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2022.06.08

調味料マニアの私が「塩」しか買わなくなった理由|「砂糖、酢、醤油、味噌」はどうしているのか?


よく行くカフェのご主人は、そこらの名もなき雑草や葉っぱを摘んできて飾るのがめちゃくちゃ上手で、いつも「こうきたか!」と刺激を受ける(写真:筆者提供)

よく行くカフェのご主人は、そこらの名もなき雑草や葉っぱを摘んできて飾るのがめちゃくちゃ上手で、いつも「こうきたか!」と刺激を受ける(写真:筆者提供)

疫病、災害、老後……。これほど便利で豊かな時代なのに、なぜだか未来は不安でいっぱい。そんな中、50歳で早期退職し、コロナ禍で講演収入がほぼゼロとなっても、楽しく我慢なしの「買わない生活」をしているという稲垣えみ子氏。不安の時代の最強のライフスタイルを実践する筆者の徒然日記、連載第59回をお届けします。

圧倒的境地に達した「買わない生活」

最初に断っておくが、今回の話はたぶん、ほとんどの人には「スーパーすぎて参考にならない」んじゃないかと思う。

稲垣えみ子氏による連載59回目です。

稲垣えみ子氏による連載59回目です。

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なので書くべきかどうか迷ったのだが、やっぱり書くことにした。

だって……自慢したかったんだもん!

というのもですね、現代においてこんなことを実際にやってのけた人間は、もしかするとわが国において一人(あるいはせいぜい数人)なんじゃないかと思ったりするのである。それほどまでに、私はこの「買わない生活」でかくも圧倒的な境地に達してしまったのだ。

で、その「こんなこと」とはいったい何かと言いますと……前回ちらりと書いた驚愕の事実! そう私は今や、調味料は「塩」しか買わなくなってしまったのである。

念のため言うておくが、私、会社を辞めてから外食はほとんどしなくなり、昼も夜も家で自炊している。日常的に料理をする人間なのである。それだけじゃない。私、なんと2冊も「料理本」を書いたりしているのである。つまりはそこそこの料理人と言っちゃってもいいんじゃないか?

で、そんな私が買う調味料がなんと塩のみ!

エー、キャーッ、ウソ~、シンジランナイ!(←想像上の反応の声)

ちなみに、最初からそんなことを目指していたわけではまったくなく、いつの間にか、フト気づけばそんなとんでもないことになっていたのだ。

無類の「調味料好き」だった私

そもそも私は「料理好き」な人の多くと同様に、無類の「調味料好き」であった。調味料マニアと言ってもいい。東に西に珍しい調味料があると聞けば矢も盾もたまらず早速買いに走っていた。

なのでわが台所の調味料入れは常に世界のあらゆる調味料で満杯。ナンプラーやらオイスターソースやらバルサミコ酢やらコチュジャンやら豆板醤やら甜麺醤やらバジルペーストやらトマトビネガーやら、むろん、日本の醤油、しょっつる、米味噌、麦味噌、豆味噌、みりん、甜菜糖に黒糖、米酢にきび酢に酒粕酢、もうほんと、なんでも持ってましたね。

ちなみに今も調味料への興味がなくなったわけではなく、日本だろうが世界だろうが旅へ行けばかならず市場やスーパーで調味料の棚をしげしげと眺めるタイプ。

そんな私がですよ。世界の調味料どころか、日本の基本調味料である「さしすせそ」すなわち「砂糖、塩、酢、醤油、味噌」の中でも「塩」しか買わなくなるなんて、自分が一番ビックリせずにいられようか。

さらにビックリなのは、それでもまったくどうということもなく、日々ニコニコ機嫌よく料理を作って「うまいうまい」と食べているという事実である。

なので、いったいなぜこんなことになったのか? そしていったいどうやって「塩」しか買わずに日々の料理を具体的に成り立たせているのか? ってことを今回は書こうと思う。

念のためですが、決して皆様もこのようなことを目指すべきなどと言いたいわけでも、強くお勧めしているわけでもない。食の好みは人それぞれだし、何が正しくて正しくないなんていうことがあるわけないのだから。

