2021.10.21
「消防士は火事の予知夢を見る」説の本当の理由|夢にまつわる不思議を心理学の立場から解説
予知夢を見たことがありますか?(写真:coffee7 / PIXTA)
「悪夢をみないようになれる?」
「予知夢ってある?」
夢は誰もが見るものの、謎多き存在ではないでしょうか。
新著『夢を読み解く心理学』では、心理学の先生と3人の教え子A、B、Cとの会話形式で、そうした「謎」を解説しています。本稿では同書より一部を抜粋しお届けします。
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夢には「パターン」がある?
A
じつは私、いま夢日記をつけているのですが、その話をすると、「夢と現実の区別がつかなくなってこない? おかしくならない?」と友だちに心配されるんです……(笑)。そんなことってほんとうにあるんでしょうか?
先生
いやいや、通常はそんなことはないわよ。むしろ、自分の夢の法則性、規則性に気づく人が多いのではないかな。
A
そう! まさに。実際に夢日記をつけはじめると、「おぼえておこう!」と夢に対して自覚的になる。そうやって日々生きてみると、そのパターンに気づくんですよね。
先生
自分がいまなにを気にしているのか、意識下で完全に処理できていなかったヒトやコトが夢にでてきたりね。
A
基本的に、夢にでてくる人物や光景の大部分は前日とか少しまえにみた人やものなんです。ただたまに、現実世界で会ったことも、みたこともない顔の人が夢にでてくる気がするんですよ。それって、たとえばテレビで瞬間的にみたり、街ですれちがっただけの人の顔が意識下に潜んでいたことになるんですかね……?
先生
あり得るね。いわゆる「サブリミナル記憶」ってやつ。
C
人間ってすごいですね!
先生
初体験の事柄にもかかわらず経験したことのある感覚をおぼえる「デジャブ」もほとんど同じ仕組みじゃないかしら。実際の記憶はなくとも、近しい知覚があったり、経験や知覚がミックスされることでデジャブをおぼえる。脳がイメージの中で予期した知覚と実際の知覚経験が一致したと誤って判断したためと考える研究者もいるの。(注1)
デジャブは無意識的な知覚のサブリミナル。では、よくきく「予知夢」はなにか科学的にいえることがあるかというと、心理学の立場からすると、「認知バイアス(偏り)」に集約されるかなあ……。自分が気になっていることがあって、本来は合ってるときもあれば、合っていないときもあるはずなのに、合ったときだけ「当たった」と認識している状態のことよ。
典型的な例としては、夢におじいさんがでてきた数日後に亡くなったとか、消防士さんがよく、当直の際に火事の夢をみると、実際によく火事がおこるみたいなこと。消防士さんたちは、当然職業柄、私たちよりも日常的に火事の場面をみているわけよね。当直で寝ているときは、いつおこされるかわからないストレスや、よばれたらすぐに現場に駆けつけないといけない緊張感もある。結論、当直の日であろうがなかろうが、火事の夢は日常的にみているはずなのよね。
でも、夢でみているはずなのに、実際に火事にあわないとカウントすらしてない。火事がおこらなかった日は夢をカウントせずに、実際に火事がおこったときにだけ火事の夢をみたことを認識する。消防士に限らず、いわゆる「虫の知らせ」といわれる類の不安がセットとなる出来事の背景には、認知バイアスがはたらいているケースがほとんどでしょうね。
また逆に、夢自体は忘れていたんだけど、実際の出来事によって夢を思い出すこともある。(注2)
夢は全部おぼえているわけじゃないしね。
金縛りの原因は夢?
