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2021.08.23

ボクシング「入江聖奈」好感度あふれる人柄の魅力|炎上した張本氏への「アッパレ!」の清々しさ


東京五輪のボクシング女子フェザー級で金メダリストになった入江聖奈選手(写真:アフロスポーツ)

東京五輪のボクシング女子フェザー級で金メダリストになった入江聖奈選手(写真:アフロスポーツ)

東京オリンピック閉会式後の1週間は、民放各局がメダリストを集めた特番を放送しました。

まず8月9日にフジテレビが「ジャンクSPORTS緊急生放送で東京五輪メダリスト集結!舞台裏を大告白SP」、日本テレビが「くりぃむしちゅーの!レジェンド東京五輪メダリスト総勢23人大集合!生放送SP」、14日にTBSが「炎の体育会TVメダリスト大集結…東京五輪後初の超本気プレー生放送SP」、15日にテレビ朝日が「中居正広のスポーツ!号外スクープ狙います!東京オリンピックSP」を放送。“各競技のメダリストが豪華共演”という形で盛り上がりました。

すべての特番で取り上げられていたのが、ボクシング女子フェザー級・金メダリストの入江聖奈選手。「日本人女子ボクシング初」であり、「鳥取県出身者も初」という金メダルの快挙に加えて、カエル愛を爆発させるユニークなキャラクターで人気を集めています。

そんな入江選手に「サンデーモーニング」(TBS系)で張本勲さんが「嫁入り前のお嬢ちゃんが顔を殴り合ってね、こんな競技、好きな人がいるんだ」などとコメントしたことが物議を醸しました。これは明らかに、競技への不理解、ジェンダーの問題、ハラスメントを思わせる失言でしたが、入江選手は自身のTwitterで「私の一個人の考えですが、もしよろしければご一読ください」と東京スポーツから受けたインタビュー記事を紹介。

張本発言「そんなに過激になる必要もないかなって」

そこには「張本さんに関して特に何も思っていません」「自分がおばあちゃんになって孫がボクシングを始めるって言ったら『女の子なのにー』って絶対に言っちゃう」「そんなに過敏になる必要もないかなって感じていました。皆さん、私を助けてくださったのに、こんなこと言って申し訳ないんですけど」「ボクシングにスポットを当ててくださったので『アッパレ!』です」などと書かれていました。

この発言で入江選手の好感度がますます上がったのは間違いありません。もはや「今年最も好感度の高い人物」と言ってもいいほどですが、ここでは「入江選手のどこがどう好かれているのか」を掘り下げていきます。

高い好感度のベースとなっているのは、誰が見てもわかる人柄のよさ。それが、入場時から、競技中、試合後のインタビュー、番組出演時まで、さまざまなシーンでの言動に表れていました。

入江選手はリングに上がる前から満面の笑みを見せ、笑顔のまま四方に頭を下げるなど、愛嬌たっぷりの姿で入場。ゴングと同時に前に出て、連打を受けても引かずに打ち返すなどの果敢なファイトスタイルながら、試合中もレフェリーに深々と頭を下げるシーンが何度となく見られました。

「ベリーセンキュー」と言いながら退場

さらに最終ラウンド終了のゴングが鳴った瞬間、健闘をたたえ合うように相手選手にハグし、リングを降りると「ベリーセンキュー」と言いながら退場。礼儀正しいだけでなく、愛嬌があり、壁を作らずに人と接する姿勢が「いい人なのだろう」という印象につながっていました。

2020東京五輪「ボクシング 女子フェザー級決勝」で戦う入江聖奈選手(YUTAKA/アフロスポーツ)

2020東京五輪「ボクシング 女子フェザー級決勝」で戦う入江聖奈選手(YUTAKA/アフロスポーツ)

試合後のインタビューでは、「本当はめちゃくちゃ緊張していてご飯ものどを通らないくらいだったんですけど、入場だけは笑顔でいこうと決めていたので」「(レフェリーにお辞儀をしていたのは)「反則の減点をされたくなくて、印象をよくするためでした。全然いい子じゃないです」などと本音を披露。カッコつけず、「いいことを言わなきゃ」という気負いもなく、ただただ笑顔で率直に話す姿が日本中の人々に「いい人」というイメージを決定づけたのです。

