2022.01.14
「肥満がなぜ悪いのか」炎症細胞との関わりがカギ|幼少期に作られた脂肪細胞数は減ることはない
肥満はただ太っているだけでなく、さまざまな病気の元なのです(写真:ペイレスイメージズ1(モデル)/PIXTA)
「脂肪」と聞いて、よいイメージを思い浮かべる人は少ないでしょう。食べすぎてジーンズの上に乗っかったお腹を見て落胆したことは、誰もがあると思います。メディアや広告でも、「ダイエットをして、醜い体脂肪とお別れしよう!」「スリムになって、新しい人生を手に入れよう!」と、現代において脂肪は立派な「悪者」に仕立て上げられています。
ですが、「脂肪は私たちの体に欠かせない、重要な器官です」と語るのは、医師で医学博士のマリエッタ・ボンとリーズベス・ファン・ロッサムです。脂肪は、食欲を抑えたり、健康を維持したりするために必要なホルモンを産生してくれます。健康的に痩せたいなら、脂肪についての正確な知識を持ち、最大限に利用することが重要です。両氏による共著『痩せる脂肪』から、自身の体と健康的に向き合っていくためのヒントを紹介します。
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人類にとって脂肪はなくてはならない存在ですが、ときに脂肪には異常事態が起こり、人体に牙をむくことがあります。そのサインが肥満です。肥満はそれだけでも悩みのタネになりますが、肥満をきっかけにさらに深刻な事態につながることもあるのです。
実際、太っている人の約半数は、それによる症状を少なくとも1つ、2つ抱えていると推測されています。例えば高血圧、睡眠時無呼吸症候群、高コレステロール値、糖尿病などです。
今、症状が特にないからといって、そのままにしておくと肥満はどんどん悪化し、これらの病気から逃れられなくなります。
肥満が進んで病気になったロブのケース
ここで、ある男性の例を紹介します。
ロブは65歳で退職するまで、教育の専門家として働いていました。2人の子どもと2人の孫に囲まれ、バイクやセイリングなどたくさんの趣味を楽しみ、充実した日々を過ごしています。自分の好きなことに生き生きと取り組んでいるロブですが、昔からこうだったわけではありません。
「40歳になるまでは体重のことなんて気にしたことはなかったし、何でも食べたいものを食べていたよ。自分の体にも不満はなかった。だけど失職と離婚を経験して、当時は食べることでしか自分を慰めることができなくて、食べることだけが支えになっていた。すると徐々に体重が増えて、数年前に110キロまで太ってしまった。しかも、ほとんどの脂肪は腹まわりについていて、まるで自分の父親の姿を見ているみたいだったよ」
ロブはもう以前のように痩せていないことを悲しく思いましたが、「それが人生だろ」と、仕方なく思っていました。
しかし、それからしばらく経って、彼はやる気を出さざるをえなくなりました。肥満のせいで体調がおかしくなってきたのです。
「何をするにも力が出ないし、やたらと喉が渇いた。かかりつけ医のところに行ったら糖尿病だって言われたよ。薬を飲み始めたら副作用で吐き気がしたり、下痢をしたりするようになって、すごく苦痛だった」
ロブは睡眠時無呼吸症候群にも苦しんでいて、1時間で30回以上呼吸が止まるときがありました。さらには糖尿病で失明する可能性もあると指摘され、怖さに震える日々でした。しかし、その間もロブの血圧は上がり続け、インスリン注射の量が増えていったのです。
ロブは脂肪がつきすぎて病気になってしまいました。こういう人はさして珍しくありません。
脂肪は脂肪細胞という小さな細胞が集まって構成されています。そして脂肪細胞の間には炎症細胞(白血球)が挟まっていて、病原菌などが侵入したらやっつけようと待ちかまえています。
脂肪細胞が衰えることなく機能し続けられるよう、死んだ細胞や働いていない細胞を食べるのも、炎症細胞の役割です。脅威の深刻度によっては、警報を発して応援部隊(より多くの炎症細胞)を呼ぶ場合もあり、この細胞がなければ、ウイルスやバクテリア、菌類などのごく小さな侵入者によって命を失うことになります。
炎症細胞が脂肪に多量に蓄積されると…
しかし、この細胞がどれほど重要な役割を担おうとも、負の影響も無視できません。
例えば、炎症細胞が脂肪に多量に蓄積された場合、炎症物質が多量に血中に分泌され、広範囲に影響を及ぼします。これは「無症状炎症」と呼ばれ、この炎症物質こそが、肥満とあらゆる病気を結びつけています。循環器系だけでなく、脳にまで影響を及ぼし、気分が落ち込んだり、うつ病を引き起こしたりすることもあります。
痩せ型の人が徐々に肥満になると脂肪は大きな変身を遂げますが、その変化は脂肪細胞から始まります。痩せた人と太った人の腹まわりから脂肪細胞を採取し、2つを顕微鏡で比べると、いくつかの重要な点に気づけます。
まず、当たり前ですが、太っている人の脂肪細胞のほうが大きいです。そして多くの場合、太っている人のほうが脂肪細胞が多いです。
生まれてから死ぬまで、脂肪細胞の大きさと数は変化し続けると、長い間信じられていました。つまり体脂肪が増加すれば脂肪細胞も大きくなり、その数も増えるはずだと思われていました。
しかし、事実は違っていました。
1970年代、この仮説を証明するために、20〜30歳の痩せ型の男性を被験者にして、4カ月間の実験が行われました。彼らは食べる量を増やし、運動量を減らして、平均して10キロ太った後、食べる量を減らし、運動量を増やして、元の体重に戻しました。減量中のあらゆるタイミングで、体のさまざまな部位の皮下脂肪からサンプルが採取されました。
結果は驚くべきものでした。
体重が増加したときは、脂肪細胞が大きくなっただけで、細胞の数はまったく変わらなかったのです。そして減量したときも、脂肪細胞は小さくなっても、数は減りませんでした。脂肪細胞の数は一定に保たれ、減らすことはできないのです。
では、脂肪細胞の数はいつ決まるのでしょうか?
