メニュー閉じる

リンククロス シル

リンククロス シルロゴ

2022.03.17

「いつも眠い・眠れない」は漢方的ケアでスッキリ|「肝」に集まる「血」のめぐりが睡眠の質を決める


春は「眠りの問題」が生じやすいとのこと。「いつも眠い」「眠れない」ときの養生法をご紹介します(写真:zon/PIXTA)

春は「眠りの問題」が生じやすいとのこと。「いつも眠い」「眠れない」ときの養生法をご紹介します(写真:zon/PIXTA)

春眠暁を覚えず、の季節です。

治療院には睡眠に関する悩みをお持ちの患者さんが数多く来院されます。特に春先は、「寝ても寝ても眠い」というご相談が増えます。漢方における理想の睡眠とは、「日中に体をほどよく使うことで、夜は自然と眠りにつく」というもので、冬以外は日の出の前に起床します。

江戸時代の儒学者である貝原益軒は著書の『養生訓(巻第一の28)』で、「睡眠欲は食欲、性欲と同様にむさぼってはならず、抑えるべき欲である」と語っています。そして「睡眠を少なくすることが養生の道であることは、多くの人は知らない」と述べ、その理由を「ねぶり(睡眠)を少なくすれば無病になり、元気がめぐる。ねぶりが多ければ、元気がめぐらずして、病となる」としています。

「睡眠時間は長いほどよい」は間違い

ところが、意外と「連続して8時間ぐらい寝られないと不眠」と思っている患者さんは多く、睡眠時間は長ければ長いほどよいと考えている人もいます。

人はそれぞれ睡眠時間が異なり、8時間以上必要な人もいれば、3〜4時間で足りてしまう人もいます。3時間の睡眠でも翌日元気に過ごせれば問題ありませんし、10時間寝ても満足感がなく、翌日の仕事や学業に支障があれば睡眠障害の可能性があります。

では、なぜいくら寝ても眠いのでしょうか。それは睡眠の質が悪いからです。そこで睡眠の質を下げる要因を以下に挙げてみました。当てはまるものが1つでもあれば要注意です。

睡眠の質を下げる要因

●夕食はたっぷり食べるほうだ
●寝酒を飲む習慣がある
●枕元にスマホを置いて寝ている
●8時間は眠らないと体に悪いと思う
●カフェインの入った飲料をよく飲む
●入浴はシャワーだけが多い
●運動不足である
●昼寝を30分以上することが多い

良質の睡眠を取るためには、養生が大切です。どんな養生を心がければよいか、説明していきましょう。

その1:食べ過ぎない

夕食にたくさんの量を食べると眠れなくなる、あるいは睡眠の質が悪くなります。

漢方では「体を横たえると血が肝に帰り、肝でエネルギーを補充してから、また体の中をめぐり、疲労物質を処理する」と考えられています。ところが、食べ過ぎると胃腸に血が集まってしまい、肝に帰ることができません。その結果、消化に時間を取られて疲労物質が処理できないまま、朝を迎えることになります。

これは私自身の体験ですが、以前断食をした際は4〜5時間で目が覚めました。それでも不思議と目覚めはスッキリで、日中も普段より頭が冴えた感じがしました。

疲れているときこそ食は控えめに

この経験で、普段どれだけ食べ過ぎていたのかを思い知りました。それ以来、疲れたときはあえて食事を少なめにしたり、1食抜いたりして、胃腸を休めるようにしています。多くの方は疲れたときにはスタミナをつけようと、ボリュームのあるものを食べがちですが、実はそれは逆効果です。

その2:寝る前の酒やカフェイン入り飲料は×

寝酒は寝付きをよくしますが、睡眠の質は下がります。眠りが浅くなるため、長く寝ても寝足りない感じになりがちです。少量なら大丈夫だろうと思う方もいるかもしれませんが、寝る前のお酒は、量の如何に問わずよくありません。

漢方でいう肝は、体にとって毒であるアルコールを最初に分解してから、体の中の疲労物質を処理します。そのため、食べ過ぎと一緒で、寝ている間に酒の解毒だけで手一杯になるため、疲れが取れないまま朝を迎えることになります。したがって睡眠に悩みを抱えている方は、お酒を飲まないのが理想です。飲むときも就寝の3〜4時間前には飲酒を終えているようにしましょう。

カフェインはコーヒーや緑茶などに含まれていて、これが原因で不眠になる患者さんは意外と多いです。カフェインを代謝する能力は個人差が大きいので、寝る直前に飲んでも大丈夫な人がいる一方で、昼過ぎに飲んでも夜まで効いてしまう人もいます。

一般的には、カフェイン成分が代謝されて半減するまで4〜5時間かかるので、気になる方は14時くらいに飲み終えるとよいでしょう。

その3:スマホは寝る前には見ない

漢方医学が整った何千年も前には存在しなかったスマホですが、現代では睡眠障害の大きな要因とされています。スマホやパソコンのブルーライトは脳を覚醒させて、睡眠の質を悪くしますので、夜はできるだけ見ないのが理想。やむをえない場合はダークモードにするなど、ブルーライト対策をとりましょう。

