2021.12.28
高齢になると「もりもり食べる」が実は正解の理由|やせていると「肺炎」や「骨折」のリスクが急上昇
目指すは「ぽっちゃり肥満体型」(写真:【IWJ】Image Works Japan /PIXTA)
人生100年時代、最近は70代になっても80代になっても元気なお年寄りも増えてきました。しかし、そうはいっても人間は年を重ねれば着実に衰えていくもの。きっと、みなさんの中にも高齢になった親の健康状態を心配している人がいらっしゃるのではないでしょうか。
本稿は『在宅医療のエキスパートが教える 年をとったら食べなさい』から一部抜粋・再構成してお届けします。
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「病気」よりも「やせ」が危ない?
高齢の親にできるだけ長く健康でいてもらうために、いちばん気をつけておかなくてはならないことは何なのか、みなさんはご存じですか?
じつは、もっとも注意すべきが「低体重」、すなわち、「やせてしまうこと」なのです。日本には、60代を過ぎ、70代、80代の高齢になると「もういい年なんだから、年相応、少ない量を食べればいいんだ」と食事量を落とし、体重を落としてやせていってしまう人が少なくありません。ただ、やせて体重が落ちてくると、低栄養状態になり、筋肉量が落ち、運動機能が低下していく……。そういう悪循環にハマってどんどん弱っていってしまうケースが非常に多いのです。
高齢者にとって低体重が危険なことは、データにも表われています。みなさん、BMI(ボディ・マス・インデックス)をご存じですね。そう、身長(m)を2乗して体重で割ると求められる値です。一般的には、BMI22が、病気のリスクがもっとも低くなる「標準体型」とされていて、BMIが25を超えると「肥満」、18.5を下回ると「やせ」とされています。ところが、高齢者の場合、BMI27の「ちょい太め」「軽度肥満」くらいがもっとも死亡リスクが低くなるのです。
つまり、高齢者の場合、「BMI22の標準体重=いちばん健康」とは限らないということ。文部科学省の研究班が65~79歳の高齢者を11年間調査した研究では、「男性はBMI27.5~29.9、女性はBMI23.0~24.9のとき、いちばん死亡リスクが低い」という結果が出ています。また、この研究では、高齢者では太っていると死亡リスクが低くなり、やせていると死亡リスクが高くなるという傾向も明らかになっています。
さらに、全国の訪問看護を利用している高齢者のBMIを調査したところ、BMIが18.5にも満たない低体重の人が60%にも上ることがわかりました。しかも、BMI16未満の「重度のやせ」の人が28%もいたのです。
これは、ガリガリにやせてしまった危険なレベルで、女性の場合、BMIが16未満だと、BMI22の人に比べて死亡リスクが2.6倍にアップすることもわかっています。このように、日本には、やせすぎによって健康を危険にさらしている高齢者がたくさんいるのです。
やせていると「肺炎」や「骨折」のリスクが急上昇
高齢になってやせてしまうことが、なぜ危険なのか。それは、筋肉量が減少して「サルコペニア」や「フレイル」につながりやすくなるからです。サルコペニアは「筋肉減少症」とも呼ばれ、運動機能に支障をきたすほどに筋肉が落ちてしまう現象。
フレイルは、「虚弱」と呼ばれ、運動機能だけでなく認知機能も衰えて、要介護や寝たきりの一歩手前のような状態になることを指します。やせて体重が落ちると、こうした衰えが進みやすくなるうえ、転倒して骨折をしたり肺炎になったりするリスクがたいへん高まります。
低栄養でやせた高齢者はたいへん骨折や肺炎に陥りやすく、骨折と肺炎は、在宅高齢者が救急車で緊急入院する理由のじつに45%を占めています。しかも、やせていると、「入院する」ということ自体が大きなリスクになります。やせた高齢者が衰えが進み始めた状態で入院してしまうと、とても高い確率で身体機能や嚥下機能、認知機能が低下してしまうことになるのです。
高齢者が入院すると、基本的にベッドの上で安静にしつつ、検査や治療のために食事制限をされることになります。とくに、誤嚥性肺炎を起こした患者は、口からの食事を止められるのが一般的です。すなわち、ろくに動かず、食事も満足に食べられない状況が続くうち、筋肉や体重が落ち、てきめんにサルコペニアやフレイルが進んで衰弱していってしまうのです。
