2022.04.25
平気で「漬物」を食べる人が知らない超残念な真実|「不自然な色、食感…」いつからそうなった?
日本人の食卓に並ぶ「漬物」。いまどきの市販の漬物は、昔ながらのものとは大きく変わってきている(写真:kaka/PIXTA)
食品添加物の現状や食生活の危機を訴え、テレビ等にも取り上げられるなど大きな反響を呼んだ『食品の裏側』を2005年に上梓した安部司氏。70万部を突破する大ベストセラーとなり、中国、台湾、韓国でも翻訳出版され、いまもなおロングセラーになっている。
その安部氏が、『食品の裏側』を発売後、全国の読者から受けた「何を食べればいいのか?」という質問に対する答えとして、このたび『世界一美味しい「プロの手抜き和食」安部ごはん ベスト102レシピ』を上梓した。15年の間に書きためた膨大なレシピノートの中から、たった5つの「魔法の調味料」さえ作れば、簡単に時短に作れるレシピを厳選した1冊だ。
発売後、たちまち7刷6万部を突破し、各メディアで取り上げられるなど、大きな話題を呼んでいる安部氏が「平気で『漬物』を食べる人が知らない残念な真実」について語る。
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いつから日本の漬物は「残念な漬物」になったのか
市販の弁当の隅に添えられたピンクの「大根漬け」、真っ黄色に染められた「たくあん」、チェーン店などのテーブルに置かれている食べ放題の「つぼ漬け」……。
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いずれも「不自然な甘さ」と「不自然な酸味」で、素材本来の味がありません。昔ながらの製法で作られた「漬物」とは、ほど遠いものです。
安く大量に生産され、「本来のおいしさ」とはほど遠いところにある漬物たち。いつから日本の漬物はこんなことになってしまったのでしょう。こういう「残念な漬物」に出合うたびに、私は失望を禁じえません。
漬物のおいしさは「素材そのもののおいしさ」に「発酵による酸味やうま味」と「独特な風味」が加わって作り出されるものです。
たとえばたくあんの場合、天日干しすることで、水分が抜けて大根のうま味が凝縮され、その後、塩やぬかなどに漬けて乳酸発酵させることで、独特の深みのある「うま味」や「甘み」「酸味」が醸し出され、さらに「食感」もよくなります。
いまどきの市販の漬物は、たくあんも梅干しもそのほかの漬物も、家庭で作られた昔ながらのものとは大きく変わってきてしまっています。
今回は、日本の漬物を取り巻く「残念な真実」に迫ります。
いまスーパーでよく売られている、あるいは安い飲食店などで出てくる、多くの大量生産品の漬物は、どのように作られているのでしょうか。たくあんを例に考えてみましょう。
市販のたくあんは「添加物の味」?
伝統的なたくあんは、まず大根を1~2カ月干して、米ぬか、塩、好みで砂糖、昆布、唐辛子、ウコンなどを混ぜてつくった「混ぜぬか」に漬け込んでさらに1カ月ほどかけて作ります。
それに対して、「市販のたくあん」は、どうやって作っているか。もちろんメーカーによって違いはありますが、往々にして、まず天日に干すのではなく、「水あめ液」の中に漬けます。すると水気が抜けてしなびて、「水あめの甘み」も入ります。
「水あめ液」の中に3日入れると、ちょうど天日干しを半月ほどしたぐらいにしなびます。これを「ちょい干し」といったり「糖しぼり」といったりするメーカーもあります。
つまり、「しなびて甘みもつく」という、天日干しと同じ効果が、短時間で得られるのです。
次にこれを「調味液」に漬けます。発酵させると時間がかかるから、「調味液」に漬けて発酵したような味をつけるのです。
それに加えて、「酸味料」で酸味を、「人工甘味料」で甘みを、「調味料(アミノ酸等)」でうま味を……といった具合に、どんどん味をつけていきます。「保存料」が使われることも多くあります。
この方法なら、「水あめ」に漬ける工程も入れて、たった5~10日でできます。これを真空パックにしたあと、65度で30分ほど加熱殺菌すると、常温でも扱える商品になります。