年齢差を超越した人間性の豊かさ

決勝の相手であるぺテシオ選手について聞かれたときも、「今回で4回目の対戦だったんですけど、人としてもボクサーとしても大尊敬している選手で、『絶対に気持ちのいい試合をしよう』と思っていたので、そういう選手とできてよかったです」とコメント。

涙を流したことについても、「うれし涙を2回も経験できてよかったです。全然泣こうと思っていなかったんですけど、勝手に涙が出てきてしまって。『こうしてうれし涙は出るんだな』と思いました」と語りました。

また、「入江選手にとってオリンピックとは?」という難しい質問に対しても、「『人の温かさってこんなにうれしいんだな』ってオリンピックを通じて凄くわかりました」とコメント。これは「出場前は開催反対のムードに怖さを感じていたが、勝ち進むたびに温かいメッセージが届いてうれしかったから」であり、「金メダルよりも尊いものを得た」というニュアンスで話していたことが人間性の豊かさを感じさせました。

失言をした張本さんへの「アッパレ!」も自然体で言えてしまうところに、そんな人間性が表れています。入江選手は20歳、張本さんは81歳で、2人の年齢差は61歳。私たちは入江選手に、「いい選手であることも、素晴らしい人間性の持ち主であることも、年齢は関係ない」という真理を教えてもらったのかもしれません。

そんな入江選手の好感度をさらに上げたのが、金メダル獲得直後のボクシング引退宣言。まだ20歳の若さであり、常に笑顔の穏やかなキャラクターからは想像もつかないほど、入江選手は整然とした価値観の持ち主だったのです。

入江選手は、「自分の中で『有終の美で終わりたい』というのが強くありまして、大学いっぱいでボクシングをやめるつもりです」「(大好きな)カエル関連で就職できたらいいんですけど、なかなか就職先がネットで調べても見つからないので。好きなゲーム会社に就職したいと思います」と断言。

「生まれ変わったら甲子園に出たい」

その後のインタビューでも、「社会人でも続けていたら引き際がわかんなくなりそうで……けっこう現実的(な性格)です。区切りつけるために大学でやめるつもりです」「パリは目指さないです。『いい社会人になりたい』と思います」と決意の固さをうかがわせました。

芸能界への興味を聞かれても、「芸能界は飽きられたら終わりで怖いので、つつましく生きていきます」。バラエティタレントへの転身を勧められても、「頭の回転遅いので、ボクシングと就活で頑張ります」と即答。浮ついたところのないこんな人柄が視聴者の好感度をグンと上げました。すでに多くの企業から就職の誘いが来ているようであり、来年にはどんな進路を選ぶのか注目を集めるでしょう。

さらに好感度だけでなく笑わせてくれたのは、「生まれ変わったら、また同じ競技をやりたい?」と聞かれたときの「来世は高校球児になって甲子園に出たい」というコメント。入江選手は競技期間中、「選手村に引きこもって(野球ゲームの)『パワプロクン』で甲子園を目指していました」と語っていました。やはりここでもカッコつけず、気負うことなく、率直なコメントだったのですが、「パワプロクン」「甲子園」というタイムリーなフレーズを入れて答えるところにトークセンスのよさを感じさせます。

引退宣言したとはいえ、13年にわたって続けてきた入江選手のボクシング愛は本物。子どものころ運動神経はよいほうではなく、ボクシングも当初はパンチが弱く、動きもぎこちなかったものの、小学生のとき「2020年20歳で五輪代表に選ばれて金メダルをとる!!」とノートに書いていたそうです。

そんな入江選手が語るボクシングの魅力は、「私のような不器用な人でも金メダルを取ることができる」こと。さらに「ボクシングは安全なので、みなさん始めてほしいです。アマチュアはグローブが厚いので打たれても痛くないし、致命的なダメージはないので」と競技の普及にひと役買っています。

「しっかり考えて」努力する大切さ

また、入江選手に憧れる子どもたちには、「『しっかり考えて努力すれば夢は叶うんだよ』と教えてあげたいです」とコメント。ただ努力するだけではなく、「しっかり考えて」というフレーズをつけたところに、試行錯誤の日々と思考能力の高さを感じさせました。あまりに人柄がよく、面白いキャラクターなので忘れられがちですが、入江選手は考えて戦うタイプのボクサーなのでしょう。

