2021.10.05
女性が殺到「ヌン活」なぜこんなにも人気なのか|コロナ禍でも予約が即効で埋まるほど
東京・渋谷のセルリアンタワー東急では、ラウンジだけでなく、40階のバーでもアフタヌーンティーを提供している(撮影:今井 康一)
紅茶などのドリンクを何杯もおかわりし、プレートに盛られたプチフールやサンドイッチを、優雅につまみながら2時間をゆったり過ごすーー。数千円でセレブ気分を味わえるアフタヌーンティーのサービスが、近年「ヌン活」と呼ばれブームとなっている。
アフタヌーンティーはコロナ前から人気で専門店なども登場しているが、コロナ禍でさらに利用が拡大。日本で初めてアフタヌーンティーを始めたとされるホテル椿山荘東京では、1〜2カ月ごとに替わる新メニューが発表されると予約が瞬く間に埋まる。
「ヌン活」と銘打ってさまざまなホテルをめぐる人もいれば、メニューが刷新されるたびに同じホテルを訪れる人も。コロナ禍でアフタヌーンティーがもてはやされる背景には、客側の嗜好変化だけではなく、ホテル側の事情も透けて見えてくる。
ラウンジだけでなく、バーでも提供
東京・溜池山王のザ・キャピトルホテル東急などを展開する東急ホテルズでは目下、グループの各ホテルがそれぞれ工夫を凝らしたアフタヌーンティーを提供。それぞれの取り組みを束ねる目的もあって、昨年3月からホテルサイトでも「ヌン活」と銘打って各ホテルのメニューを紹介している。
例えば、キャピトルホテルの人気ラウンジ「ORIGAMI」では、伝統工芸品の駿河竹千筋細工のティースタンドを使ったアフタヌーンティーを展開するほか、金沢東急ホテルではご当地食材を使ったスイーツを和のアフタヌーンティーを提供。新大阪のREIホテルでは9月半ばから大阪や神戸の紅茶と食にこだわるアフタヌーンティーを始めた。
アフタヌーンティーを出しているのはラウンジだけではない。渋谷のセルリアンタワー東急ホテルでは、2階のラウンジに加えて、40階のバー「ベロビスト」でも提供。
お酒とも合うアフタヌーンティーのメニューを考えた(撮影:今井 康一)
ホテル内のフランス料理レストランのパティシエが協力して独自のスイーツを出すほか、季節の素材を取り入れたスコーンや2種類のフォカッチャなど、おつまみの要素を加えたメニューが自慢だ。ドリンクもシャンパンやノンアルコールのコーヒーカクテルなどバーならではのラインナップを揃え、ラウンジとの差別化を図っている。
今では3カ月ごとにメニューを替え、10月からはハロウィーンのメニューを展開。コロナ禍緊急事態宣言などが長引く中、「とにかくアルコールからシフトしなければならない危機感があった」(ベロビストのチーフバーテンダーの吉田茂樹氏)。その甲斐あってか、アルコール提供ができない時期でも、アフタヌーンティーの予約は順調に伸びている。コロナ禍で営業できないときがあるにもかかわらず、2021年度上期のアフタヌーンティーの出卓数は、8月までですでに2019年上期の約1.5倍に増加している
アフタヌーンティー定番のスコーンだけでなく、フォカッチャもついてくる(撮影:今井 康一)
吉田氏は、「いろいろなホテルのアフタヌーンティーをめぐって楽しんでいる方が増えました。ぬいぐるみを持ってきて一緒に撮影する方、揃ってロリータファッションでお茶会を楽しむ方、記念日のカップル、お酒好きな方など。富裕層の主婦の方々を想定して始めたのですが、幅広い方々に来ていただけるようになりました」と話す。
コロナ禍で利用が増える背景について、「贅沢をしたい気持ちが溜まっているタイミングで、優雅な時間を過ごすものとして今必要とされている。夜の時間帯の外出が制限されている中で、アフタヌーンティーは許された時間内でディスタンスをとって集まれるので支持されている」(吉田氏)と見る。
「バーで出すべきなのか」という議論も
セルリアンがアフタヌーンティーのサービスを始めたのは、2002年頃。「和と洋、伝統とモダンの融合」をコンセプトに開業したのが2001年なので、開業から間もなく開始したことになる。
当時はまだアフタヌーンティーサービスを行うホテルは少なく、情報も限られていた。資料などを調べ、3段重ねのティースタンドに、デザートのプチフール、サンドイッチなどを並べ、乳脂肪分がバターと生クリームの中間のクロテッドクリームとジャムをつけた温かいスコーンなどがセットとなった正統派のサービスをラウンジで出し始めた。
10月からはハロウィーンをテーマにしたアフタヌーンティーを提供する(撮影:今井康一)
「平日はお打合ちわせでお茶だけのご利用が多いため、単価が低く売り上げがあまり伸びない。ビジネスとは別のマーケット層を取り込みたいと考えたことも、始めたきっかけになっています」と企画宣伝を担当する太田秀貴氏は説明する。
すぐに人気となり、満席状態が続いた。隣のレストランのランチタイム終了後などに席を用意するなどしていたが、グループでの利用が多い土日を中心に対応しきれなくなり、白羽の矢が立ったのが最上階のベロビストだった。