スウェーデンの研究チームは異なる年齢層(0〜60歳)のあらゆる体型の人たちの脂肪サンプルを調べ、脂肪細胞を数えました。その結果、幼年期と思春期に脂肪細胞の数が増加し、20歳を過ぎたあたりから数は一定になっていました。つまり、子どものときに肥満を解消しないままでいると、その数の脂肪細胞と一生付き合うことになるのです。
脂肪細胞の数を記録し、減少したときに対策するシステムが私たちの体の中にはあるのです。この調節はつねに行われ、他の細胞と同じように脂肪細胞も死に、幹細胞から産生され、新しい細胞と取って代わられています。
毎年、体脂肪中の10%が新しい細胞に置き換わると推測されています。つまり10年間で脂肪組織は完全に新しくなり、その際に脂肪細胞の数が一定に保たれるよう、体が働きかけているのです。
幼少期に太っていると痩せにくい
脂肪細胞の数が多い子ども時代を過ごし、そのまま大人になると、痩せにくく、痩せられたとしても維持するのはとても難しくなります。痩せても細胞の数はそのままで、サイズが小さくなった細胞で脂肪組織が構成されることになり、体はなんとしても「昔」の状態に戻りたいと、食欲が増進し、脂肪が燃えにくくなるためです。だから、子どものときから太っていた人が細身になるのは、すごく難しいのです。
お腹にたまる脂肪細胞は臓器の間に挟まっているため、膨張する余裕がなく、あまり多量は蓄えられません。脂肪細胞の脂肪量が「最大貯蔵量」に達してしまうと、血中の余分な脂肪酸はどこか他の場所へ行かなくてはなりません。その結果、筋肉や肝臓、心臓の周りなどの好ましくない場所に蓄積され、その機能に影響を及ぼします。
さらには、脂肪細胞が脂肪でぎちぎちになると、血管が引き伸ばされ、新たな血管が必要になります。血管が形成されるまでに時間がかかると、中心部の脂肪細胞は酸欠状態になり、大きなダメージを受けて死んでしまいます。すると修復のために炎症細胞が登場し、「ほら、みんなおいでよ!」と、より多くの炎症細胞を集めます。
しかしながら、腹部の脂肪から分泌される炎症物質は量が多く、血中に分泌されれば血糖値が上がり、血管壁に炎症を引き起こし、循環器疾患のきっかけにもなりえます。そのため、腹部の脂肪には要注意なのです。
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冒頭で紹介したロブは、その後、インスリンの量を減らしたいならば痩せるしかないと医師から告げられ、覚悟を決めて生活習慣を根本的に見直すことにしました。栄養士に食事のアドバイスをもらい、愛犬と毎日散歩したり、エレベーターの代わりに階段を使ったりと、生活習慣の改善を試みました。その結果、彼は10キロの減量に成功しました。
「力が湧いてきて、インスリンの量もかなり減らせたよ。無呼吸症候群も改善されたし、そのおかげで朝起きた時はスッキリしているんだ。だけど、もっと減量して血圧の薬を飲まなくていいようになりたいんだ。毎日が戦いだよ」
まだ目標には届かないかもしれませんが、一喜一憂しながらも彼は前に進み続けています。
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提供元:「肥満がなぜ悪いのか」炎症細胞との関わりがカギ|東洋経済オンライン