2022.07.05
ストレスを感じる人が敏感になるべき「腸のSOS」|腸内細菌が整うと、脳も心もポジティブになる
腸のSOSに気づいていますか?(写真:jhphoto / PIXTA)
日々のタスクに慌ただしく追われ、やりたいことに集中する時間も取れない。ちょっとしたことが癇に障り、つい人に強くあたってしまったり……。休日は外へ出ることが億劫になり、1人で鬱々と過ごす。ベッドに入っても寝付きが悪く、眠りも浅い――。そんな悪循環に陥っている人もいるかもしれません。
そうしたネガティブなマインドに深く影響を与える要因の1つに、“第二の脳”とも呼ばれる「腸」があることをご存じでしょうか。
「腸」と「脳」の密接な関係
「腸」と「脳」は、ホルモンや自律神経系を通してやりとりをし、プラスにもマイナスにもお互いに影響を及ぼしあいます。これを「腸脳相関」、もしくは「脳腸相関」と呼びます。
大事なプレゼンの前に腹痛がしたり下痢が止まらなくなったりしたことはありませんか? 環境が変わっただけで便秘がひどくなることはありませんか? これらこそ、脳と腸が関わりあっているサインなのです。
ストレスや不安など精神的緊張は腸にダメージを与えますし、逆に、腸内のコンディションが悪いと気持ちはネガティブに傾きやすくなります。実際に、乳酸菌を摂取して腸内環境が改善したことで抑うつ症状が軽減した、といった研究も多くあり、両者の関係は切っても切れないものです。
ではなぜ腸を整えるとメンタル面が整うのか。キーワードはセロトニンとGABAです。
まず、セロトニンの役割は「他の神経伝達物質の調整」です。脳には、喜びや快楽を感じさせる「ドーパミン」や恐怖や驚きを感じたときに分泌される「ノルアドレナリン」、神経興奮や運動に働く「アセチルコリン」などの神経伝達物質が存在し、それぞれが適量ずつ働くことで身体のバランスを保っています。
その神経伝達物質の量をコントロールしながら心を落ち着かせ、精神を安定させる、それが“幸せホルモン”と呼ばれるセロトニンの働きです。
セロトニンが不足すると相対的にドーパミンやノルアドレナリンの割合が高まり、感情が不安定な状態に。その結果、ストレスのかかる出来事に対して敏感になったり、うつ病やパニック障害を引き起こす原因になってしまったりします。
GABAにも精神を落ち着かせる効果が
またGABAも、セロトニン同様に精神を落ち着かせる効果のある神経伝達物質です。サプリメントやチョコレートに配合されるなど、近年ブームになっているのでご存じの方も多いかもしれません。
ただ、複数の論文が「口から摂取したGABAは脳に到達しない可能性がある」と結論づけています(複数の論文で「到達しない」と結論づける記述が見られましたが、近年の研究では「若干量ではあるが到達する」との見方も)。そのため、サプリ等で摂取するよりも、「材料となる成分」を摂り、体の中で必要量を作り出すほうがGABAの効果をより実感しやすい、と考えられます。
(写真:kei.channel/PIXTA)
セロトニンやGABAの働きは、精神への作用にとどまりません。体の動きをコントロールする際にもしっかり使われています。例えばセロトニンには「腸の運動を活発にする」働きが。腸内環境の悪化により腸の動きが低下している人は、腸を動かすためにセロトニンをたくさん消費してしまうので、体内がセロトニン不足になることもあります。
つまり、気分を安定させる、この2つの神経伝達物質を体内で効率よく作り出し、絶対数を増やすことができれば、幸福感を得やすくなり、ストレス耐性も強くなる。さらに、腸の動きも活性化するので、腸脳相関的にプラスの循環が生まれる、というわけです。
では、どうすればGABAとセロトニンを増やすことができるのでしょうか。
近年の研究で、ラムノーサス種に代表される乳酸菌を摂取することで、腸にあるGABA受容体が刺激を受け、脳内でのGABAの生産を促せることがわかりました。また、ブレビス種やプランタルム種といった複数の乳酸菌が腸内でGABAを作り出すことも報告されています。
一方、幸せホルモンであるセロトニンは、全体の約90%が腸内で作られています。そして腸でセロトニンを合成するときに必要不可欠なビタミンB群やビタミンKを作っているのは、腸内に棲むビフィズス菌です。
セロトニンとGABAを増やすための食事法
それでは具体的に、GABAとセロトニンを増やすための食事法をご紹介します。
まずはそれぞれの成分、および材料を作り出す「菌そのもの」を取り入れることが有効です。先に紹介した研究ではそれらの菌をサプリメントで摂取していました。
これらはもともと腸内に棲んでいるものもあれば、ヨーグルトをはじめさまざまな発酵食品にも含まれている、ごく普通の菌です。「たくさん取り入れる」なら、サプリメントが手軽かつ確実ではありますが、食生活を改善・工夫すれば、適切な菌をコンスタントに摂取することも不可能ではありません。
(写真:shige hattori / PIXTA)
腸内でGABAを作り出すブレビス種やプランタルム種などの乳酸菌を取り込める代表的な発酵食品は、熟成の長い味噌、ぬか漬け、すぐき漬け、キムチです。1つの食品から大量の乳酸菌を摂ることは難しいので、複数の食品を組み合わせ、できるかぎり毎食取り入れることをおすすめします。
GABAとセロトニンそのものの材料となる必須アミノ酸のひとつ、トリプトファンを含むタンパク質の摂取を意識することも大事です。
トリプトファンを摂れる主な食品
(写真:mao / PIXTA)
トリプトファンを摂れる主な食品は、バナナ、魚、大豆です。魚に含まれるオメガ3脂肪酸は腸内細菌を育ててくれ、大豆は納豆や味噌など発酵食品として乳酸菌を摂れるケースが多く、一石二鳥にも三鳥にも。最近注目のスーパーフード、モリンガにも、トリプトファンが豊富に含まれています。
現代社会や私たちの生活からストレス要因がなくなることは、おそらくありません。そしてストレスを感じる心をコントロールするのも難度が高いでしょう。でも腸内の常在菌をケアして腸のコンディションを整えることは、誰にでも今日からできます。
ぜひ幸福感を導く脳内ホルモンGABAとセロトニンを積極的に作り出す腸に整え、揺らぎにくいメンタルも手にしていただけたら、と願っています。
[参考文献]
Takamitsu Tsukahara. (2019.) Preliminary investigation of the effect of oral supplementation of Lactobacillus plantarum strain SNK12 on mRNA levels of neurotrophic factors and GABA receptors in the hippocampus of mice under stress-free and sub-chronic mild social defeat-stressing conditions.
Roberto Mazzoli. (2016.) The Neuro-endocrinological Role of Microbial Glutamate and GABA Signaling.
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提供元:ストレスを感じる人が敏感になるべき「腸のSOS」|東洋経済オンライン