2022.03.03
「読みたい本」が見つかる!「いい書店」3大共通点|電子書籍にはない「リアル書店の価値」とは?
素敵な本との出合いは、新たな気づきを与えてくれます(写真:Fast&Slow/PIXTA)
テクノロジー、政治、経済、社会、ライフスタイルなど幅広い分野の情報を発信し、日本のインターネット論壇で注目を集める佐々木俊尚氏。
「ノマドワーキング」「キュレーション」などの言葉を広めたことでも知られ、2006年には国内の著名なブロガーを選出する「アルファブロガー・アワード」も受賞している。
その佐々木氏が、この度、『現代病「集中できない」を知力に変える 読む力 最新スキル大全』を上梓した。
「ネット記事」「SNS」「書籍」などから、「読むべき」記事をいかに収集し、情報を整理し、発信していくか、自身が日々実践している「新しい時代の読み方」の全ノウハウを初めて公開した1冊だ。
佐々木氏が、「『読みたい本』が見つかる『いい書店』の3大共通点」について解説する。
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「リアル書店」には、電子書籍にはない「価値」がある
「紙の本」には、電子書籍にはない大きな「価値」がある。
正確には、「紙の本そのものの価値」というよりも「書店の価値」がある。書店を歩いて並んでいる紙の本を眺めていくことには、じつに大きな「価値」があるのだ。
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わたしは本の情報を、たいていはインターネットから得ている。日ごろ読んでいるブログやツイッター、フェイスブックなどが主な情報源だ。
しかし、刊行される本の点数はものすごく多い。日本国内だけで年間7万点以上ある。ネットの情報だけではカバーしきれない。
もちろん、新刊のすべてをチェックすることは到底できないが、「いい本」を見落とさないように視野を広げておくために「リアル書店をまわること」も大切にしている。
わたしは東京に住んでいるので東京の本屋さんの例になってしまうが、大手書店だったら渋谷の「青山ブックセンター本店」、池袋の「ジュンク堂書店池袋本店」。神田神保町の「三省堂書店神保町本店」にはよく足を運ぶ。
西荻窪の「旅の本屋のまど」は、旅行についてのさまざまな本が置いてあり、見ていて飽きない。『暮しの手帖』編集長だった松浦弥太郎氏が手がけている中目黒の「COW BOOKS(カウブックス)」や、ビールも飲める書店の下北沢の「本屋B&B」、神楽坂の「かもめブックス」、奥渋谷の「SPBS(SHIBUYA PUBLISHING & BOOKSELLERS)」……小さな書店には、大型店にはない魅力がある店も多い。
ここでは、これらの書店に共通する、自分にとって「いい本」「読みたい本」が見つけやすい「リアル書店」の共通点を3つ紹介しよう。
ひとつめは、「書店員の『目利き』で、書店の書棚に『力』がある」ことである。
【1】書店員の「目利き」で、書棚に「力」がある
わたしが好きな本屋さんは、「本を発見しやすい書店」だ。
「普通の書店」ならば、新刊のベストセラーが目立つ場所に置かれて、あとはさまざまな本がジャンル別・著者名順に並んでいる。
しかしこういう書店だと、「いい本」はなかなか見つけにくい。「いい本」は「隠れている」ことが多いのだ。
ベストセラーにも、もちろんいい本はある。しかし、本には読者とのあいだの「向き・不向き」「相性」がある。自分と相性が悪ければ、いくらベストセラーで有名な本であっても、頭には入ってこない。
逆にベストセラーになっておらず、あまり知られていない本であっても、自分と相性がよければ、「すごい!この本、素晴らしい!」と感動の読書体験を得られることがある。わたし個人の人生経験でいうと、そのほうがいい読書体験を得られることが多い。
どんな書店でも「目利き」の違いで大きく変わる
みんなが見ているテレビのゴールデンタイムの情報バラエティー番組よりも、深夜に放送されている知る人ぞ知るマニアックな番組のほうが、ディープで面白く突き刺さるのと同じ原理である。しかし、本屋さんの書棚にひっそり隠れている「いい本」を見つけるのも、マニアックな番組同様にけっこう難しい。
そこで大事になってくるのは、書店員さんの「目利き」だ。
これは大きな書店でも小さな個人経営の書店でも、どちらでもかまわない。「その本屋さんで働いている書店員さんが、どういう『目利き』の能力を持っているか」によって、書棚のパワーはまったく変わってくる。
そんなパワーのある本屋さんに行くと、ベストセラーでも新刊でもないけれど、どこかの誰かに突き刺さりそうな本が書棚に並んでいて、相性のいい人たちを待ってくれているのだ。
では「いい本屋さん」というのは、何が普通の本屋さんと違うのだろうか? それは「本棚の文脈」である。この「本棚の文脈」は、わたしが大好きな千駄木の「往来堂書店」が打ち出して有名になった言葉だ。
【2】いい書店には「本棚の文脈」がある
「本棚の文脈」について知るために、たとえば「猫の飼い方」という実用書があったとしよう。みなさんは、この本のとなりに、どんな本を置けばいいと考えられるだろうか?