低体重の人はとりわけ衰弱の進行が激しく、アメリカの研究では、やせた高齢者が入院すると、死亡のリスクが4倍に上がるという報告もあります。そのため、やせた高齢者が入院すると、それっきり家に帰れなくなるケースも少なくありません。たとえなんとか帰ってこれたにしても、体力や筋力がガクンと落ちた状態での帰宅となり、そのまま寝たきりになってしまうケースが目立ちます。
おそらく、みなさんの身近にも、入院をきっかけに一気に衰えて、そのまま亡くなってしまったお年寄りがいらっしゃるのではないでしょうか。
世界の高齢者はもりもり食べている
では、骨折や肺炎を防ぎ、サルコペニアやフレイルに陥るのを防ぐため、高齢になった親にどんなことを勧めればいいのでしょうか。そのもっとも効果的な対策が「しっかり食べて体重を増やすこと」なのです。
私は15年以上、在宅医療の専門家として6000人を超える高齢の患者さんを診てきました。また、世界各国の高齢者施設を訪ねて、どのように食事や健康を管理しているのかを調べてきました。そうしたなかでたどり着いた結論が「太っているお年寄りほど健康」ということなのです。
はっきり言って、こんなにも「やせた高齢者」ばかりが目立って多いのは日本だけのようなもの。世界各地の高齢者施設を訪ねると、たいていどの国でも長生きをしている健康なお年寄りは、みんなもりもり食べてコロコロと太っています。
たとえば、中国の上海のある老人ホームでは、平均年齢85.2歳、平均BMIは24.7の元気で自立した高齢者ばかり。出されていた食事は、肉などの動物性たんぱく質が5品に、油で炒めた野菜が1品、たっぷりのごはんに汁物……。書き並べただけでかなりボリューミーであることがおわかりいただけると思いますが、このメニューをおかわりする人も少なくないそうです。日本の高齢者と比べると、食べている量にかなりの差があることがおわかりでしょう。
また、日本の高齢者の場合、やれ「脂ものの摂りすぎはよくない」とか、やれ「添加物やジャンクなものは避けたほうがい」とかと、口に入れるものを自己規制してしまっている場合が多いのですが、世界の長寿者は、そんなことあまり気にせず、自分の好きなものをもりもり食べている傾向があります。つまり、高齢になってきたら、食事で大事なのは「質よりも量」。高齢者にとっては、とにかくたくさん食べてカロリーを蓄え、体重を増やしていくほうが健康長寿につながりやすいのです。
それに、もりもり食べて、体重や筋肉量をキープしていれば、運動機能をあまり低下させずに済みます。また、筋肉がしっかり保たれていれば、転倒して骨折をするリスクも小さくなりますし、嚥下機能もキープされ、誤嚥性肺炎のリスクも小さくすることができます。
さらに、しっかり食べて体重をつけている高齢者は、仮に入院したにしてもあまり衰えることなく自宅へ帰還して、わりとスムーズに回復できるケースが多いのです。私の診てきた高齢の患者さんにも、太めの体型の人には、あれこれ病気を抱えながらも健康コンディションを良好に保って長生きをしてらっしゃる方が少なくありません。
若いときと高齢期では健康常識が「180度」変わる
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ですからみなさん、もし老齢の親の衰え加減が心配になってきたなら、とにかく「よく食べて体重を増やすこと」を勧められてみてはいかがでしょう。目指してもらうのは、BMIが標準よりも高めの「ぽっちゃり肥満体型」。人間はしっかり食べてこそ、長く健康に生きられる生き物なのです。
ただ、高齢の親にはたくさん食べて太ることを勧めても、みなさんご自身はあまりマネしないようにしてください。若い世代や中年世代など、まだ問題なく体が動く現役世代は、やはり、健康のために太りすぎないよう注意していくほうがいいのです。現役世代の方々にとっては、やはりBMI22くらいがもっとも病気になりにくいライン。
若くて元気なときと高齢になって衰えてきてからでは、健康をキープするために守るべきことが180度変わるのです。ぜひ、その点をしっかり押さえておくようにしてください。
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提供元:高齢になると「もりもり食べる」が実は正解の理由|東洋経済オンライン