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2022.07.25

「間違いを認められない人」の残念すぎる真実|「わかっている」のと「できる」のでは大違い


なぜ間違っていることを自覚していても認められないのでしょうか(写真:imtmphoto/Getty Images Plus)

なぜ間違っていることを自覚していても認められないのでしょうか(写真:imtmphoto/Getty Images Plus)

多くの人は無意識のうちに「間違いを認めるのは恥ずかしい」と感じ、ミスを隠そうとする。
こうした感情は多くの人が持っているが、その裏には「間違えるのはよくない」という考えが根強く存在する。一方、全米でベストセラーになった『マッピング思考』の著者ジュリア・ガレフは、「間違いは自分自身をアップデートする」と力説する。間違えることは悪くないし、それを認められる人こそ活躍できるという。もしかしたら、われわれは間違えに対する見方をアップデートするべきなのかもしれない。

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人が自分の考えに固執する理由

誰でも、ある状況下で自分の考えを少しずつ変えていくということを日ごろから行っているものだ。就職活動を例にとろう。

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応募書類を送った段階では、最終的に内定を得られる確率を5%程度と見込んでいたとする。書類が通過して面接の通知が来たら、その予想は10%に上がるかもしれない。面接でうまく受け答えができて大きな手ごたえを感じたら30%に上がるかもしれないが、面接後2週間が経過したのに先方からなんの連絡もなければ20%に低下してしまうかもしれない。

政治や道徳など、賛否両論のあるテーマではどうだろう。

ジェリー・テイラーは長年にわたり、気候変動に対する懐疑論者の代表格として存在感を放ってきた。リバタリアン(自由至上主義者)のシンクタンクであるケイトー研究所に所属するテイラーは、テレビのトークショーに出演し、「気候変動への懸念は過度に誇張されている」と世間に訴えることで大金を稼いでいた。

その懐疑心に初めて亀裂が入ったのは、ジョー・ロームという著名な気候変動論者とともにテレビ討論会に出演した直後のことだった。テイラーは討論会で、いつもの主張をくり返した。

「地球温暖化の進行は予測されていたよりもずっと遅い。1988年にアメリカ議会に提出された当初の予測と比べると、まったくと言っていいほど地球は温暖化していない」

間違っても謝らなくていい

収録後の控室で、ロームから「事実を誤認している」と批判され、「証言の裏を取るべき」だと指摘された。テイラーはその挑戦を受け、データを細かく確認した。当然、自分の主張の正当性が証明されるものだと思っていた。

だが驚いたことに、正しいのはロームのほうだった。1988年の予測は、テイラーが思っていた以上に現実に近いものだったのだ。

「なにかを見落としてしまったに違いない」テイラーはそう考えた。

この情報は、同じく気候変動懐疑論者の、権威ある気候科学者から得たものだった。さっそくその科学者に連絡して説明を求めたが、その科学者は煮え切らない言葉を口にするだけだった。テイラーは20分ほど悩んだ末、ようやく自分が信頼していたこの人物が「意図的に事実をゆがめていた」ことに気づき、愕然とした。

以来、気候変動懐疑論者がデータを引用したときは、出典元の信頼性を確認するようになった。そのたびに、データのずさんさに落胆することになった。

新しい情報を得て考えを変えるのは、「間違って」いたわけではないのだ。それを恥ずかしいと受け止めなければならないとすれば、自分になんらかの過失があった場合だけだ。悪いとわかっていたことをしたために人に損害を与えてしまったときなど、意図的に偏屈で不注意な考え方をしていた場合などである。

たいていの場合、なにかを間違えて理解しているのは、悪いことではない。それは誰かに謝らなければならないようなことではないし、自己弁護をする必要も、卑屈になる必要もない。淡々としていればいいだけだ。

人間の脳の特性上、思考に影響を与え、ときに判断をゆがませてしまう「認知バイアス」の存在をみなさんもご存じだろう。

◎自分に都合のよい証拠だけを集めれば、だまされるのは簡単である
◎誰かが何かバカなことを言っているように見えたら、その人を誤解していると思うべき
◎自分に確信があっても、間違っている可能性はある

「そんなことわかってる」と言う前に

こうした原則は当たり前のように聞こえるし、「そんなことはわかっている」と思うかもしれない。だが原則をただ言葉として読んで「そんなことはわかってる」と思っているのと、実際に自分の考え方を変えるまでに納得することには大きな隔たりがある。

自分の間違いに気づき、その理由を考え、自分こそが認知バイアスにとらわれていたことを痛感する……。そういう直接的な体験を通さなければ、自分の血肉にすることは難しい。

俯瞰的な思考を持つ人は「間違いを認める」のではなく「アップデートする」と言うことがある。これは確率論の専門用語で、新たな情報を得た後で確率を修正する方法を表す「ベイズ更新」に由来している。

アップデートとは、日常的にひっそりと行われるものだ。大げさな罪の告白とは正反対だ。アップデートとは、それまでのものを失敗だと見なさずに、よりよいもの、より新しいものに変えていくことだ。

世界最大のライブストリーミング・プラットフォーム「ツイッチ」のCEO兼共同設立者エメット・シアーは、もともと自分の間違いを認めるのが苦手だった。だが、「間違い=失敗」ではないと理解することで、しだいにそれができるようになっていった。

「年を重ねるごとに、間違えるのがラクになってきました。そもそもそれは間違いではなく、単なるアップデートなんです。〝新しいことを学ぶ。ただそれだけだ。それの何が問題なのか?〞こんなふうにね」

気候学者のジェリー・テイラーは、なぜ自分の立場を否定する議論にも耳を傾け、認識が間違っていることを知らされたときに検討してみることをいとわなかったのだろうか?

その理由は、アイデンティティにある。テイラーには 「卑怯なことをしたくはない」という強いプライドがあった。

「エゴイスト」と後ろ指を指されないために

テイラーはあるとき、ゴールドマン・サックス出身で、気候変動活動家であるボブ・リッターマンと重要な対話をした。リッターマンは「気候変動は“分散不能”かつ、深刻なリスクだ」という立場で、テイラーと議論を闘わせた。

この議論のなかでテイラーは自分がそれまで信じていた考えを変えることになった。

同じ気候変動懐疑派の同僚たちにも「私たちの立場は、木っ端みじんになってしまった」と宣言した。

自分の立場が崩れ去るのは絶望や苦々しさではなかった。テイラーはのちに、その瞬間「元気がわき上がってくる」ような感情を味わったと述べている。

リッターマンとの議論の直後、テイラーは研究所をやめ、気候変動対策を推進する活動家に転身した。プロの気候変動懐疑論者が気候変動活動家に転向したのは、これまでテイラーただ1人しかいない。

考えを変えるのは簡単ではない。間違っているのは自分で、相手のほうが正しかったのだと気づくと、多かれ少なかれ心が痛む。

だがその痛みは、自分が「真実を追求する」という大切な基準に沿って生きていることや、間違いを正すたびに自分が強くなっていることを思い出させてくれる。

日常生活では、自分が間違っていたことに気づけるだけでも上出来だ。それでも、誰かに「私が間違っていた」と伝える気持ちがあるのは、エゴよりも真実を大切にする人間であることのはっきりとした証しになる。

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提供元:「間違いを認められない人」の残念すぎる真実|東洋経済オンライン

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