2021.11.08
キャンピングカー業界がコロナ特需を喜べない訳|レンタル需要が増えても売上が伸び悩む理由は
今回は、レンタルキャンピングカー事業を展開するエルモンテRVジャパンに、コロナ渦で需要が増えても売上が減っている現状を聞いた(筆者撮影)
昨今のアウトドアブームにより、コロナ禍においてもキャンピングカー販売は好調だ。一方で近年は、キャンピングカーを保有せず、レンタル車両で楽しむ層も増えており、市場は拡大傾向だといわれている。とくに2020-2021年は、コロナ禍の影響で、従来の主力だったインバウンド需要が激減した反面、日本人ユーザーの増加が顕著になっているという。
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そんな中、アウトドア系イベント「アソモビ2021 in Saitama」(2021年10月16日~17日・さいたまスーパーアリーナ)には、旅行業を手掛ける東証一部上場企業のエアトリ傘下で、レンタルキャンピングカー事業のエルモンテRVジャパンを手掛けるインバウンドプラットフォームが出展。同社所有のレンタル用車両で、本格的キャンピングカーの「クレソンジャーニー エボライト」を展示するとともに、日本人利用客のさらなる需要拡大を狙ったサービスのアピールを行っていた。
同社でも、コロナ禍の影響が出た2020年以降は、日本人の顧客増加が著しく、夏のハイシーズンには貸し出す車両がなくなるほどの盛況ぶりだ。だが売上では、欧米からの訪日外国人が顧客の中心だった2019年までには及ばないという。そして、それは、日本人と欧米人では、キャンピングカーによる旅の方法や期間などに大きな違いがあるのが要因のひとつのようだ。エルモンテRVジャパン代表の武原 等氏に、近年の日本人利用客の傾向や訪日外国人との相違点、レンタルキャンピングカー事業における今後の課題などを伺った。
エルモンテRVジャパンとは
北米でキャンピングカーをレンタルして旅をした経験がある人であれば、エルモンテRV(EL MONTE RV)の名前を聞いたことがある人も多いだろう。北米で2番目の規模を誇る、レンタルキャンピングカーの大手企業だからだ。アメリカだけでなく、カナダやオーストラリア、ニュージーランドなどで事業を展開し、2000台以上の車両を保有する。また、それらすべてが製造4年以内の新しいモデルであることや、大都市の空港などから手軽に車両を借り出しできる利便性のよさなどにより、現地では高い人気を誇っている。
北米で2番目のレンタルキャンピングカーブランド「エルモンテRV(EL MONTE RV)」。そのブランドを日本で展開しているのが「エルモンテRVジャパン」となる(筆者撮影)
余談だが、かつて筆者は、アメリカ西海岸で27フィートの巨大キャンピングカーをレンタルし、取材旅行を行った経験がある。その際、レンタルを検討した企業のひとつがエルモンテRVだった。結局は、料金面や手配を依頼した国内旅行会社の提携関係などで、同じく大手のクルーズアメリカを選んだが、エルモンテRVのロゴが入ったレンタル車両は、国立公園などの取材先でたびたび目にした。キャンピングカー先進国の北米では、レンタカーの需要も予想以上に高く、なかでもエルモンテRVは、メジャーどころの1社である。
現在は格安航空券予約でもおなじみ「エアトリ」の子会社インバウンドプラットフォームの傘下でレンタルキャンピングカー事業を展開(筆者撮影)
エルモンテRVジャパンは、そういった北米の有名企業とライセンス契約を結び、日本で同じブランド名を使用してレンタルキャンピングカー事業を行っている。もともとは、10年以上前に代表の武原氏が個人で開業し、5年前に法人化したが、現在はエアトリの子会社インバウンドプラットフォームに吸収され、同社傘下の事業部として活動している。
エルモンテRVジャパンのサービス概要
エルモンテRVジャパンでレンタルしているキャンピングカー「クレソンジャーニー エボライト」の外観(筆者撮影)
エルモンテRVジャパンの特徴は、キャブコン(キャブコンバージョン)と呼ばれる本格的キャンピングカーをレンタルできることだ。イベントのブースにも展示された、国内メーカー大手のナッツRVが手掛けた「クレソンジャーニー エボライト」など22台を揃える。いずれも車体価格が1000万円近い高級モデルばかりだ。
