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2021.12.02

相次ぐ電車内の傷害事件、自分の身をどう守る?|非常ボタンや消火器の場所を覚えておこう


列車内に設置されたSOSボタン(写真:尾形文繁)

列車内に設置されたSOSボタン(写真:尾形文繁)

10月31日に東京都調布市を走行中の京王線上り特急列車内で発生した傷害事件、11月6日に東京メトロ・東西線を走行中の下り電車の車内で刃物を持った男が逮捕された事件、さらに11月8日には熊本県内を走っていたJR九州・九州新幹線の車内で放火未遂事件。最近になって電車内での刃物による傷害事件や放火事件などが、短期間で何度も起きている。車内で自分の身を守るには、私たちはどう行動したらよいのか。

相次ぐ鉄道の車内での事件だが、恐ろしいのは、走行中は密室といえる車内で犯行が行われたことだ。そこで、電車内で事件に遭遇してしまった場合、身を守るための行動として有効な手段や、海外で行われている防犯対策などについて紹介したい。

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SOSボタンを押すのが最優先

まず、国土交通省は、鉄道の各車両には原則として安全装置である非常通報装置、手動で扉を開くことができる非常用のドアコック、消火器などを設置することを省令で義務づけている。これらの設備は、利用者が使用することを想定して設置されている。

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実際に自分が身の危険に遭遇してしまった場合、まずは最優先で非常通報装置やSOSボタンを押してほしい。これを押すことで、車掌や運転士に伝わり、電話のように連絡ができるようになる。この時、最近の電車であれば、運転室のモニターに号車が表示される。モニターのない車両は号車のランプが点くということだ。車内放送機器に番号が並んでいるのを見たことがあるので、おそらくこれのことだと思われる。

さらに、このボタンは押すことで作動しブザーが鳴りランプが光るなど、動作は鉄道事業者によって異なるが、周囲に緊急事態を知らせることが可能だ。そして、とにかく可能な限り遠くへ逃げてほしい。

非常通報装置の設置場所は各車両によって異なるが、非常通報装置は大体乗降口・ドアの近くや連結部・貫通扉横や優先席付近にある。

次に、放火など火災が起きてしまった場合はどうすればよいのか。

列車内には消火器の設置場所も示されている(写真:尾形文繁)

列車内には消火器の設置場所も示されている(写真:尾形文繁)

火災の場合も、速やかにその場から離れることが何より重要である。日本の鉄道車両は、火災対策として燃えにくい難燃性の構造にすることが定められているため、火災が発生した車両からほかの車両に延焼することは考えにくいため、まずは逃げることが先決である。

しかし場合によっては、消火器を使って消火活動をすることも可能である。消火器の設置場所も各車両によって異なるが、車両の連結部付近や優先席付近に設置されていることが多い。

これら非常時の安全装置の仕様や設置場所は鉄道事業者によってさまざまであり、いざというとき、すぐに見つけ出しにくいことがある。特に相互直通運転を行なっている地下鉄路線などは、さまざまな形式の列車が乗り入れるため、難易度が高くなる。今後はそういった問題にも追求し、解決していかなければならないだろう。

緊急停車時の行動は?

では、列車が襲撃事件や火事によって緊急停車した場合はどうすればよいのか。

まず、乗務員の指示を待って行動していただきたい。乗務員の指示によって車外へ脱出する際に車両のドアが開かない場合は、冒頭に述べた非常用のドアコックを使ってほしい。大抵は車両のドア付近の上部にあり(座席の下などに設置されている場合もある)、赤いレバーを引くと、手動で車両のドアを開けることができる。

いくつかの鉄道事業者に取材しわかったことは、この非常用ドアコックを使用すると、運転台のパイロットランプが消灯し、手動で運転手がブレーキをかける規則になっている。つまり、基本的に自動ではブレーキはかからない(異なる車両もある)。そして、非常用コックを使用してしまうと、このコックを戻さないと、電車が再起動しない仕組みになっている。

このため、原則として、非常用ドアコックは、停車している場合に使用する。列車の走行中は、転落事故や対向列車にひかれてしまうリスクが大きいためである。やはり基本的には乗務員からの指示を待つのがベストであろう。

非常用ドアコックは工場での点検の際や、駅での車内清掃などの際に使用することが多い。いずれも係員による操作で、通常は乗客が触ることはない。

もともと鉄道車両のドアは鉄道開業以来手動式だった。大正時代に誕生した電車も手動式だったが、昭和の初めに自動ドアの電車が登場した。ただ、運転台にドア開閉装置があるため、車両基地などで検査や清掃を行う際に、いちいち運転台からドアの開閉を行わなくてはならない。その手間を省くことなどもあり、各車両にドアコックが設置された。当然、係員が操作することが前提のため、どの位置にあるかの表示は行わなかった。

