2022.06.21
巨大な水がめ「富士山」の厳選おすすめ水スポット|溶岩に染み込んだ水がもたらす恵みと絶景
本栖湖からのぞむ富士山(写真:筆者撮影)
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今年は梅雨の季節が巡ってきました。ガイドの仕事をしていると、雨の多い時期はツアーの催行にも影響が出ますが、自然界にとっては恵みの雨となります。
富士山麓には、年間を通して大量の雨や雪が降り、富士山はその膨大な水を蓄えます。その水は、山麓に生息する生き物や、人々の暮らしを支える貴重な資源となっています。山麓に降り注いだ水には、地下の水脈を経てやがて湧き出し、川を経て海へと戻り、再び雲となり山に水をもたらすという循環の仕組みが成り立っています。
今回は、そんな富士山の水の恵みについて紐解いてみたいと思います。
富士山には常時流れる川が1本もない
富士山麓には、年間約20億~30億トンもの雨が降ると推定されています。降った水の一部は地表で蒸発したり、植物に吸収されますが、その大部分は、すぐに富士山に染み込んでいきます。富士山の山体は、噴火によって噴出した玄武岩質の溶岩によって構成されており、溶岩は噴火時に含まれたガスの気泡が細かい穴となって冷えて固まっているため、水が浸透しやすい構造になっています。
富士山を登ったことがある方ならお気づきかもしれませんが、富士山には常に水が流れている沢や川がないのは、このように水が浸透しやすいためです。それでは地下に潜った水は、どのような道筋をたどるのでしょうか。
富士山の地下に染み込んだ水の過程が観察できるのが富士山の地下の世界、洞窟です。噴火した際の溶岩によって造られた洞窟の内部に入ると、地表から染み込んできた水が天井から滴り落ちて、また溶岩に吸収されていく様子を見ることができます。洞窟内部は年間を通じて低温のため、時期によっては天井からの滴り落ちた水がじっくりと時間をかけて凍りついた氷の芸術、氷筍(ひょうじゅん)も観察することができます。
氷の芸術、氷筍(写真:筆者撮影)
そして地下へと浸透し続けた水は、溶岩の層の割れ目にそって水脈となります。幾重にも重なった溶岩の層の隙間を流れていき、富士山麓各地で湧き水となって、再び地上に現れます。水が湧き出るまでは、場所によって隔たりがあり、数十日から百年近くかかるところもあると言われています。
富士山の水循環は、このように途方もなく長い道のりを歩んでいます。そして、富士山の北麓では、富士五湖をはじめとした湖や池などに、南麓側では河川に流入し、やがて駿河湾へと注ぎます(一部は海底から直接湧き出る)。そしてその一部は、人間が取水し利用することで、私たちも富士山がもたらす膨大で清らかな水から、さまざまな恩恵を受けています。
富士山と駿河湾(写真:筆者撮影)
長い時間をかけて、じっくりと地下を浸透して地上に湧き出る富士山の湧き水は、清水そのものです。水が湧き出る場所は、その水の美しさゆえに古くからの富士山信仰において神聖視されてきた場所や、魅力的な景勝地として人々に親しまれてきました。今回はそのいくつかをご紹介します。
富士五湖の水源の大半は湧き水
富士五湖(山梨県)
富士山北麓に点在する本栖湖、精進湖、西湖、河口湖、山中湖は言わずと知れた山梨県の代表的な観光地として富士五湖と総称されており、富士山の世界文化遺産の構成要素になっています。
これらの湖の水源は流入する河川ではなく、大半が湧き水により供給されています。湖畔越しに見る富士山の眺めは美しく、保養所や別荘地も多く立地しています。現在の千円札の図柄は、本栖湖の湖畔からの“逆さ富士“を描いたものであることからも、富士山と湖の風景が風光明媚なものだということがうかがえます。
また、桜や紅葉などの時期には、季節ごとに移り替わる湖畔の風景と富士山の眺めも楽しむことができ、湖によっては季節に合わせたイベントも開催されるのでおすすめです。
河口湖の湖畔から眺める富士山(写真:筆者撮影)
白糸の滝
富士山麓でおすすめの滝といえばこちら。静岡県富士宮市にあり、こちらも世界遺産の構成要素に指定されている「白糸の滝」は、その成り立ちに特徴があります。
