2021.08.20
100年時代の健康戦略:「文明病」に負けない人生|ジーニアスライフで脳と体、環境の良い関係を
現代生活は私たちの体にいいものではありません。食生活や運動・生活習慣を改め、積極的に健康を心がけましょう(写真:IYO/PIXTA)
母親のアルツハイマー闘病生活をきっかけに健康や脳のはたらきについて学び、ニューヨーク・タイムズ・ベストセラーとなった『Genius foods』(未邦訳)を上梓したマックス・ルガヴェア氏が、健康的な生活を送るための実践的なガイドブックとして『ジーニアス・ライフ』を上梓した。
食生活のみならず、エクササイズや自然との関わりなど生活全般についてまとめられた本書のはしがきを抜粋、編集してお届けする。
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アルツハイマー病になった母
健康だった私の母は、長生きの条件をすべてクリアしているように思えた。体重は適正で、お酒は飲まない。生まれてこのかた、タバコも吸ったことがない。野菜やフルーツをたくさん食べ、穀物食品も低脂肪で無塩の“心臓にいいもの”ばかり選んでいた。
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だから、2010年に58歳になった母の行動が少しおかしくなったときには、家族みんなが驚いた。
ニューヨーク市内の医師に見てもらったあと、2011年8月、私たち家族はオハイオ州にあるクリーブランド・クリニックの予約を取り、私が母に付き添った。
専門的な検査を次々に受けたあと、神経科医はカルテから目をあげて、一種のパーキンソン病のようですね、と告げた。そして処方箋を手渡すと、「お大事に」と言った。
その夜、私はインターネットに接続して、私たちの世代の誰もがそうするように、“現代の賢人”にご神託を仰いだ。そう、グーグルで検索したのだ。すると母が処方された薬には、パーキンソン病だけではなく、アルツハイマー病の薬も含まれていることがわかった。
それから母の症状はひどく悪化していき、2018年12月6日午前11時、母は66歳でこの世を去った。すべてを失っていく母の姿を見ているのは、胸が張り裂ける思いだった。
母の病気を予防するために、なにかできることはなかったのか。あれほど健康そうに見えた母が、すっかり変わってしまった原因はどこにあったのか。私が心身ともに健康で長生きするために、私自身にできることはなんだろうか……。
そんな問いが頭から離れなくなった。
母を襲った悲劇をきっかけとして、その答えを探すうちに、私は健康について、特に脳について多くを学ぶことになった。
世界中のトップレベルの研究機関で働く専門家から学び、たくさんの人と協力する機会にも恵まれた。認知症予防の臨床研修に役立つ教育ツールを開発し、テキストブックの一部も共著した。
そして、食生活と脳の重要な関係に気づき、その発見をもとに2018年、私にとってはじめてとなる著書『ジーニアス・フード』(未邦訳)が誕生した。
私の発見を患者に勧めてくれたという、世界中の医師や看護師、食事療法士、栄養士から連絡を受け取った。
遺伝子は健康にどのくらい関係があるのか
『ジーニアス・フード』を著すための調査は、食生活に対する私の考えを変えた。とはいえ、栄養学はつねに進化している。しかも、栄養は健康というパズルのピースのひとつでしかない。
そこで2018年中頃、私は「ジーニアス・ライフ」という名前のポッドキャストをはじめた。その番組を通して、脳とからだの関係について、さまざまな分野の最前線で活躍する専門家から、さらに多くを学んだ。
それは栄養学から断食、時間生物学(時間と体内時計との関係を調べる学問だ)、睡眠科学、運動生理学までの幅広い範囲に及んだ。
私たちは長いあいだ、人間の運命を握るのは遺伝子だと考えてきた。遺伝子が重要なことは間違いない。だが、健康問題のうち、どのくらいの原因が遺伝子によるのかについてはさまざまな意見がある。
アメリカでは、4人にひとりがアルツハイマー病のリスク遺伝子を保有し、非保有者と比べて発症リスクが2〜14倍も高い。ところが、その同じリスク遺伝子とアルツハイマー病の発症とのあいだに、明確な関連性が認められない国や地域もあるという研究もある。
また多くのがんの発症リスクは、遺伝要因だけでなく環境要因によっても高まるとされ、実際、がん患者は増加傾向にある。たとえば1960年代、女性の乳がん罹患率は20人にひとりだったが、今日では8人にひとりに跳ね上がっている。
この70年というもの、人間の遺伝子は変わっていないが、環境は大きく変わった。環境が健康に及ぼす影響を指摘する報告は増えてきている。
気温や照明から、キッチン用品や家具に使われる化学物質までが、私たちの健康や感情に大きな影響を与えているのだ。だが、おそらくあなたは、そのことに気づいてもいない。
つまり、現代生活は私たちにとって決していいものではない。また、からだの防御システムの戦闘能力にも限度がある。なによりもまず、私たちを太らせ、病気にしているのは、私たち自身が摂取する食べ物なのだ。
現代のアメリカにおいて、がんと診断される人の原因の40%は体重オーバーか肥満にあり、メタボのお腹は脳の老化を早める。医学雑誌『ランセット(The Lancet)』に掲載された論文によれば、今日、食生活が原因で命を落とす人は、世界中で5人にひとりを数えるという。
だが、問題は食べ物だけではない。煌々と照らす夜の明かりは、体内時計を混乱させる。
きれいな空気、太陽の光(とビタミンD)、自然との触れ合いがもたらす恩恵も失われている。
からだを動かす時間は激減し、車や電車で通勤し、テレビの前に座って過ごす時間が増えている。
家のなかは安全性の怪しい化学物質であふれ、体内に取り込まれて大暴れしている。
ストレスの多い毎日では、ぐっすり眠ることも難しい。
積極的に健康を心がけよう
これらが一緒になって私たちのからだを攻撃する。私たちは不安や抑うつに陥り、体調がすぐれない。
さらに悪いことに、いつも疲れているのが普通だと思うようになっている。慢性的なストレス、不安、抑うつ、注意散漫は当たり前。腹部に膨満感があり、体重が増え、からだがだるくて、なかなかやる気が起きない。だが、それは本来の状態ではない。
いいニュースがある。私たちを病気にする環境要因の多くを、私たち自身がコントロールできるのだ。そう、健康は取り戻せる。
生活習慣を改め、私たちの祖先が進化してきたときのような居住環境につくり直せばいいのだ。それが私の言う「ジーニアス・ライフ」だ。これは、誰にでも手に入れられる。
アメリカ合衆国大統領だったジョン・F・ケネディは、こんな言葉を残している。「屋根は、太陽が照っているうちに修理しておかなければならない」。
私がショックを受けたのは、認知症は、症状が現れるすでに数十年も前にはじまっていることだ。パーキンソン病もそうだ。最初の症状が出たときには、関係のある脳細胞の半数が死んでしまっている。
私たちはある日とつぜん、がんや心臓病などの恐ろしい病気にかかるわけではない。それらの病気に打ち勝つためには、積極的に健康を心がけなければならない。
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提供元:100年時代の健康戦略:「文明病」に負けない人生|東洋経済オンライン