もちろん、「バーはバーとして打ち出すべきで、ティーサービスを行うのは違う」といった議論はあった、と太田氏は語る。しかし結果的に、2015年から始めた試みは吉と出た。
アフタヌーンティーは、ホテル利用の「入り口」となっている部分もある。「夜景は全然違いますよ、お酒の時間もあります、とご案内することで、ゆくゆくはアフタヌーンティーに来られたお客様もバーを利用していただければ、と考えています」と吉田氏は話す。
また、「今年オープンした日本料理の店で、和のアフタヌーンティーを10月から開始しよう」といった話へも発展。アフタヌーンティーという入り口から、さまざまな展開が可能になっているのだ。
東京・目白のホテル椿山荘東京でもアフタヌーンティーは1992年に始めて以降、人気を保ち続けている。椿山荘はもともと1952年に結婚式などを行うガーデンレストランとして開業したが、フォーシーズンズホテル椿山荘東京が敷地内にできたことが新たなサービスを始めるきっかけとなった。
イギリスのシェフなどの情報をもとに、伝統的な形式にのっとってサービスを提供。「日本で入手困難だったクロテッドクリームを独自に作るなど、苦心してサービスを行った、と聞いています」と広報担当の園部咲乃氏は言う。
はちみつ専門店や酒蔵ともコラボ
2013年にはホテルと椿山荘をリブランディングしホテル椿山荘東京となる。翌年からコスメブランドなど異業種とのコラボレーションのアフタヌーンティーサービスを始めると同時に、1〜2カ月ごとにテーマを変えてサービスを行うようになった。
毎回、シェフ、企画、サービス担当者などのスタッフが集まって打ち合わせをし、テーマを決める。「2、3年前、桃が流行っていることからピーチアフタヌーンティーを企画したところ、あっという間に予約が埋まりました。アフタヌーンティーのサービスはホームページに掲載すると、すぐにご予約が埋まってしまいます」(園部氏)。
今年の8~9月ははちみつ専門店とコラボレーションし、非加熱のはちみつを使ったスコーンやスイーツを提供する「ラベイユ ハニーアフタヌーンティー」を4950円で提供、10月には、日本酒の久保田とのコラボレーションで、和のアフタヌーンティーを始める予定だ。
山縣有朋の屋敷跡の庭園が眺められるシチュエーションのよさもあり、「特にここ数年は、女性の1人客の方が増えました。お子様向けのキッズアフタヌーンティーもご用意していますので、親子でいらっしゃる方もいます。コロナ禍でも、アフタヌーンティーは好調です」(園部氏)。
アフタヌーンティーはヴィクトリア朝のイギリスで、侯爵夫人が午後の空腹を癒やすために始めたもの。それがやがて人をもてなす場になり、社交の目的で広がっていった。そうした上流階級の社交という歴史的背景が、人気が高い大きな要因である。
また、椿山荘に限らず、近年はヌン活ブームの影響で独自性を出すためか、旬のフルーツをふんだんに使ったり、ハロウィーンなどの行事に合わせたテーマを決めたサービスが目につく。中には1万円程度の高額なものも。こうした日本特有とも言える多彩なサービスが、ヌン活めぐりをする楽しみを生み、ブームを盛り上げる要因になっている。
「ホテルで優雅な時間を過ごしたいが、食事は高額で手を出せない」という人たちにとってアフタヌーンティーはちょうどいいサービスと言える。イギリス文化に憧れを抱く人たちにとっては特にコロナ禍、旅行気分を味わえる機会でもある。
ホテル椿山荘東京の園部氏は、「インスタ映え」の言葉が流行した時期と、ヌン活ブームの始まりの一致を指摘する。3段重ねのティースタンドは、確かに写真映えする。独自の工夫を凝らしたスイーツがあればなお映える。そうした特性が、各社の独自の工夫を加速させたところもあるだろう。
また、都会の忙しい生活を送る人たちにとって、何種類も食べるモノが用意されていて、間が持つアフタヌーンティーは、ゆったりとした時間を過ごす貴重な機会になっている。お酒が苦手な人、夜は時間が取れない人も、これなら楽しめる。
ホテルにとっても重要なサービスに
もともと集客力の高いアフタヌーンティーだが、コロナ禍でさらに人気に拍車がかかった。ホテルという非日常感や、ソーシャルディスタンスが確保されている安心感があるほか、ノンアルコールで夜になる前に集まれるよい口実になるからだ。
一方、ホテル側にとってアフタヌーンティーは、食事や客室利用などほかのサービスへの入り口となり得るほか、コロナ禍では客室稼働率が低迷する中、重要な収入源となっている。
2、3年前からは、スイーツブームが再燃し始めている。タピオカミルクティーのブームで紅茶のおいしさに目覚めた人もいる。いくつもの要素が絡まり合って、アフタヌーンティーブームが起こったと言える。日本では、コーヒーほど紅茶にこだわる人は少ないが、これを機会に紅茶を楽しむ文化が本格的に広まっていくかもしれない。
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提供元:女性が殺到「ヌン活」なぜこんなにも人気なのか|東洋経済オンライン