一般的な滝は、流れる川の地形的な落差によってできていますが、白糸の滝は富士山の溶岩の断層の隙間から湧き出た水が直接流れ落ちることによりできる滝です。地下水が湧き出た瞬間に滝になる光景は世にも珍しく、岩盤の隙間からいくつもの滝がカーテン状に流れ落ちる様は圧巻です。現在大河ドラマで注目を集める源頼朝も、富士の巻狩の際に同地に立ち寄り、その美しさに感動して歌を詠んだと伝わっています。
水がカーテン状に流れ落ちる白糸の滝(写真:筆者撮影)
山頂には霊泉として信仰された井戸
日本一の山頂の水「金明水」「銀明水」
雪解け水が溜まった井戸、金明水(写真:筆者撮影)
日本一を誇る富士山頂にも、水に関する見どころがあります。古くから霊泉として信仰された、「金明水」「銀明水」と呼ばれる井戸は、溶岩に染み込んだ雪解け水が溜まる場所で、かつては不老不死の霊水として人々に神聖視されていました。
富士山に登頂した際に山頂の火口の縁を一周し、頂を巡礼する「お鉢巡り」を楽しむ方も沢山いますが、かつては多くの修験者がここで水を汲み上げたと言われています。ちなみに現在では、山頂の浅間大社奥宮にて「金明水」「銀明水」を購入することができますので、登頂の記念の品にもいいですよ。
様々な恩恵をもたらす、富士山の湧水
富士山麓から湧き出る豊富な水は、山麓地域に住む人々にとっての恵みとして、さまざまな用途に用いられています。山麓の自治体の水道水の水源として、多くの人の生活を支える資源として利用されているほか、ミネラルウォーターとしても販売されています。
富士山の湧き水には、玄武岩質由来のバナジウムが多く含まれていて、健康や美容に効果があると期待されているそうです。湧き水は富士山周辺の寺社や道の駅などで、ボトルを持参すれば汲める場所が点在しています。
写真の湧玉池は、富士宮市の富士山本宮浅間大社の傍らにあり、かつては富士山に信仰登山する人たちが登山を前に身を清めた場所として知られていますが、その清らかな水は飲用水として、今でも親しまれています。
湧き水は飲料用や産業業に利用される(写真:筆者撮影)
飲んでもおいしい富士山の湧き水ですが、さまざまな産業にも利用されています。静岡県側の富士宮市では、富士山の湧き水を利用して仕込む日本酒や、豊富な水を利用したマスの生産などが盛んに行われています。また、水を多用する機械部品や製紙業などの工場も多く立地するなど、富士山の水は、飲用以外の用途でも利用され、地域経済の基盤を支える貴重な資源として活用されています。富士山麓にお出かけの際には、ぜひ富士山の水が生み出す恵みにも触れて、その恩恵を体感してみてください。
富士山付近では水を利用したマスの生産も盛ん(写真:筆者撮影)
登山の雨には要注意
ここまで富士山の豊かな水資源について書いてきましたが、最後に、登山中の荒天に見舞われた際に注意すべき点にも触れておきます。
登山中に降雨になる状況では、さまざまなリスクが懸念されます。大前提として事前に気象情報をしっかりと収集し、天候不順の度合いを予測し、予定している山行を実施するべきかを正しく判断することが重要です。
実際の山で雨に降られた場合のリスクとしては、体が濡れることによる低体温症のリスクが挙げられます。登山に行かれる際には、透湿性に優れた素材を使った雨具を持参することで、身体を濡らさないように対策しましょう。万が一濡れた際に備えて、インナーや靴下などの予備を、ジップロックなどに入れてザックに忍ばせておくこともおすすめします。
雨で視界が悪い富士山の山頂(写真:筆者撮影)
突風を伴う場合には転倒・滑落などのリスクにも注意が必要です。濃霧が発生すると、道迷いのリスクが高まりますので、事前のルートの確認はもちろんのこと、地形図やコンパス、GPSなどを持参しましょう。また、雷が発生する場合には、山頂、稜線や突出した岩、高木を避け、山小屋などに速やかに避難する必要があります。
もうすぐ本格的な夏山シーズンですが、気象リスクにしっかりと備えて、安全な登山を楽しんでください。
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提供元:巨大な水がめ「富士山」の厳選おすすめ水スポット|東洋経済オンライン