伝統的な、発酵させて作るたくあんは、乳酸菌が悪玉菌を抑え込むため、腐敗しづらく、また塩の効果もあって日持ちがします。
以下の表をご覧ください。どちらも市販のたくあんの「裏ラベル」にある成分表示ですが、片方は「伝統的な製法で作られたもの」、もう片方は「大量生産されて安く買えるたくあん」です。
「昔ながらのたくあん」は添加物がゼロですが、大量生産品はかなりの添加物が使われています。
*昔ながらのたくあん(の例)
干し大根、米ぬか、食塩、昆布、砂糖
*市販のたくあん(の例)
大根、食塩、米ぬか、漬け原材料〔糖類(ぶどう糖果糖液糖、砂糖)、食塩、発酵調味料、醸造酢〕/酸味料、調味料(アミノ酸等)、保存料(ソルビン酸K)、甘味料(ステビア、甘草、サッカリンNa)、黄色4号
なぜ漬物には、添加物が多く使われるのか
一般的に言って、漬物は添加物が多く使われている食品です。私が食品加工会社の現役時代は、「漬物」「練り物(ハム、カマボコなど)」「たらこ・明太子」は添加物が多く使われる3大市場でした。今もあまり状況は変わっていないと思います。
では、なぜ漬物に添加物が多く使われるのでしょうか。理由は大きく3つあり、1つめは「色」で、これがいちばん大きい。
コンビニなどで、カットされた大根漬けのパックが売られていますが、ものすごくキレイな真っ黄色に染められています。あれは多くの場合が「合成着色料」の色です。
別にたくあんだけではありません。野沢菜は「青色1号」と「黄色4号」を混ぜて緑色に、柴漬けは「赤106号」で紫に、福神漬は「赤色102号」と「黄色5号」、しょうゆ漬けは「カラメル色素」で、それぞれ着色されているものが数多くあります。
さらにはつや出しの「増粘剤」や「ソルビット」も使うことで、表面がテカテカして、切ったあとも干からびにくくなります。それくらい、「色」「見た目」をよくするために、「合成着色料」などの添加物が使われているのです。
2つめは「味と食感」。これも前述のように発酵していない分、「保存料」や「酸味料」「甘味料」などの添加物が使われます。
いまどきは食べたときに「しょっぱい!」と感じるのはダメで、「甘くて軽くしょっぱくて、さわやかな酸味がある」という味が好まれます。それを手軽に出すのが添加物です。
それから食感。今は「固いもの、かみ応えのあるもの」は嫌われて、「ポリポリした軽い食感」が好まれます。たとえば昔ながらの、干して固くなったたくあんなどは好まれません。だから干して発酵させて作ったものではなく、添加物の入った調味液につけて作る「浅漬け風」の商品が多くなるのです。
そして3つめは「保存性」で、それは先ほど説明したとおりです。
もちろん、上記で紹介した「昔ながらのたくあん」のように、無添加で作っているところ、あるいは添加物をなるべく減らしているところ、「安全性が高くておいしいものを提供したい」と努力しているメーカーもたくさんあります。
そうしたメーカーがもっと評価され、広く認知されることを私は望んでいます。
漬物は「飲食店のリトマス試験紙」
漬物は、日本の大事な食文化です。おいしい漬物があることで、食のアクセントとなって、ご飯をよりおいしくいただくことができます。
しかし、いま「飲食店」で出される漬物は、どうでしょうか。みなさん、「疑問」に感じたことはないでしょうか。
安い飲食店ならまだしも、それなりに高い値段をとって「うちは食材にこだわっています」という飲食店でも、「合成着色料で真っ黄色に染まった、添加物の味にしか思えないような、仕入れのたくあん」を平気で出してくることも、意外に少なくないものです。
「うちは食材にこだわって、これは◯◯産で、こちらは✕✕産で……」と声高に説明する店のなかにも、漬物は「手抜き」なのか「意識がいかない」のかよくわかりませんが、「市販の真っ黄色に染まったたくあん」を出す店もあります。
漬物を雑に扱う飲食店は、「こだわり」といっても、さほどでもないのかもしれません。本当にこだわっていたら漬物は自前で作るか、少なくともちゃんと選んで仕入れるのではないでしょうか。
今は家庭では市販品を買うのが当たり前のようになってしまっていますが、それは、家庭に限らず、飲食店も同じで、飲食店でも家庭でも「漬物は面倒、時間がかかる」というイメージが染みついてしまっているのでしょう。