ただ「おいしいもの」の情報がどこまでもあふれかえるこの世の中では、ついつい「トリュフ塩」が絶品などと聞けばどうしたってそれを買わねばならん、つまりはエンドレスに話題となる「絶品」をどこまでも手に入れなきゃ自分だけウマイもんを食べ損なっているような人生損しているような気になってしまうわけです。

でも実はそのような道からスッパリと足を洗うやり方もあって、実際やってみれば何が損なわれるわけでもミジメになるわけでも何でもなかったという体験を聞いておくことは、この、一寸先は何が起きるかわからない、つまりはいつ疫病やら災害やら戦争やらで欲しいものがパッタリと買えなくなるかもしれない世の中で、精神的なお守り程度にはなるんじゃないかと思うのであります。

ってことで、軽い気持ちで読んでいただければ幸いである。

まずは砂糖をやめてみた

右肩あがりに増え続ける一方だった調味料を「減らす」という人生初のチャレンジを始めたきっかけは、何と言っても収納のない家に引っ越してしまったことである。つまりは決して積極的な行動ではなく、仕方なくそういうことになってしまったのだった。

スペースの関係上、どう考えても世界の調味料は諦めざるをえなかった。ってことで日本の基本的な調味料だけを残したんだが、ショックのあまり多少ヤケになっていたのだろう。この際、日本の調味料といえども厳しくリストラを敢行してやろうじゃないのという気になったのである。

ターゲットになったのは「砂糖」。これは、当時凝っていた「マクロビオティック」の考え方によるところが大きい。マクロビでは砂糖を「体に害のある食品」とみなし、自然の甘みで料理することを推奨しておりまして、なるほどそれはダイエットにもなるかもと半信半疑ながら少しずつ実践していたわけです。

玉ねぎをよく炒めたり、切り干し大根の煮汁をそのまま料理に使ったり、砂糖の代わりにドライフルーツを使ったり、甘みのある麦味噌を使ったり……で、確かにやってみれば、最初のうちは物足りなかったのが、慣れてくるとだんだん平気になってきて、そのうち砂糖を使うと味が「しつこい」ような気がしてきた。

なのでこの際、思い切って砂糖がなくても「みりん」でオーケーってことにすればいいんじゃ? と、生まれて初めて「砂糖のない家」で暮らすことになったのである。

ま、最初はそこからのスタートだったんだが、この「なくてもなんとかなる」という体験の波及力は案外大きくて、そのうちみりんも「酒で十分なのでは?」となって買わなくなってしまった。

ってことで、わが家の調味料は「塩、酢、醤油、味噌」だけになった。ここまでが「第一革命」である。

で、これだけでも十分我ながら「すごい」と思うんだが、ここからさらに「第二革命」が起きたのでありました。

万能調味料「梅酢」は梅干し作りの副産物

きっかけは「梅干し」と「味噌」を手作りするようになったことである。これも、人にそう言うと「すごい」とか「丁寧な暮らし!」とか言われるが、そんな大した決意があったわけでもなんでもない。

梅干しは、たまたま和歌山のカッコイイ梅農家さんと知り合いになり、梅に対する熱い思いを伺ううちに、調子に乗って「その梅食べてみたい~」などと口走ってしまったがゆえに、以後毎年大量の梅を取り寄せることになり、梅干し作りが否応なく毎年の恒例行事となった。

で、どうせ作るなら手間は一緒だからと10キロ近く作ることになり、それはいいんだが、梅干しを作るともれなく「梅酢」というものが大量にできてしまうということに気づいたのである。

梅酢。知らない人も多いと思うので説明しますと、梅干しって要するに梅の塩漬けで、梅とたっぷりの塩を混ぜて重しを乗っけておくと、梅から水分が大量に出てくるんです。この水分が「梅酢」。味としては、塩と梅の成分が混じっているので、しょっぱくて酸っぱい。梅干しが液体になったようなものと想像していただければほぼ間違いない。

で、この大量の梅酢をどんどこ使わないと、半分も使い切らないうちに次の梅干しのシーズンが来ちゃう。うかうかしていたらわが台所の狭すぎる収納庫がぎっしりと梅酢で埋め尽くされるのである。なので、とにかく隙あらば料理に梅酢を使う生活が始まった。

