると…

「血圧が10や20上がっただけで本当にそんなに変わるの?」と、不思議に思うかもしれません。そこで、なんとかそれを見える化できないかと思い、ちょっとした実験を行ってみました。

プラスチック手袋の中指の部分を切って2枚重ねにして、空気を入れて、血圧と同じぐらいの圧をかけてみたのです。115㎜Hg、135㎜Hg、155㎜Hg、175㎜Hgという圧をそれぞれかけたときに、どのぐらい膨らむのかを試してみたのが下の写真です。

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どうでしょうか? 結構違いますよね。175㎜Hgまでいくと相当パンパンで、実は空気を入れる作業はかなり難航して、何度か割ってしまいました。もちろん血管はこのぐらいの圧にも耐えられる強さ、柔軟さをもっています。だから、「血圧が170もあったら、血管が耐えられなくなって裂さけるんじゃないか」などと不安になる必要はありません。体というのはよくできているのです。

私がこのビジュアルで伝えたかったのは、正常な血圧の人と比べると、血圧が高い人はこれだけの圧がかかっているんですよ、ということです。

次にコレステロールはというと、血管の内側にできる“火山”のマグマの部分に当たるのがコレステロールです。コレステロール(=マグマ)が増えれば、火山の不安定性が高まるので噴火しやすくなります。ですから、コレステロールのコントロールはやっぱり大事です。

ここで、コレステロールについて改めて簡単に説明をしておきましょう。コレステロールは脂質の1つで、いわゆる油なので、水分である血液とはなじみません。そのため、血液のなかを運ばれるときには、水となじみのよい「リポたんぱく」という“船”に乗って運ばれます。それが、「LDL(低比重リポたんぱく)」であり「HDL(高比重リポたんぱく)」です。

LDLに乗って運ばれるコレステロールが「LDLコレステロール」で、肝臓でつくられたコレステロールを全身に運ぶ役割をもっています。ところが、これが増えすぎると、血管の内側の壁に入りこんで動脈硬化の原因になってしまう。それが「悪玉コレステロール」と呼ばれる理由です。

HDLは血管の壁にたまった余分なコレステロールを回収して肝臓に戻す役割をもっています。つまり、動脈硬化を抑える働きをしてくれるので、HDLに乗って運ばれるコレステロール(HDLコレステロール)は、「善玉コレステロール」と呼ばれます。

もう1つ、健康診断で必ず測定されるのが「総コレステロール値」です。これは、血中に含まれるコレステロールの総量を表し、LDLコレステロールとHDLコレステロール、そして中性脂肪に含まれるコレステロールの合計になります(単純な足し算ではないですが)。

そして、悪玉である「LDLコレステロール値が140㎎/dl(デシリットル)以上」、善玉の「HDL コレステロール値が40㎎/dl未満」、「中性脂肪(トリグリセライド)が150㎎/dl以上」のいずれかに該当すると、「脂質異常症」と診断されます。

コレステロール値と心血管病のリスクとの関係

コレステロール値と心血管病のリスクとの関係については、次のようなことがわかっています。

・総コレステロール値が38.7㎎/dl上昇すると、冠動脈疾患リスクが男性で24%、女性は20%上がる(出所:Atherosclerosis. 2016 May;248:123-31.)

・LDLコレステロール値を38.7㎎/dl下げると、心筋梗塞の発症や心筋梗塞にかかわる死亡のリスクを23%下げられる(出所:JAMA. 2016 Sep 27;316(12):1289-97.)

また、LDLコレステロール値のおもしろいところは、下げれば下げるほど、リスクが下がること。「The lower, the better」と言われ、低ければ低いほどよいのです。

血圧も血糖値も低すぎると、低血圧、低血糖になり、よくありません。ところが、LDLコレステロール値の場合、どこまででも下げれば下げるほどリスクが下がることがわかっています。基準値内であっても、例えば140よりも100のほうが、100よりも80のほうが、80よりも60のほうが、心血管病などを起こすリスクは下がるのです。

そのため、一度心筋梗塞を起こして再発予防が大切な患者さんなどの場合には、薬も使ってかなりしっかり下げます。

では「低ければ低いほどリスクも下がるのだから、全員が、薬を使ってできる限り下げたほうがいいのか」というと、考えなければいけないのは、“その人が持っているリスク”です。

持っているリスクが大きければ、下げ幅も大きくなるので、薬を使って下げるメリットが大きくなります。でも、もともと「10年以内に心血管病を発症するリスクは0.5%ですよ」と言われている低リスクの人が、薬を使って3割リスクを下げても、0.5%のリスクが0.35%に下がるだけです。

「そのために、毎日、薬を飲みますか」というのは、まさにその人の選択次第です。

「空腹時血糖値」「HbA1c」とは何か

血圧、コレステロールに続いて、血糖のコントロールについて説明しましょう。血糖値にはいくつか種類があります。一般的にいちばん知られているのが、「空腹時血糖値」でしょう。空腹状態で測る血糖値のことで、健康診断でもおなじみです。

次に知られているのは「HbA1c (ヘモグロビンエーワンシー)」ですが、こちらは、非常に大事な指標であるものの、健康診断の種類によっては測定されません。

HbA1cで診ているのは、血中のヘモグロビン(酸素を運ぶ赤血球内のたんぱく質の1つ)のうち、ブドウ糖とくっついたヘモグロビンの割合を示したもの。血中にブドウ糖が増えるほど(血糖値が高いほど)、ブドウ糖と結合するヘモグロビンも増えるので、HbA1cは、ここ2、3か月の血糖値の平均を反映します。

