2022.01.12
高齢者の食事は「高カロリー」がいい意外な事情|基礎代謝は低くなってもエネルギーは消耗
高齢になると体にどのような変化があるのか(写真:セーラム/PIXTA)
「年寄りはたいして出歩かないし運動量も低いから、あまり食べなくてもいいんだ」
「年をとると代謝が落ちてエネルギーを使わなくなるから、食べる量は少なくてもいい」
みなさんの親御さんは、食事量が落ちた言い訳に、こんな理屈を並べてはいませんか? しかし、これはとんでもない誤解です。本当は、高齢者こそしっかり食べなくてはなりません。年々歳を重ねるごとに食事量を増やし、むしろ、若者より多めに食べて、しっかりエネルギーを確保していかなくてはならないのです。
※本稿は佐々木淳氏の著書『在宅医療のエキスパートが教える 年をとったら食べなさい』から一部抜粋・再構成してお届けします。
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年をとると「病気」「炎症」にエネルギーが奪われる
いったい、なぜなのでしょう。そもそも、1日に必要なカロリー(エネルギー)は、その人の「基礎代謝+運動代謝」によって算出されます。基礎代謝は、心臓を動かしたり汗をかいたり呼吸を続けたりといった、24時間体を維持するために必要なカロリーです。
一方、運動代謝は、散歩をしたり仕事をしたり運動をしたりといった、1日に体を動かすのに必要なカロリーとなります。通常、基礎代謝は高齢になると若いときに比べてかなり低くなります。また、運動代謝のほうも高齢になると落ちるのが普通です。
では、高齢者は、基礎代謝や運動代謝が落ちるのにもかかわらず、どうして多くのカロリーが必要なのでしょう。
その理由は、高齢者の場合、基礎代謝に「障害係数」をかけ算しないといけないから。障害係数とは、簡単に言えば「病気や炎症などによって消耗されているエネルギー」のこと。年をとればたいていの人はいくつもの病気や炎症を抱えているものですが、それらが知らないうちにけっこうな量のカロリーを消費してしまっているのです。
がん患者がちゃんと食べているのにやせていくのは、「がんがエネルギーをどんどん消費している」から。要するに、病気や炎症にエネルギーを取られてしまっているのです。だから、病気を抱えている人は、その分よけいに食べてカロリーを確保しなくてはなりません。
いちばんわかりやすい障害係数の例が「発熱」です。風邪をひいて36.5度から38.5度に熱が上がったとしましょう。体温を1度上げるのに必要なカロリーは約200キロカロリー。2度で400キロカロリーです。つまりこれは、400キロカロリーを熱に取られてしまっているということであり、この場合、熱に奪われた400キロカロリー分をよけいに食べて、取られた分を取り戻さなくてはなりません。
お年寄りはわりと頻繁に熱を出すものですが、そういうときにこそよけいに食べてカロリーをつけていく必要があるということ。「食欲がないからおかゆでいい」なんて言っていてはダメ。熱に取られた分たくさん食べて、体力を取り戻すような方向へ考え方を変えなくてはなりません。
そもそも、高齢者はとくに病気を持っていなくても普段からたくさんカロリーを摂るよう心がける必要があります。それは、老化に伴い「体中のあらゆる箇所で、炎症が進んでいる」可能性が高いから。
さらに、病気の診断は下されていなくとも、高齢者の体はいたるところでさまざまな機能が「下り坂」となっています。そういった体の状態では、若い頃と同じように体を動かすにも、余計にエネルギーが必要となるのです。
さらに、もし何かの原因で入院してしまったら、非常に大きなストレスがかかり、一気に心身が消耗してしまうと考えられます。「入院10日で、7年分老化が進む」という研究報告もあり、一気に筋力が低下します。やせているお年寄りが入院すると、太っているお年寄りよりも「4倍も死亡率が高まる」というデータもあります。そういった「万が一のとき」に備え、普段からしっかり食べて「体重を蓄えておく」という考え方も必要でしょう。
