2022.01.31
医師が警鐘「ステイホームによる健康被害は深刻」|全世代で「体力低下」、4人に1人が「コロナ太り」
ステイホームにより懸念される「健康被害」とは?(写真:Ushico/PIXTA)
1月19日、東京都および13県に対し「まん延防止等重点措置」が適用された。すでに適用されていた3県と、1月25日に新たに追加の18道府県を合わせると、対象は全国で計34都道府県に上る。
昨秋からだいぶ大人しくしていた新型コロナだが、オミクロン株の出現であっという間に勢いを盛り返した。1日あたり新規感染数は全国で6万人超(1月25日)、東京では1万人超(同22日)となり、それぞれ過去最多を更新し続けている。
五度目の「緊急事態宣言」が頭をよぎる。
だが、私はこれ以上の行動制限には、非常に懐疑的だ。感染拡大を抑え込むことができたとしても、医師として警鐘を鳴らすべき健康上の懸念が3つある。
(1)運動不足からくる「体力低下」と「生活習慣病」の増加
(2)「健診・受診控え」による病気の発見や治療の遅れ
(3)「こころ」の健康問題と自殺者数の増加
以下、詳しく見ていきたい。
「体力低下」と「生活習慣病」
行動制限がもたらす最初の懸念は、(1)運動不足からくる「体力低下」と「生活習慣病」だ。
さまざまな社会活動を自粛すれば、感染リスクは下がるかもしれない。だが、コロナ禍において私たちの体力は確実に低下してきた。
2020年のスポーツ庁「体力・運動能力調査」では、新型コロナ発生前の2019年に比べておおむね全世代(中学生~79歳)で体力低下が見られた。
自宅やその周辺で、一人でできる運動もあるが、習慣やきっかけがなければ誰もが自発的に取り組めるわけではない。
運動不足は、生活習慣病を招く。
例えば肥満と糖尿病だ。どちらも動脈硬化を助長して心血管疾患を招くうえに、新型コロナ重症化のリスク要因でもある。
日本生活習慣病予防協会が2021年3月、一般生活者3000人と医師100人を対象に実態調査を行った。その結果、一般生活者の4人に1人が「コロナ太り」と回答し、男女とも30代で多い傾向が見られた。
糖尿病に関しては、半数以上の医師が「コロナ禍で患者のHbA1c値(過去1~2カ月間の平均的な血糖レベルを示す血液検査値)が悪化している」とした。8割の医師が「コロナ禍で糖尿病のリスクが高まった」と実感している。
生活習慣病の状況をさらに深刻にしているのが、②「健診・受診控え」だ。
病気の発見が遅れたり、通院を中断したりして、適切なタイミングでの治療の機会を逃してしまう。
先の日本生活習慣病予防協会の調査でも、一般生活者の約半数が「コロナ禍に健康診断・人間ドックを受診していない」と回答した。これは、約4割の医師が「コロナ禍で健康診断・人間ドックの受診が減っている」と回答したことともおおむね一致する。
緊急事態宣言下でも、受診や健診は制限されたわけではない。だが、院内・市中感染を恐れたり、自粛ムードを肌で感じ、感覚的に「不要不急」と判断して先延ばしにした人が多いようだ。
「受診・健診控え」で起きていること
健康保険組合連合会のアンケート調査では、2020年4~5月の緊急事態宣言中、持病がありながら通院を控えた人の7割が「体調が悪くなったとは感じない」と考えていた。だが、これはあくまで1カ月という短期間の調査結果だ。
⽇本医師会総合政策研究機構による糖尿病患者の調査(「日医総研リサーチエッセイ No.96」)では、2020 年4~9月の半年間にコロナ禍で受診回数が「大きく減少した」患者は、受診頻度が「変わらない」「少し減少した」患者に比べて血糖コントロールが悪化していた。
血糖値の悪化は、即座に自覚症状となって表れるわけではない。知らないうちに、少しずつ健康が損なわれていくのだ。
