2021.08.26
「がんばり過ぎる人」ほど長生きできない理由|ある日、パニック障害に陥った仕事人間の告白
なぜ人生には「がんばらない時間」が必要なのか?(写真:den-sen/PIXTA)
48歳の頃、突然「パニック障害」に襲われた医師で作家の鎌田實さん。人生の一大事を機に「人間、時にはがんばらない時間も大切」と思えた理由とは? 新書『ミッドライフ・クライシス』より一部抜粋・再構成してお届けします。
『ミッドライフ・クライシス』 クリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします
ぼくは48歳の頃、パニック発作に襲われた。
当時、患者さんを実際に診るのが好きだった。院長をしながら、往診も続けた。往診の途中で突然動悸が激しくなり、冷や汗が出て、突然胸が苦しくなった。
「あまり気がすすまないな」「嫌だな」とどこかで思っている会議などに出ていると、この動悸発作に襲われた。
自律神経の乱れだ。自律神経は全身に張り巡らされており、心臓や血管、胃腸、ホルモンの分泌、汗腺などに意思とは関係なく、生命活動を保つために働いている。
活発に活動する時には交感神経が優位に働き、リラックスする時には副交感神経が優位になる。そうすることでバランスを取っているのだ。
中年になった時、このバランスが不安定になる。ホルモンの影響が関係していて、更年期に多くなる。
だるい、頭が重い、手足の痺れや痛み、腰痛、肩こり、下痢や便秘、動悸、血圧上昇、立ちくらみ、不安やイライラ、これがいわゆる自律神経失調症の症状だ。
免疫力にも関係している
自律神経は免疫機能にもかかわっている。がんばる交感神経が刺激されると、細菌と闘ってくれる顆粒球が増え、風邪や肺炎になりにくくしてくれる。
がんばらない副交感神経が働くと、リンパ球を増やし、ウイルスに対する抗体を作り、排除する働きをしてくれる。同時に、自然免疫の一種でがん細胞を攻撃してくれるNK細胞ががんを予防してくれるのだ。
新型コロナウイルスとの闘い中でも、上手に副交感神経の時間をとることがとても大切だ。イライラや怒りっぽくなって交感神経優位にしないことも大事なのだ。中年になると、仕事の責任が重くなっていく。結果として交感神経支配に偏って、がんばり過ぎることになる。だからぼくは、52歳の時、『がんばらない』(集英社)という本を書いた。ベストセラーになった。
がんばり過ぎると、顆粒球が発生する活性酸素が悪さをしたり、リンパ球の働きを抑えるため、がんが発生しやすくなったり、血圧を上げたりするのだ。
後に厚生労働省の事務次官に抜擢された村木厚子さんは、54歳の頃、いわゆる「郵便不正事件」に巻き込まれた。主任検事の誤認逮捕によって自由を奪われ、5カ月間勾留された。
その後彼女にまったく問題がないことがわかり、彼女は官僚としての最高位の次官まで昇進したのだ。
ぼくは、NPO「がんばらない介護生活を考える会」というのを作って、毎年新しい介護技術の講演会を東京で行っているが、厚生労働省が後援をしてくれている。
村木さんが挨拶にやってきてくれた。5カ月間自由を奪われている間、ぼくの『がんばらない』を読んだという。
東京地検特捜部の辣腕検事だった田中森一さんという人がいる。その半生を綴った『反転 闇社会の守護神と呼ばれて』(幻冬舎)はベストセラーになったのでご存じの方も多いだろう。
彼はバブル全盛期、検事から弁護士へと転身。アウトローの顧問弁護士となり、“闇社会の守護神”とまで呼ばれるようになる。かつての特捜部の仲間と敵味方にわかれて丁々発止とやり合っていたが、彼自身が逮捕され、刑務所に入ってしまった。
彼は、貧しい中で苦学をして大学に進んだ。そういうこともあったのだろう。獄中で「貧しい子ども達に勉学のチャンスを与えたい」と基金を作り、奨学金制度を作って、多くの子ども達にチャンスを与えようとしていた。
ぼくは、そんな彼の行動を見て、彼と雑誌の対談をしたのだが、なんと彼は刑務所で拘束されている間、『がんばらない』を読んだという。その後、ぼくの本を全部読み切ったという。
ぼくの本の中の「笑うことが大事」と書いてあるところを読み、刑務所内で1人で笑っていると、「笑うな」と監視から注意されたという。腹を抱えて、ぼくは笑ってしまった。そうやって、心が崩れるのを防いでいたのだ。
息を長く吐こう
「がんばらない」という肩に力を入れない生き方が大事なのだ。ミッドライフ・クライシスに陥った時、まずは、副交感神経を刺激するためにゆっくり運動をすること。
『ミッドライフ・クライシス』(青春出版社) クリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします
自律神経と呼吸は密接に関係している。しっかり息を吐かないと、深く吸うことができない。吸うことよりも吐くことを意識することが大事だ。ぼくは時々、吸う時間の倍になるようにゆっくり吐くことを心掛けている。これで自律神経のバランスがよくなる。
自律神経はライフステージにおいても波がある。30代〜50の働き過ぎ世代では交感神経優位になりがちであり、がんばらない時間を時々つくる60代以降のリタイア世代は、副交感神経に偏りがちになる。60代になったら、むしろがんばったほうがいいかもしれない。
まずは今の自分の生活を見つめ直して偏りを直していこう。よく働き、よく休む。このよく休むが大事。メリハリのある生活を意識しながら交感神経と副交感神経を上手に切り替えて生きる。これこそが中年期の生き方にとって大事なのだ。
【あわせて読みたい】※外部サイトに遷移します
提供元:「がんばり過ぎる人」ほど長生きできない理由|東洋経済オンライン