2022.01.30
健康は「腸内環境が決める」と医師が断言する訳|腸内細菌の多様性が低くなる4つの要因とは?
「腸内細菌を整えること」が、免疫力を高め、太らず病気にならないための近道とわかってきました(写真:kuppa_rock/gettyimages)
20年間に2000人以上の大腸がん手術に携わってきたがんの専門医であり、予防医療のヘルスコーチでもある石黒成治氏は、「病気の裏には必ず腸内細菌の異常があります」と語る。医学的な根拠と石黒氏自身の実践を通じて導き出された、太らず病気にならない、腸から健康になる習慣とは? 『医師がすすめる 太らず 病気にならない 毎日ルーティン』を一部抜粋・再構成してお届けします。
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腸内細菌の働きが、健康を決める
20世紀初頭、ノーベル賞受賞者で免疫学者であるロシアのメチニコフは、腸に存在する細菌が、加齢に伴う多くの疾患の発症に関与しているという仮説を立てた。そして21世紀になってようやくこの考え方にスポットライトがあたる。腸内の細菌の研究はこの20年で爆発的に研究成果が発表されている。
そして得られた結論は、体が健康状態を保てるか、病気になるかは腸内細菌による影響が大きい、腸の中でどのような腸内細菌が働いてくれるかが健康を決めるということだ。
高血圧、2型糖尿病、肥満、動脈硬化の人が持つ腸内細菌は、健常の人とは明らかに組成が異なる。病気の人の腸内細菌を調べると、善玉菌である乳酸菌の割合が著しく変化、腸内細菌が生み出す物質、特に短鎖脂肪酸(酪酸、酢酸、プロピオン酸)が著しく減少していた。
短鎖脂肪酸は、大腸内で食物繊維を腸内細菌が処理をした結果、作り出されるもので、大腸の粘膜の炎症を抑える作用がある。腸内細菌の生み出す短鎖脂肪酸がなければ、腸内は炎症が持続し、腸内環境がどんどん悪化していく。
人の体はシンプルな形で捉えると、竹輪のような管の形になっており、竹輪の穴が腸。この穴の入り口が口で、出口が肛門というイメージだ。
腸の中には食事に混ざって様々な成分が入ってくる。毒素や病原菌や重金属などは吸収せずに、腸から体外に出すようにしなくてはいけない。体にとってはもっとも危険物が侵入してくる場所であるため、免疫システムの7~8割は腸内に配置されている。
腸内に入ってきたものが体にとって必要なものかどうかの選別の作業は、腸内細菌も免疫の細胞との共同作業で行っている。免疫細胞は異物を発見すると攻撃を仕掛ける。
病原菌、病的ウイルスの侵入など免疫をしっかりと働かせなくてはいけないときには、常在菌が免疫を誘発する。リンパ球を増殖させ、腸管内の抗体を誘導して外敵を駆逐する。
免疫力が強い人、感染しにくい人とは?
体に侵入してきた病原体や、異常になった自分の細胞(がん細胞や感染した細胞など)を感知排除するシステム、いわゆる免疫力が強い人とはこの自然免疫が強いことを意味する。自然免疫にも敵を記憶しておくシステムがあり、一度感染したウイルスや細菌が再度侵入した際にはすぐに敵を排除することができる。
腸内は腸の細胞が分泌する粘液で覆われ、常在菌が一定数存在することで、悪玉菌の増殖を抑える。粘液の中には抗体(分泌型IgA)と、抗菌物質(AMP)が存在し外敵の侵入を防ぐ。抗体は腸管内の毒素も吸着して、毒素を便とともに体の外に出す。この抗体を作る働きのためにも重要なのは、腸内細菌のつくる短鎖脂肪酸だ。
腸で作られた免疫情報は全身の免疫に影響を与える。かぜは、ウイルスや細菌などが、気道の粘膜に付着・侵入し増殖することによって発症する。上気道(鼻・咽頭・喉頭)や下気道(気管、気管支、肺)が感染した状態をかぜ(感冒)と呼んでいる。気道には腸と同じく粘液があり、その中には感染を予防するための抗体が存在している。気道で抗体がしっかり働くためには、腸内細菌の作る短鎖脂肪酸が必要だ。かぜを引かない、感染して気管支炎や肺炎にならないために、腸内環境を整えることがいかに重要かがわかる。
腸内細菌が作る短鎖脂肪酸は、腸内環境にも免疫力にもメンタルの状態にも重要だが、この短鎖脂肪酸が腸内で吸収されにくく排出されてしまう人ほど、腸内細菌の多様性が乏しく、全身の炎症反応が高くなる。また、腸内細菌内の悪玉菌の比率が高く、肥満や心血管疾患(心筋梗塞、脳卒中など)の危険因子を多く持つ。
偏った食事をすると偏った腸内細菌が増える。アメリカ、イギリス、オーストラリアなど1万人以上の便の研究からわかったことは、1週間に30種類以上の野菜果物を食べる人は腸内細菌の多様性が高く、抗生物質耐性菌などのいわゆる悪玉菌が少ないということ。良い腸内環境とは、多種類の腸内細菌が存在している「腸内細菌の多様性が高い」状態なのだ。