クレソンジャーニー エボライトの室内(筆者撮影)
クレソンジャーニー エボライトは、キャンピングカーのベース専用シャーシであるトヨタ「カムロード」に、運転席以外のキャビン部を架装したモデルだ。室内中央部には、テーブルとソファを備えたダイニング、キッチンなどを配置。後部には2段ベッドを備え、前方上部にはバンクベッドと呼ばれる就寝スペースも確保する。
独自の給電システム「エボライト」も搭載(筆者撮影)
また、大容量のリチウムイオンバッテリーを採用した独自の給電システム「エボライト」も搭載。就寝時にエンジンを停めた状態でも、家庭用エアコンが8時間程度使えるなど、充実の装備を誇る。なお、乗車定員は7名、就寝人数は6名だ。エルモンテRVジャパンでは、ほかにも同様の仕様を持つ「クレソンボヤージュ エボライト」も用意する。
クレソンジャーニー エボライトのキッチンスペース(筆者撮影)
レンタル料金は、季節や車種などで変わる。例えば、1日料金では、ゴールデンウィーク(4/29~5/5)やお盆・夏休み期間中(8/5~8/16)のトップシーズンは1日4万9500円~5万2250円。それ以外の夏場(7/16~8/4、8/17~8/31)や年末年始(12/24~1/3)のハイシーズンは3万5750円~3万8500円。それらを除くレギュラーシーズンでは、平日の月曜~木曜が2万2000円~2万4750円、金曜・土曜・日曜・祝日が2万7500円~3万250円だ。ほかにも料金ラインナップには、1時間あたり2200円からの時間貸し料も設定する。
車両を貸し出す店舗は、千葉県の船橋本店や成田の千葉富里店となる。東京都でも新橋店やALBI・世田谷店があるほか、北海道にも新千歳空港近くの提携レンタカー会社などがある。
ちなみに、日本でのレンタル事業のほか、アメリカなどに渡航し、キャンピングカーをレンタルする日本人旅行者向けに、現地エルモンテRVの予約サービスなども行っている。だが、これについては、やはりコロナ禍により、現在はほとんど需要がない。
インバウンドと日本人の違い
同事業部の顧客は、前述のとおり、コロナ禍の影響がでる前の2019年までは、インバウンドの訪日外国人が半分以上を占めていた。とくに自国でもキャンピングカーが身近な欧米からの旅行者が大半だ。エルモンテRVジャパンの武原氏によると、欧米からの訪日外国人は、「レンタルする期間が長い」ことが特徴だ。平均で15泊と、2週間以上レンタルするユーザーが多い。2019年のラグビーワールドカップ開催期間中は、1カ月近くレンタルした顧客も多かった。利用客は、友人同士から家族連れなどさまざま。目的の多くが「電車など公共交通機関ではいけない場所を旅する」ことだ。キャンピングカーで旅しながら、日本の魅力を堪能したい層に人気がある。中には、日本1周をした強者もいたそうだ。
バンクベッドと呼ばれる就寝スペース(筆者撮影)
一方、コロナ禍の影響が出た2020年以降は、これも先述したように、利用客はほぼ日本人だ。2021年では、日本人の需要がそれまでの1.5倍以上に増えた。夏休み期間中は、22台ある車両がすべて出払い「予約を断ったほど」だという。利用者の中心は、30代~40代のファミリー層で、家族4名ほどで旅行するケースが多い。中には、高齢の親を含めた親子3世代が6名ほどで借りたり、若い世代が卒業旅行などで利用したりする例などもあり、年齢層は意外に幅広い。レンタル料金は、一般的なレンタカーを借りるより高めだが、「海外旅行の代わりに、ちょっとリッチな旅をする」ために利用する層も多い。
クレソンジャーニー エボライトのダブルベッド(筆者撮影)
だが、売上的には以前に及ばない。武原氏は、その理由に「日本人のレンタル期間は平均で2.5日と、欧米からの訪日外国人と比べ圧倒的に短い」ことを挙げる。レンタル期間が長いほうが、利益率は高くなるからだ。
エルモンテRVジャパンでは、レンタルから戻ってきた車両は、すべて車内外をクリーニングするが、とくに室内が広いキャンピングカーの場合は手間や時間がかかる。ご時世柄、消毒作業も行うようにしているため、1台あたり丸1日はかかるという。