検査でHbA1cが高かった方が「昨日食べすぎちゃって」「朝ご飯を食べてきちゃったので」とおっしゃることがありますが、HbA1cというのは血糖値の平均値を表しているのですから、直前の食事は関係ないのです。

次の表のとおり、空腹時血糖値が126㎎/dl以上、HbA1cが6.5%以上だと糖尿病と診断されます。

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健診で測定されるのが、この空腹時血糖値とHbA1cですが、とくに意識してほしいのがHbA1cのほうです。なぜなら、HbA1cのほうが、リスク評価になるからです。糖尿病と診断されるのはHbA1c6.5%以上ですが、その手前の“やや高め”の段階から血管病の発症リスクは高まります。

次のグラフは、HbA1cのレベル別に、脳梗塞と虚血性心疾患(心筋梗塞と狭心症)の発症リスクを見たものです。どちらもHbA1cが上がるにつれて、階段状にリスクが上がっています。

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HbA1cが5.0%以下の人に比べて、糖尿病と診断される6.5%以上の人のリスクが高いのはもちろんですが、「糖尿病にまでは至らない“やや高め”の5.5~6.4%の人たちも脳梗塞のリスクは5.0%以下の人と比べて3.6倍、虚血性心疾患のリスクは2.1倍(これは統計学的に差を証明できていませんが、その傾向は見受けられます)と、高いのです。

「糖尿病と診断されたら気をつけよう」では遅い、ということです。

一方、空腹時血糖値は、健康診断で必ず測定される項目ですが、これだけをチェックしていてもリスクが見逃される可能性があります。

空腹時血糖値が正常でも、食後には毎回上がる人がいる

下の「DECODA study」と書かれたグラフを見てください。

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これは日本人を含めたアジア系住民のデータをもとに、空腹時血糖値、糖負荷試験(OGTT)2時間後の血糖値のレベルと、心血管死のリスクを比べたものです。

糖負荷試験とは、これも糖尿病の診断方法のひとつで、75gのブドウ糖が溶けたサイダー水をごくごく飲んで、2時間後の血糖値を測るというもの。甘い飲料を飲むとバーンと血糖値が上がります。それがスムーズに下がってくるかどうかを調べるのです。

空腹時血糖値が正常でも、実は食後には毎回血糖値が上がっている人がいます。「食後高血糖」や「血糖値スパイク」と呼ばれる状態です。糖負荷試験は、この食後高血糖(血糖値スパイク)があるかを調べる検査です。

グラフの話に戻ると、空腹時血糖値のほうは110㎎/dl以上、126㎎/dl以上と上がっても、心血管死のリスクは増えていません。糖尿病と診断されるほど空腹時血糖値が高くても、心筋梗塞などになるリスクは、109㎎/dl以下の人たちとほぼ変わりませんでした。

一方、糖負荷試験2時間後の血糖値で比べると、階段状にリスクが上がっていました。つまり、食後高血糖を起こす人は、たとえ糖尿病の段階ではなくても、すでにリスクが高いということです。

もう1つ、下の「Funagata Diabetes study」と書かれたグラフを見てください。これは、山形県舟形町の住民を対象に1990年代に行われた研究「舟形町研究」の結果です。

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「IFG」と書かれているのは、「空腹時血糖異常」といって、糖尿病ではないけれど、その予備軍(境界型糖尿病)の人のうち、空腹時血糖値がやや高い人のこと。具体的には、空腹時血糖値が100~125㎎/dlの人のことです。

「IGT」は「耐糖能異常」のことで、先ほどの糖負荷試験2時間値が140~199㎎ /dlになる、食後高血糖を起こす人のことです。

空腹時血糖値だけではリスクは見える化できない

境界型糖尿病、いわゆる糖尿病予備軍の人たちには、空腹時血糖値が高めになるタイプ(空腹時血糖異常)と、食後高血糖を起こすタイプ(耐糖能異常)があり、多くのケースではその両方を合併しています。

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空腹時血糖異常と耐糖能異常(食後高血糖)、どちらのリスクが高いかを比べたのが、舟形町研究です。1年、2年、3年……と年を追うごとに心疾患で亡くなる人がどのぐらい増えるのか(生存率がどのぐらい下がるのか)を7年後まで比べたところ、空腹時血糖異常の人は正常な人とほとんど変わりませんでした。

その一方で、耐糖能異常の人たちは、糖尿病の人ほどではないものの、正常な人に比べると明らかに生存率が下がっていたのです。

こうした結果からわかるのは、空腹時血糖値だけではリスクを見える化できないということ。空腹時血糖値が正常でも、食後高血糖(耐糖能異常)がないとは言えません。そのため、空腹時血糖値のみの検査では、リスクを見逃してしまう可能性があります。

その点、毎食後に血糖値が上がっていれば、血糖値の平均を表すHbA1cはやや高めになります。ですから、空腹時血糖値だけでは不十分で、ぜひHbA1cを測定してほしいのです。健診でHbA1cを測っていない人は、次回からはHbA1cが測定項目に入っている健診をぜひ選択してください。

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提供元:健康診断「空腹時血糖値が正常」でも安心できぬ訳|東洋経済オンライン

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