クローン病などの炎症性腸疾患、下痢型の過敏性腸症候群、大腸がんなどの腸管の疾患では常に腸内細菌の多様性は失われている。肥満の人は、腸内細菌の多様性が20%も失われている。
腸内細菌の多様性を高く維持するためには多様な食事を心がける。食物繊維やオリゴ糖を多く含む食材は善玉菌の好物で、ニンニク、タマネギ、アスパラガス、豆類、ブロッコリー、カリフラワー、アボカド、バナナなど、プレバイオティクスと呼ばれる。
色とりどりな野菜果物の色素に含まれるポリフェノールやカロテノイドなども善玉菌が喜ぶ成分。日本人が昔から食べてきた味噌や納豆、醤油、麹などの発酵食品には日本人の腸にとって必要な腸内菌が含まれている。
腸内環境に悪影響を与える4つの外的要因
食事以外に腸内環境に影響を与える要因は、(1)抗生物質(2)果糖ブドウ糖液糖(3)運動不足(4)睡眠の乱れである。
一般に抗生物質を連続投与すると4日目には善玉菌が低下し、相対的に悪玉菌の割合が高くなる。現在では、抗生物質の投与後に微生物叢が正常に戻るどころか、完全には回復しない可能性があることがわかっている。
果糖ブドウ糖液糖は砂糖よりも甘みが強く、広く市販の商品に使用されている甘味料だ。現代ではソーダなどの清涼飲料水はもちろんのこと、栄養ドリンクや焼き肉のたれ、ドレッシングのような調味料にも広く使われている。
高濃度の果糖は様々な健康被害をもたらす。脂肪細胞に直接働きかけ、脂肪の蓄積、肥満、心臓病のリスクを増大させる。そしてこのような健康被害を起こしているということは、当然腸内細菌の乱れも引き起こす。
また、運動によって腸内の善玉菌の割合が増え、腸内細菌の多様性(種類)が増大するということが最近の研究でわかってきた。習慣的に運動を行っている人は運動を行っていない人と比べて明らかに腸内細菌の多様性が高いことも報告されている。腸内環境を改善しようとして食事だけいくら改善しても、(善玉菌のサプリメントも含めて)運動を取り入れていなければ十分な改善効果が得られないことがわかる。
さらに、睡眠の乱れと腸内細菌の組成の間には明確な関連がある。26名の男性の睡眠データと血液、糞便内の腸内細菌の関連調査を行ったところ、腸内細菌の多様性が高い人ほど睡眠の質が高いことが示された。多様性が低い人は長く眠ることができない。
これらのリスクを認識し、食事、運動、睡眠など、腸内環境に影響を与えるような生活スタイル全般を改善し、できるだけよい腸内環境を作っていく必要がある。
すべての病気は「腸内細菌の乱れ」で説明がつく
現代医療では、心筋梗塞を起こした人は心臓の血管が狭くなり、血管を狭くする物質はコレステロールが原因であると考える。そのため再発予防のアプローチは、心臓の血管の検査を繰り返し、コレステロール値を下げていればよいと考えてしまう。
たしかに心筋梗塞の患者の心臓の筋肉の細胞を見ると、慢性の代謝障害、炎症、酸化ストレスによる変成が起こっている。しかし人間の体は都合良く一部分だけがダメージを受けるという構造にはなっていない。こういった変化を起こしている患者の脳の細胞、肝臓の細胞、腎臓の細胞も、同様のダメージを受けているのだ。
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病気というのはあくまでも、一番症状が目立つようになっただけであり、それが別の形、脳卒中や糖尿病や認知症やがんという形であらわれてきても不思議ではない。同じようにまだ何も症状がなくても、健康診断で血圧上昇や血糖値上昇、コレステロール値の上昇を指摘されているなら、全身の細胞の機能低下が起きていると考えなくてはいけない。
体は病気という形で体の細胞に異常が生じているというサインを出す。このサインを無視して生活していると細胞のダメージはどんどん進行していく。細胞には自らダメージを改善するメカニズムが生まれながらに備わっている。体のダメージが少ない段階では、生活スタイルを改善すると病気がなくなる人もいる。しかし多くの場合、病気になってからでは遅い。体の初期の変化の段階で手を打ち始めないといけない。
まだ症状があらわれていない段階でも、腸内細菌の異常は先行して変化し始めている。腸内細菌が乱れるとどんな疾患にもなり得るし、逆に腸内環境が良い人は病気になるリスクが少ないと考えられる。
病気の元は腸内細菌の乱れと考えると病気の予防法はシンプルになる。治療も腸内環境の改善も意識して行えば、進行を防ぐことにつながる。人の体の異常は腸内細菌の乱れとしてあらわれ、その結果、代謝異常、免疫異常、そして病気につながっていく。この流れを意識すると、腸の環境を整える腸活をする意義が理解できるだろう。
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提供元:健康は「腸内環境が決める」と医師が断言する訳|東洋経済オンライン