「がん」診療への影響も明らかになってきた。がんの多くは初期には自覚症状が出にくいため、健診控えが起きやすいのだろう。
日本対がん協会によれば、2020年は主要な5種類のがん(胃がん、大腸がん、肺がん、乳がん、子宮頸がん)の検査件数が合計で前年比3割減、診断件数も1割減となった。早期発見が減少し、約2100のがんが未発見となった可能性も指摘されている。
これは日本に限った現象ではない。例えばアメリカの調査でも、2020年は前年と比べてがんの検査、受診、治療、手術の件数が大幅に減少した。4月のパンデミックのピーク時には、乳がん、結腸がん、前立腺がん、肺がんの検査が、それぞれ85%、75%、74%、56%も減少したという。
アメリカの調査 ※外部サイトに遷移します
そのほか、脳卒中や心筋梗塞などは、今もし発症して救急搬送となっても、オミクロン株対応で一般病床は減少している。健診等によって自分の血液検査値を定期的に把握し、適切な指導の下で服薬や食事改善等に取り組んで、予防に努めることが重要だ。
生活習慣病関連の健診・治療をおろそかにした影響は、じわじわ表れてくる。今後も数年間、さまざまな生活習慣病の罹患率と死亡率が増加する可能性がある。
「コロナうつ」の裏にある経済不安と孤独
身体的な健康問題に加え、私が危機感を持っているのは(3)「こころ」の健康問題だ。「コロナうつ」などとも呼ばれ、世界的に問題になっている。
OECDの報告によれば、2020年の不安神経症およびうつ病の有病率は、各国で新型コロナ流行前の2~3倍もしくはそれ以上となっている。若者、一人暮らしの人、社会・経済的地位の低い人、失業中の人は、メンタルへの打撃が高かった。
OECDの報告 ※外部サイトに遷移します
例えばアメリカでは、2万人を対象にした調査研究の結果、メンタルの不調は20歳前後の若者で最も深刻だった。
2021年5月の時点で、18~24歳の42%に中等症以上のうつ症状が認められた。以下、25~44歳では32%、45~64歳は20%と続き、65歳以上は10%にとどまった。この順位は2020年6月からの全調査期間で入れ替わっていない。
2万人を対象にした調査研究 ※外部サイトに遷移します
同じ研究チームは2020年に、18~24歳の若者のべ約9000人を対象に、メンタルヘルスについて調査を行っている。そこでは、新型コロナによって経済的なダメージに直面した若者が特にハイリスクなことが、強く示唆された。
経済ダメージのうち最もメンタルに悪影響だったのが、住居からの立ち退きや家賃の不払いなど「住まいの不安定性」で、中等症のうつ病が6割に上った。次いで悪影響だったのが、解雇や賃金カットなど「収入の不安定」で、同じく中等症のうつ病は5割に達した。
「在宅勤務」や「学校閉鎖」は、新型コロナが若者の生活にもたらした最大の変化だったが、メンタルへの影響はいずれも顕著ではなかった。
メンタルヘルスについて調査 ※外部サイトに遷移します
また、『Nature』に発表されたカナダの調査では、「孤独感」の関与が注目された。
中高年3万7000人において、新型コロナ流行の前後でうつ症状が全体として2倍になった。とりわけコロナ禍以前から「孤独」を感じていた人は、そうでない人に比べ、うつ症状が6.75倍見られた。
さらに、約2万人の分析結果からは、「孤独」を感じている人はコロナ禍においてうつ症状が深刻化しやすい傾向も示唆された。
さて、このコロナ禍で、日本人の「こころ」にも異変が起きている。引き続き「コロナうつ」について、自殺者数の気がかりな動向と併せて検証し、ポスト・コロナの医療を考えたい。
『Nature』 ※外部サイトに遷移します
【あわせて読みたい】※外部サイトに遷移します
提供元:医師が警鐘「ステイホームによる健康被害は深刻」|東洋経済オンライン