故郷・鳥取の人々へのメッセージを求められたときも、「生まれたときから鳥取県で育って、人の優しさの中で育ってこられて、『自分は本当に幸せ者だな』と思います。金メダルを通して恩返しがたぶん少しはできたと思うので、これからもみなさんに元気を届けられるようなボクシングをしていきたいと思います。本当にありがとうございました」とコメント。

8月18日には鳥取県の知事公邸で、県民栄誉賞と県スポーツ最高栄冠賞の授与式に参加し、「たくさんの方々にお世話になってつかめた金メダルだと思っており、競技生活が終わってからも鳥取県の誇りでいられるような人間を目指して頑張っていきたいと思います」と話していました。

「人の優しさの中で育った幸せ者」「恩返しがたぶん少しはできた」「引退後も県の誇りでいられる人間を目指したい」など、まるで「何を言われると相手が喜ぶのか」をわかっているかのようなコメントに驚かされます。これは意図的というより、培ってきた人間性によるものであり、その意味で「やはり金メダルにふさわしい選手だった」のではないでしょうか。

今や入江選手はボクシングよりカエルについて語るシーンのほうが目立つようになっていますが、見ている人々に決して「くどい」と思わせないのも人柄のよさによるものでしょう。

そもそも入江選手のカエル話自体が面白いことは間違いありません。カエルタオルやカエルマスクを持って登場するのは当たり前。「カエルTシャツを着てきたので見てもらってもいいですか?」と切り出し、それがすでに亡くなった「千代子」を撮った「世界に1枚の私だけのTシャツ」。さらに飼っているクランウェルツノガエルの「ジャイ子」を紹介し、「つぶらな瞳とプリプリした体型と人間味あふれる表情」とチャームポイントを熱弁したほか、金メダル獲得後にすぐ二子玉川でカエル探しをしていました。

抜群の「テンポ」「長さ」「フレーズ」

新しいエピソードがテンポよく次々に飛び出すうえに、それぞれのコメントが短くフレーズも強烈なため、起用する側にとっては、いわゆる“撮れ高だらけ”の状態。テレビも新聞もネットも、こんなにコメントを使いやすいアスリートはいないでしょう。入江選手のインタビューを聞いていて笑顔になれるのは、人柄がいいからだけではなく、「テンポ」「長さ」「フレーズのチョイス」という3点で優れているからなのです。

面白いので、そのほかの印象的なコメントを挙げておきましょう。金メダルを獲った夜、「迷子になって選手村の同じところをグルグルしてしまい、警備員さんに聞いて40分かけて帰りました」。金メダル獲得後の反響を聞かれて、「ツイッターとかでも“フォロワー様”が増えてちょっとビックリしてます」「夜ご飯買いに行ったら、話しかけられちゃいました(笑)」。「大学では心理学のゼミで“浮気の境界線”について研究しています」「好きなタイプは、えなりかずきさん」。

いずれも聞いているこちらが笑顔を誘われるようなものばかりであり、入江選手は大会や番組だけでなく、公私のどんなシーンにも対応したコメントのできる人なのでしょう。

すでに「行動が注目される」自覚あり

入江選手は東京スポーツのインタビューで、「みんなと同じことをしていても金メダリストという付加価値がつき、良くも悪くも行動が注目される。信号無視とか絶対にできないですし(笑)。イヤホンで音楽を聴きながら自転車通学することすら引け目を感じてしまう」とコメントしていました。

やはり入江選手はボクシングのときと同様に、視野がクリアで周りがよく見えているのです。これほど地に足のついた人物である以上、ネット上に書かれている「テレビは入江選手に手を出さないでほしい」「バラエティで安易にイジるな」などの懸念は無用でしょう。

テレビにしろ、ネットにしろ、メディアに登場するだけで人々の笑顔を誘える人物は、そうはいません。現在大学3年生で学業もありますが、この秋から年末年始にかけて引き続き多くの場で私たちを楽しませてくれるのではないでしょうか。

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提供元:ボクシング「入江聖奈」好感度あふれる人柄の魅力|東洋経済オンライン

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