健康にはよくないと思いつつ、寝るまえに深酒してしまう人がいますよね。飲む量が多くなったときなんかは、早朝に、半分意識がある状態で目ざめる。そうすると、マイルドな金縛りというか、いわゆる「トリップしている感じ」になる。体の半分は眠っているのに、もう半分で意識が覚醒しているような。アルコール度数が強いものを飲むと、入眠は促進されるけど、中途覚醒になってしまうんだよね。
アルコールの摂取はともかく、体は疲れているのに、頭が冴えているときにおこるのが金縛りだね。本来であれば90分間ほど眠ったあとに1回目のレム睡眠がくるんだけど、入眠時からすぐにレム睡眠がきている状態。体が動かないのに意識は鮮明で、うえから押しつけられる感覚がある生理現象だね。不思議なことに、だいたい怖い夢とセットになっているんだよね。
声もでないし、体も動かない。金縛りにあったときには、包丁をもった人が近づいてくる夢などをみる。体を動かせない感覚にひもづいて想起されるイメージから喚起された夢だね。体が動かないことにともなって怖いイメージが再構成される。筋肉が急速に弛緩するから、うえから押しつけられる感覚をおぼえたり、呼吸がしにくくなったり。あとは、風邪とかで発熱したときに、くるくるまわりながら落ちていく感覚におちいるのはよくある共通パターン。
螺旋階段をぐるぐるまわりながらおりていく夢を小さいころからときどきみる人もいる。ご年輩の方で、子どものころ住んでいた家の和室で障子紙が細かく千切れて、くるくる舞っているというのもあった。体のコンディションと結びついた夢の記憶もおもしろいよね。
「遺伝」のことをまた考えてみましょうか。たとえば、ヘビをみたこともきいたこともない人、つまりヘビに対して「怖い」との印象をもっていない人の悪夢に「ヘビ」がでてくるとすれば、遺伝レベルでヘビの恐怖が刷り込まれている可能性はあるか? そんなことはないはずだと思ってるんだけど、赤ちゃんの実験から人間が生まれつきクモやヘビに恐怖心をもっていることをあきらかにする研究結果が発表されているわ。(注3)
クマよりヘビに恐怖反応
研究をおこなったステファニー・ホッヘル教授は、まだクモやヘビが「危険なもの」というイメージをもっていない生後6カ月の赤ちゃんを対象に、クモやヘビをみせた際の反応を調査したのね。具体的には、クモやヘビ以外にも、お花や魚など危険なイメージがないほかの対象との比較ね。それぞれを初めてみせたときの瞳孔の開き具合や、注視する時間の長さを調べていった。
その結果、花や魚よりもヘビやクモのほうに対してあきらかにストレス反応を示す結果が得られたわけね。実験結果を得て、教授はこんなことをいってるね。
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「ヘビやクモへの恐怖は、人間が進化の過程で身につけた防衛反応だと結論づけることができました。数百万年前の霊長類の時代に木の上で暮らしていたとき、ヘビや毒グモは脅威だったにちがいありません。素早くみつけて素早く逃げる反応が必要だったのです。
ほかの研究では、たとえばクマやライオンなど、もっと危険な動物の画像を乳児にみせても、ヘビやクモほどの恐怖反応を示しません。これは、ヘビやクモと共存し脅威だった期間が、クマやライオンよりずっと長かったからだと思われます」
「結論づけることができた」ってのは、ちょっとだけ引っかかるけど……。ヘビやクモをみるのが本当に初めてだとしても、花や魚はさすがに目にしたことがあるはずなので、究極のところでほんとうに遺伝かどうかをいいきるのはそうとうむずかしいはずだから。
ただ、ほかにも似たような研究がいくつかあるんだよ。日本人の研究者の論文で、サルや3歳児の子がヘビに対して生得的な怖れを示している可能性を指摘しているんだよね。(注4)
注1 エリザ―・J・スタンバーグ(2017).人はなぜ宇宙人に誘拐されるのか? 竹書房.
注2 シェポヴァリニコフ・A・N(1991).夢のサイエンス みたい夢 みたくない夢 青木書店.
注3 Itsy Bitsy Spider... : Infants React with Increased Arousal to Spiders and Snakes https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5651927/
注4 川合伸幸(2011).ヘビが怖いのは生まれつきか?:サルやヒトはヘビをすばやく見つける。認知神経科学,13,1,103−109. https://www.jstage.jst.go.jp/article/ninchishinkeikagaku/13/1/13_103/_pdf
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提供元:「消防士は火事の予知夢を見る」説の本当の理由|東洋経済オンライン