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2022.04.17

「腹式呼吸=健康」と盲信する人に欠けている視点|「胸式呼吸が悪い呼吸」という理解は間違い


呼吸をコントロールするうえで体の仕組みの理解が重要です(写真:teresa/PIXTA)

呼吸をコントロールするうえで体の仕組みの理解が重要です(写真:teresa/PIXTA)

実は誤解をしている人が少なくない、正しい「呼吸」と「姿勢」。不調に悩まされている場合は、この2つの要素が関係しているかもしれません。呼吸器の専門医である奥仲哲弥医師の著者『不調の9割は「呼吸」と「姿勢」でよくなる!――専門医が教える自律神経が整う「呼吸筋トレ」』より一部抜粋して紹介します。

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「呼吸をコントロールすることで体と心が整う」

これは人間が古くから取り入れてきた、多くの健康法に共通する概念です。古くは紀元前1000年頃に発生した気功の調息、4~5000年前から続くヨガのプラナヤマ、お釈迦様の呼吸法「アナパーナ・サチ」、禅の丹田呼吸法、最近話題のマインドフルネスの調息などなど。

これらはいつでもどこでも、気軽にできる健康法として広く実践されてきました。近年では脳科学や生理学、解剖学などの観点からの研究も進み、次々とその効果が実証されています。呼吸法はもはや信仰の延長でも伝承でもなく、科学的根拠に基づく健康法として、確立されつつあると言えるでしょう。

また、呼吸法は健康法としてだけでなく、武道や格闘技、マラソンなどのスポーツや発声法、さらには出産の際にも用いられており、一度コツを身に着ければ、日常生活から特別なシーンまで、幅広く活用することが可能な点にも、ますます注目が集まっています。

確かに、呼吸法にはさまざまな流派があり、特徴が少しずつ違います。とはいえ、呼吸を整えることでどのようなメリットがあるかについては、共通点も多いので、エビデンスがある代表的なものを挙げてみたいと思います。

□体への酸素取り込み促進
□肺機能の向上
□自律神経の安定化
□代謝アップと血流改善
□血圧の安定化
□ダイエット効果アップ
□ホルモンや酵素に働きかけ、内分泌腺が活性化
□肩凝り、腰痛やひざ痛の解消
□運動能力の増強
□脳のパフォーマンス向上
□集中力アップ
□ストレス解消
□リラックス効果

などなど……。まだまだメリットはたくさんあると思いますが、いいことづくめであることは、間違いがないようです。

これまで呼吸と姿勢の関係などについてお話ししてきました。ここで1つ、重大な事実をお伝えしたいと思います。実は……肺は、自分では動くことができません!

「え? 1日に2万回以上息を吸ったり吐いたりしてるのに、自分で動けないわけ?」と思われたでしょうか。ハイ、そうです。肺には筋肉がないので自分で動くことができず、近くにある筋肉に動かしてもらっています。

肺が呼吸運動を行う際に使う筋肉は、首から下腹部にかけて20以上もあります。このうち「横隔膜」と「肋間筋」の二大呼吸筋が代表して、肺の動きをコントロールする役割を担っています。それぞれについての詳細は後述しますが、ここではまず呼吸のシステムについて見ていきましょう。

呼吸をコントロールする仕組み

息を吸うときの主力選手は横隔膜です。ドーム状の形を収縮させて、肺を拡げて息を吸わせます。このとき働く力の7割は横隔膜、3割が肋間筋です。逆に息を吐くときは、横隔膜が収縮をやめ、肋間筋が胸郭を狭めるので、肺は自然に縮んで息が吐きだされます。

この2つの筋肉の面白いところは、内臓に接する場所にあるのに、腕や足の筋肉と同じように、意思の力で動かすことができるという点です。もちろん呼吸中枢の指令を受けて、ほとんど自動で動いてくれている部分がほとんどなので、眠っていても、意識がなくても呼吸が止まることはありません。

でも、せっかく自分で動かすことができるなら、それを利用しない手はないですよね。呼吸をコントロールすること、それは呼吸筋の動きをコントロールする、ということなのです。

(イラスト:あかませいこ)

(イラスト:あかませいこ)

皆さんご存じの通り、呼吸には「胸式呼吸」と「腹式呼吸」があります。

(1)腹式呼吸の動きを司る「横隔膜」

(2)胸式呼吸の動きを司る「肋間筋」

まずは、二つの呼吸法の特徴をご紹介します。

(1)主役が横隔膜の「腹式呼吸」

横隔膜というと、その名前から膜のようなものを想像しがちですが、胸(胸腔)とお腹(腹腔)の間にある、ドーム状の形をした筋肉で、平均で3~5mmの厚さです。脂肪や膜(2枚)を合わせると、2cmにもなります。