私は高齢者の場合、若い人よりも多く食べるくらいでちょうどいいと考えています。これからは「年寄りの食事は少しでいい」なんていう古めかしい考えを180度くつがえし、「高齢者こそ若者以上に食べなきゃならない」という方向へ大方針転換していくべきなのです。
たんぱく質は「たっぷり」「回数を分けて」が効率を高めるコツ
また、高齢者はカロリーだけでなく、たんぱく質を摂るのにも「若者に負けずに食べる」というくらいの姿勢が必要です。それにしても、高齢者が筋肉を守り通していくには、いったいどれくらいのたんぱく質が必要なのでしょうか。それには、まず「筋たんぱく合成率」を考慮しなくてはなりません。
これはどれくらいのたんぱく質を摂ると筋肉合成が進むのかのパーセンテージのこと。高齢者の場合、筋肉を合成するには一度に多くのたんぱく質を摂らなくてはなりません。量で言うと、高齢者が筋肉を守っていくためには、体重が50キロなら1食当たり20グラム、1日当たり60グラムはたんぱく質が必要ということになります。
重要なのは、この「1食当たり」という部分。筋肉を守るためには、食事のたびに筋合成を刺激し続ける必要があり、「3食ともしっかりたんぱく質を摂る」ことが必要です。「朝と昼は軽めで、夜はしっかり」という人が多いかもしれませんが、朝を「食パンとコーヒー」だけで済ませていたり、昼を「コンビニのサラダとおにぎり」だけで済ませていたりしてはダメ。これでは、朝も昼もたんぱく質をほとんど摂取することができません。
たとえば、「朝は納豆とごはんとみそ汁」といった食事の場合、摂取できるたんぱく質は10グラム程度です。しかし、卵をひとつつけるだけでもプラス6グラムになりますし、豆腐をひときれつければ20グラムを超えます。
このように、「1日に60グラム、1食当たり20グラム」というラインは、普段から「たんぱく質をちゃんと摂ろう」と意識していれば、けっこう摂れるもの。感覚的な目安としては、1日に「両手山盛り一杯」の動物性たんぱくを摂るのを目標にするのがおすすめ。肉でも魚でも卵やチーズでも構わないので、両手で持って持ちきれないくらい山盛りの量を食べるようにするとよいでしょう。
市販のプロテインを摂取するのもいいと思います。プロテインといえば、かつては運動選手など一部の人のものでしたが、いまはコンビニやスーパーなどでもパックのプロテイン飲料が置かれています。ほかにも、最近はたんぱく質を強化したヨーグルトなど、さまざまな食品が増えているので、そうした食品を日々の生活に取り入れて摂取していけば、かなりの量のたんぱく質を上乗せできることになるはずです。
しっかり食べることは、人生の幸せにつながる
これまで見てきたように、多くのお年寄りが抱いている「食事の常識」は、最新の老年医学が導き出した「高齢者におすすめの食事の常識」と大きくズレている場合が少なくありません。
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「年寄りの食べる量は少しでいい」
「高齢者は低カロリー食でいい」
「年をとったら肉は食べなくなるもんだ」
こんな考え方は早々に捨て去って、考え方を「令和の新常識」に180度切り替え、高カロリー、高たんぱくの食事をおいしくどんどん食べるようにするべきなのです。
先ごろ99歳でお亡くなりになった瀬戸内寂聴さんは、500キロカロリーものボリュームの朝ごはんを日課にし、お肉とお酒が大好きで、3日と空けずに牛肉のステーキを食べていたとか。最後まで肌もツヤツヤで、いつも幸せそうな笑顔を浮かべてパワフルに活躍されていましたよね。
食べることは、人生の幸せにつながります。老い先短くなった親に、幸せなラストステージを送ってもらうために、いま一度、「食べること」を見直してもらってはいかがでしょうか。
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提供元:高齢者の食事は「高カロリー」がいい意外な事情|東洋経済オンライン