「神は細部に宿る」ではないですが、飲食店のこだわりは「漬物」に出るともいえます。少なくとも、「素材にこだわっている」とうたう店が、本当にそうなのか、漬物は「リトマス試験紙」の1つになると思います。
「漬物は作るのが面倒」と思う人が多いかもしれませんが、じつは漬物は簡単にできます。
たとえば白菜の一夜漬けは、白菜を3パーセントの塩を加えてもんで冷蔵庫に一晩おいて(まだ生っぽくてサラダっぽかったら、もう一晩寝かせて)しんなりしたら水気を絞って、あとはちょっと一塩足すか、「安部ごはん」の「魔法の調味料」の1つ「甘酢」を少し加えれば出来上がりです。
ぬか漬けだって最近は「ぬか漬けの素」が売られていて、これを使えば手軽にぬか漬けができます。実はコロナ禍の「ステイホーム」の影響で「ぬか漬けの素」がよく売れているそうです。
ここで1つ、ぬか漬けの「裏ワザ」を教えましょう。ぬか漬けの乳酸発酵を促進させる野菜が「キャベツ」です。野菜を漬けるときにキャベツの葉を1枚入れると、上質な乳酸菌が育って、よりおいしいぬか漬けができます。もちろんキャベツ自体も一品としておいしく食べられます。「浅漬け」は野菜の色も保たれて、「見た目」もよく、「色付け」や「盛り付け」なども楽しめるので、おすすめです。
「安部ごはん」でも、「魔法の調味料」さえ用意しておけば簡単に作れる「即席はりはり漬け」や「紅白ゆず大根」などを紹介しています。こちらも参考にしてみてください。
安部氏が開発した「魔法の調味料」さえあれば簡単に作れる「即席はりはり漬け」と「紅白ゆず大根」(撮影:佳川奈央)
みんな添加物を「支持」している
「そんなに『合成着色料』が使われるのはイヤだ」「なぜそんなに添加物を使うのか」と思うかもしれません。でも使わなかったら売れないのです。
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「合成着色料は使わないで!」「人工甘味料を外してほしい」というのは簡単ですが、それを外すと、とたんに売れなくなるのです。
私自身も「無添加の明太子」を製造販売して、大失敗した経験があるからわかるのですが、「色がくすんだもの」「透明感がないもの」は売れません。それどころか「こんな汚い色をしているなんて、腐っているのではないか」「味がおかしい!」などと、どれだけ抗議を受けたかわかりません。
あるとき、おばあちゃんが作ってくれた手作りたくあんを、小学生の子どもがお弁当に入れて、持っていったそうです。すると、そのお弁当を見た周りの子どもたちが「くせえ、誰か、臭うぞ」と言い出し、その子の弁当に入っているたくあんを見つけて、「こいつだ! こいつの弁当、うんこみたいだ」「うんこ弁当だ」と騒ぎ立てたそうです。その子は「ばあちゃんが作ったからうまいんだ!」と涙を浮かべながら呑み込んだといいます。
なぜ、たくあんを「真っ黄色」に染めないといけないのか、福神漬けを「真っ赤」に染めないといけないのか、それはそのほうがよく売れるから、「消費者ニーズ」があるからですが、いつから日本人は、そういう「不自然なきれいさ」を求めるようになってしまったのでしょうか。
もちろん私は、和菓子の創作菓子のような「色彩文化」を否定するわけではありません。ただ、漬物は、和菓子のようにたまに食べる嗜好品ではなく、日々食卓に並ぶもので、それにしては色が不自然な商品が多すぎる。
極端な言い方をすれば、私には、漬物は「日本人の歪んだ美意識、過剰な美意識」の1つの象徴のように思えてなりません。本来、大根でつくるたくあんが、あんな真っ黄色であるはずがないではないですか。
私が書いた『食品の裏側』のサブタイトルは「みんな大好きな添加物」でした。みんな結局「添加物を支持」しているのです。
そしてその「残念な真実」は、私が『食品の裏側』を書いた15年前も現在も、実はまったく変わっていないのです。
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提供元:平気で「漬物」を食べる人が知らない超残念な真実|東洋経済オンライン