しかし、これが大惨事を招いてしまった。1951年に起きた車両火災による桜木町事故では、ドアの開閉方法がわからず、106名の死者を出してしまった。これ以降、非常用ドアコックの位置を車内に明示するようになったが、今度は1962年にドアを開けて線路に降りたために大惨事が起きてしまった。

いわゆる三河島事故で、同じ方向に向かう下りの貨物列車と電車が衝突し脱線。乗客は桜木町事故の教訓から非常用ドアコックで外に出て、上り線を歩いて避難を開始したが、そこに上り電車が進入。急ブレーキをかけたが間に合わず、歩く人を次々とはねながら脱線した電車と衝突した。このときの死者は160名にも及んだ。

非常用ドアコックの使用は状況によっては悪化することもある。ということも覚えておく必要がある。

走行中の非常用ドアコック使用は?

走行中に非常用ドアコックを使用することがあるのか。

ホームドアに設置された非常ボタン(筆者撮影)

ホームドアに設置された非常ボタン(筆者撮影)

これも状況次第となる。例えば、利用者がドアに手を挟まれ、引きずられて動いてしまった場合には、まずはSOSボタンを押して列車を緊急停車させ、非常用ドアコックを使ってドアを開けて人の手を外すのが、有効な手段のようだ。実際、電車のドアに挟まり、引きずられてホームから転落死した事故が起きている。もしそのような事態を目撃したら、迷わずSOSボタンを押してから非常用ドアコックで救出するのが最良と思われる。

ただ、今はホームドアが設置された駅が増えており、ホームドアが開いていれば発車しないので、引きずられることはまずないだろう。最悪の場合は、ホームドアに備えられている非常ボタン(ホームドア非常開ボタン)を押すのがよい(ホームドアにある非常ボタンの設置個所は、駅によって異なる)。

一連の度重なる傷害事件が発生するまで、一般に鉄道車両内の安全装置については知られていなかった。

消火器や非常通報装置の場所が表示されている場合もある(写真:尾形文繁)

消火器や非常通報装置の場所が表示されている場合もある(写真:尾形文繁)

非常通報装置や消火器、非常用ドアコックなどの設備があることを、鉄道事業者が積極的にアピールしなくてはならない時代になってしまった。また、設備の使い方などの情報も、発信しなくてはならないだろう。

なお、京王線の事件のときには非常通報装置を押した乗客が何も話さずに装置のあった場所から逃げてしまったため、乗務員は何が起きているのか分からなかったという。国土交通省では、複数の通報装置が押された場合には、乗客と通話ができなくても緊急事態と判断することや速やかに停車すること、また、緊急対応時にホームドアと列車のドア位置がずれてしまった場合には、扉をあけ、乗客を誘導することを基本的な対応と指示した。

非常通報装置の下に、火事、事件、急病などのボタンを3つくらい設けるなどすれば、乗客が会話などできない状況でも、押すだけで、乗務員がある程度の内容を把握しやすくなり、迅速な判断の一解になるのではないかと思う。

また、普段利用している私たちも、車両のどこに非常装置があるのかを日頃から確認することを心がけたい。いつ何が起こるのかわからない。通常からイメージトレーニングを行っていれば、いざというとき、最大限自分の身を守る行動ができるはずだ。

海外の事例は?

最後に、海外で行われている防犯対策の一例として、アメリカ・サンフランシスコを走る中距離列車、カルトレイン(Caltrain)の例と、同じくサンフランシスコのベイエリアを走る地下鉄のバート(BART)を紹介する。

カルトレインは非常時に窓の取り外しが可能だ(筆者撮影)

カルトレインは非常時に窓の取り外しが可能だ(筆者撮影)

基本的に窓の開かないカルトレインでは非常時の際、車内の窓に取り付けられている赤いレバーをひねることで、窓が脱落し、窓を取り外すことが可能だ。危険なため、もちろん列車が停車しているときに限るが、日本にはない有効な対策のひとつではないだろうか。実際、過去には国鉄車両の一部で採用された例もあったそうだが、開閉式が主流となり、落下式も後に開閉式に改造されたもようだ。

さらにバートでは、人の目による強化対策として、施設内警察官の巡回がひっきりなしに行われている。日本でも新幹線では警備員による巡回が多く、特に東海道新幹線では、警備員の姿を何度も目にするほど頻繁である。

連日のように起きている電車内での犯行では、容疑者は捕まることを決して恐れていないという。それゆえ、犯行の未然防止につながる警備員や乗務員など人の目による強化策は、車内防犯カメラよりもはるかに効果が高いと思われる。

もちろん、人による強化は最も費用がかかる。しかし、どんなにシステムが進化しても、安全にはお金と人が必要不可欠だ。かつて国鉄(現・JR)が導入していた「鉄道公安官」の警乗が思い出される。被害を最小限に抑えるためには、こうした施策も考えないといけないかもしれない。

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提供元:相次ぐ電車内の傷害事件、自分の身をどう守る?|東洋経済オンライン

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