つまり、短い期間で返却された車両は、空いていてもすぐに貸し出しができるわけでもなく、消毒・清掃の頻度も増える。クリーニングにかかる費用や人件費は、レンタル期間が長い車両に比べ、おのずと高くなるのだ。ちなみに同事業部では、2019年までは東南アジアや台湾からのインバウンド利用客もいたそうで、レンタル期間は平均5泊。欧米人と比べると短いが、やはり日本人の利用客に比べると長めだったという。
日本人利用客の特徴
日本人利用客は、「キャンピングカーの運転がはじめて」というユーザーが多いことも特徴だ。キャンピングカーが身近な欧米人は、日本の右側通行に慣れてしまえば、運転や操作などにあまり問題がない。また、貸し出しするレンタル車両は比較的大きい車格であるため、中には車体を壁などにぶつけて傷つけるなどの事故もある。面白いのは、事故を起こすユーザーは、若い世代で少なく、クルマの運転に慣れているはずの40代が圧倒的に多いということだ。そういった層は、普通車のつもりで運転を油断し、意外に車体が大きいことでぶつけてしまうケースがほとんどだそうだ。武原氏は、「若い人は慎重に運転する人が多い」ため、事故が起こったことは今まで皆無だという。
お盆休みや年末年始など、利用時期が集中する傾向にあるのも日本人利用客の特徴だ。一方、訪日外国人、とくに欧米からの利用客は4~6月、12月のクリスマス休暇時期が多い。時期的にも訪日外国人のほうが幅広いそうだ。日本も休日の数では世界的に多いが、圧倒的に違うのが平日の休み。欧米からの利用客には、前述のとおり、ファミリー層も多かったが、小学生くらいの子どもが「学校を休ませているとしか思えない」時期に親と訪れ、平気で2週間以上旅するケースも多かったという。同じ時期に一斉に休む日本人と、子どもの学校を休ませても自分のペースで旅する欧米人。善し悪しは別にして、休暇の考え方や取り方の違いが現れており、それが同社の収益にも影響が出ているようだ。
クレソンジャーニー エボライトの外観(筆者撮影)
同社では、現在、できるだけ長期でレンタルしてもらうための施策を行っている。例えば、車両レンタル基本料金の割引制度だ。3日以上借りる場合は10%、7日以上では20%、20日以上なら30%をそれぞれ割引する。また、65歳以上を対象に7日以上で30%、20日以上で50%をそれぞれ割引するシニア特典も実施する。仕事を引退するなどで、旅に比較的時間を費やせる高齢者層の取り込みも目指す。
ただし、武原氏によれば、やはり「インバウンド需要が戻ることが最も売上回復につながる」という。先述のように日本人は夏休みなど利用時期の波が激しく、期間も短い。増えてはいるものの、やはりインバウンドの利益率には及ばない。「日本のお客様が増えていることは素直にうれしい」と語る武原氏。だが、コロナ禍が沈静化し、「訪日外国人の利用客が戻ってきてくれること」にも期待したい。先行きが見えない現状だけに、武原氏の心境は複雑なようだ。
テレワークでのキャンピングカー利用も少ない
ちなみに利用客には、最近、コロナ禍により増えたテレワークの利用客もいるという。エルモンテRVジャパンが所属するインバウンドプラットフォームには、旅行向けポケットWi-Fiのレンタル事業もあることで、キャンピングカーのレンタル客にはポケットWi-Fiを無料で貸し出しているという。だが、テレワーク目的のユーザーはそもそも数が少なく、最近はコロナ禍が一応落ちついてきたこともあり、あまりニーズは増えていないそうだ。そうなると、やはり期待すべきは旅行目的のユーザーをどう増やし、どう利益率を上げていくか。
キャンピングカーは、コロナ禍により、「密」を避けた旅行の移動手段として注目されており、レンタル事業も一見盛況のように見える。だが、その実は、やはりインバウンド需要の復活を期待するという点では、ほかの旅行業に近いようだ。いつ来るかわからないアフターコロナの世界をどう読み、どのような活路を見出すか、業種に限らず、企業の苦悩と戦いはまだまだ続きそうだ。
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提供元:キャンピングカー業界がコロナ特需を喜べない訳|東洋経済オンライン