で、使ってみれば案外具合がいいのである。味付けって塩味と酸味がつくとゴマかせるというか、大体ぱちっと決まるんですよね。万能調味料として注目されているポン酢に近い感覚でしょうか。ってことで、野菜炒めも梅酢、サラダも梅酢、酢飯も梅酢、煮物も梅酢……と、何を作るにも、何も考えずただ梅酢を適当にジャッと入れるだけという超手抜き料理が次第に定番化して今に至るのである。

尊敬する醤油作りをしている友人がいるので買いたい気持ちは大きいのだが、結果的に醤油を使う余地がまったくなくなってしまった。

ってことで、醤油を買わなくなった。

そして同時に、酢も買わなくなった。

だって「梅酢」ですから。酸っぱいんですから!

で、残るは塩と味噌だが、この味噌も毎年自分で作るのである。これも友達の農家が麹屋を始めたので成り行き上、毎年麹を買うことが定番化。

で、麹といえば味噌である。近所の豆腐屋のおからと豆乳を使った超手抜きの「おから味噌」を仕込む。本来は大豆を煮て潰して麹と塩と混ぜるんだが、味噌作りの何が大変って、この「大豆を煮て潰す」っていう作業が大変なんです。

それを「おからと豆乳」を混ぜたもので間に合わせるわけですから、超簡単! 全部をよく混ぜて空気が触れぬよう容器にぎゅっと入れ重石をするだけ! あとは約1年待つのみである。

ってことで、味噌もすっかり買わなくなってしまった。

最後まで残ったのは……あらまあ「塩」しかない!

……ってことになって、現在に至るのであります。

すべての調味料は「塩」に始まり「塩」に終わる

それでもね、まあなんでも作れるんですよね。和食だけじゃない。時にはイタリアンも中華風のものも作ります。オリーブオイルを使えばイタリアン、ゴマ油と生姜を使えば中華になる。

あと家でぬか漬けを作っているので、これがチーズ代わり。ぬか漬けもチーズも発酵食品だから、目をつぶって食べれば味が大体一緒なの。なのでぬか漬けの厚揚げとか野菜を使ってパスタを作ればパルメザンチーズなど振りかけなくとも大体オッケー。

ってことで、何の不満も物足りなさもなく、キャッキャッと自炊生活を送っているのであります。

このような「前人未到の境地」に達してみて、痛感したことが二つある。

一つは、結局、すべての調味料は「塩」に始まり「塩」に終わるということだ。

だって私のやっていることといえば、塩を加工して「梅酢」を作り「味噌」を作り、あるいは「ぬか床」を作り、それを材料として料理を作っているのである。つまりは、梅干し作りも味噌作りも「長い時間をかけた料理」であり、私はそれを使って、つまりは2段階に分けて料理をしているわけですね。

改めて説明しますと、まずは、時間をかけて塩を加工する。長い時間をかけて煮込んだ料理がどうやっても美味しくなるように、時間こそは塩と並ぶ貴重な調味料なんである。で、その「塩と時間」でこしらえた美味しい加工品を使って料理をするから、たちまちインスタントに味が決まる。ゆえに、わが日々の料理は一瞬で出来上がってしまうのだ。

ってことは、私にとっては「梅酢」と「味噌」が「つくおき(作り置き)料理」と言ってもいいのではないだろうか。

今はやりのつくおきは、週末ぶっ潰してタッパーいっぱいの料理を冷蔵庫にぎっしり入れるやり方が主流なようですが、わがつくおきは年に一度、それぞれ数時間の作業をするのみである。保存は常温で電気も冷蔵庫も必要なし。

しかも一週間で食べきらなきゃならんということもなく、半永久的に持つ。展開のバリエーションも無限。そう考えれば、このイナガキ流「つくおき」の圧倒的勝利! と、一人ほくそ笑む日々である。

え、そんな単純な調味料ばっかりだと飽きるんじゃないかって? いやいやここまで調味料をシンプルにしていくと、いわゆる「素材の味」ってものが前面に出てくるんですよこれが。調味料がうますぎると、素材のほのかな味、すなわち豆腐の甘みとか大根の辛味なんぞ、サーっと後方に引いていってしまいますからね。