焼肉でいうサガリ(マッチョ)とか、ハラミ(細マッチョ)にあたる部分で、確かに膜というよりもしっかりしたお肉です。

腹式呼吸では横隔膜が主役を務めます。わき役に肋間筋、腹筋群、骨盤底筋群など他の呼吸も動きます。力持ちの横隔膜ですが、動きはごくシンプルな上下運動だけです。そのため酸素消費量も少なく済み、その分全身への酸素供給量が増えます。全身の酸素量が足りていれば、呼吸数も少なくて済むので、体も疲れにくいという好循環環境を実現、つまりコスパのよい呼吸法なのです。

さらに、横隔膜には自律神経がたくさん集まっています。自律神経は基本的に、自分の意思でコントロールすることはできませんが、唯一、呼吸を通してだけ整えることができるといわれています。横隔膜を積極的に動かすことで自律神経の束を刺激し、副交感神経を優位にして体を安定した状態に導きます。

「肩の力を抜く」「腹を据える」という言葉があるように、緊張や興奮を鎮め冷静になるために、昔から自然に行われてきたのが腹式呼吸です。

と、このように書くといいことばかりのようですが、腹式呼吸だけをしすぎると内臓が下がるとも言われています。何事も、過ぎたるは及ばざるがごとし、ですね。

(イラスト:あかませいこ)

(イラスト:あかませいこ)

(2)主役が肋間筋の「胸式呼吸」

肋間筋は肋骨(あばら骨)の間の筋肉で、バーベキューで言えばスペアリブのお肉部分。ワイルドな見た目と、繊細で甘みのある肉質のギャップがたまりません。

胸式呼吸は、この肋間筋といくつかの呼吸補助筋が協力して行います。肋間筋を使って胸郭を大きく広げたり狭めたりするので、胸は斜め上方向に膨らみ、肩が上下します。過剰に気構えたときに「肩に力が入る」と言いますが、まさにその通り、緊張したときに起こる呼吸です。

胸式呼吸のいいところとして、まず、酸欠状態になったときに、とにかくすばやく酸素を取り込むことができます。また、交感神経が優位になるためアドレナリンの分泌を促し、体をアクティブに動かしたり、気持ちを奮い立たせるときに意識的に用いると効果的です。

腹式呼吸を意識した呼吸法が多いなか、女性に人気のピラティスは胸式呼吸を基本にしていて、腹横筋という肋骨の周りの筋肉を刺激して、背骨や骨盤の位置を整え、インナーマッスルを鍛えたり、基礎代謝を上げる効果があると言われています。胸の呼吸は、いわば、攻めの呼吸と言えるでしょう。

ただ、一度に使う筋肉が多いので、呼吸するだけで全体酸素消費量の約35%を使ってしまうなど、安静時、日常的に行う呼吸法としては燃費が悪いのが欠点です。

(イラスト:あかませいこ)

(イラスト:あかませいこ)

「腹式呼吸」と「胸式呼吸」と聞いたときの、皆さんの持つイメージはどのようなものでしょうか。それぞれの呼吸で主導している筋肉が、2大呼吸筋のそれぞれであるということから、一見対立しているようにも見えますよね。

しかし、普段私たちはどちらかの方法でしか、呼吸ができないわけではなく、意識して呼吸の仕方を変えない限り、両方の呼吸を行っています。
決して、「腹式呼吸が良い呼吸、胸式呼吸が悪い呼吸」ではないのです。

腹式、胸式、どちらの呼吸も必要不可欠

確かに腹式呼吸は多くの呼吸法でも、スポーツでも、武道でも、発声法としても推奨されています。しかし、それはあるシーン、ある呼吸法のなかでの理想の呼吸法というだけです。日常生活を送るうえでは、いろいろなことが起きます。

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『不調の9割は「呼吸」と「姿勢」でよくなる!: 専門医が教える自律神経が整う「呼吸筋トレ」』(あさ出版) クリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします

朝、寝坊して遅刻しそうになったら、急いで着替えて何としてもいつもの電車に乗らなければなりません。そのときに腹式呼吸だけで間に合うでしょうか?

起きて、時計を見て、ぼんやりした頭をスッキリさせるのは交感神経。「うわーっ!」と1回頭を抱えたあとに、素早く着替える力を与えてくれるのも、交感神経の興奮とアドレナリンです。

ここまでの一連の作業と駅までのダッシュで必要なのは、すばやく息を取り込むことのできる胸式呼吸です。腹式呼吸の出番は、自分で時間をハンドリングできるときです。生きていくうえで、腹式、胸式、どちらの呼吸も必要不可欠なのです。

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提供元:「腹式呼吸=健康」と盲信する人に欠けている視点|東洋経済オンライン

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