実用書を並べる棚だったら、「猫の飼い方」のとなりには「犬の飼い方」や「熱帯魚の飼い方」が並んでいるのが普通だろう。しかし、猫を飼おうと思って勉強しようと「猫の飼い方」の本を買いに来た人が、「犬の飼い方」や「熱帯魚の飼い方」に興味を持つだろうか?
「本棚の文脈」から思いがけない本との出会いが生まれる
猫と犬と熱帯魚を同時に飼いはじめようと決心した人というのは、わたしにはあまり想像できない。猫を飼おうと思っている人は、基本的には猫好きである。
だったら、犬や熱帯魚の本ではなく、「猫つながり」で別のタイプの猫の本を並べるほうがいい。だからといって、別の出版社から出ている「誰でも飼える猫」「猫飼い方入門」などの類書を並べるのも芸がない。
入門書を何冊も買うのはムダだし、それだったら書店員さんの目利きで「猫の飼い方を学ぶのなら、この1冊!」とポップをつけてベストなチョイスの本を並べてほしい。だから、答えは別のところにある。
「猫の飼い方」のとなりに置くべきは、たとえば「猫が出てくるエッセイや小説」だ。猫の世界に浸っていられるような「猫気分」の本を選んで、「猫の飼い方」の横に並べていくのだ。これが「本棚の文脈」である。
いい本屋さんというのは、このような「本棚の文脈」を大事にしている店のことなのだ。オリジナルな面白い「文脈」を目利きの書店員さんが持っていると、思いもよらない本の存在を知ることができる。
最後は「自分だけの『セレンディピティにあふれた』書店を見つけること」である。
【3】自分だけの「セレンディピティにあふれた」書店を見つける
「セレンディピティ」という言葉がある。求めているものとは違うけれど幸運を得てしまう「偶然力」みたいな意味の言葉だ。もともとは『セレンディピティ物語 幸せを招(よ)ぶ三人の王子』(藤原書店)という童話からきている。
古代のスリランカにあったというセレンディップ王国で、三人の王子が竜を鎮める巻物を探し、インドからペルシャへと旅する。しかし最後まで巻物は見つからない。その代わりに王子たちはさまざまな別の幸運に出会い、幸せな結末を迎えたのだった。
求めていたものとはまったく異なる「発見」や「幸運」が偶然に転がり込んでくる、それが「セレンディピティ」だ。本屋さんに足を運ぶという行為は、まさにこのセレンディップ王国の王子たちが旅に出るのと同じなのである。
だから、わたしがおすすめしたいのは、自分にマッチした「セレンディピティにあふれた本屋さん」を見つけることである。
本と読者のあいだには「相性」がある。だから、どういう本を選んでいるかによって、本屋さんと読者のあいだにも「相性」が出てくる。
しかし、世の中の人全員と相性がいい「セレンディピティにあふれた本屋さん」なんてものは存在しない。自分だけの「セレンディピティにあふれた本屋さん」を見つけるのだ。
優れた書籍は1冊で「多様な視点」を与えてくれる
ウェブメディアの分量では、1つひとつの記事は要素として小さく、そこから「多様な視点」を得て、世界観をスケッチできるようにするのは、けっこう難易度が高い。それに対して、書籍は「物事についての全体像を知る」うえで最も良質なガイド役になってくれる可能性が高い。そこに本を読む大きな意義がある。
3月4日(金)に佐々木俊尚さんの『現代病「集中できない」を知力に変える読む力最新スキル大全』刊行記念オンラインイベントを実施します。
詳しくはこちら(写真:今井康一) ※外部サイトに遷移します
「知肉」を育てていくには、現時点での「多様な視点」からテーマをさまざまに照射することで、全体像のイメージを持つことだ。優れた書籍では、1冊の本の中でその作業をすべて完了してくれている。「アウトライン→視点→全体像」という流れを全部用意してくれている。
ぜひ、「リアル書店の価値」をおおいに活用して、「知識」や「視点」を身につけ、最終的にはそれらを自分の「知肉」にしてほしいと思う。
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提供元:「読みたい本」が見つかる!「いい書店」3大共通点|東洋経済オンライン