でも塩だけとなれば、同じ大根でも季節やモノによって味が全然違うじゃんなんてことも急にわかるわけですよ。なのでちっとも飽きないし、むしろ毎回「ほお、今日の大根超甘いじゃん」「今日のはちとカラいね」などとわくわくする。自然のものは同じ味など一つもなし。

なので全然「同じ味で飽きる」なんてことはない。同じ味で飽きちゃうのは案外、調味料の味に頼りすぎてるからなんじゃないでしょうか。

調味料は「似たもので代用可能」

あと、もう一つ気づいたことはですね、すべては「似たもので代用可能」なんだということだ。

思い返せばバルサミコ酢を捨てる時。それは悲しかった。あの濃厚な甘みのある酢が味わえない日々の味気なさを想像するだけでガックリきた。でも嘆いていても仕方がないので考え方を切り替えました。

バルサミコ酢も「酢」の一種なんだから、酢で代用すればいいじゃん……と。でもさすがに米酢とバルサミコ酢はどう考えても違う味としか思えず、最初はバルサミコ風に色の濃い「酒粕酢」を買って「案外味が似てる」と思い込もうとしていたんだが、ある日冷静になって味わってみたらたいして似てない。っていうか正直全然違った(笑)。

でも、だからと言って不満ってほどじゃなかったことに気づいた。で、そのまま酒粕酢を使い続け、そのうちこれだったら普通の酢で十分ってことになり、挙句、その酢もやめて、今や「梅酢」オンリー。

結論。酢は酢であれば、何酢だろうが大体似たような結果を出すのである。

香辛料も同様である。世界の香辛料を使っていた身としては、大量の瓶を処分するのは断腸の想いだったが、要するに「ピリッ」としていればオッケーなんじゃないかということで気持ちを整理し、「七味」と「コショウ」ですべてを間にあわせることにした。

そうしたら、結果何の問題もなかった。っていうか、今や「コショウ」もほとんど使わない。七味もコショウも「ピリッ」としてるから、案外どっちでもよくて、そうなると味の複雑な七味のほうが出番が圧倒的に多いのである。

ちなみに七味も今や手作り。ミカンの皮を捨てるのがもったいなくて乾かして陳皮にしていたら、それが七味の材料と知り、唐辛子と混ぜて「二味」にしたのが始まりである。以後、山椒の実を粉にして入れたり、黒ごまを混ぜたりしてじりじりと「七」に近づけておりまして、これはこれでもはや一つの趣味と化している。

「今あるもの」で何だってできる

で、この「代用」ですが、そう言ってしまうとどうも「ニセモノ」とか「間に合わせ」みたいで言葉がイマイチなので、最近では「見立て」と呼んでいる。

こんにゃくを肉に見立てたり、山芋を海苔に貼り付けてウナギに見立てたりというのが食の世界ではよく知られているが、別に決まりがあるわけじゃない。必要なのは想像力と飛躍力。自分でなんでも好きなように見立ててしまえばいいのである。

私は、蕎麦を細いパスタに見立てたり、梅酢につけた豆腐をモッツアレラチーズに見立てたりしております。あと案外ヒットだったのは、ニンニクとショウガを「大体いっしょ」ってことにしたこと。

パスタにはニンニクと信じ込んでいたが、細かく切って最初に炒めるからビジュアルが似てるなと思って、たまたまニンニクがなかったのでショウガでやってみたらこれはこれで悪くない。あと、パスタをご飯と「大体同じ」と見立てるのも大ヒットだった。

ご飯と合うおかずは、そのままパスタの具にしてオリーブオイルをかければなんでも違和感なく美味しくいただけるんですよ。和風の煮物、例えば大根とイカの煮物とか、残ったやつをパスタにかけてオイルで絡めたら、いやもう絶品です。

あ、調味料の話からずれてきてしまいました。どうも料理の話は止まりませんね。要するに料理なんて、そこらにあるものでなんとだってなる。可能性は無限大。でも塩だけはマスト! 塩に感謝。

それが今の私の結論であります。

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提供元:調味料マニアの私が「塩」しか買わなくなった理由|東洋経済オンライン

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