その4:入眠しやすい入浴を心がける

入浴の仕方も睡眠に大きな影響を与えます。

眠りにつくときには、体の奥の体温(深部体温)を下げる必要があります。深部体温が大きく下がるほど入眠しやすくなり、眠りの質もよくなります。そのためには、まず深部体温を上げることが大事で、有効なのが入浴です。

おすすめは「就寝する90分ほど前に、ぬるめのお湯(40度以下)に10分程度つかる」という入浴法。風呂から上がった後、90分ほどで深部体温が下がり、入眠しやすくなります。

デスクワークの人は不眠を訴えがち

その5:ほどよく体を使う

冒頭でも紹介しましたが、「日中に体をほどよく使うことで、夜は自然と眠りにつく」という考え方は、現代にも通じます。

治療院には、農家や鳶職、大工など、肉体労働をされている患者さんも来院されます。そういう人はあまり不眠を訴えません。一方で、デスクワークばかりで体を使わない人は、不眠を訴えがちです。

とくに今はコロナ禍で通勤(によって体を動かすこと)がなくなり、不眠になる例が増えています。やはりこういう場合は、意識的に体を動かすことが大事です。買いものは車などを使わず歩いていく、ペットの散歩などをまめにするなど、体を動かす工夫をされている方がけっこういますね。

その6:昼寝で夜の眠りの質を高める

夜の眠りが浅いと、昼間どうしても眠くなります。睡眠不足を感じている人は、イスに座った状態で15分程度、長くても30分以内の仮眠をおすすめします。朝の二度寝や、30分以上横になった状態で行う昼寝は、いずれも夜の睡眠の質を悪化させる原因になります。

以上、睡眠の質を上げる養生法を紹介しましたが、睡眠の質を向上させる漢方薬もあります。私たちが不眠のファーストチョイス(第1選択)として用いているのが、「酸棗仁湯(さんそうにんとう)」という漢方薬です。

面白いことに、漢方では眠れないときも、眠り過ぎるときも、同じ漢方薬を処方します。

酸棗仁湯について書かれた『金匱要略(きんきようりゃく)』という古典には、「体力や気力が消耗していて、疲れ果てているのに眠れない」症状に使うと記載されています。酸棗仁湯は健康保険が適用される医療用漢方製剤で、市販薬としても販売されています。ドラッグストアなどで購入する際は、薬剤師などに相談してみましょう。

少しマニアックな話になりますが、処方名に使われている主薬(メインとなる構成生薬)の酸棗仁は、ナツメの仲間であるサネブトナツメの種のことで、肝の血を補う作用があるとされています。

そのほか、川芎(せんきゅう)という生薬は肝の血流をよくし、知母(ちも)はこもった熱を冷ますことにより、入眠に必要な深部体温を下げる助けになります。茯苓(ぶくりょう)は余分な水を排出したり、精神を安定させたりします。甘草(かんぞう)は酸棗仁と同じく肝に潤いを与え、その働きを助けます。

酸棗仁湯を使うと、脳の酸欠状態が改善されて睡眠の質がよくなるので、朝起きたときがラクになることが多いです。私も睡眠時間が確保できないときなどに服用しています。

背中が痛い。その原因は睡眠問題だった?

背中の痛みで来られたある患者さんに話を聞くと、「“睡眠時間が短いと認知症になる”とテレビでやっていたから、22時には就寝して、翌朝も10時ぐらいまで横になっている」と話していました。それなのに日中は眠くて頭がぼんやりしていたのです。

背中の痛みは眠り過ぎで起こっていると考え、酸棗仁湯を飲んでもらうようお伝えし、起床時間を朝6時に変えるアドバイスをしました。すると、睡眠時間が減ったにもかかわらず、朝はすっきりと起きられるようになり、1カ月後には背中の痛みもなくなりました。これは冒頭に紹介した「ねぶり多ければ、元気めぐらずして病となる」の典型的な症例かもしれません。

春は肝の機能が不安定になりやすい時期で、睡眠の悩みが増えるのももっともなことです。こういう時期こそ養生を心がけて、睡眠の質を上げたいものです。

記事画像

【あわせて読みたい】※外部サイトに遷移します

万病の元「内臓型冷え症」を撃退する食養生の基本

内臓型冷え症をこじらせない!お腹周りのツボ3つ

若くても「白髪リスク」が高まる食生活の実態

提供元:「いつも眠い・眠れない」は漢方的ケアでスッキリ|東洋経済オンライン

おすすめコンテンツ

関連記事

【新連載】国がすすめる健康づくり対策とは?~健康日本21(第三次)を優しく解説

【新連載】国がすすめる健康づくり対策とは?~健康日本21(第三次)を優しく解説

視力と聴力が低下、軽視される「帯状疱疹」の恐怖|新年度の疲れに要注意、子どもも無縁ではない

視力と聴力が低下、軽視される「帯状疱疹」の恐怖|新年度の疲れに要注意、子どもも無縁ではない

「歳をとれば脳の働きは弱まる」と思う人の大誤解|新しい情報を入れれば一生に渡り変化し続ける

「歳をとれば脳の働きは弱まる」と思う人の大誤解|新しい情報を入れれば一生に渡り変化し続ける

カロリー削れば太らないと頑張る人を裏切る真実|エネルギーが過剰だから体脂肪が蓄積するのではない

カロリー削れば太らないと頑張る人を裏切る真実|エネルギーが過剰だから体脂肪が蓄積するのではない

戻る